蚊がいる (角川文庫)

著者 :
  • KADOKAWA
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本棚登録 : 818
感想 : 62
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  • Amazon.co.jp ・本 (272ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784041026250

作品紹介・あらすじ

人気歌人にして、エッセイの名手・穂村弘の、もっともセンシティブな部分を収録したエッセイ集。自称“ふわふわ人間”穂村弘のあたふたっぷりに共感しつつ、その鋭い自分観察と分析は、まさに“永久保存用”の納得感。

感想・レビュー・書評

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  • ゆるゆるしてくすっと笑える話の中にたまに本質を突いているような気がして、ちょっとドキッとする。

  • 君は変わらないな、ホムラ君。
    『世界音痴』を知ったいま、渚カヲルのような気持になりながら読みおおせた。
    結婚しても歳月を経ても相変わらずそのまんま穂村弘で安心した。面白かった。

    印象に残った話を挙げるなら、番組出演時にエンディングで凝固したシーンかしら。
    テレビカメラに向かって手を振ることを体のどこかが潔しとせず、妙案に思念を巡らせた挙げ句に固まる。咄嗟に迫られて「特別」な何かをしようと頑張ってしまい、見事に敗れる姿は滑稽だけれど、思い当たる節があるぶん、胸に羞恥がちくりとくる。そうなのである、慌てて結末に「特別」を詰め込むなんて浅はかだし、「特別」が無条件に良いわけじゃなし、結末のバイバイに勝敗などない。こういう自己批判が、「特別」衝動が湧くのと同時に頭を去来するから、畢竟生きづらい。それでも穂村があまり苦悩する気色を見せないのはなぜだろう。「あれこれ考えちゃうよね」を受け容れているということだろうか。興味深い。

  • 穂村さんの文章はじんわり面白い。
    結構共感できて、読んでいて心地がいい。
    穂村さんの常識やらマナーやらに共感できるけど、
    読んでいるとなんだか消極的な感じで…
    穂村さんと私の価値観が正しいと思っていたが、
    あれ?もしかしたら少数派なのか?
    あれあれ?不安になってきたぞ。

  • 世の中には、こんな人もいるのだな。面白い人だ。
    強気なのか弱気なのかさっぱりわからない。その「分からなさ」「つかめなさ」がこの人の人格を形成していることはよく分かる。面白かった。

    路上に痰を吐く男はいるが、女はいない。人に見られているという意識が違う。というのは、勉強になった。

  • 穂村さんが好きです。
    このゆるい感じというか、しっかりしていない感じが愛おしい。
    かっこつけていない、しっかりしていない感じが人間だなぁと思います。
    彼女と歩いていて、すれ違いざまに「ブース!」と言われたらどうするの正解か、とかデートでサンドイッチを食べるときにハエがとまったらどうするのが正解かとか、普段あまり考えないことを、私だったらどうするかなぁ?と考えてしまいました。
    そういうことを考えさせてくれるからエッセイを読むのはおもしろいです。

  • すごい着眼点だなぁと思うけど自分も思い当たる節があって、頷いちゃう。みんな素通りすることを穂村さんは一つ一つ捉えている。ただの日常を追求している。
    あと、私にとって穂村さんは「ベッドで菓子パンを食べる人」です。がんばれ、ほむほむ。

  • 完全に装丁買いですが、穂村弘なので中身までしっかり保証された、装丁買いって感じ。

  • 何気ない日常での他人との違いやその時感じた焦りや恥ずかしさなどの感情を事細かに言語化できていてすごいと思った。

    個人的にお店でマスターに気軽に話しかけるのは私も性格的に無理だからすごく共感。常連客の演技とまでは思わないが…。
    でもそこで終わらずにその人はそのように振る舞う人なんだと周りに示すことができている、内気な自分も周りに自分はこういう人間だと伝えていこうと文章で発信していくのがすごい。
    私も見習いたいと思った。
    穂村さんはベッドで菓子パンを食べるけど、私は何を書けば伝わるかな…?と考えてしまった。

  • すっごく共感できた。私もふわふわ人間だなぁ〜。
    確信が持てない、正解がわからない。ズレている自覚はある。だからこそ、なんで?ということをたくさん考える。考えたことがズレなく、確実に、表現されているところが、すごい。他のエッセイも読んでみたい。

  • 穂村弘(1962年~)氏は、札幌市生まれ、上智大学文学部卒、1986年に連作「シンジケート」で角川短歌賞次席(同年の受賞作は俵万智の『サラダ記念日』)、1990年代には加藤治郎、荻原裕幸とともに「ニューウェーブ短歌」運動を推進した、現代短歌を代表する歌人の一人。エッセイも多数執筆しており、『鳥肌が』で講談社エッセイ賞(2017年)を受賞している。。
    本書は、2013年に単行本が出版され、2017年に文庫化された。
    私は、短歌に興味を持ったことをきっかけに、先日著者の『はじめての短歌』を読んだところ、その中で著者は、人生には「生きのびる」と「生きる」という二つの側面があり、短歌とは「生きる」ことを表現したものである、と語っており、その軽妙な語り口にも惹かれて、本書を手に取ったのだが、期待に違わぬ、実に面白いエッセイ集だった。
    何が面白いのか? 著者は自らを“ふわふわ人間”と称し、本書の中で、現実世界の合理に則した行動を取れない自分の姿を描き、できないことの多さをため息と共に列挙しているのだが、そのひとつひとつが、私自身の奥底に仕舞い込まれた「現実に対するそこはかとない疑問」を刺激し、強い共感を覚えるのだ。程度に差はあれ、多くの人が同じような感覚を抱くのではないだろうか。
    それについて、陣崎草子(絵本・児童文学作家、歌人)は解説で次のように分析している。「本当は穂村さんは、「すべきことを当たり前にできる」ことを前提として合理的に回る社会や、「今、ここ」にコミットすることで幸福に耽り、現実の破れ目を忘れようとする意識の在り方など、私たちの世界を覆う「無意識の合意」みたいなものの不具合を、とてつもない真剣さで見破ろうとしているのではないか。自分の「できなさ」を道具として世界を解析しつづけることで、「神が創りたもうたこの世界」のほころびを、舌を巻く細やかさで指摘し、摂理のおかしさを暴こうとしている。それは自己の生について「どうせ死ぬ」と腹を括って「今、ここ」にコミットし、神の摂理に合一することで幸福を得て、永遠を感じようという「満ち足りた私」型の方法論とは、真逆の生き方になってくる。だから穂村さんは、「今、ここ」に生きるという在り方と、自身の在り方との「ずれ」に苦しみ、情けなくなる。しかし、そのねじくれた「ずれ」こそが、卓抜にユーモアとエッジの効いた散文を生む原動力にもなっている。「足りてない」ことへの怒りが燃えあがることで、かえってどうしようもないおかしみが生まれてしまうのだ。」 納得である。
    また、巻末には又吉直樹との20頁ほどの特別対談も収録されているが、こちらも面白い。
    穂村さんのユニークかつ鋭い感性をして描き得る、出色のエッセイ集と思う。
    (2021年2月了)

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著者プロフィール

穂村 弘(ほむら・ひろし):1962年北海道生まれ。歌人。1990年に歌集『シンジケート』でデビュー。短歌にとどまることなく、エッセイや評論、絵本、翻訳など広く活躍中。著書に『手紙魔まみ、夏の引越し(ウサギ連れ)』、『ラインマーカーズ』、『世界音痴』『もうおうちへかえりましょう』『絶叫委員会』『にょっ記』『野良猫を尊敬した日』『短歌のガチャポン』など多数。2008年、短歌評論集『短歌の友人』で伊藤整文学賞、2017年、エッセイ集『鳥肌が』で講談社エッセイ賞、2018年、歌集『水中翼船炎上中』で若山牧水賞を受賞。

「2023年 『彗星交叉点』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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