- Amazon.co.jp ・本 (256ページ)
- / ISBN・EAN: 9784041053829
作品紹介・あらすじ
豪放でワンマンな父親のもとで育った貴美也は大学を休学中のニート。親に反発しながらも庇護下から抜け出せずにいる。そんな彼を父親は、北海道での狩猟に連れ出した。地元ガイドの話を無視し、大物の雄鹿を仕留めるために、父子はカルデラ地帯の奥深く分け入っていく。そこに突然熊が襲ってきた。なすすべなく腹を裂かれて死ぬ父親。ひとり取り残された貴美也。後ろから気持ちの悪い唸り声が追ってきた。情けなく涙と涎を垂らし、悪態をつきながら、貴美也は逃げる。ただ、死なないために。
自分の傲岸なまでに強靭なエゴに支配される人間。人間に従属する歴史を繰り返した犬。人間の営みにより生活をおびやかされた熊。残酷だが美しい、それぞれの生――そして青年は覚醒する。
感想・レビュー・書評
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北海道の奥深い森で繰り広げられる壮絶なサバイバル、熊との臨場感ある戦い、圧巻でした。
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以前読んだ『颶風の王』にあった言葉「動物は自らを殺さない。生きることに執着する」を、今回更に突き付けられた。
キミヤは父親に反発しながらも庇護のもと無気力な日々を送っていた。
しかし一転、北海道でヒグマに襲われ変わった。「抗う。戦う。そのために生きる」と。
ヒグマに向かっていくキミヤの姿は、自らを殺さない、生きることに執着する動物そのものだ。
野犬たちがペットだった時の記憶や、ヒグマの過去が描かれ、絶滅したオオカミや増えすぎたシカの問題に言及することで、人間の傲慢さを突き付けられる。
『颶風の王』では、人は自然を「およばぬ」ものとして畏怖しながら対峙していたが、『肉弾』では、文明の力を持って人間中心主義に傾いている。
だからこそ、キミヤが素手でクマと対等な立場で戦う姿に、頭ではありえないと思いながら、心の奥深くを抉られるのだろう。 -
【あらすじ】
豪放でワンマンな父親のもとで育った貴美也は大学を休学中のニート。親に反発しながらも庇護下から抜け出せずにいる。そんな彼を父親は、北海道での狩猟に連れ出した。地元ガイドの話を無視し、大物の雄鹿を仕留めるために、父子はカルデラ地帯の奥深く分け入っていく。そこに突然熊が襲ってきた。なすすべなく腹を裂かれて死ぬ父親。ひとり取り残された貴美也。後ろから気持ちの悪い唸り声が追ってきた。情けなく涙と涎を垂らし、悪態をつきながら、貴美也は逃げる。ただ、死なないために。自分の傲岸なまでに強靭なエゴに支配される人間。人間に従属する歴史を繰り返した犬。人間の営みにより生活をおびやかされた熊。残酷だが美しい、それぞれの生――そして青年は覚醒する。
とても血生臭い物語でした。物語の感想として「血生臭い」という形容詞が出てくること自体おかしいかもしれませんが、それ以外思い浮かびませんでした。
血生臭く、残酷な描写が多いですが、不思議と嫌悪感はなく読めました。きっと、喰う喰われるのやりとりが自然界では当たり前で、そこに人間が踏み込めば、怖いだの気持ち悪いだの言っていられるわけがないとストレートに伝わってきたからだと思います。主人公と同様、読んでいる私自身も動物の本能と興奮で毛が逆立ち血が沸騰する、そんな気分で読めました。今まで感じたことのない新しい読書感覚です。 -
挫折を味わい、成功体験を重ねることができず、無気力にひきこもるようになった主人公は、強引な父親のいうに任せて猟銃の免許を取り、北海道へ狩猟に訪れます。
主体的な目的があったわけでもなく、狩りによって達成感を得たいという希望があるわけでもなく、惰性で銃を構えていた主人公ですが、父親が熊を撃ちたいと立ち入り禁止区域へと足を踏み入れたことで状況が一変します。
熊や野犬といった野生と直面し、自分の命が本のちっぽけな存在であることに気づかされるとともに、恐怖のあまり自殺を考える一方で、「生きる」ということをあきらめきれない自分の心からの叫びにも気づきます。
主人公に襲い掛かる野犬たちも、山の暴君として君臨している熊も、ただ「生きる」ことに正直で、貪欲なだけですし、その描き方は鮮烈でした。
熊との戦いの場面が『銀牙 -流れ星 銀-』を彷彿とさせるますが、主人公が徒手空拳で熊(ヒグマ)や犬に立ち向かうというのは(物語の性格上ある程度はやむを得ないのかもしれませんが)すこしファンタジーが過ぎるようにも感じました。主人公だけでなく、動物たちの心情描写もリアリティを感じさせるものであっただけに、少し残念に思います。 -
内容については、荒唐無稽なところや、現実感の薄い点が幾つかあったりして、「颶風の王」と比べると、作品としての完成度は劣るかもしれない。
しかし、個人的には、こちらの方が好きだ。
問題のある父親と、人生を投げやり気味に生きている、その息子の「キミヤ」から始まる物語は、最初、いまいちなようにも思われたが、最後には、人間も本能的な野生を持つことに、喜びを見出だせる動物なのだということを感じられ、それが、どんなに苦しい状況にあっても、絶対に生きてやるぞと宣言出来るような、そんな激励を受けたような気がして、私自身、生きる喜びが湧いてきた。
そして、その気付きは、人間と他の動物の違いのひとつである、「自殺をすること」を考えさせる、きっかけになるかもしれない。
また、人間の都合で被害を被る動物たちへの問題提起を促したメッセージも心に残り、動物に対する愛情を感じられたのは、やはり、この作家ならではだなと思えました。 -
トンデモ本に近い展開でありながらぐつぐつと煮えたぎる気持ちで読みました。
ミステリーでは全くないのだけれども、ネタバレすると読む価値半減する本です。
ある意味少年漫画の有りえなさ(彼岸島みたいなやつ)を念頭に置きながら読んで頂きたいと思います。
合わない人には徹底的に合わなそうだし、突っ込みどころ満載ではありますが、個人的にはこの紙を破きながら書いているような筆圧のようなものを評価したいです。
昔々の名作犬漫画「流れ星銀河」が下敷きにありそうな気がしますが、なんにしろ犬好きには辛い本でありつつ、本好きにお勧めしたい本でもあるという不思議な本です。
相当好きなので☆5いっちゃおうかなと思ったのですが、冷静な方の自分は☆4だろうとささやきました。誰もが好きじゃないけど自分は大好きって本は依怙贔屓したくなります。
ちなみに、犬を捨てた奴らに天罰を。雷に打たれて死ね。 -
きょーれつなお話でした。
綺麗ごとではない生きるということが描かれていました。
平和ボケした日本人に読んでほしいと思います。
ただ、引きこもりのニートは熊どころか犬にも勝てないと思いました。 -
読みやすい文体で大変ビジュアル的、ただし、私的には出てくる登場人間が全て不快で読了感最悪だった。シェイムトロフィーを社長室に飾る勘違い父と引きこもりニートの息子が北海道旅行でエゾジカ狩に訪れ、違法な場所にヒグマを違法に狩りに入り、逆に父のほうがヒグマに殺される。その復讐的なことをする息子、という大筋。そして、平行して捨てられた野犬たちの群れの話が書かれるが、エピソードが不愉快な話ばかりで、さらに醜悪なエンディングで読了感が凄まじく悪かった。ヒグマが死に場所を求めていたのでいいことした的な?許せない。お前も食われろ!と架空の人物を呪いたくなった。何年も前に陸上競技をしていて、さらにアクション系のゲームで戦っていたからとか、設定があまりにもありえなさすぎて冷える。高橋よしひろの『銀牙 -流れ星 銀-』にはじまる銀牙伝説シリーズの真似っこ生ぬるごっこバージョン。確かに知られてから久しい割にどうにもなってない環境破壊や生態系の悪介入問題の提議的な部分も多々あるので、そういう意味ではそれなりに意義はあるかと思う。なんとも自分が同じ人間であることすら恥じたくなるような気分になる作品だった。