鹿の王 水底の橋 (角川文庫)

著者 :
  • KADOKAWA
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  • Amazon.co.jp ・本 (464ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784041092927

作品紹介・あらすじ

真那の姪を診るために恋人のミラルと清心教医術の発 祥の地・安房那領を訪れた天才医術師・ホッサル。しかし思いがけぬ成り行きから、東乎瑠帝国の次期皇帝を巡る争いに巻き込まれてしまい……!?

感想・レビュー・書評

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  • 上橋菜穂子の物語は、文庫本になった時に、いつも「この物語は今日のことを予見していたのか」ということが起きる。

    「精霊の守り人シリーズ」の文庫本の最終巻が出る直前に3.11が起こり、山津波にのまれてゆく王国は、津波にのまれてゆく東北の姿に重なった。文庫本「獣の奏者4」が出る頃は、最終兵器王獣をどう扱うかが、原発再稼働に揺れる日本(2012年)と重なった。そして世界ではISが台頭し軍事的制裁の意味が世界的に問われた。「鹿の王」文庫化の時は、著者のお母さんの闘病と死亡の後に発刊され、命の意味を我々に問いかけた。そして図らずも、この本の文庫化の時には、100年ぶりの世界的パンデミックの最中だった。全て本編を描いていた頃には、想像だにしていなかったであろう事である。

    ファンタジーであろうと、いや、ファンタジーであるからこそ、上橋菜穂子作品は社会の核心を突いて未来を予見するのだろう。

    2020年3月28日に「文庫版あとがき 私たちはいま、歴史を作っている」を書いた著者は、日本が最悪の事態に陥った場合のことを心配している。感染症について、玄人はだしの知識を持っている著者の心配は充分根拠あるものだったが、専門家の誰もがわからない「要因X」によって今のところ医療崩壊は起きていない。

    「感染症は社会的な病である」と著者は喝破する。だから、この「鹿の王」スピンオフでは感染症はテーマに選ばなかった、と著者は言う。話が大ごとになりすぎるからである。パンデミックを経験した我々には、十分に肯けることだ。その代わり、ここでは一つの食中毒症状が、次期皇帝争いにまで影響を及ぼす。一つの病が、貴賤関係なく人の人生に大きく影響を及ぼすのだから、社会的なインパクトを持ってドロドロとした権謀術数に利用されるのも仕方ないのかな、と思う。お陰で今までになくミステリな作品になった。

    ミステリと同時に、医学の進歩と命の尊さについての重要な「哲学的な問答」が、全編にわたり為されるのであるが、ここで要約するのは到底できない。是非読んでほしい。

    最後。主人公ホッサルの恋人ミラルの笑顔が、ミステリとしては意外なラストであり、哲学的には救いだった。

  • 鹿の王のスピンオフのような作品。
    いや、ホッサルも前回主役と言えば主役か?

    この作品は、ホッサルとミラル組のお話。

    前作に登場した真那くんの姪御さんの病気を診る為、ホッサルとミラル、勿論マコウカンも一緒に、安房那へ行くことになる。

    清心教医術の発祥の地である安房那領で、ホッサルたちは清心教医術の歴史を知ることに。

    時期皇帝候補者の暗殺未遂事件にも巻き込まれてしまう。



    今回の作品は政治的な要素が多くて、相関図でも作成して、誰が何だったのか書きながら読んだ方が、より面白かっただろうな。。。

    私の頭では、なかなか理解が追いつかないところがあった。

    前回作の後編として読むのなら、ヴァンの方が気になる(^^;;

    ちょっと難しかったがサクサク読めてしまうのは、やっぱりお話が面白いからだろう。

    世界観が凄いなぁ、、、といちいち感心してしまう。それぞれのキャラクターもとても素敵(*^▽^*)

  • 「鹿の王」の内容はほとんど忘れていた。
    でも、単体で面白い小説だった。どの国、どの世界でも権力争いがあり、純粋な人間は追いやられていく。
    頑固にその道を極める人が日の目を見る世界が来て欲しい。コロナ、香港・台湾問題、オリンピック、ウクライナ進行と権力のいやらしさをこれでもかと見せつけられた昨今、ホッサル達の勝利は心地よかった。

  •  架空の世界で繰り広げられる、病との闘いと権力争い、「鹿の王」のその後の物語。

     独特の世界観の中で、現代の世界の問題を鋭く描いた作品だと感じました。

     一つは生と死をテーマに病との闘いが描かれており、コロナウイルスとの闘いを思わずにはいられません。

     そしてもう一つの権力争いでは、現代の世界の2大国の争いを想像してしまいます。

     その中で一人一人の登場人物が生き生きと描かれ、人の思いが熱く伝わってきました。

     さらに、医術の対立も描かれ、すべてはバランスが大切なのではないかと改めて感じました。

  • 眠れぬ夜に一気読み。レガシーを受け継ぐも捨てるもその時代に生きる者たち次第。しかし、捨ててはいけないものがある。人を救いたいという思い。コロナ禍によって死が以前より身近に感じられる今だからこそ手に取って欲しい一冊。

  • 「私たちの武器は知識と想像力と忍耐力、そして他者を助けたいと思う気持ちです」あとがきより

    どの登場人物も素敵だった。

    私が中学生の頃にこの物語に出会っていたら医療従事者を目指していたと思う笑
    ミラルもホッサルも安房那候も本当にかっこいい…

    最後はとても心地よく、本当にシュダの花の香りがしてくるようでした。

  • いまさら鹿の王を呼んだので、続編もそのまま読むことができました。
    感染症との戦いの後の世界。ホッサルたちのオタワル医術と清心医術の話。
    ヴァン達のその後も気になっているけど、オタワル医術の存続をかけてなにやらきな臭い感じだったので、こっちも嬉しい。

    このふたつの医術が寄り添うシーンが好きだったので、こういう話にすすんでくれてよかった。舞台は前作でホッサルを助けてくれた真那の故郷、安房那領。真那は安房那の王子さまでしたね。清心医術の祭司医や、次期皇帝の座をめぐっての政治的な争いに病が利用される一方、病から救いたいという思いが物語を動かしていく。

    ホッサルとミラルの関係にも変化があり・・・。ただ悲しい運命を受け入れるだけでなく、ちょっとラッキーではあるけど道を切り開いていくミラルかっこいい。こういう人でありたい。

    それにしても策士多すぎない?裏の裏の裏でもはやわからんし、裁判シーン難しかったわ。

  • 鹿の王の続編ということで、ヴァンとユナ、サエがまた出てくるかと少し期待したけれど、全く登場せず、ホッサルとミラルのその後が描かれている。ま、それもそうか。

    「鹿の王」本作より医療がメインに物語が進む。東乎瑠帝国の次期皇帝を巡る争いにホッサルやミラルが巻き込まれていく。為政者の色々な思惑や策略が様々に絡んで、清心教医術とオタワル医術の対立もより明らかになっていく。
    策略に次ぐ策略、策士の裏に策士有り、という感じでまたまた真実が複雑でさっと一読しただけではなかなか理解できないところもあったけれど、今作も見事な世界観でした。
    ホッサルのオタワル医術師としての考えは一貫していて尊敬できるものだけれど、正面切って清心教医術と対立してしまうこともあり、そんな時は清心教医術に興味を持っているミラルが良いクッション材となっている。
    そして実際、本作後半でミラルは清心教医術を学べることになる。ミラルがとても輝いて見えるエンディングでした。

  • 医療とは何か?
    病気を治すだけが医療なのか?
    物語と共に考えさせられる本です。
    このように記述すると、堅苦しく読みにくいように見えますが、そこは上橋先生!
    テンポのよいストーリーで、どんどん読み進められます!!

  • オタワル人のホッサルとミラルの物語。
    未来のない恋愛関係、医術と政治、陰謀と真心、神と現実、そういったいろいろなことが複雑に絡み合う。なにか一つが柱というのではなく、小部屋がたくさんある屋敷でいくつもの物語が進む。
    オタワル医術と清心教医術の違い、対立は「鹿の王」から描かれていたが、今作ではそこに、清心教医術の源流"花部流医術"が現れて構図が複雑になる。各々の信じるところに"間違い"はなく、人々はそれぞれに助けられているが、考え方に違いがあるのは明白で、お互いになかなか分かり合えない。
    「諦める、というのとは、違うのです。あなたにはどうしてそれがわからないのだろう?」
    「神さまがこういう存在に生んだから、なんて言われたら、そこですべてはどん詰まりだ。医術師に、そんな口実を与えてどうするんです?」
    「人はなぜ病むのだ」
    そうやって対話を重ね、またいくつかの出来事を経て、多少なりとも相手を理解しようというふうになっていく流れがとても良かった。正直、現実のあれこれもこのように対話で進歩があれば、と思わずにはいられない。はかりごとを重ねた末に、その結果ではなく真心が事態を動かすというのも印象深い結末だった。
    ミラルは今作でも主役とは言いがたいのに、けして欠くことのできない存在だ。ホッサルが少し置いてきぼりみたいになるのが面白かった。
    読み終えた後に「水底の橋」について語られたところを読み直すと、その意味深さにしんとした心持ちになる。

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著者プロフィール

作家、川村学園女子大学特任教授。1989年『精霊の木』でデビュー。著書に野間児童文芸新人賞、産経児童出版文化賞ニッポン放送賞を受賞した『精霊の守り人』をはじめとする「守り人」シリーズ、野間児童文芸賞を受賞した『狐笛のかなた』、「獣の奏者」シリーズなどがある。海外での評価も高く、2009年に英語版『精霊の守り人』で米国バチェルダー賞を受賞。14年には「小さなノーベル賞」ともいわれる国際アンデルセン賞〈作家賞〉を受賞。2015年『鹿の王』で本屋大賞、第四回日本医療小説大賞を受賞。

「2020年 『鹿の王 4』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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