- Amazon.co.jp ・本 (221ページ)
- / ISBN・EAN: 9784041018637
作品紹介・あらすじ
原文の「歯ごたえ」を残しながら、いかに日本人に伝わる言葉を紡ぐのか――「名人芸」が生まれる現場を、『ダ・ヴィンチ・コード』訳者が紹介。本を愛するすべての人たちに贈る、魅惑的な翻訳の世界への手引き。
感想・レビュー・書評
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『ダ・ヴィンチ・コード』シリーズなど、文芸翻訳を数多く手掛ける越前敏弥氏による、翻訳の手法や作業の裏側、翻訳文学に対する熱い思いをまとめた本。
ブクログのレビューを読んでいると、あの翻訳者の翻訳は良い、といったコメントをたまに目にするが、私は翻訳者を意識したことがなかったし、有名な翻訳者の名前もあまり知らない。
ただ、本書の著者、越前氏については、以前『ナイルに死す』を取り上げたオンライン読書会に参加されていたのを視聴したことがあり、一時期ツイッターをフォローしていたこともあって存じ上げていた。
本書は4章からなり、第1章は翻訳の仕事全般について、第2章は著者の代表的な翻訳書『ダ・ヴィンチ・コード』シリーズの翻訳秘話について、第3章は著者が翻訳者となるに至った経緯や修行時代の話、第4章は翻訳書を読んでもらうための活動紹介や亡くなられた名翻訳者東江一紀さんの仕事について書かれている。
最初に翻訳の仕事で誤解されがちな内容について触れられていて、私も勘違いしていたことが多かったので興味深かった。
翻訳には文芸の翻訳(出版翻訳)と実務翻訳、映像翻訳に分かれ、それらは必要とされる訓練が全く違うのだそうだ。また、翻訳者は英語がペラペラでないといけない、というのも間違いで、それよりは「日本語が好き」「調べ物が好き」「本が好き」という条件を満たす方が大事なんだそう。
編集者との関係も上下関係ではなくチーム仲間という感じで、優れた編集者に対する越前氏のリスペクトが伝わってくる。特にタイトルをどのように考えるのか、というくだりは、何気なく目にしている本のタイトルにこれほどまでの深い思いが詰まっているのか、と感動を覚えた。
『ダ・ヴィンチ・コード』シリーズの翻訳秘話もとても面白かった。私はなにも違和感を覚えずに小説を楽しんだのだが、その裏では、キリスト教や歴史的事実を踏まえて他言語でも矛盾がないように暗号を表現し、読者が謎を解けるように一つ一つ訳語を選択する、という膨大な作業が繰り広げられていたのだ。本当に大変だったと思うが、日本であれほどのヒット作になったのはやはり翻訳のおかげだと思うし、越前氏も報われたのではないだろうか。
私は翻訳ものを好むが、最近の傾向としては翻訳小説を読む人がずいぶん減ってしまったそうだ。そのため、越前氏は少しでも手に取ってもらえるように、ブログやSNSでの発信、 イベントや読書会、小学生向けの『読書探偵作文コンクール』の開催など、多方面で活動されている。私がかつて視聴した読書会も越前氏の関わる『翻訳ミステリー読書会』のイベントだったと記憶している。
この本を読むと、翻訳ものをがぜん読みたくなるし、原書と翻訳を比較してみたくなる。クリスティーを全巻制覇した暁には、小説を原書で読むことに挑戦してみたい。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
越前敏弥さんのブログはたびたび読んでいたのだが、このたび、ブログの記事+お仕事に関するあれこれがまとめられるということで手に取った。
前半は「文芸翻訳ってどんなこと、プロの翻訳者はどんな作業をしなければならないか」について、ご自身の訳書で発生した作業や経験を例にとって触れられている。作品を訳するうえでの苦労話は翻訳家さんのエッセイでの定番素材なのだが、この本のように、「出版翻訳は個人の作業であって個人の作業ではない」という面が取り上げられているのは、翻訳者さんのご著書ではあまり見かけないように思う。編集者さんのアシストや、翻訳学校の生徒さんからのアイデア出し(授業というよりワークショップ的な)、共訳者チームとの訳語・設定すり合わせ作業などがリアルに描かれるので、文芸翻訳の勉強をしようかと考えていらっしゃるかたが見落としている局面を知ることができ、意外にプラクティカルなのではないか。個人的には、大森望さんの『新編 SF翻訳講座』と併せて読めば、翻訳という作業、作品についてかなりクリアに見えてくるのではないかと思っている。
後半、特に最後の章は、書店イベントで見聞きした内容と重複するものが多いのだが、「はじめに」で述べていらっしゃることにすべてつながる。実数3,000人といわれる翻訳書の読者を増やすため、その魅力を伝える機会を増やしていくのはなかなか一筋縄ではいかないし、翻訳書の訳者名を覚えているのはその中でも一握りで、大部分が「『ハムレット』面白かった!」と作品名だけ記憶して終わる。広げにくい間口、残りにくい名前という試練(というのかな)を何とか打開していくための取り組みが紹介されるのは、今までの翻訳者さんのエッセイでは見られなかった。越前さん以外にも、翻訳者さんによる海外文学の紹介イベントや小冊子を目にする機会が少しずつ増えてきたということから考えると、この本で紹介される読書会や書店イベントは、朝ドラ的表現をすれば"First Penguin"的な動きだったんだろうと思う。
和訳に関して、卑語的なサンプルが出ているのでそのあたりの受け止めかたはいろいろあると思うが、私はぎりぎり許容範囲(たぶん)。 -
翻訳家、越前敏弥さんのエッセイ。
二〇二〇年、「なんだか日々疲れるから夢中に読書をして癒されたい」という思いからエラリー・クイーンを読み返そうと決めたとき、越前さんは「エラリー・クイーン作品の新訳をしている人」として私の人生に登場した。それまで翻訳者の名前など気にしたことがなかったが、越前さんがこの新訳にまつわるあれこれについて語るトークイベントのアーカイブ動画を見つけて視聴したらとても楽しかったので、「気になる翻訳家」としてばっちり胸に刻まれた。
そして同じころにたまたま見つけて読んだ、『世界物語大事典』(二〇一九)というファンタジーやSFに重きを置いた文学事典の翻訳者も、偶然にも越前さんだった。この事典に収められた系統の作品が私はけっこう好きだと自覚したので、その後この事典をきっかけとしていくつかの翻訳作品を読み、楽しんだ。
これまでなんとなく「翻訳ものってなじみにくい」という印象を少なからず持っていたのだが、そういうわけでここ最近急激に翻訳作品づいている。しかも例の動画視聴のおかげで、「そういえば今まで当たり前のように思っていたけど、ほにゃらら語で書かれたこの作品を汗水流して日本語に訳した人がいるんだ」ということを、今さらながら強く意識して読んでいる。
と、このように、私にとっては翻訳作品を読む楽しさに目を開かせてくれた張本人である越前さんの翻訳業四方山エッセイが、面白くないわけがない。どんな仕事なんだろう?舞台裏は?修業時代は?そのさらに前史は?同業者は?といった興味がほどよく満たされ一気読み。特に印象に残ったのは、邦題の決め方(特に『夜の真義を』)、『思い出のマーニー』の超短期翻訳プロジェクト(華麗なチームプレーに感嘆、と同時にどんな仕事も肝は同じ?という親近感も)。
誰の訳は好きだとか素晴らしいとか言えるような見巧者の域に達する日がくるかどうかはわからないが、翻訳者がいて翻訳してくれていることがなんと有難いことか!それだけで幸せ!という思いを持ってこれからも楽しく生きていけそうです。
(それから、翻訳そのものの話ではないが受験勉強についての話も胸に刺さった。努力したという経験が大事、と。。。) -
例えば「自分は技術翻訳者だし文芸なんてやることないから…」と思っているようならそれは間違いである。英語を日本語に翻訳するという作業はまったく同じことだし、書き手の言いたいことを読み手に正確に伝えるという、尊い作業なのだ。そんな当たり前のことに改めて気づいた。
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後半に出てくる東江一紀さんのエピソードが心に残りました。
読み終えた後、思わず「ストーナー」を図書館でかりてしまうほど。
私も死ぬまで現役でいられるといいなと思いました。 -
翻訳について小難しく書かれている本かと身構えて読んだが、
とても読みやすく、楽しみながら読むことができた。
またそれだけでなく、濃い霧の中をさまよっているような状態の自分の心の中に一筋の道を照らしてくれたような、厳しくもあるが温かい励ましをいただけたような、そんな気持ちにもなった。
読みながら、本の中に線を引きたくなる箇所がたくさんあった。私のように翻訳に携わりもっと上を目指している者はもちろんだが、どんな職業でもスキルアップを目指す人々にとっても指南となる箇所が多くあったのではないかと思う。
私自身、英文科出身なのですが、学生の頃読んだ、というか、読まされた古典文学はどれも難解で(笑)いや、きっと私の読解力が悪すぎただけなのだろうけど。。。それ以来海外文学は避けて通る羽目となった。
しかし越前氏の訳書「ダ・ヴィンチ・コード」を読んだことがきっかけで、海外小説にも手が伸びるようになった。
言葉の力って偉大だ。選んだ言葉ひとつでその作品の良し悪しに影響する。読者の心にどれだけ響くかも変わってくる。読者をその作品の世界へと誘い魅了できる文芸翻訳という仕事ってやっぱり素敵だな。 -
風呂読書用に購入。
今まで著者のことを存じ上げなかったが、作品に向き合う真摯な姿勢に心を打たれ、早速ツイッターをフォローした。
そこで書かれていた英語勉強法を実践してみている。 -
またまたおもしろかったーっ!
途中、マーニーを読むために中断したけど、マーニーも含めてほぼイッキ読み。
今回は英文読解のテクニック指南本ではなくて、翻訳者としての日常および翻訳業についてのエッセイ。
やっぱり修行時代の話は感動するなぁ。
全力で頑張る人の話は、それがどんな職業の話だろうとおもしろいものだけれど。
すべての章が興味深かったけれど、一番印象に残ったのは東江一紀さんについての章。
何に驚いたって、「センターピース」という作品の冒頭、"ハートリンゲン家の大黒柱" の訳!
英文を読み、4人の訳例を見た瞬間、うおぉぉぉ! これすごい!と東江さんの訳に身体が震えた。この人の訳だけが、カラー映像つきに見えたよ・・・
(でも、東江さんのすごさを一番わかりやすい形で紹介できる越前さんも相当スゴイと思ったが)
東江一紀って記憶にないなぁ、たぶん読んでないんだろうなぁ・・・と思ったけど、マイケル・ルイスを訳されている方なのか! 納得。
いい訳だと、読んでいる時、訳のことなんてまったく考えないものです。
以前、本屋で洋書が500円くらいで叩き売られていて、マイケル・ルイスを見つけたので、買おうかどうしようか迷ったけど、「いや、あの人のは日本語版で読む方がいいな」と思って買うのをやめたんだった。
そうかー、読書量が全然多くない私でも、やっぱりしっかり恩恵は受けているんだなぁ、と感動した。
越前さんの本を読んでいると、外国文学がどんどん読まれなくなっている、という危機感をすごく感じられているのが分かる。
私はむしろ日本の小説を読む方が苦痛に感じる方なので、「世間ってそうなのかー」とぼんやり思った。
外国人の名前が覚えづらい、とかよく聞くけど、全く理解不能な感覚だわ。日本人の名前だろうと外国人の名前だろうと、いっぱい出てきたら覚えにくいし、少ないと普通に問題ないのは同じじゃないのかと言いたいが・・・
あ、でも、高校の世界史の名前は憶えづらかったなぁ。ああいう感覚なのかな?
たぶん生まれた時代のせいもあるのかな。
私の子どもの頃、家にあった児童書って、圧倒的に欧米のものが多かったような気がする。たくさん買ってもらえなかったから、同じ本を何度も何度も何度も何度も・・・子供ならではの狂気に近いリピーティング。
それはさておき、越前さんはただ危機感を感じて憂いているだけでなく、裾野を広げるいろんな活動をされていて、そういう点でもとても尊敬した。 -
翻訳がますます楽しく感じられる。越前先生の膨大な勉強量と調査に感服するしかない。
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翻訳家が洋書、特にミステリーの翻訳の難しさをつづった一冊。
洋書を翻訳する上での苦労を色々と知ることができた。
また、洋書がなぜ読みにくいかということが理解できた。