満月と近鉄 (角川文庫)

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  • Amazon.co.jp ・本 (240ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784041092767

作品紹介・あらすじ

小説家を志して実家を飛び出し、生駒山麓のアパートに籠もっていた「私」は寺の参道で謎めいた女性に出会う。その女性は万巻の書物に囲まれて暮らしていたが、厳しい読み手でもあった。私は彼女に認められたい一心で小説を書き続けるが……(表題作)。斑鳩の里に現れたひとりの青年、ベトナム戦争からの帰還兵ランボーは、己を戦場へ押しやった蘇我氏への復讐を胸に秘めていた(「ランボー怒りの改新」)。奈良を舞台に繰り広げられるロマンと奇想に満ちた4篇。本書を発表したのち沈黙を続ける鬼才の唯一の著作。仁木英之による解説、森見登美彦との対談を収録。(『ランボー怒りの改新』改題)

感想・レビュー・書評

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  • 「奈良版『阪急電車』かしらん?」と気になり購入。
    奈良を舞台にした短編小説集で、有川浩氏の『阪急電車』とはまた違った構成。「摩訶不思議」のワードがよく当てはまる文章は、さながら森見登美彦氏や万城目学氏作品のよう。実際巻末には、森見氏と著者の対談が掲載されている。

    「佐伯さんと男子たち1993」
    鹿せんべいを持ち歩いては鹿達に与えている不思議美少女 佐伯さんと彼女に想いを寄せる男子3人組の淡い(!?)青春群像劇。
    「アホになっていく」彼らの悲願達成を応援するか、「やめとき」と身を引くのを推奨するか、2パターンに分かれそうだな笑

    「ランボー怒りの改新」
    飛鳥時代の大化の改新を米映画の『ランボー』とミックスさせ、著者なりの新(珍?)解釈を施したもの、と言うべきか。
    中臣鎌足らが蘇我入鹿の討伐を目論むさなか、かつて蘇我馬子が引き起こしたベトナム戦争に従軍していた最強兵士ランボーが飛鳥に帰還する。
    …あらすじを把握するだけで時間を要した。ライフルなど現代の武器も出てくるわで、読者も時代設定を無視しなければ面白おかしく読み通すことができない笑
    「で、何でランボー?」
    それもまた、ここではナンセンスな質問になるのだろう…

    「ナラビアン・ナイト」
    副題は「奈良漬け商人と鬼との物語」。
    生駒山に住まう老人に、ある客人の女性が『アラビアン・ナイト』になぞらえて奈良の物語を話して聞かせるという形式。その物語のタイトルが「奈良漬け商人…」である。
    大和国はシルクロードの終着点であったから、異国的な『アラビアン・ナイト』の成分をブレンドさせた本作は、一番奈良の雰囲気に合っていた。ランボーより好きかも笑

    「満月と近鉄」
    畳屋の倅から小説家を志した著者の半生記。本作を含む短編4作の誕生秘話でもある。
    結論から申し上げると、彼は一度夢を断念してご実家の畳屋を継がれている。そこから本書を出版し、見事小説家デビューを果たした。(その後の動きは謎に包まれているとの事…)
    本作は半生記でありながら、他の短編小説に出てきた人・物や親友N君(…とここでは記しておく笑)の正体と、度々驚かされる。誕生秘話も「ほんまかいな」と何度もひっくり返りそうになった。
    購入前は奇妙に映った本作のタイトルも、今は柔らかな光を投げかけている。

    巻末の対談は、ある意味貴重かも。
    相手が大物作家で、著者もその作家から次作への期待を寄せられている。
    あとは息ぴったりの(!?)関西弁。司会の平林萌緑(もえぎ)氏が奈良のリニア開通へ急に話題転換しても、両者平然と対応していたし。
    名だたる作家を掻き分け戻ってくると、多くの読者と文壇を見つめている。

  • 現実と幻想の混同。そしてアホとロマン。
    その組み合わせは不可能なのでは……と思うコラボも不思議と絶妙にマッチしていて、おもしろい事になっている。
    このオリジナリティは天才的です。

  • 本屋で一目惚れ。結果、ものすごく大好き。
    失礼ながら、作風は「奈良版の森見登美彦さん」という感じ。でもそれを思ったのは私だけではなく。巻末に、作者の前野さんと森見さんの対談が載ってました。なんと。引き合わせた人、グッジョブ。でも強者やな。

    すべて奈良の街を舞台にした4編の短編集が収められています。

    青春の青臭さと滑稽さあり。
    ド級の破天荒なのに超絶惹かれる設定あり。
    笑いあり。
    …と思ったら、思い通りにはいかないけれど、それでも懐かしくも愛おしく思う、ほろ苦い人生の機微が本当に丁寧に描かれていて、最後にはしんみり…。

    私は若かりし日に奈良に住んでいたこともあり、実在の街の緻密な描写と見事な使い方は、本当に楽しく、嬉しくも、懐かしさもあり。
    もう、言葉にならない感慨に満ち満ちています。


    「佐伯さんと男子たち1993」
    アホ男子中学生たちの生態を、奈良といえばの鹿に絡めて描いた、滑稽で微笑ましい作品。


    「ランボー怒りの改新」
    映画でお馴染みあの「ランボー」が、あの大化の改新直前の日本の飛鳥の地に(!)、ベトナムから帰還したら(!?)、という超奇抜なお話。
    設定からしてそもそも破綻してるのに、お話は破綻してなくて、吸引力が凄くて、超楽しい。でも、戦争従軍者の孤独やPTSD症状なんかも巧みに捉えてて不思議な生々しさあり。
    解説の言葉どおり、「混ぜて危険なものなど、この作家にはない」。


    「ナラビアン・ナイト 奈良漬け商人と鬼との物語」
    イスラーム説話集「千夜一夜物語(アラビアン・ナイト)」を即興で奈良風に語ったら…。


    「満月と近鉄」
    作家さんご本人の人生をモデルに、しみじみと人生の機微を描いた佳作。
    どこまでが本当で、どこまでが虚構なのか…現実と幻想のあわいが見事です。


    前野さん、この一冊しか本を出していないそうなのですが(本業は奈良の畳屋さんだそう)、ぜひ新作を出していただきたい…熱望。

  • 奈良を舞台にした短編集。

    突飛かと思ったけど、奈良らしさと融合されていて、奈良感が出ていて良かった。
    後回しにしたナラビアンナイトが、結果的に一番いい締めくくりだったなー

  • 「佐伯さんと男子たち1993」
    不思議少女、佐伯さんに恋をした男子中学生三人組が飛火野を駆け回り(シカのフンを投げ合い)、一夏の思い出を作るお話(笑)

    水泳パンツの紐が固まって脱げない事件に、堪えきれず笑う。

    佐伯さんは、その後妙齢の女性となって、「満月と近鉄」という作品にも登場する。

    「ランボー怒りの改新」は、説明が難しい。
    つまり、ランボー×大化の改新なのだ。
    つまりって言っても、多分なんの説明にもなっていないのだけど。

    「ナラビアン・ナイト」は、響きがいい(笑)
    梅干しの種によって、鬼の怒りを買ってしまった奈良漬商人を助けるべく、三人の老人が面白い話を鬼に提供せんとするお話。
    久々に、大台ヶ原という地名に触れた。

    〝唯一の著作〟ちょっと掘り出し物に触れた感じ。

  • 4編からなる短編集。その内の佐伯さんと「男子たち1993」と「満月と近鉄」が、森見登美彦さんっぽくて面白かった。「ランボー怒りの改新」は、題名からすごく期待したけど、大化の改新とランボーがミックスされるというとんでもない話しで、さすがに引いてしまった。

  • 奈良は好きでよく訪れます。だから、書かれている場所がイメージされて、とても楽しく読めました。大化の改新にランボーとロケットランチャーが組み合わさって、ものすごくカオス。でも、この設定、私は嫌いではありません。むしろ、大好き。1番好きなお話は、ナラビアンナイト。いくつかの小さいお話が、それぞれ結ばれつつ、1つのお話にまとまっている。読み終わった後、もう一度どの部分がつながっているのかを見直しながら、読みました。

  • 奈良在住としては、生駒遊園地やもちいど商店街、南都銀行など親しみある単語出てきて、それだけで楽しかった。
    佐伯さんとの出来事が妄想なのか現実なのか興味はつかない。現実だったらいいのになあ。

  • ――

     きんてつ、の発音よ。


     だいたい大きな駅のあたまには「近鉄」と付いているんだけれど、概ね主要な街ではその「近鉄」は発音されないで、逆にJRの方にわざわざ付いてない「JR」ってー冠詞を付けるのが習わしになっている。子供のころからそのことに疑問を感じていたオレは多分根っからの体制派なんだろう。



     いやー、傑作である。ちょっと奈良について調べる機会があったのでここぞとばかりに読んでみたのだけれど、ほんとに。
     モチーフの使いかたも、削り出しの方法も見せかたも抜群で、技術的なのは間違いないのだけれど…それ以上にちょっとしたワーディングとか、展開のさせかたとか言葉の飛躍がすっぽりとハマって、「やられた!」という感じ。
     いちばん最初にぐっと掴まれたのは、

    “ 「告白して、それでどうすんの?」と僕は言った。
      「知らんけど……」
      「知らんのに告白するんか?」 ”

     この会話。これだけで、一瞬で片田舎の中高一貫に通っていた頃に引き戻されてしまった。びっくり。遠足のしおりを鹿に食べられたあの頃。もうほんとに、やられた! である。



     しかし圧巻はなんといっても「ランボー怒りの改新」。これはすごい。こんなに好きなものばっかりを口の中に詰め込まれたのは久しぶり。確かに冒頭の一編を読んで「夜は短いのか?!」って感じがあったけれど、本格的に蓋を開けたら爆発した。なんとなく、誤解してましたすみません、と思いました。どっちに対しても済みません。
     こういう、本来組み合わせられないものが渾然一体とひとつになって、わけのわからない強大なパワーを発しながら、その中心はちゃんと真っ直ぐ飛んでいる物語というのがたまらなく好きなのです。タイトル見てまさかと思うんだけれど、ランボーは90年代以前の生まれならきっと皆知っているあのランボーだし、改新は小学校で習うあの改新です。同居することになって、ランボーと改新がいちばんびっくりしてると思います。
     まじで奈良に遠足とか修学旅行で行く中学生高校生は必携。奈良中の鹿がお腹いっぱいになることでしょう。
     単行本のときは表題作だったというのも頷ける。今回「満月と近鉄」を表題に持ってきたのは正解だと思うけど。なんていうか、表紙とか背表紙の面構え的にねぇ?(笑


     これは悔しいけど、このひとの作品は他に読めないというのも含めて☆5。つまり新作が出たら下がります。多分それも面白いからね!

  • なんともへんてこでかつ面白い奈良小説でした。森見作品のような小説。森見作品を好きな人がこれにはまるかどうかは半々かな。悪く言えばパワーが弱い、良く言えば、華やかならず落ち着いた奈良を描いた作品らしいマイルドさがある。

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著者プロフィール

奈良県生まれ。高校卒業後、作家を志すも挫折し、大学卒業後家業の畳店を継ぐ。2011年より同人誌『NR』に3本の短編を発表、2016年『ランボー怒りの改新』で商業デビュー。

「2020年 『満月と近鉄』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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