アメリカの大学の裏側 「世界最高水準」は危機にあるのか? (朝日新書)

  • 朝日新聞出版
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  • Amazon.co.jp ・本 (280ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784022737038

作品紹介・あらすじ

【社会科学/教育】管理職が手にする報酬5億円! 中退率50パーセント! アメリカの大学改革をまねし続ける日本の教育界はこの実態を知っているのか? 巨大格差を「再生産」する驚愕の実態を在米20年以上の現役大学教員が徹底リポート。竹内洋氏との初の親子共著。

感想・レビュー・書評

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  • 著者は、ウィスコンシン大学ミルウォーキー校で犯罪学を講じる准教授で、竹内洋教授(教育社会学)の長女。竹内教授は、第6章「アメリカを『鏡』に日本の大学を考える」を執筆している。

    日本の大学行政においては、英米(特に米)の大学制度が普遍的で優れていると妄信する傾向がある。しかし、日本の大学には日本の社会・文化に基づく制度が、歴史的背景の中で不完全ながらも構築されてきており、単純に米国の教育制度の「形」を採り入れれば良いというものではない。アメリカの大学の制度から学ぶ場合でも、その長年の経験と精神と現状(裏側)を学ばなければならない。取り分け、日本では欧米と異なり、企業と大学との連携・信頼の欠如が大学改革を阻害する要因となっていることは「重要な相違」である。
    本書は、「大学改革の時代はますます大学経営陣の才覚が問われる時代」にあって、アメリカの大学事情を知る第一歩として、貴重な情報を与えてくれる。
    特に印象に残った点を以下に列挙する。

    〇大学ランキングの攻略事例
    ノースイースタン大学(ボストン,MA)の事例を紹介。教員数の増加、志願者数を増やすための簡素なネット出願の導入、新入生の「歩留率」を上げるための新寮の建設、大学のイメージアップを図るため、他大学学長との接触などを積極的に進めた。
    〇カーネギー分類と大学評価
    2014年以降、インディアナ大学教育学部の管理下にある。博士号授与大学(Doctoral Universities)約300校の中で、R1(約100校)に認定されることは、大きな名誉となる。
    〇テニュア制度
    本来は、政府や世論からの圧力による解雇をなくし、アカデミックフリーダム(学問の自由)を保障することが目的(1994年に定年制が年齢差別撤廃を理由に廃止されたからは終身身分保障の意味合いが強くなった)。テニュアを持つのは、アソシエイト・プロフェッサーとプロフェッサーのみ。テニュア・トラック(テニュア取得審査対象のアシスタント・プロフェッサー)に乗ってからの審査内容・プロセスが紹介されている。テニュア取得後に「枯れ木教授」にならないための「テニュア・レビュー」を設ける大学も増え、胡坐をかいていられない(世論もテニュア制度に対して厳しい)。テニュアを持つ教員の割合は減少。一方で、非常勤講師の割合が増えており、この傾向は特に州立大学で顕著である。
    〇授業料高騰の要因
    州立大学では、州からの財政支援金が削減されている(大学は授業料収入が得られるので、州も財政支援を減らしやすい)。公私立大学に共通する原因として、大学運営に係る管理職(高給)の増加、専門職(ITサポート、心理カウンセラー、進路相談員、法務関係など)の増加が大きい。厳しい財政事情の中で、収入確保策として力を入れているのが留学生受入れである。
    〇学生ローン地獄
    およそ2/3のの学生が、卒業時にローンを抱えている。2000年と比較して、学生ローンの借入総額は4倍以上に。この背景には、学費の高騰だけでなく、「高等教育法」によって、大学就学費用は政府が補助すべきもので、家庭の責任ではないという考え方が浸透していることもある。
    一方で、アイビーリーグのようなトップレベルの私立大学では事情が異なる。例えばハーバード大学では基金が約4兆円もあり、アメリカの平均世帯所得(5万ドル前後)よりも多い6万5千ドルを低所得者と見做して授業料を免除するなど、授業料減免・奨学金制度が非常に充実している。
    〇ホリスティック(総合評価)入学者選抜
    歴史的には、アイビーリーグなどにおいてWASPなどのエスタブリッシュメントが自集団の身分防衛として他の階級や身分集団(従来はユダヤ人。最近はアジア人)を排除するように機能してきた。エリート大学に限定すると、この選抜方法で優遇されるのは、スポーツ選手が多く、続いてマイノリティー人種(大学によってはアジア系は対象外)、レガシー(当該大学の卒業生・教職員の子弟。巨額の寄付金が条件であることも)、早期決断に出願した学生、ファースト・ジェネレーション(初めて大学進学者を送り出す家庭の出身者。但し3年以内に1/3近くが退学する)である。
    スポーツ選手が多いのは、大学スポーツが卒業生を含めた大学ブランドに求心力を持たせ、寄附金や志願者増に繋がり大学の収益源になるという発想による。しかし財政面でみると、高給の監督コーチ採用、遠征費、施設の維持費(大学が競技場の建設に力をれ始めたのは1920年代以降)、「タイトルナイン」という男女平等の条例のため、マイナースポーツの女子選手も確保する必要があり、「金食い虫」となっていることが多い。

  • 著者:アキ・ロバーツ
    著者:竹内 洋

    【メモ】
    https://uwm.edu/sociology/people/roberts-aki/

    【書誌情報+紹介文!】
    ISBN:9784022737038
    定価:886円(税込)
    発売日:2017年1月13日
    新書判 並製 280ページ 新書603

    日本の大学改革がアメリカを「お手本」にして、本当にいいのか? 現役アメリカ大学教授による渾身のリポート! そこから考察した「日本の大学論」も収録。すべての大学関係者、受験・留学希望者、保護者必読!

    [主な内容]
    ・超名門大学が「階級格差」を再生産!
    ・世界一高い授業料、学生ローンは100兆円超え!
    ・過酷な教員終身雇用(テニュア)審査
    ・大学に居座る「枯れ木」教授
    ・学生の成績はインフレ状態
    ・コロンビア大学長の報酬は年4億6千万円!
    ・大学スポーツのコーチ年俸7億円!?
    ・実用主義vs文系リベラル・アーツ
    ・大学を冷遇する反知性主義の政治家たち

    【簡易目次】
    第1章 ランキングからみるアメリカの大学 
    第2章 「テニュア制度」(終身雇用制)のメリット・デメリット 
    第3章 庶民には手の届かないアメリカの大学 
    第4章 アメリカの大学受験の勝者はだれ? 


    著者:アキ・ロバーツ
    著者:竹内 洋
    地図制作:鳥元真生


    【目次】
    はじめに(アキ・ロバーツ) [003-008]
      参考文献 

    目次 [009-015]
    全米地図 [016-017]

    第1章 ランキングからみるアメリカの大学 
      世界大学ランキングで有利なアメリカ? 
      大学ランキングを「攻略」せよ 
      ランキングを上げて「2億円の慰労金」 
      アメリカの学部生にとっての「名門」大学とは
      大学教授に好まれる大学とカーネギー分類法
      R1は名門大学の証? 
      R1とR2の格差 
      四年制大学に進学しない事情 
      営利大学での学位は「キワモノ」扱い? 
    参考文献 053

    第2章 「テニュア制度」(終身雇用制)のメリット・デメリット 
      終身雇用を約束される大学教授 
      消えていくテニュア付教授 
      名門大学卒でないとテニュアは無理か 
      テニュア・トラックになる裏道 
      ギャンブルのような配偶者雇用 
      テニュア審査合格への道 
      美人はテニュアに有利? 
      「枯れ木」教授 
      若い研究者の芽を摘む 
      テニュアに落ちたら 
      テニュア・トラックは女には向かない職業か 
      テニュア制度の終焉? 
    参考文献 101

    第3章 庶民には手の届かないアメリカの大学 
      世界一高い授業料 
      授業料高騰の原因
      州に見捨てられた州立大学 
      庶民はハーバードにタダで行ける? 
      大学スポーツは大学財政の救世主なのか 
      每日ロブスターとステーキ 
      破産し始めた大学 
      授業料ディスカウントのしくみ 
      学生ローン地獄 
    参考文献 144

    第4章 アメリカの大学受験の勝者はだれ? 
      トランプの娘も? 名門大学で優先されるレガシー 
      レガシー優先入学の歴史的背景 
      人種間による格差とアファーマティブ・アクション 
      過小マッチングと貧困層の学生 
      出身階層よりも人種を優先 
      「控えめな文化」の弊害 
      「きしむ車輪は油をさしてもらえる」 
    参考文献 186

    第5章 大学の価値って何? 
      成績インフレ 
      大学を支配するミレニアルズ 
      高い授業料の経済的見返り 
      長生きする大卒者 
      大学キャンパスでの性的被害 
      文系学部の廃止? 
      28歳までに平均6回転職 
    参考文献 221

    第6章 アメリカを「鏡」に日本の大学を考える[竹内洋] 
      ヴォーゲルの診断
      「3日やったらやめられない」 
      学生ローンの借り入れ総額1兆ドル 
      ミレニアル世代と「リゾート・ホテル化」する大学 
    配偶者雇用 240
      アカデミック・カップルの救済 
    AO・多面・総合入試 241
      面接試験と階級・身分集団 
      身分・階級・学歴 
      AO・多面・総合入試はすばらしいか?
    大学スポーツ 249
      GDP600兆円に寄与? 
      超名門大学アシスタント・プロフェッサーの御利益 
      任期制教員を隠れ蓑にする大学「正教員」たち 
    「枯れ木」教授問題 256
      大学教員の「世代間研究業績」格差 
      年長世代の支配とサバイバル戦略 
      「紀要」貧乏と「紀要」小金持ち 
    大学の価値と文系の危機 264
      「私の履歴書」が映し出すもの 
      大学政策をやる攻防 
      「『人文社会系軽視』は誤解」の不穏 

    あとがき(2016年11月25日 竹内洋) [273-275]
    著者紹介 [276]

  • 【貸出状況・配架場所はこちらから確認できます】
    https://lib-opac.bunri-u.ac.jp/opac/volume/685399

  • この本を読むと日本と同じくアメリカの大学にも様々な問題があることがわかる。大学問題として比較事例としてもよく挙がる。この本を読むとアメリカの後追いすることが正しい姿なのか、一考させられることであろう。

    【OPAC】
    https://opac.lib.niigata-u.ac.jp/opc/recordID/catalog.bib/BB22822467?hit=32&caller=xc-search

  • アメリカの大学・教員・学生の実態・生態が、飾ることなく、身も蓋もなく、明け透けに語られている。いかにも社会学者の親子の手になるもの、という感じ。日本の今後の高等教育を考えるにあたって、様々な点で考える具体的な材料を提供してくれている。

  • この本で知ったこと。
    アメリカからカナダへ留学する例が多いということ。
    冷静に考えればアメリカよりカナダへ留学した方がいいよね。

  • アメリカの大学のランキング、分類、テニュア、学費高騰の理由、ホリスティック入試の仕組みを概説。レガシーシステムやアスリート・マイノリティー優遇の仕組みやファーストジェネレーションの進学事情などを概説。

    大学ランキング:
    ・THE世界ランキング
    ・QS世界大学さんキング(英 大学評価機関)
    ・世界大学学術ランキング(上海交通大学)
    ・USニューズ

    アメリカの大学の研究活動による分類:

    R1:リサーチワン。最高度の研究活動の大学
    R2:リサーチツー。高度の研究活動の大学
    R3:リサーチスリー。普通の研究活動の大学。

    カーネギー分類

    アメリカの学長の報酬:2億円!
    学費高騰の理由は事務局の人件費の増加。授業は、助教授や非正規の講師によって行われている。

  • 米国の大学について実情を網羅しているのは貴重。ただ米国の大学に属していた者でも読み進めにくいところがあって斜め読みになりがち。

  • 米国の大学について、その内側からの視点も含めて解説。テニュアやランキング、学費高騰などの背景も分かりやすい。終盤の日本の大学との比較も興味深い。

  • 2017.01.15 偶然、Amazonで見つける。,

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