いのちの食べかた (角川文庫)

著者 :
  • KADOKAWA
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感想 : 52
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  • Amazon.co.jp ・本 (192ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784041013328

作品紹介・あらすじ

お肉が僕らのご飯になるまでを詳細レポート。おいしいものを食べられるのは、数え切れない「誰か」がいるから。だから僕らの生活は続いている。“知って自ら考える”ことの大切さを伝えるノンフィクション。

感想・レビュー・書評

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  • R2.3.24 読了。

     日々食べている牛肉や豚肉や鶏肉などの肉はどのようにしてスーパーなどで売られている形になるのか?知っているようで知らない事実。動物の肉を食べるようになった歴史や悲しむべき被差別部落の存在。
     また、私たちはいかに多くの命に支えられて、生かされているのかを考えさせられた。これからは食べ物を食べる時には、いろんなものに感謝して大事に食べないといけないと思う。

    ・「何が大切で何がどうでもよいかの判断は、知ってから初めてできる。知らなければその判断もできない。」
    ・「世界には数えきれない『誰か』がいる。その『誰か』がいるから、僕たちの生活は続いている。」
    ・「命を食べるからこそ、命を無駄にはしないことを、彼らは知っている。」
    ・「大切なのは、『知ること』。知って、『思うこと』。人は皆、同じなんだということを。いのちはかけがえのない存在だということを。」

  • 僕はお仕事の一つとして、「お肉はどのように作られて僕らの食卓に届くのか?」というお話をするために、小学校に招かれて授業をすることがごくごくたまにあります。名付けて「いのちの授業」というものです。

    僕らが生きていくためには、栄養を摂らなければならなくて、そのためには「他の生き物の生命」をいただかなくてはならないわけで、それを残酷で嫌なことだと思ってしまうと、食べ物を食べることができなくなってしまうわけです。

    でも、それでは健康に成長することができなくなってしまうのですから、「他の生き物の命」をいただくことについて、何らかの折り合いをつけなければならないということになるのだと思います。

    僕のお仕事からすると、食肉を大切に、ありがたいという気持ちで頂いていただければいいなあ、と思うわけですが、この本ではもっと話を深めて、僕たちが生きていく上で出会う様々な矛盾についても目を向けて、生きていく力を身につけていくことに狙いがあるように感じました。

    小学生にも読むことが出来るようにルビのふられた文章は、読みやすく噛み砕いた表現で、この作品を読んだいま、「いのちの授業」に招かれたら、この作品の中からの一節を引いてお話に加えたいと思っています。

  • 当然にしてあるべき食肉加工(=家畜の屠殺)というプロセスがあり、それがあえて目に付かないようにされているということを、子どもに語るように説明した本。この本では、家畜を食べる、ということと、差別について語られれている。著者である森さんはTV向けの映像作成の仕事をしていたときに、家畜を殺して食べる、ということをテーマにして番組作成を企画したが、結局テレビ番組にはならなかった。その理由が、屠殺シーンの問題もさりことながら、それよりも大きかったのが被差別部落の問題だ。

    食肉加工という職業が「穢れている」とされて、部落差別の対象となっているということは事実としても知っていた。実際に自分の親も、ときにあまり躊躇いもなくそのことについて具体的な人の名前を挙げて語っていた記憶もある。そして、森さんに言われる通り僕はそれを見ることをしなかった。

    2つのこと(家畜を食べるということと差別部落)は事実としてもつながっているが、いずれも見ないことによって助長をしているということでも共通点がある。森さんのメッセージは僕たちはしっかりと自分の目で「見る」という意識を持たなくてはいけない、ということだ。それが森さんの問題意識。彼のオウム問題や死刑の問題にも通じている。その問題意識はどのように共有されるべきなのだろうか。それがこの本の感想。

  • もう十年ほど前でせうか、駅で聞いた、大学生くらゐの若い女性ふたりの会話。仮に夫々A、Bとしませうか。どうやら共通の知人宅へ行く為に駅で落ち合つたやうですが......
     A:何か買つて来た?
     B:うん、これ......(と言つて袋の中を見せる)
     A:ああ、食べ物ばかりだね。
     B:まあ、元は生き物なんだけど。
     A:さうだね、人間に食べられる為に生れてきたんぢやないからね。でも、すると「食べ物」つて何だらうね?
     B:うーん......

    『いのちの食べかた』は、元元年少の読者向けの叢書「よりみちパン!セ」といふシリーズの一冊として刊行されました。ゆゑに、本文は小学校の先生口調で、多くの漢字に振り仮名が付されてゐます。
    しかるにその内容は深く、老若男女すべての人間に関係するものであります。

    まづ牛や豚の肉について。我我の食卓に並ぶまで、いかなる経緯を経てゐるのか。誰がどんなふうにして殺してゐるのか。
    人類の肉食の歴史について。日本ではどうだつたか。鎖国下の肉食事情とはどんなだつたか。

    そもそも肉を食べる事は「残酷」でせうか。確かに他の生命を奪ふことは残酷でせう。しかし人間が生き延びる為には必要なことであります。生命といふものは食物連鎖の中で自然界に存在します。弱肉強食。
    菜食主義者なら良いのかといふと、さうでもありません。植物だつて生きてゐます。人間がその生命を絶つた瞬間に「痛い!」と叫んだり涙を流したりしないので、罪悪感を感じないだけの話であります。
    人間は他の動物よりも少しばかり知能が発達した為に、逆に生物界ではさまざまな矛盾を抱へた存在になつてしまつた。

    そして差別問題。屠殺に関はる人たちが受けてきた言はれなき迫害。人は自分の存在を守るために他者を差別する。男女差別や職業差別、民族差別、出自による差別や宗教差別など。差別が助長する先に戦争があります。
    かういふ事柄は、多分多くの人が知つてゐます。しかしながら差別や戦争はなくなりません。わたくしたち人間は歴史に学ぶことを忘れ、考へることを放棄し、楽な方へと流れてゆく。これは時の為政者によつて大変都合の良い状態です。

    森達也さんは警鐘を鳴らします。様々な悲劇は、わたくしどもが「思考停止」に陥つた時に起きる。
    だから、嫌な事でも目を逸らさずに現実を見なければならない。そして知ることが大事。
    知つたら、何が問題なのか考へる事。この世の色んな矛盾に気付くでせうが、それを忘れてはいけない。

    ううむ、改めて人間は罪深いものだと思ひます。しかしそれに気付く事で、避けられる争ひも災難もあります。世界を動かすのは一部のカリスマではなく、結局わたくしたち一般大衆と存じます。本書のテエマは極めて重いですが、万人に手に取つていただきたい喃と勘考する次第であります。

    http://genjigawa.blog.fc2.com/blog-entry-819.html

  • これが子どもに”も”読めるようになってるというのは凄く大事なことだと思うな。

  • 食べることについて、だけでなく、食べることを入り口として、世の中の見方、生き方を教えてくれる本。

    生きることと食べること、殺すことは、常に繋がっている。動物であろうと植物であろうと、生きているものを殺すことには変わりない。しかし、私たちは「食べること」には敏感でも、その前の「殺すこと」には目を向けないようにしている。

    「食べる」ことに関わらず、そういうことは世の中に溢れている。話は、日本に根付いた差別のことから歴史のこと、社会のこと、宗教のこと、文化のこと、戦争のことへと広がっていく。筆者は、子どもに向けた優しい語り口で、「知ること」の大切さを説く。
    著者の信条は私自身が日ごろ思っていることと重なる部分が多く、とても共感できた。

    見方や内容が偏っているという批判のコメントも少なからずある。けれど、著者自身が語っている通り、この本はあくまで入り口に過ぎないのであるから、内容そのものではなく、この本をきっかけにして、与えられていることを鵜呑みにせず、自分で調べて、自分で判断していくことが大切なのではないか。

    レビュー全文http://preciousdays20xx.blog19.fc2.com/blog-entry-466.html

  • 最初、読み始めは子どもに向けた文章のような感じで、読みやすそうだなと思っていた。
    だけど、とても濃い。
    食事、いのちを食べる私達。いのちを食料に変える人たち。それをする人を、昔の人は「穢れ」とした、まさかの差別の問題。

    大切なのは知ること。そして思うこと。だと著者は言う。
    この本のタイトルの映画もあるのだそう。見てみたい。

  • 題から、フードロスや添加物の話を連想したが、全く違っていた。
    知ったことによる責任、知らないことによる責任、自分の周りで起きる全てのことに、何らかの責任がある。知らなかったから、ではすまされない。責任を取るのではなく、責任があると認識することが重要。
    薄い本で優しく書かれているが、重みがある。

  • 屠殺について見たり聞いたりする機会って、確かにないよな~。そしてそれをあまり不思議に思わないってことも、考えてみれば不気味な話だよな~。あちこち興味を持って動かない個人にも非はあるかもしれないけど、それをそうと気付かせない体制の側にも大いなる瑕疵があるのは間違いない。掘り起こさないと見えてこないものを見出す視点を、これからも根気強く涵養したい。本作の感想としては、第一にそれ。

  • 肉を食べることから、世界の問題まで考えることができた。すべては繋がっていて、きちんと知ることが大切なんだと実感できた。無知は無力。大切なことを本当に大切にできるよう、知る、理解する、よく学ぶ。これからも、いのちの上に立っていることを忘れずに生きていこうと思った。

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著者プロフィール

森 達也(もり・たつや)
1956年、広島県呉市生まれ。映画監督、作家。テレビ番組制作会社を経て独立。98年、オウム真理教を描いたドキュメンタリー映画『A』を公開。2001年、続編『A2』が山形国際ドキュメンタリー映画祭で特別賞・市民賞を受賞。佐村河内守のゴーストライター問題を追った16年の映画『FAKE』、東京新聞の記者・望月衣塑子を密着取材した19年の映画『i-新聞記者ドキュメント-』が話題に。10年に刊行した『A3』で講談社ノンフィクション賞。著書に、『放送禁止歌』(光文社知恵の森文庫)、『「A」マスコミが報道しなかったオウムの素顔』『職業欄はエスパー』(角川文庫)、『A2』(現代書館)、『ご臨終メディア』(集英社)、『死刑』(朝日出版社)、『東京スタンピード』(毎日新聞社)、『マジョガリガリ』(エフエム東京)、『神さまってなに?』(河出書房新社)、『虐殺のスイッチ』(出版芸術社)、『フェイクニュースがあふれる世界に生きる君たちへ』(ミツイパブリッシング)、『U 相模原に現れた世界の憂鬱な断面』(講談社現代新書)、『千代田区一番一号のラビリンス』(現代書館)、『増補版 悪役レスラーは笑う』(岩波現代文庫)など多数。

「2023年 『あの公園のベンチには、なぜ仕切りがあるのか?』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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