営繕かるかや怪異譚 (角川文庫)

著者 :
  • KADOKAWA
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本棚登録 : 2929
感想 : 271
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  • Amazon.co.jp ・本 (288ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784041060476

作品紹介・あらすじ

叔母から受け継いだ町屋に一人暮らす祥子。まったく使わない奥座敷の襖が、何度閉めても、開いている。
(「奥庭より」)
古色蒼然とした武家屋敷。同居する母親は言った。「屋根裏に誰かいるのよ」(「屋根裏に」)
ある雨の日、鈴の音とともに袋小路に佇んでいたのは、黒い和服の女。 あれも、いないひと?(「雨の鈴」)
田舎町の古い家に引っ越した真菜香は、見知らぬ老人が家の中のそこここにいるのを見掛けるようになった。
(「異形のひと」)
ほか、「潮満ちの井戸」「檻の外」。人気絶頂の著者が、最も思い入れあるテーマに存分に腕をふるった、極上のエンターテインメント小説。
宮部みゆき氏、道尾秀介氏、中村義洋氏絶賛の、涙と恐怖と感動の、極上のエンタ-テインメント。

感想・レビュー・書評

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  • この家には障りがあるー
    古い家にまつわる怪異を、営繕屋の尾端(おばな)が修繕して折り合いをつけていくお話。
    6話の短編集。

    やわらかめのホラー。
    読んでて怖さはないけど、自分がその立場だったらと思うとめっちゃ怖い〜。
    営繕って言葉を初めて知った。
    建物の修繕をするって意味らしい。
    その営繕屋の尾端はあくまで修繕屋で除霊をするわけではないのだけど、うまく事をおさめていく。

    古い家は歴史もあるし、それだけ色んな思いが残ってたりするのかも知れない。
    どの話もちょっと悲しくて、そしてあたたかみのある読後感だった。
    印象に残ったのは「雨の鈴」「檻の外」。

    ただひとつ言うなら、怖がりの私ならすぐ引っ越すけどな笑

  • 小さな城下町の古い家々に起こる怪異を描いた短編集。

    叔母の住んでいた町屋を相続し、暮らし始めた主人公。何度閉めても離れの襖が少しだけ空いてしまう。叔母も恐怖で衰弱し亡くなったのだった(「奥庭より」)。
    認知症が始まった母が、天井裏に誰かがいる、と言い出した。思い切って天井を取り払うリフォームを行う主人公だが、母はいまだに天井裏に何かを見ている(「屋根裏に」)。

    主人公たちは、相続や介護などをきっかけにこれまでの現代的な生活から一転、古家で暮らすことになった者たちで、理屈では説明できない「何か」の存在が理解できず、恐怖におびえ、排除しようとする。
    そこに現れるのが「営繕かるかや」の大工、尾端である。彼はお祓いで「何か」を取り除いてくれるわけではない。建物の「営繕」という、極めて現実的な方法で主人公たちの恐怖を和らげるのである。
    彼の方法は「排除」ではなく、「共存」である。恐怖のあまり離れの壁を塗りこめてしまい、離れの裏に出ていくことができなくなった「何か」のために、壁に開口部を設け、手水鉢にきれいな水を絶やさないようにする。天井裏の「何か」が気にならないよう、2重天井の間に吸音材を入れる。

    人が住めばどうしたって疵が付く、古い家に折り重なる疵こそが時を刻むということなんだ、という尾端。確かに、古い家は人間の一生の何倍もの長きにわたって存在しているのであって、私たちの方が一時の空間を借りているだけなのかもしれない。そうすると、自分より前から存在していた「何か」をやみくもに排除しようとすることがそもそも間違いだということなのか。

    とはいっても、雨の日、鈴の音とともに黒い和服の女が袋小路に現れ、訪れた家の者が必ず死ぬ(「雨の鈴」)、となると、共存などとはいっていられない。この場合の尾端の対処は「回避」である。妖が入ってくるので袋小路の正面には入り口を設けない、という暗黙のルールは、いつのまにか車庫を設けたり、建て替えたりする際に忘れ去られた。古い家にまつわる言い伝えはおろそかにしてはいけない。

    得体のしれない恐怖と、それに対する現実的な対処法の妙なギャップがくせになる小説である。

  • '24年1月18日、Amazon audibleで、聴き終えました。久しぶりの、小野不由美さんの作品。

    怖いけど、なんだかホッコリ終わる話が並んだ短編集で、とても面白かったです。
    「雨の鈴」が、特にお気に入り。不気味だし、怖かったけど…なんだか可笑しくもあり。

    第二集も、聴いてみます!

  • 正しい「日本の幽霊話」
    まさに「怪異譚」

    ただ、この作品の怪異を解決する主人公は「営繕さん」なので、直したり、これ以上傷まないように手当てしたりするのが仕事。つまり、退治したりはせず、「その存在」が家にいることを受け入れて折り合って生活する工夫で解決する……というスタイル。
    ホッコリ系になりそうなのに、いや確かに収録されているどの短編もたいていがホッコリとした気持ちにはなるのですが、読んでる間のほとんどの時間は、しっかりと怖いです。わりとちゃんと怖いです。雨の日の夕方にでも読んだら、さぞかし雰囲気あるだろうなと思います。「ホッコリ解決だろうな」と思っていても、かなり怖いです。
    何度閉めても襖が勝手に開いていたり、鈴の音が雨の日のたびにだんだんと我が家に近付いてきたり、押入れにお爺さんがうずくまってこちらを見ていたり、車の運転席に後ろから白い手が掛けられたり、します。

    本作品は連作短編で、物語を語る「視点人物」は毎回違います。主役の「営繕さん」は、それぞれの短編の中でチラリと出てきて、「障り」を鮮やかに解決していく。主役の他にも、チラチラと登場するレギュラーメンバーが数人いるのですが、個性はちゃんと紹介されているのに多くは語られていなくて、彼らの日常をもっと知りたくなります。想像の余白がある作品というか。

    家の修理をする営繕さんが主役なので、どの短編も、「家」にまつわる話です。
    古い家を、実家だったり血縁だったりたまたま借り受けたりして「家を継いだ」人たちが、古いがゆえに発生する色々な「障り」と折り合っていくという姿に、考えさせられることが多くありました。
    継ぐということは、良いことも悪いことも、諸々を受容して、折り合って、直し直し生活していくことなのかな、みたいなことを。
    実は私も「実家の空家問題」を抱えているところで、その家に住むのか、片付けはどうするんだ、修理は必要なのか、などと、本書に出てくる人たちにどこか共感する部分が多くて、そんな意味でも刺さる作品でした。

    ところで、本書所収の「異形のひと」の終盤に出てくる「大きな木箱」が何なのか、説明が無いままでめちゃくちゃ気になっております。「分からない」「想像だけが膨らむ」って、怖いですね。でも、そういうものを懐に入れたまま、「家」というのは続いていく……ということなんだと思います。

    最後に一つ。
    登場する「家」として、「ウナギの寝床的な町屋」がいくつか出てきます。
    京都住まいのかたや時代劇を観るかたはお馴染みかもしれませんが、ちょっと特徴的で、知らないとイメージしづらいものだと思うので、画像検索などで見てみることをオススメします。分からなくても作品は楽しめますが、より深く味わいたい場合には。
    特に最初のお話「奥庭より」は、私には間取りを脳内に再現しきれなかったので、「かるかや 奥庭より 間取り」で検索したところ、再現間取りをTwitterに載せてくださってるかたがいて、とても助かりました。(しかも作中には言及の無い時代別の改築考証もされていて、とても興味深く拝見しました)
    読みながらの画像参照をオススメします。

  • 営繕屋さんは霊感はないのに家で起こる怪奇現象を解決してしまう。何で?と思います。でも、最後はみんな笑顔になるからすごい人です。

  • 登場人物達の日々の鬱屈の隙に、ふとした転機に、時にはこちらにとっては全く理不尽に、日本家屋の仄暗い湿り気に潜む怪異が、忍び込む。
    それを営繕屋がちょっとした家屋の修理でさりげなく解決するのがすごく日本的で、まさに小野不由美さんのお家芸という感じ。
    流石の恐怖、そして面白さだった(怪異が解決されるタイプの小説の中で、1番怖いのでは!?)。
    特に「雨の鈴」の喪服の女と、「異形の人」の老人、不気味すぎる。

  • 自分では絶対に選ばない本。だって、怖がりだもの。

    でも、借りたから読んでみた。
    怖いから、昼間、一人じゃない時に(笑)

    6つの短編、いずれも主人公はこの世のものではないものが見えてしまう。どの話にも共通しているのが、見えてしまう主人公はみな、「古い家」に引っ越してきたということ。それぞれ、親戚が所有していた家を引き継いだり、借りたり。

    そこでゾクっとすることが起こり始め、なんやかんやつてがあって、営繕かるかやの尾端が登場する。お坊さんでも霊能力者でもない尾端は、それでも怪異現象の核の部分がわかるらしく、この世のものを完全に排除するではなく、依頼人が古い家に住み続けられるよううまく取り計らってくれる。家を営繕することで。

    そんなん早よ、引っ越しなはれ。取り壊しなはれ。と言ってしまってはお話になるわけもないのはわかっているけれど、私だったらいくら営繕されてももう住めない~なんて思ってしまう。ま、これは本当にしょうもない感想。

    一番怖かったのは「雨の鈴」。だって、自分の命が、雨の日に現れるその人にかかってるんだもん。怖かった。想像力のない私でもその絵が目に浮かぶようで、いつかまたふとした時に思い出しそう。

    「異形のひと」と「檻の外」は本当のところがわかると、胸が痛かった。この世のものでないものを無下に怖がってはいけないと、変な正義感を持ってしまった。

    自分では絶対選ばない本というのも面白いものだな~。

  • 怖すぎない怖い話 短編集。
    かつて城下町だった、古い町が舞台。

    家や身の回りで起こる、人ならざる者による出来事を、「営繕 かるかや」の尾端が解決に導く。

    ‥‥

    城下町の古い家が舞台ってこともあって、静かで和な雰囲気の怖すぎない話が独特でよかった。
    雨の日の夜に読みたくなる感じ。
    続きもあるので読んでみたい。

    2024年2月25日

  • 『残穢』を読んでからこちらを読むと、あっさりした印象がありました。とはいえ住居にまつわる怪異を解決する話。生活がかかわってくるので、怪異に悩まされるのは…。キャラクターが特徴的なので、ちょっとしたドラマにもできそう。漫画化もされてるようなので、またイメージが変わりそうですね。

  • 城下町の古い日本家屋に纏わる怪異を
    営繕屋が祓わず修繕し解決する。
    怪奇現象は恐ろしいが、解決方法は、
    現実的で時短。霊に優しい。

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著者プロフィール

大分県出身。講談社X文庫ティーンズハートでデビュー。代表作に『悪霊シリーズ』 『十二国記シリーズ』『東亰異問』『屍鬼』など。重厚な世界観、繊細な人物描写、 怒濤の展開のホラー・ミステリー作品で、幅広いファンを持つ。

「2013年 『悪夢の棲む家 ゴーストハント(1)特装版』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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