ネタバレを含みます。
主人公のメアリは上巻を逆境からスタートし、幾つかの謎を上巻の終盤までに解き、巻末の時点で幾つかの達成すべき課題を見いだしました。それらの課題とは従兄弟コリンの健康回復、コリンの父との和解、花園の回復です。それでこれらの課題を達成すべく下巻に入る訳ですが、実はこの下巻ではこれらが達成されるべくして達成されるという、言ってみればほとんどそれしか起きません。しかしだからといって退屈ということはありません。ただ、そんな構成は珍しく大胆なのではないかと僕は思いました(およそ百年前に書かれた古典に珍しいと言うのも変かもしれませんが)。とにかくこの下巻では起こるべき幸福だけが起きてゆくので、巻全体を幸福な雰囲気が包んでいます。花園やムアの自然描写とコリンの「魔法」への傾倒とあいまって、なんともそれこそ魔法的な幸福感に満ちています。それが本書が読者を魅了するところではないでしょうか。また、これは時代がそうさせたのか著者ならではなのか、ある種の哲学というか、科学への希望も強く読み取れます。それは心理が健康や外見など物理に影響する一方で、環境も心理に影響を与え、ポジティブにもネガティブにもスパイラルが形成されうるという考え方で、本書の一つのテーマなんだろうと思いました。
我が家の小3娘はすっかり本書の幸福感に魅了され、読後にも嬉しそうにしていました。先に述べたように僕にとっては予定調和の下巻でしたが、娘は「思ってもみないようなことが起きて面白かった」と言ってました。上巻の出だしに主人公がかわいくないというのがインパクト大だったというのはあると思います。クラシックな挿し絵も慣れたら、とても綺麗だったと娘は誉めてました。小1息子も全体的に喜んでましたね。もしかしたら彼らの今年度一番の本になったかもしれません。お勧めです。