千年ジュリエット (角川文庫)

著者 :
  • KADOKAWA
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感想 : 100
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  • Amazon.co.jp ・本 (400ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784041010808

作品紹介・あらすじ

文化祭の季節がやってきた! 吹奏楽部の元気少女チカと、残念系美少年のハルタも準備に忙しい毎日。そんな中、変わった風貌の美女が高校に現れる。しかも、ハルタとチカの憧れの先生と何やら親しげで……。

感想・レビュー・書評

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  • ハルチカの前にハルチカは無く、ハルチカの後にハルチカは無い。

    まあ、究極的に言えばどんな作品だってそうなんですが、でも初野晴さんの作品、特にハルチカシリーズに関しては、さらに強くそう思ってしまいます。

    文化祭を舞台にした短編が4編収録されたシリーズの4巻目。ハルチカシリーズを読むのは久々で、すっとキャラたちに入り込めるかな、と思ったのですが、その心配は完全に無用でした(笑)

    元気少女チカのユーモア溢れる語り口に、ハルをはじめとした個性的なキャラの数々。ああ、この感じだったなあ、とあっという間にハルチカの世界に手を引かれたように思います。

    文化祭で起こる事件もバラエティー豊か。突然体育館に現われたピアニカを吹く女性の謎と、彼女の祖父の遺産の謎を解く「エデンの谷」
    文化祭での演奏時間が迫る中、タクシーで高校まで乗り付けたのに、その場でUターンしてしまった高校生の目的を推理する「失踪ヘビーロッカー」

    行方をくらました演劇部の脚本家に変わり、劇の結末を推理する「決闘戯曲」
    そして、ある決意を持ってハルチカの高校の文化祭にやって来た人物を描く表題作「千年ジュリエット」

    短編集で全ての短編が面白いと思うことはあっても、全てが後になっても思い出せるというのは決して多くはありません。でも今のところは、全て思い出せます(笑)改めてこの短編集の質の高さ、そしてインパクトの強さを感じます。

    ハルチカ、および初野さんの作品の特徴は、ファンタジー要素が強かったり、あるいはマンガのようなキャラたちの掛け合い、あるいはギャグ的な要素がある一方で、突飛で奇抜な謎を持ってきたり、あるいはシリアスな要素を違和感なく、物語に溶け込ませるところだと思います。

    「エデンの谷」はそんなキャラのかけあいや行動に笑わせられる反面で、その内容の厳しさに考えさせられます。シリーズとしても、あるキャラクターの転換点にもなりそうな話で、そうした面白さもあり、またオチで二度笑わせられる。なんだか、感情の起伏が激しくなる短編でした。

    「失踪ヘビーロッカー」は展開が楽しかった! タクシー運転手の視点、到着を待つチカたちの視点、それが交差し、そして徐々に演奏時間が迫ってくるというタイムリミットサスペンスの側面もあって、緊迫感があります。そして一方でドタバタコメディを見ているような面白さも併せ持ちます。
    さらに青春らしい熱い展開も挟まれたりと、これもハルチカでしか書けなさそうな短編。

    「決闘戯曲」では「退出ゲーム」でも登場した濃い演劇部の面々とハルチカのやり取りももちろん面白いのだけど、謎の設定もそれに負けずに魅力的。右目が見えず、左手を使えない状況の登場人物がなぜ、拳銃を撃ち合う決闘で勝利できたのか?

    結末のない脚本から、書き手の伏線や目的を読み取りたどり着いた結末。この推理の過程も面白いし、劇の種明かしはまさに知恵の勝利という感じがします。

    そして表題作の「千年ジュリエット」
    文化祭最終日の様子が描かれる一方で、合間に挟まれる回想は、あまりにも切なく儚い……。どこかの病院で5人が始めたネットでの恋愛相談の顛末は、読者である自分にも生きることや、命の意味を考えさせられます。

    そして明らかになる真実とともに、押し寄せる感動。喪われたものと、確かに繋がれたもの。それを彩る最後の光景とチカのセリフ。そして勇気をもって文化祭に訪れた人物の決意。

    マンガのようなキャラクターたちのユーモア・ライトミステリかと思いきや、予測のつかない謎や、思いがけない真実があり、そしてそんなユーモアとシリアス、そして感動を違和感なく両立させられる。ハルチカのハルチカたるゆえんは、そこだと思うのです。

    久々に読んだこともあってか、ハルチカここまで面白い作品だったか、とビックリしてしまいました。シリーズの中で時間の経過は描かれているので、ハルチカたちもいつかは卒業するのだろうけど、できるだけ長く高校生でいてほしいなあ、とも思ってしまいます。

  • シリーズ4作目。シリーズ全体からすると、少し骨休めという感じで、ハルチカたちが高2の文化祭あたりを描いている。
    しかし今までよりミステリー要素がかなり強い。楽しく読めたけど、盛り沢山すぎて、私には少し消化不良になってしまった。可能であれば読み返したい。

  • ハルチカシリーズ4作目。

    チカちゃんて、スゴイ。今まで、フツーとか思っててごめん。いや、一生懸命なところは可愛いしがんばれって思ってたけど、チカちゃん、実は天然にスゴイ子だったんだ。

    吹奏楽部のメイン活動は休止して、文化祭にまつわるお話たち。個人的に好きなのは、演劇の脚本のエンドがないまま、脚本家が失踪してしまった「決闘戯曲」。当日になって、どういうエンドだったのかを探るお話です。それが、脚本の中で語られるミステリーを解決する種明かし部分なので、上演するためには、なんとか解くしかないわけです。謎自体は、物語と思えばコロンブスの卵的結末だけど、命のかかった決闘と思えばその知恵と機転の切れ味に唸ることになる。

    日常系ミステリーといえど謎を解くわけなので、どうしても探偵役やその周囲には、理屈っぽさとか説明くささがついて回ることになりかねないのですが、このシリーズでは、ごくごくフツーの女子高生チカちゃんがいい意味でバカを入れていて、頭でっかちになりがちな部分を緩めていると思います。

    チカちゃんはそういう役目なんだと思っていました。

    が、この1冊のラストの1篇、そのまたラストでガツンとやられました。

    「黒玉でもいいじゃん、打ち上げられなかったらただの玉」

    若くって、楽天的であまり物事を深く考えるタチじゃないからこそのセリフかもしれない(むしろそうなんだろうと思う)。でも、特にこれといった問題のない環境で健康に育ってきたとしても、ナチュラルにそう思って、失敗恐れずに前向いて歩ける人ばかりじゃないよね。ハルタなんかも、私にはまだ奥は見えてこないのだけれど、チカちゃんのそういう部分が眩しく思えることってあるんじゃないかなって思う。それで救われるか、苦々しく思うことになるのかは、受け止める側次第。

    ハルチカは引き気味で、吹奏楽部の外の人たちのお話ばかりですが、どれも「一歩前へ踏み出す」物語に思えます。青春だ。だけど、それが必要なのは、現在進行形で「青春」な人ばかりではないと思う。

  • ハルチカシリーズ、どういうところが一番好き?って言われれば、パッと浮かぶのは『タイトル』
    このシリーズ、タイトルが全てすき。
    とくにこの『千年ジュリエット』この響きだけで何だか切なくて泣きそうになる。いつも重たい謎が渦巻いているけれど、『千年ジュリエット』は胸が締め付けられた。それでも切ない、悲しいで終わらないのが、このハルチカシリーズ。今回もちゃんと笑顔になれるラストでした。

  • 『エデンの谷』
    音楽の面白さと、まさかの仕掛けのバランスが良かった。

  • 穂村千夏
    清水南高校二年生。廃部寸前の吹奏楽部で、吹奏楽の“甲子園”普門館を夢見るフルート奏者。春太との三角関係に悩んでいる。

    上条春太
    清水南高校二年生。千夏の幼なじみ。ホルン奏者。完璧な外見と明晰な頭脳を持つ。

    草壁信二郎
    清水南高校の音楽教師。吹奏楽部顧問。謎多き二十七歳。

    片桐圭介
    清水南高校三年生。吹奏楽部部長。もうすぐ引退。

    成島美代子
    清水南高校二年生。中学時代に普門館の経験を持つオーボエ奏者。

    マレン・セイ
    清水南高校二年生。中国系アメリカ人。サックス奏者。

    芹澤直子
    清水南高校二年生。クラリネットのプロ奏者を目指す生徒。

    檜山界雄
    清水南高校一年生。芹澤の幼なじみ。打楽器奏者。あだ名はカイユ。

    後藤朱里
    清水南高校一年生。一年生部員を牽引する元気娘。バストロンボーン奏者。

    日野原秀一
    清水南高校三年生。生徒会長を務める。好きな言葉は天上天下唯我独尊。もうすぐ引退。

    萩本肇
    清水南高校三年生。発明部の部長。弟の卓は同校二年生。ふたりともブラックリスト十傑として生徒会執行部から執拗にマークされている。

    甲田裕己
    清水南高校三年生。アメリカ民謡クラブの部長。活動内容はハードロックとヘヴィメタル専門の演奏発表。ブラックリスト十傑の一人。

    清春潤
    清水南高校二年生。アメリカ民謡クラブ所属。甲田に苦労させられている。

    名越俊也
    清水南高校二年生。演劇部の部長。過去、マレンを取り合って吹奏楽部と即興劇勝負をしたことがある。ブラックリスト十傑の一人。

    朝霧亨
    清水南高校三年生。初恋研究会代表。地元に二代つづく興信所の、ひとり息子。ブラックリスト十傑の一人。

    麻生美里
    清水南高校二年生。地学研究会の部長。ヘルメットを被る美少女。カイユの復学と吹奏楽部入部に関与。ブラックリスト十傑の一人
    山辺真琴
    高名な音楽家、故・山辺富士彦の孫娘。全国を放浪中、草壁信二郎に呼び出される。彼女も、また、謎多き二十七歳。


  • 文化祭楽しそう!やっぱり生徒会長王様が大好き。

  • 【再読】文化祭を中心としたエピソード4編からなる連作短編。歴史的価値のあるピアノの鍵を探したり、文化祭ライブ直前に失踪したロッカーを探したり…。今回はあまり重たい解決編はなく、高校生らしいエピソードに溢れた青春ミステリ真骨頂という感じ。相変わらず日常パートのやりとりがウィットに富んでいてとても面白いな。ハルタとチカのやり取りはもはや夫婦漫才級。今回は表題作『千年ジュリエット』がストライク。「さようならの回数」には泣かされてしまいます。切ないながら背中を押してくれるようなエピソードなのが良いですね。

  • ハルチカシリーズ4作目。これで既刊分は終わり。 初期に感じた読みにくさもなくなって、個性的なキャラクターも馴染んできて、続きが楽しみなシリーズ。 特に表題作の千年ジュリエットが良かった。ヘビーロッカーも好きだったけど。 逆に、決闘の話はストーリー上やむを得ないけど、シナリオ部分が少し退屈だった。 エデンの谷でスナフキンが話した音楽のプロに関する話が印象的。

  • ハルチカシリーズ4作目。
    【エデンの谷】スナフキンのような格好をした女性は、草壁先生と親しそうに話をしている。先生との会話を盗み聞きしたチカたちは、女性のある探し物を手伝うことになる。

    【失踪ヘビーロッカー】 「そのまま法定速度を守って、この街をぐるぐるまわるんだっ」文化祭本番直前、学校に着いたにもかかわらず、乗っていたタクシーをUターンさせたアメリカ民謡クラブの甲田。肌寒い秋に冷房を最大にしろなどの命令を下す甲田は、一体何を隠しているのか。

    【決闘戯曲】演劇部で脚本担当の1年生が、本番当日の朝、姿を消してしまう。戯曲の内容は、右目が見えず左手が使えない「大塚一族」の世代を超えた3人が、絶望的なはずの決闘で勝利をするというものだった。勝利法がわからない状態で残された未完の戯曲。大塚一族は絶望的状況から、どのようにして勝利を掴んだのか。

    【千年ジュリエット】 「ジュリエットの秘書 はごろも支部」年齢がバラバラな5人の女性は、病院から出られない日々のなか、ブログで恋愛相談を始める。秘書の1人"トモ"は、清水南高文化祭へ足を運び、かつて病院へ慰問してくれていた少年を探すのだった。

    ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

    清水南高校、文化祭間近、晴れの舞台を前に、吹奏楽部の元気少女・穂村チカと、残念系美少年の上条ハルタも、練習に力が入る。そんな中、チカとハルタの憧れのひと、草壁先生に女性の来客が。奇抜な恰好だが音楽センスは抜群な彼女と、先生が共有する謎とは?(「エデンの谷」)ほか、文化祭で巻き起こる、笑って泣ける事件の数々。頭脳派ハルタと行動派チカは謎を解けるのか?青春ミステリの必読書、“ハルチカ”シリーズ第4弾!

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著者プロフィール

1973年静岡県生まれ。法政大学卒業。2002年『水の時計』で第22回横溝正史ミステリ大賞を受賞しデビュー。著書に『1/2の騎士』『退出ゲーム』がある。

「2017年 『ハルチカ 初恋ソムリエ 』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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