- Amazon.co.jp ・本 (303ページ)
- / ISBN・EAN: 9784037269609
作品紹介・あらすじ
シリア人の少女アーヤは、イギリスで難民認定を待っているところだ。
内戦で住めなくなったシリアを脱出し、ようやくマンチェスターに辿り着いた。途中、小さなボートで海を渡る際に父と離れ離れになり、気力を失った母を支えながら赤ちゃんの弟をつれて、毎日、難民支援センターに通っている。
ある日、同じ建物にバレエ教室があることに気づく。シリアでバレエを習っていたアーヤは、そこで明るい少女ドッティや先生ミス・ヘレナに出会い、踊ることで息を吹き返していく。
希望とあたたかさと人間性に満ちた、2020年〈カーネギー賞〉ノミネート作品。
感想・レビュー・書評
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新型コロナウィルスのニュースが日々の中心である日本は。やはり平和な国なのだろう。
世界の至る所では、紛争が続いており、コロナのワクチンどころか、もっと恐ろしい感染症と隣り合わせで生活している人々がいる。
アラブの春の余波がシリアにも及び、アサド政権と反政府勢力との武力衝突が始まるまで、アーヤは、アレッポで家族4人と幸せな日々を送っていた。
他の国のように、政権が倒れて、すぐに人々にとっての日常が戻ると思っていたが、衝突は内戦になり、多くの人が命を落とす惨状となっていく。
アーヤの父は医者で、戦火で怪我を負った人々の手当に奔走していたが、いよいよ国を出て、かつて暮らしたことのあるイギリスを目指すことを決断をする。
物語は11歳のシリア人の少女アーヤが、シリアからイギリスにたどり着くまでの物語と、イギリスのマンチェスターで難民申請をするために過ごす日々が並行して描かれている。
難民という括りではなく、1人の普通の生活をしていた少女として、自分を見てほしいという人としての尊厳。
イギリスに来るまでの過酷な道のりのトラウマ。
イギリスで出会った信頼できる大人と友人。
父の教えと心の支えであるバレエ。
いくつものキーワードが重なり合い、読む者の心に迫る。
今も内戦が続くシリア。
タリバン政権のアフガニスタン、パレスチナ問題。
この世界には、ごく一部の権力者によって普通に暮らしていた人々の人生が失われた物語が無数にあることを忘れてはならない。
またその戦争の根本には、かつての植民地支配による問題があることも知るべきだろう。
できるならば、旧宗主国の作家ではなく、当事者である国の作家が描いた物語が世に出てほしい。
2022.2.16詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
世界の難民の27%がシリア難民だそうです。
しかも、まだ「難民」になれない「庇護申請者」というものがあると
この本で初めて知りました。
主人公アーヤは大変な思いをしてイギリスにたどり着きます。
普通に自分の家で暮らせることが、どんなに幸せなことかと改めて思わされます。
戦争さえなければ、彼女たちは平和にシリアで暮らせたのです。
〈あたしも、みんなとおんなじ、ただの女の子なの。
生活をめちゃめちゃにされることを自分から選んだわけじゃないーでも、ことばは出てこなかった〉
いまウクライナが大変なことになっていて、住民の皆さんはアーヤたちのように怖い思いをしているにちがいありません。
少しでも早く、ロシアが撤退することを
願ってやみません。 -
シリアから戦火を逃れてイギリスへ来たバレエ好きな少女アーヤ。母と幼い弟と難民認定されることを待っている日々。
幸運にもアーヤは再びバレエ教室に行けることに。
バレエを通じて少女たちの心が通い合う。 -
すごくよくて、最後は涙をこらえながら読んだ。
たしかに、アーヤにバレエの才能があり、逃れた先でもすばらしい先生と出会い……という展開は、甘いといえば甘いのかもしれないけど、希望がないとなかなか先を読む原動力が生まれない。
でも甘いだけでなく、アーヤの今と、これまでを描くなかから、シリアでバレエ好きのふつうの少女として暮らしていたこと、ある日戦争がどんどん迫ってきて逃げ出すしかなくなったこと、過酷な逃避行とお父さん……、難民キャンプのつらさ、ひたすら希望のない待機を迫られる難民申請の理不尽さなどなど、きびしい現実も描かれていて、日本の入管などのことも頭に浮かび、つらくなる。
そして、そういったもろもろのことを外からの視点じゃなく、ある日突然「難民」にならざるを得なかったアーヤの視点から読むことができるのがいい。周囲の無理解や偏見を受ける心の痛み、失われた人や暮らしへの悲しみ、自分と家族の人生が「申請」と「審理」で決められてしまう絶望感、一縷の希望、そして自分だけがイギリスで踊り続けてもいいのかという罪悪感などがありありと伝わってくる。
かわいいバレリーナの(ちょっと日本人ぽい……というか、ヨーロッパ人ぽい?!)表紙だけど、踊る人にも踊らない人にも、男の子にも女の子にも手にとってほしい本。 -
バレエの描写が美しい。
主人公の心模様がしっかりかかれていてすっと同調できる。
友人たちがよいキャラクター。
やさしいはなし。
主人公がとてもつらい経験をしているけど、その悲しみにのまれないところがすごい。 -
不安定な世界情勢、複雑で分からない事を児童書で取り込んでみようと手に取りました。難民と庇護申請者の違いなど、理解していなかった部分が大人の私にもよく分かりました。訳者も巻末に寄せていますが、「世界を良くするためにひとりひとりができること」を改めて考えるよい機会になりました。
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内戦でシリアを追われた少女アーヤは、長い旅の末、イギリスへとたどりついた。母は病み、幼い弟の世話をしながら、難民申請のために長い時間待ち続ける毎日。ある日、支援センターの二階でバレエ教室が開かれていると知ったアーヤ。シリアで習っていたバレエ教室を思い出し、体がひとりでに動き出す……。
今この瞬間にも難民と呼ばれる人は増えている。シリア、アフガニスタン、そしてウクライナ……。日本ではそういう人々と関わる機会は少ないかもしれないので、こういう本はぜひ読んでもらいたい。
難民に関する物語を何冊も読んだ。この場合はイギリスだが、政府の対応はひじょうに遅く、一元管理されるため個々の事情には配慮していられないと描かれている。すべての難民を助けることが難しいのはわかる。だからこそ、知り合った個々の相手を助けたいと思う意識、一人一人が動くことが大切だと思われた。
アーヤの「ダンスに爆弾を落としたり砲弾を撃ちこんだりはできない」と考えるところがとてもよかった。人の思いや、ダンスでなくてもスポーツ競技や、文学や、そういうものを壊すことはできないということが伝わる。
ドッティは、時々ちょっと無神経じゃない?と思うようなことをいうので、読みながらハラハラしてしまった。
現代の戦争だけでなく、過去ともつながっているところがこの作品のさらに良いところ。悲しいことに戦争という過ちがなかなかなくならないが、人と人が助け合う希望だって、失われることはなくつながっていく。