寿町のひとびと

著者 :
  • 朝日新聞出版
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  • Amazon.co.jp ・本 (368ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784023319134

作品紹介・あらすじ

日本の3大ドヤ、寿町の全貌を明かす「読む立体地図」。わずか200m×300mほどの町の中に120軒ものドヤがひしめく。染みつき、絡み合い、裸のまま、心の底からぶつかり、交わり、生きるひとびと。そして、あなたは町の中に入っていく……。

感想・レビュー・書評

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  • 東京の山谷、大阪の西成と合わせて日本三大ドヤ街と言われている横浜の寿町。横浜の中心部にあり、めでたい名前ではあるが最貧困地区という現実。
     
     その寿町を取材した本が出版された。
     
     足かけ6年という取材期間。住民の高齢化と高い罹患率。取材した人をしばらく振りに訪ねると、もう亡くなっていた、ということも頻繁にある。生活費をギャンブルや酒に全てつぎ込む人、貧困詐欺に無自覚に加担している人、病気で働けない人、そんな人たちを支援する福祉の人々、ドヤ街が形づくられる前から住んでいた人々、支える人、支えられる人、の様々な人家模様が描かれている良書だ。ルポルタージュとして、酔っぱらいの昔話を鵜呑みしていいのかという問題点もあるけど、故郷や肉親縁者との絆を断ってここに流れ着いた人たちの過去を追跡するのは難しいのだろう。
     
     戦後の高度成長期、工場地帯には体ひとつで稼げる仕事が溢れていた。仕事のない地方から続々と出稼ぎ労働者が押し寄せ、彼らが泊まる安い宿泊所、ドヤ(ヤドというのも憚られるくらい粗末なヤドだったからドヤと呼ばれるようになった、と言われている)が建てられた。海上物流の拠点であった横浜港にも仕事は余るほどあった。働けば働くだけ金は稼げた。家族のために金を送る人が多かっただろうが、若くて、体も頑強な肉体労働者にとってドヤ街をとりまくネオンサインの歓楽街は魅力的だった。酒や女やギャンブルに溺れ、借金まみれになる人もいた。依存症になる人もいた。友人と思っていた人に騙され、借金を肩代わりして破産した人もいた。そして面目がなくなって、故郷に帰ることもできなくなり、この街から離れられなくなった。

     寿町が他のドヤ街と違うのは、各地の経済がバブル崩壊とともに縮小していったにも関わらず、横浜だけはつい最近まで、みなとみらい地区の再開発という巨大プロジェクトが進行していたということだ。

     常に住みたい街のランキングで上位になる横浜(横浜駅周辺とみなとみらい地区)を建設してきたのは、寿町に集まってきた労働者たちだ。景気の良いときは3Kと呼ばれた仕事を担ってきた重要な作業員たちだが、再開発も縮小し、工事現場でも大型機械化が進んで、人力に頼らなくなると、調整弁として使い捨てされたのも寿町の労働者たちだ。

     こんな一等地に貧困地区を抱えなくてもいいじゃないか、彼らを他の地域に移して、再開発したほうが横浜の発展に繋がるじゃないか、そんな意見はチョイチョイ挙がるらしい。

     井戸水の恩恵を受けておきながら、井戸を掘ってくれた人の恩を忘れるような横浜でいいわけがない。
     そんな人はハマッ子失格!

  • 自分の地元の特殊な町の様子を描いた本、知っている町をもうちょっと知れるかな…程度で買ったのですが、私は何も知らなかった。
    通った事もあるし見た事もある建物や商店。
    しかし、それは通っただけだし見ただけだと気付かされた。
    登場する苦しい生活を強いられている人達に、私はやはり偏見を持っている。
    この本を読み終えた今、180°とは言わないが、真実90°くらいは見方が変わったと思う。
    自分はこういう状況には絶対になりたくないから必死に生きようとか、そういう考えを持つ事でも、立派な理解なのだと思える。
    真の無関心こそが悪と思う。
    自分に出来る事を見付ける事が、ひいては自分の為にいつだって成る。

  • つい最近、友達が教えてくれた話。
    AIを組み込んだ、赤ん坊の泣き声の分析器というものが
    開発されて、そのAI機器を使えば、赤ん坊がどんな状態であるかがたちどころに分かる、というようなものらしい。
    でも、これもの凄く変ですよね。
    というお話だった。

    さて、本書
    生身のノンフィクション・ライターの山田さんが
    寿町に暮らす生身の凄い人たちに
    聞き取りを重ねて、成り立っている一冊。

    生身の人間だからこそ
    ぶち当たった壮絶な体験、
    それを乗り越えてきたしたたかさ、
    根底に横たわっている他者への愛情、
    まぁ 生々しい実態と
    想像を絶するような克服の史実が
    丁寧な取材と聞き取りに
    現れてくる。

    読みながら
    宮本常一さんの
    「忘れられた日本人」が
    何度も思い出されていました。

    生身の人と生身の人が
    出遭うからこそ
    生まれてくる「暮らし」が
    ここにある。

    冒頭のAI分析器、
    やっぱり おかしいと 思う。

  • 寿町には行ったことがあるし、その成り立ちや最近の様子も少しは知っているつもりだった。
    そこにどんな歴史があったのか全然わかっていなかったくせに。

  • ノンフィクションはやはり面白い。

  • <目次>
    序章   文庫版のための新話(寿町のニューウェイブ)
    第1章  ネリカン
    第2章  ヘブン・セブンティーン
    第3章  愚行権
    第4章  キマ語
    第5章  沖縄幻想
    第6章  帳場さん二題
    第7章  さなぎ達
    第8章  刑事
    第9章  寿共同保育
    第10章  山多屋酒店
    第11章  寿生活館
    第12章  人間の謎
    第13章  白いズック靴
    第14章  お前は何者か

    <内容>
    初刊は2020年。朝日新聞社出版の「一冊の本」連載の記事をまとめたもの。文庫化に際し、序章を加えた。横浜・寿町は、自分の営業時代に、先輩から「あそこの町には車で行くな!当たり屋にやられるぞ!」と脅された街。事実、その周辺の街でたかられたこともある。自分のような一般の人間からすると、異様な街であり、異臭のする近づきたくない街なのだが、様々な事情でこの街に集ったもの達と、それを助けるべく集まったもの達には、それぞれ様々な人生がある。答えのない日々を、人間がもだえ苦しみながら、でもそれがよいことなのかもしれない。全うに生きているはずの自分たちの方が、かえって異常なのかもしれない。

  • 日本三大ドヤと呼ばれる横浜の寿町。
    その町で支援する人と支援される人を追ったルポでかなり読み応えがあるものだった。
    みなとみらいの近代的でおしゃれなエリアのイメージが強い横浜にそういったエリアがあることに単純な驚きがあった。

    基本的に人間は自身の立ち位置からしか発言ができない。という前提で、この本に登場する人々から相対的に恵まれた人生を歩んでいる私の視点からこの本を読んだ感想を以下に残す。

    まず自身に自己責任論というものが根付いているということを感じた。他人に対して支援を続けれる人というのは、その人が何かしらの犠牲になった被害者であるという認識をしている印象を受けた。その認識の違いは支援を考える上で大きな障壁となり得るということを感じた。

    この本では家族福祉や企業福祉、公的福祉からも抜け落ちた人を地域福祉によって手を差し伸べるようなエピソードがよく出てくる。地域福祉とは言い換えるならば他人同士の互助である。田舎での近所付き合いはあくまで自身がコミニティから阻害されないようにするためのものであり、全くの他人に対して手を差し伸べる寿町のものは宗教の喜捨に近しいものを感じた。
    社会の枠組みは人間全てを包括出来るものではなく、その枠組みから外れてしまった人を保護するものは突き詰めれば人の繋がりしかないのではないだろうか。

    能登半島地震の際に少なくない金額を寄付した友人の話を思い出した。彼は家が裕福というわけでも、20代の中で突出して給与が高いというわけでもないにもかかわらず寄付を決断した。そいつに理由を尋ねたところ、「自分が貰うだけの立場になった時に、あげたことがなければ自己嫌悪に陥ると思う。」とのこと。
    自己保身のような言葉にも聞こえるが、この本にも通づる。自分のために他人に手を差し伸べる。理由はどうあれ、それは経済合理性というものを超越した人との深い繋がりを示す行為なのだと思う。

  • 労働者の街であった寿も住民の高齢化が進み介護事業所のような福祉関係の施設が目立つようになりました。寿の変遷を知ることができるノンフィクションです。
    寿共同保育っていうアナーキストのコミューンみたいなものが存在していたのは知りませんでした。

  • 人々と町の歴史がなんとなくわかる

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著者プロフィール

ノンフィクション作家

「2019年 『パラアスリート』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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