夏の災厄 (角川文庫)

著者 :
  • KADOKAWA/角川書店
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感想 : 52
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  • Amazon.co.jp ・本 (597ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784041028124

作品紹介・あらすじ

郊外の町にある日ミクロの災いは舞い降りた。熱にうなされ痙攣を起こしながら倒れていく人々。後手にまわる行政の対応。パンデミックが蔓延する現代社会に早くから警鐘を鳴らしていた戦慄のパニックミステリ

感想・レビュー・書評

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  • 埼玉県郊外の町で、謎の症状により亡くなる人が続出する。撲滅されたはずの伝染病、日本脳炎が再びまん延し始めたらしい。市保健センターの職員、小西と看護師の房代らは、現場の対応に追われながらも、伝染病の発生原因を突き止めようと奔走する。果たして、このパンデミックは無事に終わるのか。

    コロナが流行しだした頃に新聞の書評で紹介されていて、気になっていた本。
    本書が刊行されたのは1995年、30年近く前である。にもかかわらず、致死率の違い(日本脳炎は致死率35パーセント)や局地的な発生であることを除けば、コロナ禍の状況で書かれた本といっても信じてしまうくらい、描かれているパンデミックが現代と酷似していることに驚く。著者の先見性をたたえるべきか、人間の変わらなさに嘆息すべきか。

    ワクチン接種への拒否感、医療機関の隠蔽、東京が無事なら問題ないとする中央官庁。
    感染地域への売り渋りや差別、感染をきっかけに浮き彫りになった地域間格差など、新聞やニュースで目にする内容がこれでもかとつめ込まれている。1990年代はまだSNSが発達していないが、現代が舞台であったなら、SNSによる情報の拡散やデマの流布など、さらに複雑な問題が描かれていただろう。

    しかし本書は、基本的には行政マンが汗水たらして働く様子を描くお仕事小説である。
    主要人物である小西は、県庁勤務を希望するもかなわず出向先で腐っている保健センターの若手職員。看護師の房代は、夫の定年退職後に第二の人生を求めて復職したパート職員である。その他、女性のヒモとしてのらりくらりと生きているパート事務員の青柳や、出先機関に25年居座っている万年係長の永井、主張が強めで暴走しがちな医師の鵜川など、危機的状況を救ってくれる『シン・ゴジラ』の長谷川博己のようなヒーローは誰一人登場しない。
    そんなきわめて人間的な彼らが、自分の職務の中でできる限りのことを行い、現状を打破しようとあがくさまが本書の肝だといえる。

    感染の発生原因を探るミステリ要素もあるため、難しいことを考えなくとも楽しめるし、読み終えた後は、日々の業務を遂行する医療従事者や行政職員を応援したくなる一冊である。

  • 文庫で読む 医療小説
    「夏の災厄」篠田節子著|日刊ゲンダイDIGITAL
    https://www.nikkan-gendai.com/articles/view/book/293567

  • 「未知の疾病に関するバイオミステリー、職業人の矜持を描いたビジネス小説、医療現場の矛盾と医療行政の蒙昧さを指摘した医療小説、高度に発達した文明の陥穽を描出した社会派小説、地域社会が災厄に見舞われた際の群像劇としてのパニック小説」(解説より)。1995年の作品。

    埼玉県昭川市(架空の町)で突如、あり得ない程高い致死率の新型日本脳炎ウイルス感染が拡大する。硬直的で緩慢、後手後手にまわる行政の対応、人命より立場や都合を優先させる組織の論理、保健所や医療現場の混乱と疲弊、地域住民のエゴや差別…。まるで今起こっているパンデミックの状況を予言しているかのような内容だ。

    本作の中で、正義感に溢れる反体制派医師、鵜川の荒唐無稽な推理(アメリカ陸軍の生物兵器開発に協力した日本の大学から新しいウイルスが流出した)は余計だったな。推理の内容が陳腐すぎて…。とは言え、新型コロナウイルスが、怪しげなウイルスの研究をしている中国武漢の研究施設から流出したものではないか、との噂があることを考えると、鵜川医師の推理も現実と符合するのかも。そう考えると、ちょっと恐ろしい小説だ。

  • 現在コロナウイルスが世に蔓延しているが、
    小説の世界ではパンデミックはそう珍しいことじゃないのだ。
    あっちでもこっちでも起きている。

    『夏の災厄』の中では今現在ではほとんど見られなくなった日本脳炎が広がる。
    小説の中でも医療従事者たちは初期の頃から警鐘を鳴らし、役所はどうにか打つ手はないかと走り回っている。
    国はのギリギリまでらりくらり。

    25年前に書かれた本だが、あれ、何だか今と対応が何も変わっていない気がするぞ。
    感染対策とはそもそもこう言うモノなのか。
    それとも大元が全く成長していないのか。
    果たしてどっち。

    オカモノアラガイが気持ち悪すぎる!

  • ある地方都市で日本脳炎と思われる感染者が発生した。
    その原因となったものは何なのか?

    今年のコロナ渦で話題になったのと、前から読もうと思っていたが、電子版しか入手困難だったのが文庫版が再販されたので、購入。

    期待していた程、ショッキングな内容ではなかった。
    それにしても、一部地域での自殺者の増加については、ウイルスとの因果関係が全く書かれていないため、違和感が残るのが残念。

  • なぜ舞台となった昭川市で新型日本脳炎が蔓延したのか? なぜそれがインドネシアのブンギ島と繋がるのか?
    謎は解けた。でも話が淡々と進み過ぎ?
    物語としては、クライマックスを感じることなく終わってしまった。

  • 局地的に流行する謎の病とそこでそれぞれの役割を全うするきっとどこにでもいるだろう人たち。
    スーパーヒーローみたいな人は一人もいないのが逆にいい。
    この時期に読むからこそ、病に対する人々のパニックやそれによってうまれる弊害がものすごす身近にリアルに感じられた

  • 新型日本脳炎ウィルスによるパンデミックを描いた25年前の作品です。今現在の新型コロナのパンデミックを短期間に凝縮して描いた様な予言書的な話で、随分昔のフィクションでありながら、今現在の状況と、この先の経過を描いている様で複雑な気持ちになりました。
    やはり人類を滅ぼすのは目に見えないウィルスなのでしょうか?!
    コロナ終息を祈るしかないです。

  • ★★★
    今月2冊目。
    これはまさにいまんとこコロナと戦っているが、この本は98年に書かれた物で現代と似ている。
    ネタバレだが、ウイルスを研究していた病院から悪徳産廃業者に注射器などが渡り、山の中に産廃から貝にウイルスが取り込まれ、貝を鳥が食べ、鳥の血液を蚊が吸う、その蚊が人間に刺し日本脳炎が発祥。ちょーこええっす、長いけどよくできてました

  • 看護師である房代が勤めるの夜間診療所に、

    光をまぶしく感じ、花のにおいを感じ、熱に浮かされ、

    痙攣を起こしながら倒れる。。。という患者がやってきた。

    その時は、日本脳炎と診断されたのだが、

    徐々に、同じ症状の患者が増え、死者も増え始める。



    撲滅されたはずの伝染病が、なぜ今頃蔓延するのか?

    疑問を持った房代たちは調査を始め、恐ろしい事実に突き当たる。


    一体、原因は何なのか、なかなか解決しない物語に、

    もどかしさを感じつつも、夢中させてくれる物語でした。



    蚊により、伝染していくというのが、なんだか、現実にありそうで、

    この本を読んでいる数日間は、蚊に神経をとがらせてしまいました。

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著者プロフィール

篠田節子 (しのだ・せつこ)
1955年東京都生まれ。90年『絹の変容』で小説すばる新人賞を受賞しデビュー。97年『ゴサインタン‐神の座‐』で山本周五郎賞、『女たちのジハード』で直木賞、2009年『仮想儀礼』で柴田錬三郎賞、11年『スターバト・マーテル』で芸術選奨文部科学大臣賞、15年『インドクリスタル』で中央公論文芸賞、19年『鏡の背面』で吉川英治文学賞を受賞。ほかの著書に『夏の災厄』『弥勒』『田舎のポルシェ』『失われた岬』、エッセイ『介護のうしろから「がん」が来た!』など多数。20年紫綬褒章受章。

「2022年 『セカンドチャンス』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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