マツリカ・マトリョシカ (角川文庫)

著者 :
  • KADOKAWA
3.82
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感想 : 36
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  • Amazon.co.jp ・本 (400ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784041090039

作品紹介・あらすじ

学校の怪談『顔の染み女』を調べていると、別の『開かずの扉の胡蝶さん』の噂が柴山の耳に入る。その部屋で、トルソーを死体に見立てた殺人(?)事件が発生。クラスメイトと柴山が、二重の密室の謎に迫る!

感想・レビュー・書評

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  • 『マツリカ・マジョルカ』『マツリカ・マハリタ』に続く、シリーズ三作目にして初長編の『マツリカ・マトリョシカ』。読み終えた感想としては、「大化けしたなあ」という印象。過去二作品の伏線と、ここに到るまでの柴山君の変化、そして密室の謎が強固に結びつけられ、本格ミステリとしても、青春小説としても、今までにない特異なところにまで、マツリカシリーズは向かっていったように思います。

    相も変わらず、マツリカさんの命令で学校の怪談話を調べる柴山は、噂の調査のために深夜に後輩と一緒に校舎に侵入。そのときに見かけたのは、開かずの間と呼ばれる美術室の倉庫で瞬いた光。さらにその開かずの間にも「胡蝶さん」という怪談話があって……

    そして翌日、その開かずの間から見つかったのは、「胡蝶さん」に見立て制服を着せられたトルソーとカッターナイフ、そして、ばらまかれた蝶の標本。
    さらにその制服は前日に、女子テニス部の更衣室から盗まれたもので、柴山は有力な容疑者の一人になってしまう。そして調べてみると、倉庫は密室状態であったこと。さらに二年前にも同じ場所で、女子高生がカッターナイフで切りつけられた事件が起こっていることが分かり……

    柴山君とクラスメート達が挑む密室の謎。糸を使った古典的なトリックから、大がかりな物理トリック。第一発見者犯人説など、様々な推理が乱れ飛びます。そしていずれのトリックも、検討を進めていくと論理的に不可能だと分かる。
    推理小説好きの登場人物のメタ的な発言も相まって、並々ならぬ密室へのこだわりと挑戦意識が垣間見える。本格ミステリ、密室好きにはたまらない推理小説です。

    そして、青春の喜びと苦みが物語の節々で顔を覗かせる。作中でワイワイとみんなで推理したり、トリックを実際に試したり、試験前の勉強に取り組んだりと、そうした描写は本当に楽しそうで、読んでいる自分もそうした登場人物たちの仲間に、いれてもらったような気持ちになります。

    そして推理の過程で明らかになる、登場人物の痛々しい過去。このあたりは前作までの積み重ねがあるからこそより心に迫る。前作『マツリカ・マハリタ』から登場した松本さんは、この『マツリカ・マトリョシカ』で、より身近に感じ、そして魅力的に思うようになりました。

    期日までに真犯人を見つけなければ、犯人として学校に告発する。制服を盗まれた女子生徒に告げられ、窮地に追い込まれる柴山君。さらにネットでは、彼の大切な友人に疑いを向ける書き込みも見られ始める。

    これ以上みんなに迷惑はかけられない、最悪の場合は自分が罪を被る。そう覚悟を決め柴山君は孤独な推理に臨む決心を固め……

    シリーズが始まった当初は、根暗でいわゆるボッチだった柴山君。姉に対するトラウマを引きずり、自分のことを無力だと思っていた彼が、友人達のために覚悟を決める。
    その力強さもそうだし、この守りたい大切な人がいる、という思いが柴山君の姉に対する強迫観念に、一つの変化を与えるきっかけにもなって、シリーズを通して本当に繋がった作品だな、と思います。

    そして誰かを大切に思う気持ちは、きっと相手にも伝わるはずで。
    クライマックスでの柴山君と女子生徒の対決に、柴山君の友人達が駆けつけるシーンなんかは、ベタなのかもしれないけど、本当に良かった。そして、最後に登場するのは……

    密室の謎については、最後の推理に到るまで色々な線が作中で考察されてきたけど、ラストの推理は本当に丁寧で読み応えがありました。盗まれた制服に入っていた自転車のカギが、どのポケットに入っていたか?

    一見何てことない小さな謎を突破口に、ロジックがつながり、前提としていた条件までもが崩れ、犯人が仕掛けたトリックの全容が明らかになる。そんな本格ミステリの冥利に尽きる見事な推理に加え、明らかになる犯人の思いの切実さも心を打つ。そして犯人の思いと、柴山君の思いも鏡映しのようで、この事件の解明が、柴山君の新たな一歩につながる。

    ミステリと青春小説の側面が見事に結び合わされ、シリーズとしても一つの到達点を迎えた、相沢沙呼さんらしい傑作だったと思います。

    守りたい人たちと、掬い上げたい言葉。それが臆病だった柴山君を大きく変えていく。彼のネガティブな思考というのは相変わらずなのかもしれないけど、彼を貫く軸は確実に大きく変化していて、シリーズの次回作も本当に楽しみになりました。

  •  マツリカ・シリーズ3作目にして初の長編。『密室「殺トルソー」事件』を、柴山君と仲間たちが解決していく。

     作中、登場人物の一人が「人が死なない密室を書いた小説で有名なものはないんですか?」と問うている。作者はこれにチャレンジしたわけだ。
     今作では柴山君と仲間たちがそれぞれの推理を披露していく。《古典部》シリーズの「愚者のエンドロール」に似たような展開だ。そして最後は、あの方の登場となる。1巻目と2巻目を読んでいたほうが楽しめる。それらに、伏線が張られていることに気づくだろう。柴山君の煩悩は相変わらずだが、マツリカさんの過去がまた少し明らかになる。
     
     あと、「もしこれが男性作家が書いた推理小説だったら、その作家はプリーツスカートに詳しいただの変態ではないか」とある。これ自虐ネタなのだろうか。

  • 現在のところこの「マツリカ」シリーズはこの第三巻まで発行されている。予備知識なしにこのシリーズを読み始めたので、この「マトリョーシカ」で最大の謎であるマツリカさんのことが語られてシリーズが終わるのかと思っていたが、どうやら違うみたいだ。

    まさかこのままこのシリーズが、様々な謎を回収しないまま終わるとは思えないので、続編を楽しみに待ちたい。

    さて本作であるが、シリーズ初めての長編である。「マツリカ」さんの登場場面が少ないのが寂しい。その分柴山君は相変わらずウジウジしながらも頼もしく成長しており、八面六臂の活躍を見せる。

    密室の謎があまりに回りくどく、その謎解きに自分自身がのめり込めなかったので、ミステリーとしてはあまり楽しめなかったが、柴山君の成長物語、あるいは良質の青春ドラマとしては楽しめた。

    それにしても、柴山君の周りには魅力的な女子がいっぱい集まる。なんとも羨ましい。

  • 現時点での最新刊である3巻目(続くはず)。
    前2巻で増えていった主人公の理解者たちが、みんなで事件についての推理を投げ合う、シリーズものの3巻目らしい構成の良作…どころではない。
    柴犬くんがセクシーなお姉さんにドギマギしてしまう視線までも事件の本筋にきちっと折り込み、学校という場を完璧に活かした、前作までの流れが伏線として化ていく様に拍手。そりゃ本格ミステリ大賞のノミネートも当然だ、と。
    何より「密室を解く手がかりになったポイント」にマツリカさんが何故気づくに至ったか、の論理の流れが素晴らしい。地の文で書いていたが、著者は良い意味でも悪い意味でも変態さんに違いない(笑)

  • ライトな感じですがシリーズ全体的に面白い作品でした。

  • 自分の存在価値に疑問を抱く思春期の子供達に焦点を当てた、学園ミステリ。

    シリーズの3作目、、、とは知らず本作から読んでしまった。それ故に少し楽しみきれなかった感がある。「マツリカ」って何者?!と読みながらずっと思ってたので…
    ストーリーの進むテンポ感も少し遅く感じられた。
    1作目と2作目も大枠で伏線になっているらしいので、読んでみたい。

  • マツリカシリーズ3作目にして初の長編モノ。
    主人公の柴山は、深い心の傷を負い、それ故煮えきらない性格、そしてモテない陰キャラ、常にメンタル弱々な男子高校生。対して探偵役のマツリカさんはというと、廃墟となった雑居ビルに住んでいるという謎の美少女、態度も振る舞いも絶対的存在、そして芝山を虜にさせる美貌の持ち主、でもってキレッキレの推理能力。このキャラ関係は本作でも健在。
    今回も、柴山はマツリカさんから、学校内での怪談話の調査を命じらる。
    怪談話から曰くありげな過去の不可解な出来事が浮かび上がり、そこから現在の怪しげな出来事に発展し、さながら二重構造の謎を呼ぶ。学園モノ日常の謎の本格ミステリなので殺人は起こらないけども、不可解な出来事はバリバリの密室状態。沢山の推理が繰り広げられ、登場人物たちの意外な接点や共通性が描かれ多重構造の様相。このあたりがタイトルのマトリョシカに繋がってる。相沢沙呼の作品はやはり一筋縄ではいかない。

  • ● 感想
     マツリカ・シリーズの第三弾にして、初の長編。日常の謎系のミステリでありながら、現代密室と過去密室の2つの密室の謎が提示されている。
     柴山祐希が現代密室の犯人と疑われ、試験期間の最終日までに真相を見つけ出さないと犯人とされるという時間制限によるサスペンス的なノリも含んでいる。
     マツリカ・シリーズは、柴山祐希の成長も感じる展開となっており、この作品では、重要な役どころを占めていた「小西さん」は、ほとんど存在感がない状態。柴山のほか、松本まりか、高梨といった人物が、柴山と一緒に探偵役の役回りをしている。
     後付け的な部分はあると思うが、過去密室の捜査の際に、過去の事件でかかわった先輩に聞き込みをするなど、過去作品を伏線として使っている部分まである。そういった意味で、過去作品まで含めた総決算という意味合いもある。
     ミステリとしてのデキはどうか。現代密室の犯人は、探偵チーム側にいた春日麻衣子。密室を作った鍵は、制服の偽物を用意していたという点と、カーテンが閉まっていた「絵」を描いていたというもの。春日麻衣子が、柴山を犯人ししたて上げようとした動機がつかみにくいので、読者をミスリードするためともとれる。野村という存在をミスディレクションとしており、意外性、密室トリックとも、考えられているが、やられた感はそれほどない。原因は、密室トリックが込み入り過ぎているからだと思う。もっとシンプルな方が入り込めた。制服の偽物を用意していたという点も、伏線が感じられず。とはいえ、完成度は高い。
     過去密室の方は、被害者の秋山風花と松橋すみれが嘘の証言をしていたから密室になっているだけで、犯人が七里というシンプルなもの。密室になった原因が、屋上の垂れ幕作業による生じた影と同じ服装をしていたというもの。過去密室の謎を柴山が解いたという、柴山の成長を感じる場面ではあるが、謎としてはたいしたものではない。
     マツリカさんが、学校に来て、関係者の前で謎解きをするなど、これまでのお約束を破る展開。柴山の成長、お約束を破る展開、2つの密室の謎と面白さがアップしており、過去作に比べると気持ち悪い描写が少ないという点もいい。過去作を見ていないと面白さが減ってしまうので、過去作から読んでほしいが、この作品に限った方が他人にお勧めしやすいという印象
     ミステリとしてのトリックは、込み入り過ぎているという難点があり、現代密室の犯人が柴山を巻き込んだ動機の弱さ、全体を見て、読者を騙そうとし過ぎている要素はある。とはいえ、シリーズでは屈指の完成度と読みやすさがあり、全体の評価は★4としておきたい。これが、傑作「medium 霊媒探偵城塚翡翠」につながっていく、相沢沙呼としても重要な作品となっていると感じる作品である。
    ● 事件
    ● 設定
     柴山は、七里との間で、現代密室の謎を、試験が終わる日までの解き、真犯人を見つけないと、柴山が罪を被るという約束をしている。
    ● 密室殺トルソー事件(=現代密室)
     テニス部の七里観月の制服を着たトルソーが、密室なっている第一美術準備室で、カッターに刺された状態で見つかる。
    【6つの推理】
    ● 1つ目の推理 松本まりかの推理
     試験準備期間前に鍵を借り、窓を開けておく。窓から室内に入り、窓から出る。あとは、第1発見者として窓の鍵を閉める。
    ● 2つ目の推理 柴山祐希の推理1
     窓から出入りをし、糸を利用して鍵を閉める。ただし、ほこりの状況からこのような事実はないことが分かっている。
    ● 3つ目の推理 三ノ輪部長の推理
     猪頭先生が犯人。又は吉田先生が犯人。先生なら鍵を自由に使えるので、密室でもなんでもない。ただし、猪頭先生が犯人でないことはアリバイから分かる。
    ● 4つ目の推理 高梨の推理
     トルソーを、薄くて長い板で滑り込ませた。ただし、現実的には、相当の重労働でほぼ不可能
    ● 5つ目の推理 村木翔子の推理
     美術室の鍵を偽物とすり替える。松本まりかが犯人という推理
    ● 6つ目の推理 
     合鍵を使うという推理
    ● 廃墟の魔女の推理
     鍵は、自転車の鍵とブリーツスカート。ブラウスのポケットに自転車の鍵が入っていた点に違和感がある。状況と推理から、自転車の鍵は、スカートのポケットに入っていたはず。それが、どうしてブラウスのポケットに移ったのか。それは、糸を使い、部屋の外からポケットに鍵を入れるため。犯人は、精巧な偽物の制服を用意していた。準備はずっと以前から行い、確認は本物でさせる。カーテンは、ベランダから、窓にカーテンが掛かっている絵を張り付けた。犯人は、制服を盗んだ当日に美術室に入ることができ、野村が席を外した数分で鍵を送り込むことが可能で、深夜零時にタイミングよく、柴山にライトの明滅を見せることができた人物、春日麻衣子
    ● 2年前の事件(=過去密室)
     文化祭の準備期間中に、開かずの扉の中で、一人の女生徒が血を流している状態で見つかった。
     写真部の松橋すみれと三ノ輪は、秋山風花が階段を上るのを目撃。松橋は、その後、倒れている秋山を発見。その部屋は密室
     秋山は午後4時半頃、襲われ、気絶。しかし、午後5時頃、松橋すみれと三ノ輪は、部屋に入った秋山風花を見たという。垂れ幕の影と同じポロシャツ。この2つから、部屋に入ったのは秋山だと思った。秋山は、七里にカッターで切られたが、自分から襲ったという事情もあり、文化祭を守るために、松橋と口裏を合わせ、七里に襲われたとは言わなかった。隠して、狂言をしたという噂が流れた。

  • かなりてこずった。過去と現在の2つのタイプの異なる密室を提示している点は面白いけど、密室は強固にしすぎてはいけないいい例じゃないかなぁ。
    密室が強固なわりに、探偵役であるマツリカがほぼ登場しない。強固な密室について素人探偵があーだこーだやってるシーンがかなり長いので、正直飽きる。あと主人公の性格とうだうだ感がどうにも受け付けなかった。

  • 霊媒探偵クラスの衝撃をありがとう(*´▽`*)

    シリーズ3作目だがマジョルカ、マハリタ両作
    があって初めて本書の入り小細工の密室が完成
    したといえる(時空を超えた解決だった)
    本作は過去の柴犬視点から少し客観的となり、
    うじうじ悩める狭窄視野がないだけ読みやすい
    プリーツスカートの構造だって覚えられたw

    過去2作で活躍の小西・マツリカが作品の最後
    まで出番が無いが、そこに至るまで5人の推理
    が自然にながれて作品の完成度が凄い

    さて柴犬が成長著しい、学校で変態行動を継続
    しているのに信頼できる仲間が増えてkitanoは
    嬉しい!日常の謎をここまでミステリに出来た
    作者は末恐ろしい・・・読むべし!

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著者プロフィール

1983年埼玉県生まれ。2009年『午前零時のサンドリヨン』で第19回鮎川哲也賞を受賞しデビュー。繊細な筆致で、登場人物たちの心情を描き、ミステリ、青春小説、ライトノベルなど、ジャンルをまたいだ活躍を見せている。『小説の神様』(講談社タイガ)は、読書家たちの心を震わせる青春小説として絶大な支持を受け、実写映画化された。本作で第20回本格ミステリ大賞受賞、「このミステリーがすごい!」2020年版国内編第1位、「本格ミステリ・ベスト10」2020年版国内ランキング第1位、「2019年ベストブック」(Apple Books)2019ベストミステリー、2019年「SRの会ミステリーベスト10」第1位、の5冠を獲得。さらに2020年本屋大賞ノミネート、第41回吉川英治文学新人賞候補となった。本作の続編となる『invert 城塚翡翠倒叙集』(講談社)も発売中。

「2022年 『medium 霊媒探偵城塚翡翠(1)』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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