ロレンスになれなかった男 空手でアラブを制した岡本秀樹の生涯

著者 :
  • KADOKAWA
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  • Amazon.co.jp ・本 (288ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784041091609

作品紹介・あらすじ

中東で秘密警察や政府要人に空手を指導、外国製品の闇ルート販売とカジノ経営に乗り出す。命運を賭したビジネスがイラク戦争開戦により頓挫した男は、ナイルに散った ……。
200万人に及ぶ“空手の種”を撒いたその光と闇の濃い人生を描くノンフィクション!

1970年、映画「アラビアのロレンス」に憧れシリアに向かった岡本秀樹。空手の稽古を通じて、アラブ民族に自立への誇りと現地の活気をもたらしていく。稽古を通じ築いた政官中枢との人脈を生かしエジプト、ラクでビジネスに挑むが、イラク戦争勃発により計画は暗礁に乗り上げる。すべてを失った彼が、たどり着いた場所とは――。
日本の外務省に徹底的に嫌われながら、灼熱の地でアラブ民族に“自立の精神”を刻んだ男――構想十八年、国際ジャーナリストが満を侍して贈る!

序章   「オカモト」が生まれた日
第一章 取材ビザを求めて(イラク前編)
第二章 空手との出会い(日本編)
第三章 中東の空手家(シリア・レバノン編)
第四章 闇商売に堕ちる(エジプト編)
第五章 最後の賭け(イラク後編)
終 章 岡本が遺したもの

感想・レビュー・書評

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  • 読みやすい文章でスルスル読めた。書き手の力量を感じる。吉村昭っぽさも感じた。序章で岡本の鮮烈なエピソードを描き、一章で著者との出会いと関わりを描いた後に、岡本の生涯を時間軸に沿って描いている。章構成がうまい。

    序章はネットで既読だったけど、マンガみたいな話。大立ち回りしている光景が目に浮かんだ。「アンタその場で見てたんか?」感がある。

    一章は岡本と著者の出会い、その後の付き合いについて。イラクの権力者とコネを持つ得体の知れなさが描かれている。

    二章は生い立ちから、空手と出会いアラブに行くまで。二章の話はまたしてもマンガっぽい。空手といえば大山倍達だけど、アナザー空手バカ一代と言えるエピソードが多い。というか著者はそれを意識して書いているに違いない。たまたま出会って気に入られた老人が学長で、後ろ盾になる様子や、ヤクザに詫びを入れにいく様子など、マンガっぽい情景が目に浮かぶ。受験勉強のために山籠もりとか、モロだ。ハチャメチャな人って、生まれつき、小さい頃からそうなんだろうな、と思わざるをえない。

    三章は中東で空手を広め、アラブ界の政界と関わりを持つようになってエジプトに移るまで。交通事故で死にかけた話など。四章はエジプトの密輸業で大儲け、武道センター設立、不倫、商売裏目、恨みを買ってのエジプト追放騒動など。五章は湾岸戦争を目前に昏迷するイラクでの暗躍について。終章は晩年、ガンになってからの闘病、生活保護など。

    全体を通じて、梶原一騎、村西とおる、西崎義展といった、常識の彼岸にいる熱いエネルギーを持った人の伝記と通じるものがある。毀誉褒貶が大きいのも似ている。ただ、中東の国際情勢も絡んでいて、スケールがでかい。おかげで、断片的だけど複雑な中東紛争の一端を知ることができた。嘘みたいな話が多くて岡本の盛った話を著者が鵜呑みにしているではないかと思ったが、著者はウラをちゃんと取っているらしい。

    自分はとてもこんな人生は送れないし、こんな人にもなれない。生まれ持ったエネルギーが違い過ぎる。今の社会は、こんな人の活躍を許さない気もする。その有り余るエネルギーを持て余すが故に、情勢の不安定な土地、時代での綱渡り人生を生きることしかできなかったのではないか。そういう運命だったのではないか。今の生ぬるい閉塞感の漂う日本だったら居場所がないに違いない。

    そして、その最期。俗っぽい欲望が削ぎ落された先に何が残るか、ちょっと考えさせられた。それがたとえ、著者の視点から描いた岡本の物語だとしても。岡本の人生がおもしろいのは勿論だけど、構想から18年だという書き手の静かな熱量と力量を感じた一冊。

  • むちゃくちゃな男だけど、スケールがデカすぎで、やりたい放題で中東を駆け抜けたすっごい実話でした。おもしろい。

  • 空手幻想。ブルース・リーの時代。

  • 「ロレンスになれなかった男」ということで、アラブに空手を広げるという使命感で活躍した人生が描かれている。また同時に、常識では測れない、ビジネスや様々な活動についても、事細かに記述されており、等身大の岡本英樹の生涯に接することができ、親しみを感じることができた。

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著者プロフィール

1964年滋賀県生まれ。88年毎日新聞社入社。カイロ、ニューヨーク両支局長、欧州総局(ロンドン)長、外信部長、編集編成局次長を経て論説委員。2014年、日本人として初めて英国外国特派員協会賞受賞。『柔の恩人 「女子柔道の母」ラスティ・カノコギが夢見た世界』(小学館)で第18回小学館ノンフィクション大賞、第23回ミズノスポーツライター賞最優秀賞をダブル受賞。著書に『十六歳のモーツァルト 天才作曲家・加藤旭が遺したもの』(KADOKAWA)『踊る菩薩 ストリッパー・一条さゆりとその時代』(講談社)など。

「2023年 『中世ラテン語の辞書を編む 100年かけてやる仕事』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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