- Amazon.co.jp ・本 (672ページ)
- / ISBN・EAN: 9784041077610
作品紹介・あらすじ
此度の語り手は山陰の小藩の元江戸家老。彼が山番士として送られた寒村で知った恐ろしい秘密とは!? せつなくて怖いお話が満載! おちかが聞き手をつとめる変わり百物語、「三島屋」シリーズ文庫最新刊!
感想・レビュー・書評
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「人は語りたがる。善いことも、悪いことも」。そうだ。だから、江戸時代に井戸端会議があって、現代にSNSがある。しかし、三島屋の〈黒白の間〉は特別だ。現代ならば、どこかに厳重にパスワードで守った告白の部屋を置くようなものだ。そしてどの時代にも、そんな秘密の物語も「ホントにあったことのように」伝えてくれる語り部のような人がいるものである。現代では、例えば宮部みゆきという。
今年の宮部みゆきの「夏の文庫本」は、これ一冊で打ち止めのような雰囲気だ。仕方ない、仕方ないと思いながら読み終わってしまった。
今回も、私の人生の何処かで、いつか出会った者たちや、これから出会いそうな者たちが現れては消えていった。「迷いの旅籠」のような、懐かしい人たちには、夢の中で何度も出会った気がするし、「食客ひだる神」は子供のころ仲良しだった気がするし、「三鬼」の怖い話は、私の遠い遠い祖先の話のような気もする。「おくらさま」ではおちかさんの若い将来を願い、あの若者と同様の言葉を送りたい。
とは言っても、百物語、未だ78話が残っている。現代の語り部宮部みゆきさん、人生百歳時代、まだまだですよ。
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シリーズ第四巻。
今日もまた面妖な話を携えて、語り手が黒白の間にやってくる。
今作はどの語りも心の奥深くにもぐりこんでくるような印象だった。ひだる神には可愛いらしさを、三鬼には村の仕来りが生み出した人の心の闇を存分に見せられた。
長い人生、出会いもあれば別れもある。
おちかの心と重ね合わせた「おくらさま」は特に心の奥底まで届いてくるほどの味わい。
季節はまたひとつ、うつろう。
おちかの心もきっとまたひとつ、うつろう。
人は語ることで心の重荷を下ろすことができる、それをヒシと感じた巻でもあった。 -
バラエティに富んだ百物語。現段階でシリーズ史上最高です。
おちかの色恋が予想外の展開になって悲しくて苦しいけれど、希望の新参者がまた素敵。
おちかの恋の行方、引き続き楽しみです。 -
親友に勧められて読んだ。親友が、おもろいで、三鬼とか後味悪いのもあるけどな、と言ったから覚悟して読み進めた。そのせいか、三鬼が一番、印象に残った。作中でも指摘されてたが、主人公の弱い人に寄り添う気持ち(それが仇になることも)が救いのある展開に繋がっていると思う。
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不思議や神様と密着した生活をおくるこのお話の中の登場人物たちの、「受け入れる」能力というか懐の深さが当たり前のように描かれているけれど、それこそ凄いことなんじゃないかと感じる。
個人的には登場人物の設定や人柄にこれくらい細かく描写されている物語がとても好き。
この先、おちかの人生も大きく動きそうなのがたのしみ。 -
いうなれば、三島屋変百物語、大転換点!
人の業物(旅籠)、憎めない隣人物(ひだる神)、ホラー物(三鬼)、ミステリ物(おくさらま)
好みの話物が豪華もりもりもりだくさん。
青野先生の旅立ちと共に、新たなキーパーソンを迎え、次巻も期待膨らむ。 -
豊作祈願の祭りを禁止された貧しい村の娘が語る不思議な話ー迷いの旅籠
美味くて美しい弁当をつくるだるま屋が夏に店を休む理由ー食客ひだる神
ある武士が山番士だったころの悲しく恐ろしい話ー三鬼
不思議な老女が変わり百物語にやってきたがーおくらさま
以上の4本を収録。
どれも面白かったですが、二つ目のひだる神さんが微笑ましくてニコニコしながら読んでしまいました。
「おくらさま」で初登場の貸本屋さん、いいですねぇ。富次郎従兄さんもいい感じ。
いつも思いますが、どうなるのか楽しみでどんどん読んでいくのに、読み終わる時がこなければいいなぁという矛盾した思いを抱えます。
それでも三島屋の変わり百物語は22本。
まだまだ先は長くて安心しました。 -
三鬼を読み終え、とりあえず☆5をつけたとき、ふと思い立って今までに登録した三島屋シリーズの評価を確認しました。全部☆5つけてました。
やっぱりこのシリーズ好きだなあ。
というわけでレビューを。三島屋シリーズ4作目。収録作品は四編です。
収録作品の完成度は言わずもがな。怖い、切ない、哀しい、愛おしい、そんな感情をこの一冊だけで味わったような気がします。
一話目「迷いの旅籠」
登場人物たちの死者への思い。あるいは執着と言えるのかもしれませんが、それがときに恐ろしくもあり、哀しくもあり、切なくもあり……
一話目から200ページ以上ある作品ですが、それをボリューミーだと思わせない巧みな筆裁き。何より村に突然やって来た絵師の目的が分かる場面の怖さたるや……
それでいて、話が進むうちにその感情が、切なさに変わっていくんです。宮部さんの妙技が炸裂した作品だと思います。
二話目「食客ひだる神」
一話目とはうってかわって、どことなくユーモラスで、ひだる神の可愛さが印象に残ります。人の影から姿を覗かせて、うんうん、とうなずいているひだる神の姿を想像してしまいます。
さらにすごいのは、ひだる神に取り憑かれる主人の人生が目に浮かぶように描かれていることだと思います。登場人物に命を与えるのはもちろん、宮部さんの場合は、登場人物に人生を与えるのです。
三話目「三鬼」
閉ざされた村、行方不明になった藩士、何も語ろうとしない村人たちと、いかにもホラーっぽい雰囲気。謎が謎を呼び、作中全体に漂う不気味な雰囲気を相まって、どんどん読み進めてしまいます。
明かされる真実、そして『三鬼』の意味。重苦しさでいうと、作中一番の作品ですが、それだけでない希望も描かれます。
怖さ、やるせなさの中に、希望と優しさが同居する、宮部さんらしい話だったと思います。
四話目「おくらさま」
今までのシリーズ作品とは一転して、話手の正体を探っていく話です。そしてこれがシリーズのターニングポイントとなりそうな話でもあります。
シリーズ一作目の『おそろし』からこの『三鬼』までで、おちかはゆっくりとではありますが、確実に前を向き始めているように感じます。そんなおちかに訪れる新たな出会い、そして別れ。
宮部さんの作品は良くも悪くも長いです(苦笑)。おちかがこの心情に至るまでも、四巻費やされました。
でもだからこそ、前を向くことを考え始めたおちかの姿には、読者である自分にも感じるものがありました。おちかのたどり着く結末を、見届けてあげたい。いや、見届けなければならない。そんなふうに強く思いました。 -
三島屋おちかの不思議百物語、第4作。
「食客ひだる神」は、語り手の力量も相まって終始微笑ましい話。逆に「三鬼」は現代にも通じる、極限状態の人々が辿る悲しき性が恐ろしかった。
また、レギュラー陣に少し変化もありますが、安定の不可思議譚でした。
黒白の間での、「聞いて聞き捨て語って語り捨て」の形式は変わりませんが、おちかは聞き手としても人間としても成長が見られ、また周りの人々も時の流れで変わっていきます。
百まではまだ当分あるので、大事に追いかけていきたいシリーズです。 -
こちらも心にじんわりと染みていくような、そんな作品でした。
怪異を描くことを通して、「人の心」を描き、生きる道筋のようなものを示してくれているような気がします。
最終話の「おくらさま」でのおちかの決意には涙が溢れました。