- Amazon.co.jp ・本 (146ページ)
- / ISBN・EAN: 9784037441609
作品紹介・あらすじ
あの朝、ヒロシマでは一瞬で七万の人びとの命が奪われた。二十万の死があれば二十万の物語があり、残された人びとにはそれ以上の物語がある。なぜわたしは生かされたのか。そのうちのたった三つの物語。
感想・レビュー・書評
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◆夏の自分課題図書。被爆2世である筆者が取材の上あらわしたヒロシマの、あの日から始まる三つの物語。◆『黒い雨』を思い出すものの、作者の持ち味である情緒豊かな美しい言葉選びに、最初は「キレイ過ぎる」印象。しかし、物語が進むにつれ、増えるにつれ、作者の語りたかったことが力強く立ち現れてくる。「なぜ私ではなかったのか・なぜ私が生かされたのか」。「生かされた人びと」がいかに心を押しつぶされ、生きる意味を見失って苦しんだかを語り、その苦しみを記憶した生に意味があることを見出し肯定する、被害者・被災者を支える物語。◆最終話「水の緘黙」の告白には、涙せずにはいられない。平易な文章で、ルビも付けられているので小学生からでも読むことはできるが、対象年齢は、他者の痛みを想像できる段階にあるもの以上。この本の「意味」が多くの人に伝わりますように。【2013/10/09】
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とても良い良い、とすすめられて、
天の邪鬼でもあることだし、
さらには戦争関連本嫌いである私は手を出せずにいたのですが、
ようやっと不承不承、読んでみました。
(戦争関連本は辛いからいやなの)
すでに原子爆弾をめぐるフィクション、
ノンフィクションを問わない作品群があまた存在する中で、
なぜこの本なのか?という問いがあるなら、
答えは、この本はいろいろな意味で「きれい」、
ということなのではないかと思いました。
装丁がきれいで、中の字組もきれい。
透明感のある文体。
しかし・・・
それほどよく書けているとも思えないのが不満。
書きたい内容と小説としての言葉が求めるものの間に
乖離もしくは矛盾が生じることがあり、
それがお互いにしのぎを削るところに「作品」としての面白みがぎりぎり成り立つのだとすると、
戦争を扱ったものは内容に重きがおかれがちで、
それが作品としての質を低下させてしまうような気がしてしまうのです。
3つの連作の中でいえば、最初の「雛の顔」が一番面白くなりそうな可能性があって、
前半で「真知子」というせっかくよい材料を持って来たのだけど、
どうしても内容にひっぱられて後半月並みになってしまった。
結局全体としても、戦争について素敵な文体/言葉で書いてみました、
みたいになってしまったところが残念。
戦争関連のフィクションは、
ベクトルがはっきりしたメッセージ性を排して、
もっと文学作品としての質に真剣に向き合ったら、
結果的に効果的なメッセージ性を有した作品になるだろうと思うのだけど、
素人考えでしょうか。
戦争関連本が苦手なあまり、
かなり辛口になったきらいがあります。
『あのころフリードリヒがいた』とか『夜と霧』のような本は、
辛くても読む意義があると思えるのですが、
作品の質が中途半端だと、読まなくてもいい!と思ってしまうのは、
私の偏った考え方なのかもしれません。
いろいろと不満はありますが、
とりあえず、今の若い人に読んでもらうには
手頃な感じは否めません。
小学校高学年女子なら読みそうな感じです。 -
朽木祥というひとは誠意があり、書いていることもまっとうだし、今どきの若い作家に比べたら日本語もちゃんとしているし、特に文句はつけられないんだけど、なんだか強く惹かれるってこともないのよね。
これは広島に原爆が投下された前後のことを3つの短編にしていて、どれも悪くないけど、最初の「雛の顔」なんて、真知子という母が凄く魅力的な人物なのに、小説として生かし切れていない感じ。
思うに、この人は「こういうことが言いたい」という観念が先にあって書いているんじゃないかなあ。
登場人物がいきいきと自然に動いてるという感じはしないのよ。
広島の惨事から、平和の大切さを学ぶっていうのは大切なことだけど、読み手が登場人物にもっと感情移入できるように書いてあれば、失われたものの大きさが、よりリアルに伝わるんじゃないだろうか。
児童文学の書き手として有名な人だからこそ、余計そう思うのかもしれないが。 -
「あの人たちが死に私たちが助かったことにどんな意味を見いだせと、神が考えているのか、私にはどうしてもわからないのです」
そうか、とうとうあの三月のことを物語で思い返す時期がきたのか……と、読了後しばしぼんやりしてしまった。
なぜあのひとが死ななければならなかったのか、なぜ自分は生き残ったのか、そういうことに理由を見出さないと生きていけないから考えるけど、本当は理由なんかなくて、ただ生き残ったという事実だけが刃のように冷たく突き付けられているだけで、ともすればその冷たさに負けてしまいそうになる。そういうひとたちがきっといま、本当はいっぱいいて、これからもっと増えていくかもしれない。
そういうときに何かの救いとなれる力を持った物語がずっと、忘れられずに、書き続けられますように。 -
静かに始まる文章。一瞬ですべてを破壊された人々の悲しみが静かに伝わってくる。
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広島に原爆が落とされた日。一瞬で街が壊滅し、人々は死んだ。助かった人も人とは違うものになってしまった。あまりにも恐ろしい原爆の威力だが、児童書だからか読みやすい。あの戦争であんな恐ろしいことがあったことを決して忘れてはいけない。それが後世に生まれた者の義務ではないか。「あの日を知らない人たちが、私たちの記憶を自分のものとして分かち持てるように」。