いつかの夏 名古屋闇サイト殺人事件 (角川文庫)

著者 :
  • KADOKAWA
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感想 : 14
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  • Amazon.co.jp ・本 (400ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784041071137

作品紹介・あらすじ

2007年8月24日、深夜。名古屋の高級住宅街の一角に、一台の車が停まった。車内にいた3人の男は、帰宅中の磯谷利恵に道を聞く素振りで近づき、拉致、監禁、そして殺害。非道を働いた男たちは三日前、携帯電話の闇サイト「闇の職業安定所」を介して顔を合わせたばかりだった。車内で脅され、体を震わせながらも悪に対して毅然とした態度を示した利恵。彼女は命を賭して何を守ろうとし、何を遺したのか。「2960」の意味とは。利恵の生涯に寄り添いながら事件に迫る、慟哭のノンフィクション。

感想・レビュー・書評

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  • 大崎善生『いつかの夏 名古屋闇サイト殺人事件』角川文庫。

    真面目な前途ある女性が犠牲になった極悪非道の悲惨な事件をテーマにしたノンフィクション。前半を読み、事件から10年以上も経過し、可哀想な女性被害者の人生を克明に掘り起こす理由が自分には見当たらず、少し違和感があった。しかし、犠牲になった磯谷利恵さんが死の目前にあっても毅然とした態度を貫いたこと、母親との強い絆を培っていたことを知り、犯人たちを絶対に許せない、許してはならないという強い怒りが沸々と湧いてきた。

    2007年8月24日の深夜、名古屋の高級住宅街の一角で帰宅中の磯谷利恵さんが3人の男に拉致され、金品を奪われた挙げ句に惨殺される。犯人の3人、神田司、堀慶末、川岸健治は携帯電話の闇サイトで3日前に知り合ったばかりだと言う。余りにも身勝手な冷酷無比なる悪魔の所業……

    未成年者でもあるまいし、こんな悪魔は全員死刑にしてしまえば良いのに、司法というのは判例だとか社会への影響だとか余計なことを考えて躊躇するものだから、次々と悪魔は産まれるのだ。死刑になったのは3人のうちの1人。無期懲役になった2人はいつの日か社会に復帰し、のうのうと生を享受するのだろう。最後まで生きたいと願う磯谷利恵さんの希望も、未来も、全てを奪った悪魔が野に放たれると思うと、何とも遣り切れない。

    本体価格720円
    ★★★★★

  • もぅ、再読する事はなぃかも知れないけど…
    痛烈に心に残った。

    久しぶりに号泣した 。

    事件モノのノンフィクションゎツラい…

  • 読んでいる途中、3度、読む手を止めて、この本が本当に高レビューなのか確認してしまいました。
    大崎善生さんは若い頃から好きで何冊も読みました。
    が、被害者の育児日記のような記述や被害者のお母さんの生い立ち、被害者女性がいかに知的で愛すべき人であったかなどがかなり長きにわたり書かれていて、私は何を読まされているんだろう?と懐疑的な気にさえなりました。

    途中、被害者女性が囲碁をしていたと書かれていた時、大崎善生さんは将棋の世界に深く関わっていたから、まさか、それでこの事件を特別視しているだけではないかとも疑いましたが、まさか、それだけではないだろう、何か、特別な何かが、特に伝えたいことがこの事件にはあるから、この本を書いたのだろうと期待して、何とか読み終わりました。

    結果、特に何もありませんでした。そして、後書きに、大崎善生さんにとってこの事件が特別になったのは、やはり被害者が囲碁をしていたと知ったからときちんと書かれてありました。がっくりきました。

    もちろん、何の罪もない将来ある女性を、こんなにも悲惨なやり方で苦しめ、殺してしまったこの事件は、とても痛ましく、重く受け止めるべきものです。しかも犯人の男達は、そろってこの上なく無能で反省もなく、本当にここまで嫌な部分しか持ってない人間がいるのだろうか?と思わせるほど、酷い人間に描かれており、憎しみを覚えました。

    ただ、事件の内容は別として、本として、ノンフィクションとして、あまりに著者の感情移入が激しく、私にはこの本の良さがわかりませんでした。
    私が冷たいだけなのかもしれないけれど、納得のいかない一冊でした。

  • 2007年8月24日、名古屋市千種区の路上で当時31歳だった磯谷利恵さんが、インターネット闇サイトで知り合った男3人に拉致され、連れ去られたのちに殺害されるという痛ましい事件が発生しました。
    本書前半は被害者の利恵さんの生い立ち、当時交際していた男性との出会いなど事件に巻き込まれるまでを追います。次に犯人3人が犯行に及ぶまでの背景をたどり、後半部では事件発生から利恵さん殺害までの経緯と、その後の犯人逮捕、犯人の裁判期間中に犯人の死刑を求めて署名活動に身を投じられた利恵さんのお母さんの姿を描いています。
    幼稚園から小学校、中学、高校と成長の様子を描く前半部は子供を持つ親なら誰もが自分の子供の成長に重ねて感情移入できるような、キラキラした生命力にあふれた印象です。
    一方で犯人の背景を描いた部分は、場当たり的、刹那的、打算的で前半部の輝きとあまりに対照的な暗さ、邪悪さです。
    利恵さんが帰宅しないことにかすかな不安を覚え、そして警察から連絡を受けて次第に自分の娘が殺害されたという事実をお母さんが知らされてゆく部分は、読んでいて苦しくなります。
    何の落ち度もない人が、たまたまそこに居合わせたというだけの理由で殺害される事件が、今も後を絶ちません。本書で描かれている遺族の方の悲しみと同じ気持ちを、この事件以降も多くの方が感じられているというのは、本当にいたたまれません。
    犯罪被害者の悲しみは、犯人が逮捕され、裁判所で刑が確定してもずっと続くという当たり前の事を読者に強く訴えるノンフィクションです。

  • 辛すぎて、再読したいけどなかなかできない。

  • これは実際に起きた事件を基にしたフィクションである。
    また同時に、強く、賢く、生き抜いた女性の記録である。

    私はこの本を読んで決して泣いてはいけないと思った。
    無残に殺されたかわいそうな女性の話ではない。

    強く誠実に人生を生き抜いたひとりの女性の姿と
    その女性がどうして強くあれたか、をつまびらかにしてくれている。

    その女性は決して特別な人ではなく、
    ごく普通に壁にぶち当たり、
    それを乗り越え、日々を過ごしてきた
    私と変わらない人だったことに驚きを隠せない。

    また、その最後の瞬間まで
    彼女のように私は強くあれるか。

    いや、強くありたいと勇気をもらえた。


    事件の生々しさ、犯人や被害者が守られない
    理不尽さに憤りを覚えた。

    裁判の意味のわからない前例、
    被害者を苦しめる環境の中、
    強く戦う母と恋人、
    それに賛同して活動する周りの方々に
    私もそんな風に強く強く生きたいと思った。


    当たり前の明日が約束されてると
    なぜ私たちは考えているのだろうか。

    考えさせられる良書。

  • 「2960」これに全てが集約されていると思います。
    心よりご冥福を申し上げます。磯谷利恵さんのみに。
    犯人は地獄の底で壮絶な苦しみに永遠に踠き続けることを願います。

  • 恋人の方は現在立派に数学者になられて、大学のサイトに写真もあるんですが、持ってらっしゃる扇が最期にお棺に入れたやつと同じで涙が出た。今はご家庭を持ってらっしゃるってことで幸せを願うばかりなんですが、今も変わらず忘れないでいるってことなんでしょうね。

  • 単行本刊行時から気になっていて、ノンフの文庫化はハードルが高かな、とか思ってたんだけど、まずは無事文庫になって良かった。はらわた煮えくり返る胸糞悪い内容だけど、より汎用性の高い形で読み継がれるのは歓迎すべき。
    注意していれば避けられたというようなものじゃなく、災害とでも呼ぶしかない凶事には、心底慄然とさせられる。愚者が群れることによって無駄に膨張した負のエネルギーが、何の罪もない平和を踏みにじる惨状は、戦時における無辜の市民にも重なる。極刑然り。そして最後のメッセージが"2960"。本当はその何倍も、感謝の意を遺したかったであろう無念を思うと、我がことのように胸が痛む。
    謹んでご冥福をお祈り申し上げます。

  • 大崎善生のノンフィクション?
    と思って、手に取った。

    名古屋闇サイト殺人事件の被害者である、磯谷利恵さんの人生が、この中では記されている。
    名を遺すという意味で、不思議な感触を持つ一冊だった。
    あとがきでは「書かれたくないであろう人の人生を書いてしまったことに、ひきつるような後悔の念がなくはない。しかしそれでもやはり、磯谷利恵さんの人生は書き残しておくべき意義のあるものだという強い思いは変わらない」と述べている。

    大崎善生はなぜ、この事件を取り上げたんだろう。
    「囲碁」という言葉が契機となったのだと。
    そうでなければ、さまざまの残酷な事件と同列に整理されていたかもしれない、ともあった。

    そうなのだ。
    私が感じた不思議な感触は、どうして、この事件を作品として遺したのだろう、ということだった。
    そして、言い方は上手くないかもしれないけれど、大崎善生にとっては「自分だけの物語」になったのかな、と思う。
    彼女にどんどんと近付いて、同化していく。
    どんどんと生きていき、もう一度終わりを迎える。

    ここまでレビューしておいて、まとめの言葉を見つけ出せない。

    物語とは違って、結末には何の余白もないから。
    ただ、事実があって、亡くなってしまった人と、生きている人がいる今を過ごしている。

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著者プロフィール

1957年、札幌市生まれ。大学卒業後、日本将棋連盟に入り、「将棋世界」編集長などを務める。2000年、『聖の青春』で新潮学芸賞、翌年、『将棋の子』で講談社ノンフィクション賞を受賞。さらには、初めての小説作品となる『パイロットフィッシュ』で吉川英治文学新人賞を受賞。

「2019年 『いつかの夏 名古屋闇サイト殺人事件』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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