国宝 (上) 青春篇 (朝日文庫)

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  • 朝日新聞出版
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感想 : 78
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  • Amazon.co.jp ・本 (407ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784022650085

作品紹介・あらすじ

俺たちは踊れる。だからもっと美しい世界に立たせてくれ! 極道と梨園。生い立ちも才能も違う若き二人の役者が、芸の道に青春を捧げていく。芸術選奨文部科学大臣賞、中央公論文芸賞をW受賞、作家生活20周年の節目を飾る芸道小説の金字塔。1964年元旦、長崎は老舗料亭「花丸」――侠客たちの怒号と悲鳴が飛び交うなかで、この国の宝となる役者は生まれた。男の名は、立花喜久雄。任侠の一門に生まれながらも、この世ならざる美貌は人々を巻き込み、喜久雄の人生を思わぬ域にまで連れ出していく。舞台は長崎から大阪、そしてオリンピック後の東京へ。日本の成長と歩を合わせるように、技をみがき、道を究めようともがく男たち。血族との深い絆と軋み、スキャンダルと栄光、幾重もの信頼と裏切り。舞台、映画、テレビと芸能界の転換期を駆け抜け、数多の歓喜と絶望を享受しながら、その頂点に登りつめた先に、何が見えるのか? 朝日新聞連載時から大きな反響を呼んだ、著者渾身の大作。

感想・レビュー・書評

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  • 語り部風の文章が初めは読みにくかったけど、そんなことはすぐに気にならなくなるくらい内容が濃くて面白かった。
    任侠の家に生まれながらも役者としての類い稀な才能を持つ喜久雄。父親がヤクザ同士の抗争で亡くなり、歌舞伎役者花井半二郎の家で暮らすことになる。そこでは半二郎の息子、俊介と切磋琢磨しながら女形として着実に成長をしていく。

    順風満帆な役者人生を歩む喜久雄の転機となったのは、半二郎の事故。重傷を負った半二郎の代役に大抜擢され、実の息子ではなく実質的に半二郎の後継者となった喜久雄だったが、半二郎が病に倒れ、後ろ盾をなくしたことから、不遇の時代へ。

    歌舞伎の世界のことは何も知らないけど、役者だけでなく歌舞伎を取り巻く者たちの人間の欲望が交錯しその迫力とリアリティに読むのが止まらなかった。
    喜久雄に後継者の座を奪われ、失踪した俊介が戻りこれからまた喜久雄に苦難が待ち受けているのかと思うと、喜久雄かんばれ!と思わずにいられない。
    個人的にはどんな時にも喜久雄を支える徳次のことが好きです。
    下巻で喜久雄がどのような人生を見せてくれるのか楽しみでなりません。

  •  まるで芝居を観ている感覚で、物語に没入しました。文体や構成が歌舞伎っぽく、その代表が人物の会話の合間にある口上だと思います。(例 〜と申しましょうか、〜なのでございます) お陰で、歌舞伎や伝統芸能のもつ堅苦しさや昭和の古臭さへの抵抗もなく、加えて展開の面白さに、するする読み進められました。
     片や人気歌舞伎役者の御曹司、片や九州にその名を馳せた任侠一家の跡取り息子。二人は切磋琢磨しながら芸の道に励み、時代の寵児として取り上げられるようになります。
     しかし、師匠の事故・病気をきっかけにして二人の明暗が分かれ、運命が大きく動いていきます。出奔、暗転、そして再開…、まさに上巻の副題〝青春篇〟の如く、苦悩の先の希望を期待しながら、展開から目が離せませんでした。
     下巻〝花道篇〟を早く手に取りたく、気がはやります。

  • 吉田修一(2018年9月単行本、2021年9月文庫本)。上巻/青春篇、下巻/花道篇に分かれている大作の上巻。
    凄い小説だ。長崎の任侠の家に生まれた一人の男が歌舞伎の世界に入り、頂点を極めるまでを描いた作品。
    主人公の立花喜久雄が14歳の任侠時代から63歳で人間国宝になるまでの大河ドラマで、上巻/青春篇は14歳から30歳までの話だ。

    舞台は長崎から大阪、そして東京へと移っていく。
    最初から物語の中にぐいぐい引き込まれる。惹きつける魅力的なストーリー展開と情景描写が凄い。目の前に今起こっている情景がはっきり見える。歌舞伎の演目の描写も、歌舞伎なんて全く知らなくても演じている役者が見えるのである。
    そして色んな登場人物が喜久雄を支える個性設定が共感できて気持ちいいのだ。特に長崎の任侠時代からずっと喜久雄を支え続ける2歳年上の徳治の存在が強く印象に残る。喜久雄は歌舞伎の世界でどうなっていくのかは想像つくが、徳治はどうなっていくのか非常に気になるのだ。もう一人同じく長崎からの付き合いで喜久雄より1歳年上の女性の春江だ。幼い頃から苦労しただけあって若い時から自立した女性で色んな人を支えて生きる頼もしい女性だ。

    1964年元旦の任侠の新年会、喜久雄14歳の時、抗争で「立花組」組長の父親が殺され、その新年会に同席していた上方歌舞伎の大名跡「丹波屋」二代目花井半次郎との縁で喜久雄は一門へ入ることになる。喜久雄15歳の時で、同い年の半次郎の息子の大垣俊介(花井半弥)と出会い、任侠のぼんと梨園のぼんが歌舞伎の世界に青春を捧げる物語が始まる。

    幾多の登場人物で二代目花井半次郎(四代目花井白虎)と俊介以外で喜久雄に大きく関わって来るのは、長崎で同じ立花組の2歳年上で常に喜久雄を守る早川徳次、喜久雄の女だった1歳年上の春江(後の俊介の女房)、立花組の弟分「愛甲会」の若頭で後の「辻村興産」の代表取締役社長となって喜久雄を援助する辻村将生(実は秘密がある)、大阪へ出て来てから出会ったお笑い芸人の弁天(後に売れっ子大物タレントになる)、半次郎の後妻の幸子(日本舞踊相良流家元、俊介と共に喜久雄も支える)、稀代の立女形「遠州屋」六代目小野川万菊、万菊と人気を二分する立女形の姉川鶴若、関西歌舞伎のもう一つの名家の生田庄左衛門、日本俳優協会理事長で江戸歌舞伎の大看板である吾妻千五郎とその次女の彰子、京都の舞妓の市駒、市駒が産んだ喜久雄との子の綾乃、興行会社「三友」の社長の梅木と新入社員の竹野、地方巡業での喜久雄の才能を見出す劇評家で早稲田大学の藤川教授。これらの人物が喜久雄の人生に大きく関わって来る。

    喜久雄15歳で大阪の二代目花井半次郎の元で歌舞伎の修行を始め、17歳で半次郎の部屋子となり花井東一郎を襲名する。そして喜久雄20歳の時、半次郎が事故に遭ってしまい代役を俊介ではなく喜久雄を指名する。失意の俊介はこの時より10年間春江を伴って姿を消す。そして俊介が失踪して3年後、二代目花井半次郎は四代目花井白虎、花井東一郎(喜久雄)は三代目花井半次郎を23歳で同時襲名するのだが、白虎は既に病に侵され襲名披露の場で倒れる。そして喜久雄25歳の時、白虎は70年の生涯を閉じたのだった。
    それからの喜久雄の歌舞伎人生の苦難が始まる。白虎の残した1億2000万円の借金を自分が負うことに決めたのだが、喜久雄の後見人になった姉川鶴若の喜久雄に対する処遇がいじめに近いものだった。地方回りに役も傍役ばかりで借金は減るどころか増えるばかりだった。
    そんな状況の中で喜久雄30歳になった時、竹野が俊介を見つけて10年振りの再会となる。そして春江とも再会となるのだが、俊介との間に3歳になる子、一豊も一緒だった。俊介の後見人には小野川万菊がつき、喜久雄とは反対に順調にいい役で人気を集めていくのだった。珍しく悔しさを態度に出す喜久雄を吾妻千五郎の次女、彰子が笑顔で訪ねて来る。まだキャピキャピの女子大生だが、これからの喜久雄の人生が大きく変わる予感を醸し出すところで「青春篇」は終わる。


  • 長崎のヤクザの組長の息子として生まれた喜久雄。

    抗争により父を亡くし、大阪の歌舞伎役者である2代目花井半次郎に預けられ。半次郎の息子である俊介と共に女形として成長していく。
    半次郎が骨折した時、代役として選んだのは息子・俊介ではなく…

    俊介の出奔、2代目半次郎の死、3代目半次郎襲名…
    2代目半次郎という後ろ盾を失い、思うような活動ができない喜久雄…

    そして俊介は…

    3代目半次郎として、なかなか思うような活動ができないところに歯痒さを感じる…
    部屋子上がりだからか…
    歌舞伎の世界だけならまだしも、映画ででも…

    春江は喜久雄と、と思っていたのに、あっさりと…
    市駒は市駒で、ひとりで娘・綾乃を育てて。
    何かじめじめしたものが全くない女性たち…

    どうなっていくんだろうか…

  • 待ちに待った文庫化。

    期待を裏切らない面白さ。
    主人公の喜久雄は、若くして結構な立場に追い込まれていくが腐らずに成長していく姿がグッと心を掴みにくる。ただ、喜久雄自体の感情の動きはつまびらかに描かれているわけではないので行間から読み取れる感じがまたなんとも想像力を掻き立てられる。

  • 語りの妙と魅力的な人物の一挙一動にどんどん物語の中に引き込まれていく。上巻青春編は喜久雄14歳から30歳までが描かれている。長崎の立花組の新年会から物語は始まり、喜久雄の父親であり立花組組長の権五郎が弟分の辻村に殺されてしまう。新年会には辻村が連れてきた歌舞伎役者の二代目花井半二郎も参加しており、それがひとつきっかけとなり喜久雄は辻村の紹介で大阪の花井家に世話になる。

    旅立つまでにも仇討ち騒動があったり、花井家で修行するようになってからの実子俊介とのやり取り、喜久雄の世話役徳次や天王寺村の弁天の人柄など魅力満載。権五郎の後妻マツの大親分の妻としての心意気と、喜久雄を育てた母としての決意には思わず涙ぐんでしまう場面もあった。二代目半二郎の人生と三代目を襲名した喜久雄2人の女形を通して描かれる熱量も相当なもので、順風満帆とはいかないからこそ読んでいるこちらも喜怒哀楽を満載にして物語に入り込んだ。さて、下巻も楽しみだ。

  • 初読み作家、文庫化を待っていた本書。

    任侠の家に生まれた喜久雄だか、上方歌舞伎の一門へ。任侠の坊ちゃん喜久雄と、梨園の坊ちゃん俊介の若き二人の青春篇の上巻は、しっかりと下巻へ引き摺り込んでいく。

    文章の語りが、歌舞伎の解説イヤホンガイドのようで、作者の意図を感じた。さて、下巻だ!

  • レビューは下巻でまとめて。

    文体と世界観に慣れるまで少し時間を要しましたが、とてつもなく面白い作品に出会ってしまった年末でした。

    下巻が楽しみで仕方ありません。

    2022年13冊目

  • 伝統芸能に興味があるので、読む前からワクワク!
    まさにお芝居を観ているような語り口に、震えながら読み進める。
    喜久雄の歌舞伎に対する熱い情熱と徳次の喜久雄坊ちゃんに対する忠義のいじらしいほどの健気さに胸が熱くなる。

  • #3628ー18ー59

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著者プロフィール

1968年長崎県生まれ。法政大学経営学部卒業。1997年『最後の息子』で「文學界新人賞」を受賞し、デビュー。2002年『パーク・ライフ』で「芥川賞」を受賞。07年『悪人』で「毎日出版文化賞」、10年『横道世之介』で「柴田錬三郎」、19年『国宝』で「芸術選奨文部科学大臣賞」「中央公論文芸賞」を受賞する。その他著書に、『パレード』『悪人』『さよなら渓谷』『路』『怒り』『森は知っている』『太陽は動かない』『湖の女たち』等がある。

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