13億人のトイレ 下から見た経済大国インド (角川新書)

著者 :
  • KADOKAWA
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  • Amazon.co.jp ・本 (232ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784040823614

作品紹介・あらすじ

トイレを見れば、丸わかり。
都市と農村、カーストとイノベーション……
ありそうでなかった、「トイレから見た国家」。
海外特派員が地べたから徹底取材!!

インドはトイレなき経済成長だった!?
携帯電話の契約件数は11億件以上。
トイレのない生活を送っている人は、約6億人。
経済データという「上から」ではなく、トイレ事情という「下から」経済大国に海外特派員が迫る。
モディ政権の看板政策(トイレ建設)の成功は忖度の産物?
マニュアル・スカベンジャーだった女性がカーストを否定しない理由とは? 
差別される清掃労働者を救うためにベンチャーが作ったあるモノとは? 
ありそうでなかった、トイレから国家を斬るルポルタージュ!

トイレを求めてインド全土をかけめぐる!
■家にトイレはないけれど、携帯電話ならある
■トイレに行くのも命がけ
■盗水と盗電で生きる人たち
■「乾式トイレ」清掃の過酷さはブラック企業を超える
■「差別」ではなく「区別」と強弁する僧
■アジア最大のスラムの実情 etc.

【目次】
はじめに

第一章 「史上最大のトイレ作戦」――看板政策の実像と虚像
第二章 トイレなき日常生活――農村部と経済格差
第三章 人口爆発とトイレ――成長する都市の光と影
第四章 トイレとカースト――清掃を担う人たち
第五章 トイレというビジネス――地べたからのイノベーション
終章 コロナとトイレ――清掃労働者の苦渋

おわりに
主要参考文献一覧

感想・レビュー・書評

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  • 『日本では、ほとんど誰もが清潔なトイレにアクセスすることができ、トイレのある暮らしが日常に組み込まれている。しかし、インドではそうではない。「トイレ」というキーワードで、貧富の差やカースト、都市と農村の格差といった、インドのさまざまな姿が見えてくるのではないか。そう思って、取材のためにインド各地を歩いた。そこから見えてきたのは、経済成長という言葉の陰でさまざまな問題を抱え、多くの人たちが苦闘しているインドの姿だった。』

    日本から遥か遠くにある国。インド。
    パソコン上に飾られた、成長率という数字だけ見れば、「めざましい経済成長をしている国」と思うのは当たり前かもしれない。でも、どことなく違和感が残るのはなぜだろう、と頭の片隅に思っていた。

    その違和感の正体は、この本を通して、トイレというフィルターから、少しずつ明らかになっていった。
    トイレを増やすことで、衛生面の改善を図ろうとする政策から始まる物語は、トイレを増やすことが目的になってしまった現実を浮き彫りにしている。
    たくさん作ったところで、トイレにまつわる問題…下水管の掃除をするのは身分が低い人だったり、「聖なる川」がどんどん汚れていったり、と、種々の問題は何も改善されていないのだ。
    そして、世襲制であるカースト制度は、改善されつつあるものの、21世紀を迎えた今でも当たり前のように横たわっている。

    トイレを囲む、水回り。そして、衛生環境。
    日本とインドの共通点といえば、カレーくらいしかないと思っていた自分にとって、この本が示す、インドがどんな国かという説明は、ものすごくわかりやすかったし、その着眼点には、脱帽した。

    インドだけでなく、どんな国においても、わかりやすい指標ではなく、数値化しにくいものも見ることで、はじめて全体像がぼんやりと浮かび上がってくるのかもしれない。

    インドのことを全く知らない自分にとっては、単行本レベルの内容の深さでした。

  • スピリッチュアルな世界に関心のあるひとにとっての
    世界の路地裏を歩くバックパッカーたちにとっての
    インドではない
    それこそ 13億人の人間が暮らす
    インドを「トイレ」から見たレポート

    都市であれ村であれ
    どんな場所でも
    バラモンであれダリットであれ
    カーストなど関係なく
    「出すこと」は
    平等で必要なこと

    きっちりとした取材に
    裏打ちされた
    「トイレから見た国家」が
    小気味よくあぶり出されていく

    著者の着眼点のすばらしさに脱帽
    取材をされた人たちへの
    リスペクトも感じられる
    だからこそ
    本音が聞きだせることができ
    だからこそ
    インドの今を語ることに
    つながっている

    現在のインドを語る
    好著の一冊です

  • 891

    佐藤大介
    共同通信社記者。1972年、北海道生まれ。明治学院大学法学部卒業後、毎日新聞社入社。長野支局、社会部を経て2002年、共同通信社入社。06年、外信部へ配属され、07年6月から1年間、韓国・延世大学に社命留学。09年3月から11年末までソウル特派員。帰国後、経済部で経済産業省を担当するなどし、16年9月から20年5月までニューデリー特派員。インド各地の都市や農村だけでなく、スリランカ、バングラデシュなどの周辺国も担当し、取材で現地をめぐってきた。同6月より外信部所属。著書に『オーディション社会 韓国』など。

    日本の首相である 安倍晋三 はモディとの密接な関係を強調し、「世界で最も可能性を秘めた日印関係」などと、インドとの関係の良好さを、ことさらに強調している。インド側でも、安倍が日本を訪問したモディを自らの別荘に招待したことなど、親しい関係であることがたびたび報じられている。

    「インドには家父長的な考え方が今も根強く残っており、女性を無力な商品のように扱い、虐待することはなくなっていません。都市部でもそうした問題が今も起きているので、農村部に行けばなおさらのことでしょう。二〇一二年のレイプ犯罪のあとも、大きく状況は変わっていないのです」  そう語るチャチュラ代表の思い詰めたような表情に、レイプというインドが抱える問題の深刻さが浮かび上がっているようだった。

    「インドの農村にトイレが少ないのは、そうしたことと関係があるのかな」 「もちろんですよ。カネがあればトイレはできるけれど、トイレがあってもカネにはなりません」  その答えに私が大きくうなずくと、ソハンはラムと 嬉しそうに笑っていた。

     だが、ガンジス川での沐浴には、生命の危険にさらされるリスクが伴っている。その理由は、深刻な水質汚染だ。二〇一八年三月、インドの地元メディアは、バラナシでガンジス川の水質調査を行ったところ、一〇〇ミリリットル当たりに含まれる糞便性大腸菌が、基準値の九~二〇倍に達していたことを報じている。驚くべき数値だが、それはバラナシでガンジス川を見ていると納得がいく。ガートのあちこちには周囲の建物から排出された生活用水が集まり、そのままガンジス川に流されているからだ。人々はガンジス川で洗濯をし、顔を洗って歯を磨き、魚を捕ったり泳いだりする。火葬した後の遺灰や、排せつ物までもそのままガンジス川に放ってしまう。バラナシを流れる「聖なる川」は、いつの間にか汚染物質でいっぱいになってしまっていたのだ。

     インドは都市部を中心に人口が増加し、総人口でも二〇二七年には中国を抜き、世界一に躍り出ると予測されている。しかし、都市部を中心に排出される下水の量が処理量を大きく上回っているように、水をめぐる問題はインド全体に大きくのしかかっている。その最たるものが、深刻な水不足だ。  二〇一八年六月、インドの政府系シンクタンク「インド行政委員会(ニティ・アーヨグ)」は、国内で六億人が水不足に直面し、毎年二〇万人が汚染された水によって死亡しているという報告書を発表し、話題を集めた。ニューデリーなど二一都市で、二〇二〇年までに地下水が枯渇する可能性があるとの見通しも示し、インドが「史上最悪の水不足の危機」に陥っているとして、一刻も早く有効策を取るよう警鐘を鳴らしている。

    チャンダーラとは、前述したように身分制度の最下層に位置づけられる存在で、現在のダリットと同じような立場にあった。パティタは規範を犯し、コミュニティーから追放された者を意味している。最下層の身分とされた人たちは、死体のほか、月経や出産といった血に関する「不浄なもの」と同列に並べられ、触れただけで穢れがうつると見なされていた。こうした考えは、マヌ法典の先駆としてバラモン教の社会制度などを記した「律法経」にも見ることができる。

    マハラジュは「ヒンズー教は科学的に証明されたものを教えているので、最も正しいのです」と語るのと同時に、「逆に最も危ないのはイスラム教です。間違っている者は殺せというのが、その教えなのですから」とも付け加えた。

    インドの国旗はサフラン(オレンジ色と黄色の中間のような色)、白、緑で構成されている。サフランはヒンズー教、緑はイスラム教、そして白はキリスト教やシク教、仏教などその他の宗教を示している。インド国旗は特定の宗教に偏るのではなく、融和的な政治を行う国であることを表しているのだが、マハラジュはそうした「世俗主義」は堕落したものととらえているようだった。

    「モディはインドの衛生プロジェクトに関する最大の理解者です。インドには何千人もの人が公衆衛生に関与してきましたが、インドを清潔にするため本当に貢献したのは三人しかいません。ガンジー、モディ、そして私です」

    インドでは、IT技術などを用いて起業したスタートアップ企業の活動が盛んだ。インドのIT業界団体がまとめた資料では、二〇一三年~二〇一八年の六年間で生まれたスタートアップ企業は約七五〇〇社。新たなビジネスチャンスをつかもうと、毎年一二〇〇社ほどが市場に参入した計算で、アメリカとイギリスに次ぐ規模となっている。日本の不動産業界に参入した「OYO」(オヨ) や、モバイル決済アプリPayPayに技術を提供した「Paytm」は、いずれもインド発のスタートアップ企業だ。南部のベンガルール(バンガロール) にはインドのスタートアップ企業の約四分の一が集まっており、人材の豊富さから「インドのシリコンバレー」とも呼ばれている。

  • インドのトイレ事情についてインドへ特派員として行っていた作者が現地の方のインタビューなどをまとめたルポルタージュ。
    家にトイレはなく外で用を足す方がいまだにいるインドだが、トイレを多くの地域に導入するためにトイレを入れた家や地域には補助金などが出る予算をかけた政策が打たれた。だが実際は補助金がもらえないまま排泄物の処理にお金がかかる関係で使われないなどあまり浸透せずに終わってしまった。このトイレがなかなか導入されない理由が経済格差、女性差別、カースト制度によるもので作者は深掘りしていく。
    『三つ編み』に登場するインドのカースト制度や女性差別による苦しみがそのまま描かれていて線と線が結びつく場面が多く、とても面白かった。
    そして現地の人はカースト制度自体に対して批判的な目で見ておらずその制度の中でも状況を改善することを目指している人が多いことがとても不思議に感じた。ガンディーもカースト制度に対しては批判していないことも1つの発見だった。
    星は3.5⭐︎

  • 桃山学院大学附属図書館蔵書検索OPACへ↓
    https://indus.andrew.ac.jp/opac/book/640007

  • インドのトイレ事情は衝撃そのものでした。
    昔親戚の家がボットン便所ですごく嫌だった記憶があるけれど、その比じゃない。
    トイレに行こうとして犯罪に巻き込まれることなど、どうにかならないものかと思わされてしまった。
    経済大国インドのイメージが強かっただけに、その他の部分を知れてよかった。

  • インドのトイレ事情についてのルポルタージュ。
    中国に次いで世界最大の人口のインドだが、トイレがない人たちが約半数ぐらいいる。日本の常識から考えると信じられない話だが、トイレは不便と考えるのがインド人の常識になっているようだ。モディ首相は、トイレ設置による衛生状態の向上を施策に挙げて推進しているが、実態はトイレがあっても使わない。後の処理が面倒だから、費用がかかるから、という人も多いようだ 農村は野糞が当たり前で、そのために犯罪が起きる(特に女性子供)こともあるらしい。またトイレがあるところでも、下水の清掃で命を落とす人たちもいる。カースト制の悪影響の問題を技術で問題解決を目指す人たちの話等々、トイレ事情の信じられない実態のレポートとなっている。 清潔すぎる日本のトイレ事情は、逆に言えば世界の非常識なのかもと思った。
    ちなみにインドには一週間ほど行ったことがある。仕事だったので、空港ホテルと会社のトイレしか使わなかった。特に不自由した覚えはなく、インドのトイレについて考えたこともなかった。ホテルに宿泊するビジネスマンは同じ感想を持つと思う。その国のことは住んでみないとわからないと言うが、まさにその通りだ。インドは好き嫌いがはっきり分かれる国だが、生活事情を見ると判るような気がする。

  • I T先進国と言われるインドの以外な真実を教えてくれる。マスメディアだけの情報を鵜呑みにせずに、本を読んだり、出来れば旅をし、その国の実情を知りたい。ジムロジャースみたいに旅ができればいいのだけど。

  • SDGs|目標6 安全な水とトイレを世界中に|

    【貸出状況・配架場所はこちらから確認できます】
    https://lib-opac.bunri-u.ac.jp/opac/volume/756910

  • サブタイトルは「下から見た経済大国インド」~携帯電話の契約件数は11億以上。トイレの無い生活を送っている人は約6億人。インド首相のナレンドラ・モディが提唱した「スワッチ・バーラト」が成功を収めたのは2019年。クリーンインドを目指すトイレ普及運動だが、どうやら各段階での忖度の積み重ねだったらしく、補助金と借金で家の敷地内にトイレを作っても使わないのは、地下のタンクの汚物の除去に金が掛かるというだけではなく、インド人が不浄とする排泄物は、脂肪・血液・ふけ・耳垢・痰・涙・目やに・汗・鼻汁・精液・小便・大便で沐浴などによって清められなくてはならないとされる。トイレも不浄のもの。乾式トイレが普及してマニュアル・スカベンジャーであるダリッドと呼ばれる不可触賤民が生まれたとする見解もある。不可触賤民は廃止されたとされ、カーストによる差別は禁止しているが、カースト自体は廃止されていない。ガンジーも、モディも、トイレの聖人・ビンデシュワル・パタクもカースト自体は否定していないのだ。トイレビジネスは大きな可能性を持っているが、不浄感を変えることはできるのか?屋外で用を足す人は多いし、近代的なトイレで用を足す人たちの下水も処理し切れていない~良い本だったね。他国のことだが、我がこととも考えられる。浄不浄感は日本にも共通するから

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著者プロフィール

共同通信社記者。1972年、北海道生まれ。明治学院大学法学部卒業後、毎日新聞社入社。長野支局、社会部を経て2002年、共同通信社入社。06年、外信部へ配属され、07年6月から1年間、韓国・延世大学に社命留学。09年3月から11年末までソウル特派員。帰国後、経済部で経済産業省を担当するなどし、16年9月から20年5月までニューデリー特派員。インド各地の都市や農村だけでなく、スリランカ、バングラデシュなどの周辺国も担当し、取材で現地をめぐってきた。同6月より外信部所属。著書に『オーディション社会 韓国』など。

「2020年 『13億人のトイレ 下から見た経済大国インド』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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