児童虐待から考える 社会は家族に何を強いてきたか (朝日新書)
- 朝日新聞出版 (2017年12月13日発売)
- Amazon.co.jp ・本 (216ページ)
- / ISBN・EAN: 9784022737434
作品紹介・あらすじ
【社会科学/社会】年間10万件を突破し、今なお児童虐待は増え続けている。困窮の中で孤立した家族が営む、救いのない生活。そこで失われていく幼い命を、なぜ私たちの社会は救うことができないのか? 日本社会の家族規範の変容を追いながら、悲劇を防ぐ手だてを模索する。
感想・レビュー・書評
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読了しました。
著者の新聞掲載を昔に見てからのファンで手にした本です。
著者は「児童虐待」を追いかけるフリーライター。
大阪で2児がが置き去りになった事件から、児童虐待なんかが起こるのか知りたいと思っていました。その中、出会ったのが著者です。
「児童虐待」は話しを聞くたびに、目を耳をそらしたくなるようなものです。
一般的な報道では、直接の加害者(父、母など)のみ断罪して終わります。
それで本当に、失われて命が報われるのか、心にモヤモヤが消えませんでした。
著者は、その問いに答えてくれます。
相当な時間をかけての調査、加害者・関係者との接見。外見だけで語りません、その本質を抉ります。
目をそらさず、丁寧かつ誠実で、そしてシャープな視座で語ります。
なぜ加害者はそこ至ったか。原罪はどこにあるのか。さらなる提言本を読むと正直つらくなります。涙が止まらない事もあります。
加害者が特殊ではありません。誰しもその心は持ち合わせます。
最近は児童虐待の報道が少なくなりましたが、決して減っているわけではない。
本書は著者の活動をまとめたものです。
貧困、格差がもたらす負の連鎖。
普通に暮らしていたら、全く見えません。報道もされません。思う事から始まることがある事を得ました。
小さくて私にできることは何かを考える気持ちにさせてくれる本です。
また、自分の子どもを抱きしめたくなる本です。
誰でもできる、児童虐待ダイヤル189(いちはやく)
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ルポ虐待を読んでからすぐ拝読。
苦しい話だが、ただただ感情的な個人の悲しい 目を背けたい事件 で終わらせず、背景や物語を丁寧に伝えてくれる。
いま、自分が生きるために食事の準備をしたり栄養を考えたり運動したり、誰かと一緒にいきようとしたり、ペットのお世話をしたり、保育士になったり。それらは"普通のレール"かもしれない。けどそのこちら側の普通は、向こうにとっての"知らなかった生活"な場合もあるのだと。そうした若者が、小さい時にアタッチメントのなかった子どもが歳を重ね性に出会い親になっていく。
社会の仕組みや戦争時代のレポートを含めた聴取や、何より孤児を出さないことが虐待防止になると知った。フィリピンの在留孤児についても学びになった。 -
虐待をするのはひどい親、と言うのは簡単だが、実はそう単純ではない。DV、貧困、両親との不仲、社会的孤立、非行、幼少期の虐待経験、軽度知的障害など、重なりに重なって親を苦しめている現実がある。
読んでいると、目を覆いたくなるような悲惨な状況があり、何の罪もなく亡くなった子供達が本当に哀れだと感じた。
満州女塾の話と、現代の児童虐待の状況が似ているという見方がなるほどと思った。追い詰められた人間のしわ寄せが、一番弱い者へ向かう。
考えさせられる箇所が多々あったが、著者の取材を元に書かれた文章は非常に具体的で、読むのに辛い部分もあった。 -
知的な水準が障害かそうでないかのボーダーライン上にあると思われる親たちは、その意図はなくても、支援を求められないため、結果的に子供を虐待してしまう。他方、こういう人たちは、職場では遅刻もなく高い評価を得ている。コツコツ積み重ねていくことは得意なのに、抽象的な思考や見通しを持つことに難があり、時系列で説明するのも苦手。普通の大人なら人に助けを求めるのに社会にSOSを出せず孤立感を抱えている。昔であれば地域や社会がそんな人たちの面倒をみてきた。
精神遅滞と呼ばれる人たちは生物学上では2%程度と言われる。日本には270万人いる計算になるが、障害者手帳を取得している人は全国に74万人。
社会の中で孤立するのは力の乏しい親たち。こういう人たちには必要な情報も行き届かない。役所は基本的には申請主義。激増する児童虐待の中にあって、そのあり方が問われている。 -
事件の裏側、社会構造を理解できた。
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2階開架書架:367.6/SUG:https://opac.lib.kagawa-u.ac.jp/opac/search?barcode=3410164138
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タイトル通り、虐待に詳しいルポライター杉山春の考察がまとめられた本書。子どもを死なせてしまった親の実像から社会のあり方まで様々な考察が収録されている。先日読み終わった森達也著『U』と同じテーマが含まれている偶然に驚いた。
あるシングルファザーはアパートに子どもを閉じ込めて働いていた。その末に死なせてしまうが、その後7年間家賃を払い続けていた。彼には知的障害があった。IQ69は境界知能より低いが、仕事はこなしていた。それを根拠に「子どもの死を予想できたはず」として長い懲役刑の判決が下った。
そこにはマスコミと裁判員制度の問題が絡んでいる。マスコミが虐待に対する市民感情を煽る。虐待死させた親は「鬼畜」(石井光太著『「鬼畜」の家』)とされる。それを背景に、虐待に対する厳罰化が進んでいる。それを加速させているのが裁判員制度だ。裁判員にはレッテルを貼った説明が分かりやすい。「残酷な親」というレッテルが裁判員の感情を揺さぶる。
虐待は親子という最小単位の問題だが、家族の問題でもある。そしてそれは、地域の問題であり社会の問題でもある。ゆえに、本書は様々な話題に展開していく。大変勉強になる良書であった。 -
TV番組で杉山春さんを知り、読みました。
虐待ニュースを見聞きするたびに感じた何で?どうして?に答えてくれた本。
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増え続けて社会全体の問題になっている子ども虐待に対して、その背景にある複雑な問題を理解することができます。なぜ子どもを虐待してしまったのか、また命を守るために何ができるのかを考える機会になります。
大阪府立大学図書館OPACへ↓
https://opac.osakafu-u.ac.jp/opac/opac_details/?reqCode=fromlist&lang=0&amode=11&bibid=2000896802