悪人 新装版 (朝日文庫)

著者 :
  • 朝日新聞出版
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感想 : 70
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  • Amazon.co.jp ・本 (480ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784022648938

作品紹介・あらすじ

【文学/日本文学小説】小説、映画ともに話題となった不朽の名作。保険外交員の女が殺害された。捜査線上に浮かぶ男。凶行に及んだ彼と出会ったもう一人の女。なぜ事件は起きたのか。なぜ二人は逃げ続けるのか。そして、悪人とは誰なのか。毎日出版文化賞と大佛次郎賞を受賞した著者の代表作。

感想・レビュー・書評

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  • 主要な登場人物の中での「悪人」ランキング

    僕の中では、

    第一位 ボンボンの大学生・増尾圭吾(だんとつ)
    第二位 殺された保険外交員・石橋佳乃
    第三位 土木作業員・清水祐一
    第四位 紳士服店店員・馬込光代

    でした。


    「人としての正しい行い」がこの小説のテーマかな、と思いました。
    誰にも潜む「悪人」の自分。そいつが衝動的に引き起こす悪行。もちろん取り返しのつかないこともあるけど、その悪行の後の「人としての正しい行い」こそ、生きていく上では大切なこと。


    それと、人に執着すること、について。
    佳乃の父、佳男が増尾の友人、鶴田に語りかける言葉。
    長くなるけど、とても心に残ったので引用する。


    ー あんた、大切な人はおるね?その人の幸せな様子を思うだけで、自分までうれしくなってくるような人たい。

    おらん人間が多すぎるよ。

    今の世の中大切な人もおらん人間が多すぎったい。大切な人がおらん人間は、なんでもできると思い込む。自分には失うもんがなかっち、それで自分が強うなった気になっとる。

    失うものもなければ欲しいものもない。だけんやろ、自分を余裕のある人間っち思い込んで、失ったり、欲しがったり一喜一憂する人間を、馬鹿にした目で眺めとる。

    そうじゃなかとよ。本当はそれじゃ駄目とよ ー



    小説と同時並行で映画を見た。

    増島ひかり演じる石橋佳乃はとても危うくて、僕はああいう危うさにころっと引っかかるタイプだ。
    だから、増尾は死んでほしいし、清水は不憫で感情移入してしまった(もちろんだからと言ってあんなことしていいわけではない)。

    なぜか雨のシーンしか印象に残らないジメジメした作品なので、ジメジメした気分の時に読みたい。

    • たけさん
      naonaoさん

      もしかして、援助職によくある「燃え尽き症候群」というやつではないですか?

      とすると、ますますセルフケアが必要な気がしま...
      naonaoさん

      もしかして、援助職によくある「燃え尽き症候群」というやつではないですか?

      とすると、ますますセルフケアが必要な気がします。
      きっといままで、お仕事相当がんばっているのだから、自らにご褒美を与えて褒めてあげてくださいね。

      血糖値は、走れば改善します(しつこいって笑)
      2022/10/08
    • naonaonao16gさん
      たけさん、ありがとうございます。
      なんでしょうね、自分にも良くなかった部分があるとは思うのですが、そこまで器用でもご機嫌でもない、っていう、...
      たけさん、ありがとうございます。
      なんでしょうね、自分にも良くなかった部分があるとは思うのですが、そこまで器用でもご機嫌でもない、っていう、なんともうまくお伝えするのが難しい状態ではあるんですが...

      自分に優しくしないとですね...

      家の中で有酸素運動してるんですけど...
      それではダメですかね?(なんとしても走りたくない笑)
      2022/10/08
    • たけさん
      naonaoさん

      まあ、いろいろありますよね!

      走ると大抵のことは許せる気がしてきます笑
      だからオススメですが、家の中の有酸素運動もあり...
      naonaoさん

      まあ、いろいろありますよね!

      走ると大抵のことは許せる気がしてきます笑
      だからオススメですが、家の中の有酸素運動もありですね!
      2022/10/08
  • この方の作品は強烈な没入感を与えてくれる。「怒り」が大好きだが、この作品も並びました。男性作家なのに光代の心理描写がすごいです。終わり方もたまりません。

    読み終わった後に感じたこと、
    悪に利用されない為に、強くあり、賢くあらないといけない。自分を軽視する人間とは関わるべきではない。必死に生きている人を見下し、馬鹿にする人間にだけはならないように生きていきたい。そして誰かから語られる様々な自分はどれもちょっとずつ自分なのだということ。

    「悪人」は誰か?
    私にとっては、彼は優しすぎたのだと思いたい。衝動的に殺人を犯してしまった彼は悪でなければならない。なぜなら、殺人を許してはいけないから。でも人として、あの大学生や傲慢さを撒き散らす被害者女性より、思いやりと情のある人間でもあると思う。登場人物を善と悪のどちらかに分類することは私にはできないが、好きと嫌いに分類するならば、間違いなくあの大学生だけは嫌いだ。

  • 正直、救いのない話だと思う。

    この小説の中で(僕にとっての)悪人は不当に殺されてしまった。あるいは、裁かれずに野放しになっている。

    そして殺した人間はひとりで業を背負った。

    それはまるで宗教小説のような、遠藤周作や三浦綾子の作品を彷彿とさせた。

    前半のミステリーライクな作風とは裏腹に、後半では登場人物の内情が直球で吐露される。犯人は誰か、なんて表層的なものではなく、その心理や感情にのめり込んでしまう。

    関係者へのインタビューの挿入も良い。それはとても映画的な演出で印象に残ったし、主要人物を多面的に見せた。

    個人的には、236ページからの情感描写がたまらない。
    初めて出会い系を利用した女性の心理描写がうますぎる。恐れつつも、大胆な自分に出会っていく。こういうシーンは大好きだ。どうして吉田修一はこんな心情が分かるのだろうか…。

    なるほど、これが芥川賞・直木賞の選考委員の代表作。少し人物のデフォルメが強すぎる部分はあるものの、強烈な没入感をもって読めた。

    (書評ブログの方も宜しくお願いします)
    https://www.everyday-book-reviews.com/entry/%E6%9B%B8%E8%A9%95_%E6%82%AA%E4%BA%BA_%E5%90%89%E7%94%B0%E4%BF%AE%E4%B8%80

  • 悪人とは誰なのか?犯罪を犯した者は悪人なのか?色々と考えさせた。殺人事件の背景には色んなストーリーがある。

    人が人を殺めること。これ自体は全く許される行為では無いが、その背景には色んな想いがある。そう思った。

  • 不器用な人たちばかり。でも人間はそんなに器用には生きられなくて、運が良かったり悪かったり、真面目でも上手くいかなかったり、適当にしたことが上手くいったり、本当に思い通りにならないなあ、なんて思いながら読み進めた。

  • もうずいぶん前に読了したのだが、記録していなかった。

    読後の素直な感想は、怒りである。

    無思慮で傲慢な暴力と悪意が、弱く柔らかなものを踏みつけていく様。
    慎ましく小さなものの声が、ついに届かない様。

    信じたくない現実。

    無力感。。。

    すごく好きな作品だけど、もう一度読む力が僕にあるだろうか。

  • 読み終えてしばし沈黙。

    一体どうやったらこれほどまでにかわいそうで、哀しくて、でも事件としてはごくありふれている、そんな結末を作り出すことができるんだろう。

    どの部分が似ている、とかではないのだが、読後感としては中上健次の「枯木灘」に近いものを感じている。
    といっても中上作品にあるような、えも言われぬ神話的空気を纏っているわけではない。

    なんかもっと日常的でささやかな幸せを求めていて、それを断ち切ったり断ち切られたりしている登場人物たち。
    でも、ただやられているわけではない。それぞれに何かを克服していく。決して救いがないわけではない。

    それでも読後、哀しくて、やりきれない。

  • 最近、ビジネス書やら実用書ばかり読んでいたので、ひさびさに小説が読みたくなりました。以前、ブックオフで買いためてたのから選んだのがこの本です。
    話しとしてはシンプルで、手の込んだトリックや仕掛けがあるわけでは無い。出て来る人たちは、それぞれ関係があるんだけど、なんかバラバラな感じ。人としての感情が薄いというか。。。自分の気持ちって、わかってるようでわかっていないんですかね。
    内容と全然関係ないけど、最近、女性目線で書かれた小説をよく読んでいたので、ものすごく男性的な視点で書かれているように感じた。やっぱ男性が女性のことを書くのは難しいんでしょうね。

  • 心惹かれる文章がちりばめられて

    ストーリーは
    ある若者が携帯サイトで知り合った若き女性を殺人してしまい
    逮捕をから逃れるために
    またまた携帯サイトで知り合った29歳の女性とともに逃避行のあげく・・・

    と、超単純な事件のようですが
    殺された女性の状況、若者のおいたちと性格、一緒に逃げた女性の事情
    の多方面から描かれていて、たしかに読み応えありました

    構成がいいというより、登場人物一人ひとりによりそったフレーズの部分が秀逸

    「そうだよね~、このことってわかる!」
    という人間の生き様より浮かびだしたような描写

    たとえば
    殺された女性が携帯サイトで男と付き合ってることを打明けられていた友人の

    「子供のころから友達を自ら選ぶというのではなく、
    いつも誰かに選ばられるのを待っているような性格」

    だから友人が少なく
    会社で全く性格の違う被害者の女性と友達になれほっとしていた
    けれどもそんな性格だから
    打明けられた友達の冒険を一緒に味わって楽しんでいた恥から
    事情聴取に真実を言えず、事件の解決を遅らせてしまう事情

    犯人の若者のおいたちのリアルさ、一緒に逃げる29歳女性の寂しさ
    文章のそこここにうなずいてしまったのです

    そして最後に「あっ!」と驚く結末の人間臭さがおもしろかったですね
    この世の中「悪人」なんていない、とは思いませんけど

  • 辛い、切ない、
    本当の悪人はだれ、、

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著者プロフィール

1968年長崎県生まれ。法政大学経営学部卒業。1997年『最後の息子』で「文學界新人賞」を受賞し、デビュー。2002年『パーク・ライフ』で「芥川賞」を受賞。07年『悪人』で「毎日出版文化賞」、10年『横道世之介』で「柴田錬三郎」、19年『国宝』で「芸術選奨文部科学大臣賞」「中央公論文芸賞」を受賞する。その他著書に、『パレード』『悪人』『さよなら渓谷』『路』『怒り』『森は知っている』『太陽は動かない』『湖の女たち』等がある。

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