報復 (角川文庫)

  • KADOKAWA/角川書店
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  • Amazon.co.jp ・本 (623ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784041019610

作品紹介・あらすじ

元デルタフォース隊員のデイヴは、無差別テ ロで最愛の妻と息子を失った。絶望のどん底にある彼は、テロの後処理をめぐり、ある奇妙な事実に気づく。そして自らの手で敵に 鉄槌を下すため、闘うことを決意するが。

感想・レビュー・書評

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  • いやもうすさまじい。「ストリートキッズ」のリリカルな世界から遠く離れて、これは「犬の力」をしのぐ血と暴力にまみれた物語だ。

    元デルタフォース隊員の主人公デイブは、飛行機事故で妻子を失う。それはイスラム過激派によるテロだったのだが、政府により隠蔽され「事故」とされる。そのことを知ったデイブは「世界最強の傭兵チーム」とともに、自らの手で報復する決意をする。

    と、こういう紹介を読んで、これって政治的な陰謀がどうとか利権がどうとか、そういう話なのか(あんまり好きじゃない)とちょっと思っていたのだけど、いやそっち方面にはまったく行かない。ほぼ全篇、デイブと仲間たちが、テロリストを追い標的を追い詰めて行く過程が、ウィンズロウの圧倒的筆力で、これでもかとばかりに真に迫って描かれる。

    いや実に「迫真」とはこういうことかと何遍も思った。冒頭、ミサイルに撃墜され墜落する飛行機内の様子なんかリアルすぎて、そうかエンジンが爆発したら乗客はこんな風に死ぬのか、ああ当分飛行機乗れないよ~と震え上がった。ミリタリー関係はとんと疎いので、微に入り細をうがって描写される武器のスペックがどれほどのものなのかほとんどわからないが、「本物」の持つパワーが放射されていてねじ伏せられてしまう。

    短くたたみかけていくような展開で、冗長さは皆無。ダイハードなデイブの内心の苦悩や、傭兵チームのメンバーそれぞれの背景なども、くどくど語られないのに、きっちり伝わってくる。やはりウィンズロウは当代きっての書き手の一人だ。

    まったくすごい。すごいのだが…、「犬の力」のように手放しで「いやあおもしろかったー」とは言えない読後感が残る。「犬の力」では、闘う相手は麻薬マフィア=絶対悪であった。ここではイスラム過激派。イスラム=敵、という図式にそう簡単に乗る気にはなれない。対イスラムという形は「わかりやすい」。エンターテインメント小説では大事なことなんだろうとは思うが、そこにどうしても引っかかりを感じてしまうのだ。

    もちろん、ウィンズロウなのだからして、そんな安っぽい単純な描き方はしていない。テロリストたちは信仰を捨てた者であり、テロ行為はなによりも私利私欲を満たすビジネスであると明示されている。傭兵チームの一人アミールはパレスチナ人のムスリムで、彼がここにいる理由も説得力を持って語られる(このアミールがデイブよりも同情を誘うかも)。アメリカ政府は、都合が悪ければ、国のために闘った兵士たちを躊躇なく泥沼に追い落とすようなことをする存在として描かれる。

    ここでは、テロの首謀者を殲滅することは、デイブ個人の復讐だ。当然ながら、復讐を成し遂げても妻子が戻るわけではない。それがわかっていてなお、死地へと駆り立てられていくデイブの姿を、作者は時に突き放したように描く。死や暴力や危険は、一面ひどく魅力的で、人を惹きつけてやまないが、それはどこにも行き着かない。アメリカ人の好きなヒーローも、今やひどく孤独なものだなあと思う。

  • 凄いよ。凄いけど…『ストリート・キッズ』『ボビーZ』『犬の力』ときてこれか!ドン・ウィンズロウ、一体どこへ向かってるんだろう…!?

  • 家族をテロリストの攻撃で失った主人公が、傭兵チームを率いて報復を果たす話。
    前半をたっぷり使って、準備フェーズを描いており、チームを雇うところから、自分も参加することを納得させるところなど、しっかり書かれていて好印象です。
    対して、後半は攻撃をテンポよく描いていて、テンポ感がとても良かったですね。
    最初の家族が亡くなるところの描写がせつなくて印象に残りました。

  • お久しぶりのウィンズロウ二冊目は、緊迫のミリタリー・サスペンス。すべてを失った男が元兵士の友人たちとともに、自らの手でテロリストに鉄槌を下すというストーリー。

    序盤は面白かったが、チームと合流してから冗長に思え、退屈に感じることもしばしば。テロの真相にひねりがあるわけでもなく、謎解きはシンプルに終了し、そこから先はとことんアクション。各国から集められた傭兵のスペシャリストたちに注目しようにも、人数が多くて把握する気が失せ早々に諦めてしまった。

    ハイテク武器とかクールなアクション・シーンが満載なので読み応えは抜群だが、私はそれを楽しめる読者ではなかったということでしょう。不完全燃焼が悔しいなー。

  • テロによって、妻子を失った男の復讐劇。

    その男が、元デルタフォース隊員というところと、一緒に戦う男たちが世界の各種特殊部隊出身の者たちというところがこの作品のみそ。

    とはいえね、細かいところの設定が、ご都合主義と言ってよいかな。もし仮にこれが映画になっていたら、ドンドンパチパチだけが目立つ、B級映画かもね。

  • 簡単に言ってしまうと、テロ行為によって最愛の妻子を殺された男の復讐劇。目には眼を。
    その報復作戦を実行するために集められたプロの傭兵たち。さながら「特攻野郎Aチーム」か「オーシャンズ11」か。そこにはユーモアの欠片もないが。
    報復は正義なのか。
    どうしても、やはりこういった、やられたらやり返すという行為には、終わりのない不毛な戦いであるとしか思えない。

  • デミルの『ナイトフォール』で描かれたTWA800便墜落を拡張したかのような幕開けから、ジョバンニの『復讐の狼』を彷彿させるそれぞれが特技を持ったエキスパートで構成されるチームの活躍など、往年の冒険小説のオモシロ要素に加え、クランシー張りの最新のテクノロジー、ポロック張りの戦闘シーンで磨きを掛けたエンタテイメントでした。まさかウィンズロウがこんなスタイルの本を読ませてくれるなんて!俺的には大満足。面白かったです!

  • 元凄腕の軍人デイブが、妻と息子をイスラム教徒のテロで殺される。事件を隠蔽しようとする政府は頼りにならない。彼は昔の仲間のつてをたどって、世界一の傭兵たちと共に復讐をはかる。
    ブランクのあるデイブが自らも戦いに行く為に過酷な訓練をやり抜く場面が印象的だが、格好よすぎ。戦いの中死んでゆく戦友への想いも、1人だけ好い人ぶってる感じがしらける。全体的に可もなく不可もなくという感じだった。

  • 「カルテル」を先に読んだけど、こちらの方が先に執筆されていたらしい。・・・なるほど。
    妻子をテロで失った男性の復讐劇、と言えば凡庸に聞こえるがそこはドン・ウィンズロウ、あまたある同様の作品レベルを遥かに超えている。
    傭兵部隊を組織しテロリストたちと戦う、という設定はアリステア・マクレーン(よりフレデリック・フォーサイス?)、ウェットな主人公の心情描写はジャック・ヒギンズを思わせる部分もある。
    しかし、歯切れよく展開される物語はまさしくウィンズロウ節炸裂。特にアクションシーン(冒頭の飛行機テロの描写の恐ろしさ!)はスローを交えたような演出が目に浮かぶようにリアルだし、何より現代の近接戦闘戦のリアルな戦い方に手に汗握る。本当によく勉強もしている!
    序盤で出てくる、”薬物とテロリズムは、21世紀の戦争というメニューの、スープとサンドウィッチだ”という文章がこの作品の執筆動機でもあるし、それがのちの大作「カルテル」に繋がってもいる。
    しかし、(一部の例外を除いて)シリーズものを敢えて避けながら毎回このレベルの作品を、しかも精力的に執筆してくれるのは本当にありがたい!
    この作品も「犬の力」&「カルテル」も視覚的な作品だから是非映画化してほしい。
    一昔前だったら、ジョン・ミリアス監督、今だったらデビッド・エア監督あたりがいいかな?

  •  ドン・ウィンズロウの作品は久しぶりだ。ブーン・ダニエルズのシリーズとベンとチョンとOのトリオのシリーズ、トレヴェニアンの『シブミ』続編『サトリ』と、あちこちのヒーロー、ヒロインを追いかけたかと思うと、どうやらそこに落ち着く様子もなく、『フランキー・マシーンの冬』以来となる単発作品の本書を、ここで『失踪』とともに同時二作発売という鮮度で、しかも母国USでは未発表のまま、ドイツに続いて日本での翻訳先行で出版という奇抜さで、この作家の奇行とも取れる創作行動は世界を驚かせている。

     そして単発ながら、どちらもこれまでにない類いの内容を伴い、ウィンズロウという作家の彷徨の途上にあるらしい彼なりの才気と力量を存分に見せてくれる点でさらに圧巻の充実ぶりが読者にとっては何とも嬉しい限りであるのだ。

     冒険小説という言葉が影を潜めている翻訳小説の世界の中で、今、改めて、ハードボイルドでもギャング小説でもない、正統派の冒険小説をひっさげてウィンズロウはぶらりと日本の読書界に久々に姿を見せてくれたのである。妻と、ひとり息子とがテロの犠牲になった元デルタフォース隊員による復讐ドラマを淡々と綴る本書は、小説の詩人と異名を取っても構わないこの作家によって叙事詩のように小気味よく語られる。

     冒険小説の王道である、仲間をかき集め、作戦を練り、闘うという『七人の侍』以来の基本パターン。それが数度繰り返され、仲間の中から犠牲者が出るたびに強くなってゆくチームの団結力と、その熱源ともなるべき怒りと正義感。裏切りを正当化してはばからない権力中枢の後ろ盾もないヒーローたちが、命を賭して闘いの場に赴き、活劇を展開するこの構成とスケールと熱気。

     久々に見る戦場は、確かにドラッグ戦争で描いた『犬の力』で培われた経験によるところ大であろうが、何よりも、テロへの怒りに突き動かされる父親の心情を、仲間たちが共有してゆくその友情、そしてプロフェッショナリズムという純然たるビジネスから人間ドラマに移行してゆく仲間たちの心の流れ、そうした血と脈拍の感じられる物語こそが、火器や弾幕という舞台装置の中で敵の心臓部に迫ってゆく躍動感が何よりも頼もしい。

     骨太で容赦のないウィンズロウ節も、さらに磨きがかかって感じられたのはぼくだけではあるまい。復活というよりも、充実の持続をこそ求めたくなる作家の筆頭である。近々『犬の力』の続編『カルテル』が春先には刊行予定とのこと。どきどきする今日この頃である。

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著者プロフィール

ニューヨークをはじめとする全米各地やロンドンで私立探偵として働き、法律事務所や保険会社のコンサルタントとして15年以上の経験を持つ。

「2016年 『ザ・カルテル 下』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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