奇跡の災害ボランティア「石巻モデル」 (朝日新書)

著者 :
  • 朝日新聞出版
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  • Amazon.co.jp ・本 (208ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784022734228

作品紹介・あらすじ

災害ボランティア活動は、きれい事だけでは済まない。自治体にとって、ときには志願者が負担になることもある。そんな現実のなかで奇跡的な成功例と評された地域-。それが宮城県・石巻市だ。「石巻モデル」を支えた人たちの「決断」と「行動」を明らかにする!行政、NGO、NPO関係者必読の書。

感想・レビュー・書評

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  • 石巻モデル。
    ボランティアが自治体と協力をして、被災地でその善意と熱意をしっかり機能させた例である。

    トータルで見て、色々な良い点が集まったことで、きちんとした機能を保てるモデルが確立できたと思う。
    その一つでも欠けていたら、モデルは機能しなかったと思う。

    その中で、大きいな。と思ったものの一つに、私立大学の開放がある。
    もともと、大学の開放は計画がされていた。だからこそ、当時に即実行にうつせたのだと思う。

    今後、南海トラフ地震や、関東直下地震など、多くの地震予想がされている。
    それが起こった時に、なんの準備なしで今回のモデルのような体制を確立することは難しい。
    まだ起こっていない今の段階での準備が必須であると思う。

  • 図書館で借りた。

    東日本大震災により被害を受けた石巻市でボランティアをどのように受け入れ、市や自衛隊がボランティアとどうやって協力していたのか、について地震の発生後から説明されている。

    本書の中で、ボランティアの責任、という言葉が多く使われていた。参加して、活動して、終わり、では市からは無責任に見える。かと言って一度参加したら完全に復旧するまで参加し続けろ、と求められる集団ではない。その責任を問えないからボランティアは市などと協力することが難しい存在なんだと思った。
    そのボランティアを長期的に継続して行い続ける企画を立てる人がいて、市にもそれを活用しようという人がいて、始めて成立した仕組みであるようだった。

    石巻市の災害対策本部にボランティアの席があることを知り、驚いた。自衛隊は炊き出しを数百食という単位で行っており、あと10食追加というような細かい注文には応じられないから、ボランティアがそのような部分を埋めてくれたのはありがたい、という部分でお互いのできないところが補い合えているのだと実感できた。

    ボランティアの生活のルールを話し合って決めたのではなく、大学でテント村のような暮らしになったことで、大学でやってはいけないことがそのままルールとして理解されていたから生活上のもめ事が少なく済んだ、というのに納得した。
    新しいルールを覚えるより、ここは大学だから、と言えば押しつけではないし、理解も得られやすい。大学が災害時に貢献できることの一つなんじゃないかと思う。

    この仕組みは、ボランティアも市も互いのあり方を大きく変えることなく、それぞれを結びつけていたからすごいものなのだと思った。インターフェースの役割を果たした人は本当にしっかりした人なのだと思う。

  • 昨年(2011)の東日本大震災で被害を受けた都市の復興に向けて、多くのボランティアが活躍しています。

    政府や自治体だけでなく、ボランティアが活躍するのは阪神大震災でもあったようですが、この本の趣旨は、ボランティアが復興に寄与するために、どのような工夫を凝らしたのかが書かれています。

    私は会社や近くの商店街での募金箱に少額のお金を寄付することしかできず、自分が現地に行って協力することはできませんでしたが、最近の若い人の中には仕事を辞めてまでボランティアを希望する人もいるそうです。

    この本はそのような彼等の気持ちを大切にし、さらには復興を願う住民にも感謝されるような取り組みについて書かれていて、日本の底力を見た気がしました。

    以下は気になったポイントです。

    ・この本を書くために、石巻市はどうやってボランティアを受け入れたのか、どんな成果を上げたのかの2点に絞って取材を試みた(p8)

    ・当初(伊達政宗が開削したころ)、石巻湾へと通じる河川は「新北上川」と呼ばれていたが、昭和の工事を終えて「旧北上川」という名称となった(p17)

    ・石巻は河川交通と海運の結節点であり、東北と江戸を結ぶ文明の交差点、1年間に運ばれた米は20万石(3万トン)と言われる(p17)

    ・首都圏での水や食料の買い占めのために、被災地への援助が本格化したのが地震発生から1週間後であった(p29)

    ・石巻市のボランティア受け入れ成功の要因は、1)受け入れる仕組み、2)居心地の良い環境つくり、3)継続的に募集するノウハウ、である(p38)

    ・災害ボランティアの現場では、その地域が特定の宗教、政治思想のある団体が仕切っているとわかった途端に物資が届かなかったりすることがある(p69)

    ・被災地への負担を減らすという意味で徹底したのが、飲酒禁止以外に、被災者用の食糧を食べない、不要なものといって援助物資を拝借しない、大学のトイレを使用しない、であった(p97)

    ・三菱商事が1年間送り続けたケースでは、リーダーは話し合いで決めて、会社の上下関係は持ち込まないこと(p117)

    ・被害状況をグーグルアース等を使って、被災地の様子を可視化できる環境(iPad)が役に立った(p119)

    ・阪神大震災時と比較して、携帯電話の登場、さらには、SNSやツイッター等のインターネット経由の通信インフラが最後まで生き残って、被災者間の安否確認、初動の人命救助に役立った(p120)

    ・地震発生当日に、防衛大臣による大規模震災災害派遣命令が発動されて、最大10.7万人の自衛隊員、543機の航空機、戦艦59隻も出動した(p135)

    ・ボランティアは命令では動かないことを理解し、全てできるかどうか確認し、仕事の詳細を説明しているのが印象的であった(p162)

    ・ボランティアにとって居心地の良い環境を作った最大の決め手は、宿泊場所とトイレの確保であった(p188)

    2012年2月25日作成

  • 「石巻モデル」は素晴らしいなって思いました。でも、まだ課題が多いなっていう感想も持ちました。災害発生時と復興期のそれぞれに特化した専門の組織と人が必要だなという思いを強くしました。
    震災時の石巻の話はいろんな本が出ているのですが、これら1つ1つで繋がりがあったのか、なかったのか、全体から俯瞰して「石巻モデル」を整理されたような本が出版されるのを期待します

  • 「石巻」だっていうから読んでみた。コーディネートする側の苦労がちょっと見えた。

  • このモデルが標準になってほしいと願う。「奇跡の」と冠したのは意図したことか? ピースボートというボランティアをまとめるスキルを持った民間団体が関わってくれたから、このようなモデルが誕生したということなのだろうか。地元の篤志家と地元に縁のないボランティアとの出会いも、行政がNPOを尊重する姿勢も奇跡と言えるかも。しかし、ピースボートが行政に信頼されるのは必然なのだと感じた。自治体・社協は災害発生時にボランティアを受け入れるスキルを持たねばならない。「自治体・社協の限界を災害救助の限界としてはならない」同感!

  • あーピースボートってそういう…。
    自分自身、いつ大きな災害に見舞われるか分からない中、受援の心構えを含めボランティアの功罪の一面を教えてもらった気がします。
    ボランティア、興味あったけど色々大変だ。しかも一匹狼気質には絶対無理なのね。相手先に迷惑かけちゃうし。
    「AREA」(朝日)目線なので、他の方の書籍で多角的に見ていきたいジャンルでもありました。

  • 石巻市のお友達ができたので、石巻市関連の本を読んでいます。
    震災当時の混乱期にボランティアを統括して活動した方々や行政関連の方たちとの協働・連携がすばらしいです。
    災害時と平常時のボランティア活動はまったく質の違うもので、しかも災害時は大人数のボランティアが必要とされますので、災害ボランティアのマネジメントと地元行政などとの協働の方法を、平常時のボランティアとは切り離したものとして、きちんと確立しておくことはとても大切なことだと思いました。

  • 最初に、この本はIT系エンジニアにもぜひ読んで欲しい(理由は後述)。
    本書では、石巻市は、殺到する個性豊かなボランティア団体をまとめる体制をうまく作ることのできた成功例であるとして紹介されている。阪神大震災と異なる点は、まず、阪神大震災がボランティア元年と呼ばれ、後にボランティア迷惑論が生まれるなど、ボランティアに対する社会的な意識が大きく異なっていたこと。次に都市から離れた非常に広域な津波災害で、通常の災害援助に比べてカバーしなくてはいけない地域が多く、また行政機能そのものが完全に失われた自治体が多かったことである。これら二点をふまえつつ、なぜ石巻市が他の自治体に比べてボランティアを活用できたのかを述べている。基本的には、目的も異なる個性豊かなボランティア組織を対立させず、1つにまとめて機能するための組織化を進め、ロジスティックスの無駄を減らすようなさまざまな工夫を盛り込んでいったことが、ボランティアを活力にできた要因であった。また、震災の直前に石巻にある大学と防災協定を結ぶことになっていたこと、被災地入りしたボランティアの数が多く、最終的には自衛隊も中央官庁もその力を認めざるを得なくなった、というのも背景にはあるようだ。ボランティアによる活動に加えて、本書の後半では、機能的に活動した企業の例(アウトドアメーカーや、製造業)が挙げられている。企業のCSR担当者は心して読んだ方が良いだろう。この中で、気になったのは、震災後さまざまな情報集約サイトなどができたが、現場で役立つ物はなかった、そういうものを作る技術者は現場に来ない、という批判である。一方、企業のボランティア活動で現地入りしたある製造業の工場エンジニアは、危険作業の経験を生かして瓦礫やヘドロの除去作業に役立つようなアイデアを出したという。エンジニアの生き方も問われているような気がした。

  • 震災時の出来事が、分かりやすくいっきに読めました。つながること、続けていくこと、それらを繋ぎ合わせることがカタチとなって現れた「石巻モデル」。
    今、町の主役は「ボランティア」から「被災者自身」へと戻った。これからが「地元」の出番。ボランティアはこれからの町のサポーターである、という考え方はいいな~と思いました。

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著者プロフィール

1977年、佐賀県生まれ。ノンフィクション作家。高校卒業後、博多の屋台で働きながら、地方紙や週刊誌で執筆活動を始める。18歳で上京後、常にフリーランスの取材者として、『AERA』をはじめ、雑誌・ウェブメディアを中心に社会問題や食文化に関するルポルタージュを発表し続けている。著書に『奇跡の災害ボランティア「石巻モデル」』(朝日新書)、『最後の職人 池波正太郎が愛した近藤文夫』(講談社)、『小林カツ代伝 私が死んでもレシピは残る 』(文春文庫)、『マグロの最高峰』(NHK出版新書)、『「き寿司」のすべて』(プレジデント社)など。

「2021年 『本当に君は総理大臣になれないのか』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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