知らないと恥をかく世界の大問題13 現代史の大転換点 (角川新書)
- KADOKAWA (2022年6月10日発売)
- Amazon.co.jp ・本 (280ページ)
- / ISBN・EAN: 9784040824277
作品紹介・あらすじ
プーチン・ロシア暴走!――2022年2月、ロシア・ウクライナ侵攻は、世界のパワーバランスを大きく変えた。20世紀の時代に歴史の針が逆戻りしたかのような世界。ロシアVS欧米の対立構造は、「新・東西冷戦」の到来ともいえる。そして、もう一つの大国「中国」はどう動くのか? 混沌とした世界がどこへ向かっていくのか、歴史的背景を交えながら“世界のいま”を池上彰が読み解く。大人気新書シリーズ「知ら恥」の最新・第13弾。激動の時代に欠かせないニュース解説本だ。
感想・レビュー・書評
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【感想】
池上氏の「知ら恥」シリーズ第13弾。書かれた時期は2022年5月であり、ウクライナ戦争勃発から2,3か月経ったころだ。局面としては、ロシアがドネツク州のマリウポリ製鉄所を奪取するも、ウクライナに反撃されて手痛いダメージを受けている......といったところ。
そのため、本書はロシアとウクライナに関する記述が多めになっているが、戦争が始まってからはまだ日が浅い。ウクライナ情勢をより細かく知りたい場合は、他の本を参考にするとよいだろう。
池上氏はちょうど同時期に、「世界の見方:東欧・旧ソ連の国々」も執筆しており、そちらもおすすめだ。学生への出張講義をベースに書かれた本であるため、ロシア問題をかみ砕いてわかりやすく説明している。また、周辺国の歴史にまで遡って書いているため、情報が厚い。
一方で「知ら恥」は、アメリカ・中国といった大国の情報から、普段あまり取り上げられない中東の国の情報までカバーしているのが嬉しいところだ。
ロシア・東欧について知りたいなら「世界の見方」、ロシア以外の国々も含めた広範的な時事問題を知りたいなら「知ら恥」、と併読するのがよいかもしれない。
池上彰の世界の見方 東欧・旧ソ連の国々 の感想
https://booklog.jp/users/suibyoalche/archives/1/4093888507
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【まとめ】
本書の情報は2022年5月時点でのもの。
1 アメリカ
・2022年の中間選挙では、下院は共和党が多数になると予測されている(実際に11月の中間選挙で多数派となった)。
・バイデンの支持率が低迷している。理由は2つ。
1つ目は、アフガニスタンからの完全撤退の混乱。アフガニスタンの政治状況を無視して撤退したため、イスラム原理主義勢力タリバンが政権を再び掌握している。それどころか、タリバンに対する利益供与を禁じた経済制裁によって食料品や薬品が枯渇し、アフガニスタンは過去最悪の人道危機に陥っている。20年経って、結局、逆戻りしてしまった。
2つ目は国内問題。バイデンは社会保障プログラム拡充やインフラ整備など、巨額の財政出動を繰り出した。これが民主党内の中道派と進歩派の間で賛否両論となり、板挟みになっている。
2 ロシアとヨーロッパ
・クリミア併合、ドンバス戦争を受け、ウクライナ国内で「EUとNATOに加盟したほうがいい」という声が高まっていた。
・ロシアの行動原理は「凍らない港が欲しい」であり、不凍港を目指して進む「南下政策」をずっと行ってきた。
・「NATOは拡大しない」と約束したのに、旧ソ連のバルト三国(エストニア、ラトビア、リトアニア)や東ヨーロッパの国々が相次いでNATOに加盟していった。かつてのワルシャワ条約機構の同盟国が西側陣営に取り込まれていき、プーチンは「西側に騙された」という被害者意識を持っている。
・2014年から8年間、ロシアとウクライナは、ウクライナ東部のドネツクとルガンスクを巡って戦争をしていた。ゼレンスキー大統領はミンスク合意の修正を求めたが、ロシア側が拒否。そこで2021年1月、「我々の領土は渡さない」、「ミンスク合意を履行しない」と宣言した。
対するプーチンは再び軍事的圧力をかけ始め、2022年2月21日、ウクライナ東部の2地域「ルガンスク人民共和国」と「ドネツク人民共和国」について「独立を承認した」と発表し、その3日後にウクライナに侵攻した。
3 ユーラシア
・カザフスタンの前大統領であったナザルバエフへの抗議から、カザフスタン国内でデモが発生。現トカエフ大統領はロシアに助けを求め、ロシアが軍事介入した。
・イランの大統領に、強硬派のライシ師が就任。核開発が進展する可能性がある。
・トルコの大統領エルドアンの失策によって、急激なインフレが進み、国民が苦しめられている。独裁者であるエルドアンは中国に接近しつつある。
4 中国
習近平が、憲法を改正して国家主席の任期を撤廃し、終身皇帝の座を固めつつある。
習近平は文化大革命2.0を行おうとしている。スローガンは「共同富裕」。金儲けをした経営者たちに寄付をさせたり、資金を人民に流させたりすることで、今度こそ「共産主義の理想」を実現しようとしている。
「豊かになったから、次は平等」。これは理想である。しかし中国は、少数の優れた指導者が民主集中制によって党を運営し、国を指導するという体制は変えない。それが変わらない限り、共同富裕の道は厳しい。
中国は今、猛烈に豊かになって過剰資本の状態である。一帯一路で資本を輸出し、世界に帝国主義を広めようとしている。
5 ゆれる世界情勢
・常任理事国であるロシアが拒否権を発動して、安全保障理事会が機能不全に陥っている。常任理事国が拒否権を乱発できないようにするには、国連憲章を変えなければならないが、憲章の改定には総会の3分の2かつすべての常任理事国の賛成が必要であり、完全に不可能な状態。
・ロシアと中国での言論統制が更に過激に。
・コロナによる格差が拡大し、マルクス経済学が再研究されている。
6 日本の現状
・日本は物価も給料も安く、一人当たりGDPも韓国に抜かれてしまった。先進国の中で賃金や生産性が最低レベルである。日本は失業率が低く休廃業も少ないため、ある意味平等な社会ともいえるが......。
・円の購買力が下がる一方で、石油や小麦の値段が上昇しているというダブルパンチに見舞われているのが今の日本社会。
・日本の自民党でも岸田首相が率いる宏池会の体質は、国際スタンダードでいうと「社会民主主義」に分類される。
岸田氏は池田勇人を参考にしており、「新しい資本主義」(=新自由主義からの脱却)を目指している。
安倍・菅(清和会)は「自助・共助・公助」という新自由主義路線だったが、岸田首相は、アベノミクスは失敗だったと思っているから「分配なくして次の成長なし」と言った。同じ党内でも、トップが変わることによって方針がガラリと変わるのが自民党である。自民党内で、清和会が「右寄り」とすると、宏池会は「中道」。
・自民党が勝ち続けている背景には、「野党が弱すぎる」ことがある。自民党は地方にも議員が多く、後援会もあり、分厚い支持基盤がある。労働組合を除く、医師会や農協などはほとんどが自民党支持。公明党も選挙になれば創価学会の会員が動いてくれる。それに対し、野党候補は、選挙となると、連合が支援しないことには戦えない候補者が大勢いる。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
今回も池上さんの膨大な知識と情報量に少々圧倒されながら読了。
毎年この時期に新刊が出るので、心待ちにしていていた。
前巻で初めてタイムリーに読み拾えた時は、
自分がどれだけニュースを浅く読み、凝り固まった思考と偏見を持っていたか思い知らされ反省したので、
次の一年はメディアだけでなく正しい情報を適切に拾いながら自分なりに考えられるようにしようと心に決めていた。
その答え合わせの本、と言うわけではないけれど、
自分の知識や思考と、池上さんの考察を照らし合わせられる機会になった。
ウクライナ情勢や米中関係に関する記述がやはり多く、この1年で拾い切れるタイムリーな情報とは別に、これまでの歴史を辿って現代を見るという、池上さんの本ならではの視野が新たに得られた気がする。
宏池会や自民党の派閥に関する事項も、これまであまり深く関心を持ってこなかった分もっと深く知りたいと思った。また違う著者の本も漁りながらじっくり視野を広げたいと思う。 -
毎年この時期に出版される池上さん人気シリーズ。
今年はロシアによるウクライナ侵攻についてが多かったです。
昨年はそれがコロナだったと聞いて、
「あ。そうだったか」と思った私。
ちょうど50年前、アメリカのニクソン大統領が中国を訪問しました。
共通の敵であるソ連を封じ込めるために、中国と手を握ったのです。
しかしいまや中国はロシアといっしょになって軍事演習をし、
日本の周辺に戦闘機を飛ばすなど挑発しています。
ウクライナ問題は中国の台湾問題ともつながるのです。
「歴史は繰り返さないが韻を踏む」マーク・トウェイン
〈つまり、過去の歴史をそのまま繰り返すことはないけれど、
韻を踏む形で非常に似たようなことが起きるのだということです〉
もうひとつ書いておきたいこと。
池上さんは民放のクイズ番組から協力を求められることがあるそうです。
そのときは「出演者のタレント一人ひとりの出身校が明記されて、有名大学をアピールするような番組には協力できません」とお断りされるそうです。
私にとっては「東大慶大出身の人ができない問題が自分にできた♪」という程度の楽しみ方なんですが、「東大じゃなきゃだめなんだ」と殺人未遂事件に発展することがある。(東京大学前刺傷事件)
今回の安部元総理銃撃事件では、すっかりスポットライトが犯人のほうに移って、驚くことばかり。
何も考えず平和にボーっと生きてもいられない
これからも読書で学んでいかなければ。 -
池上さんのこのシリーズは、国際政治・国際経済の面白さと難しさを同時に教えてくれる。この本のわかりやすい解説を導入として、自分でもっと深く掘り下げて勉強したい、そう思わせてくれる。
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本書は、「ロシアによるウクライナへの侵攻」を題材に世界の情勢を池上さんが丁寧に解説した本です。
とてもタイムリーな話題で参考になりました。 -
ほぼ毎年買っている。問題の歴史、背景から解説してくれるので勉強になるし、ものを考える上での良い土台となる。
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今回はロシアがウクライナに侵攻したということで、その事に関しての内容に多くを割いてます。
ソ連時代からの経緯や、変わりゆく周辺国の状況を、いつもながらの読みやすい文章で解説されてます。
池上さんは中立な立場で意見を述べられていますので、安心して読めますが、色々な方の本も読んだ方がいいかもしれませんね。
ロシア問題は、今リアルに起こっている出来事なので、スラスラと読めました。
また、中国についても書かれてますが、この本のシリーズ別冊で中国についての本が出たみたいですので、今度はそちらを読んでみたいと思ってます。
なんだかんだ言っても中国すごいですからね、変な偏見持たない様に、色々な知識を得て、自分の頭で考えたいものです。 -
歴史に疎いので、ロシア•ウクライナ問題をかなり遡って教えてもらえて分かりやすい。
知らないことばかり。
池上さんの本読むと、もっと本読もうと思える -
毎年一冊刊行されているシリーズ13弾。
今作は、ロシア、中国、コロナという印象でした。
あとは、引き気味のアメリカ、落ちていく日本。
読んでいて、暗澹たる気持ちになってきましたが。苦笑
でも、考えること、知ろうとすることは、
ひとりひとり止めちゃいけないな、と改めて思いました。
ウクライナについて、
池上さんの他の本でも読んでいましたが、
繰り返されることで、少しずつ頭に入ってきました。
岸田政権についても、自由党、宏池会の流れを汲んでいるというのを知りました。
同じ党内でも、派閥があり、考え方は違う。
14弾が出るころには、コロナは落ち着いて、
ウクライナも平和を取り戻し、
景気は回復して、
みんなでウィンウィンみたいな世界にならないかなあ。
私の頭はぽんこつだから、他力本願になっちゃうけど。苦笑
それでも一助になれるよう、
知ること、考えることは放棄せずにいたいと思います。 -
遂に始まったウクライナ侵攻。今だに終結していない現状にやるせない気持ちになる。プーチンの思惑やロシア側の主張の中にも知らないことがあり、相変わらず勉強になる。バイデン政権になってニュースの視聴率が下がった話が興味深かった。確かにトランプと比べて驚くほど影が薄い。まぁ、岸田政権もよその国に同じように思われてそう。テレビで馴染みがあるおかげか、読んでいると池上さんに直接語りかけられているよう。するすると頭に入るシリーズ。最新刊も旬なうちに読もう。