沈黙の町で (朝日文庫)

著者 :
  • 朝日新聞出版
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  • Amazon.co.jp ・本 (584ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784022648051

作品紹介・あらすじ

【文学/日本文学小説】北関東のある県で中学2年生の男子生徒が転落死した。事故か? 自殺か? それとも──。その背景には陰湿ないじめがあった。町にひろがる波紋を描くことで、地方都市の精神風土に迫る。朝日新聞連載時から大きな反響を呼んだ大問題作の文庫化。

感想・レビュー・書評

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  • 中学生の校内での不審死を発端とした物語は、宮部みゆき著『ソロモンの偽証』が白眉であるが、本作も発端は同様であるが、その後の展開は全く異なる。
    『ソロモン…』は、女子生徒が主役になって、不審死をめぐる中学生による異例な校内裁判へと進む、読者にとっても衝撃的なミステリーだった。
    対して、本作はいじめの被害者、それに関わった加害者、それぞれの家族、担任教師をはじめとする学校関係者、それに所轄警察の捜査官に、担当の検事までが登場し、それぞれの思惑が絡み合う群像劇となっている。
    前半は、一方的に不審死の裏にあるいじめの加害者を追及する場面が続くが、後半は一転する。
    事件前の時間と、事件後の時間とが、交互に語られ、真相に迫って行く。やがて、被害者側にも問題があり、加害者とみられた生徒たちにも意外な事実が判明する。
    このような作品を読むと、ストレートに正義をふりかざすメディアが報じる「いじめ事件」にも、様々な側面があるのではないかと、ふと考えた。
    「未完成な中学生」を、鮮やかに描き出した傑作と言っていい。

  • 北関東のねぎが産地のある町。そこの公立中学の2年生男子が部活の部屋の前で倒れていた。頭には挫傷があり、部活の屋根からそばの大銀杏に飛び移りそこねて落下し下の側溝の角に頭がぶつかったと思われた。自殺なのか事件なのか。華奢なその少年はいじめられていた、という証言もあるが・・ 

    息子が帰ってこないという電話を受け校内を見に行った教師が死体を見つける。冒頭から心がざわざわする。体調不良の時は読めない感じ。中学2年、あるいは残酷な年代。死んだ少年、一緒にいたテニス部の同級生、同級生の女子、校長、教頭、学年主任、担任、そして警察、検事、弁護士、新聞記者、被害者の親、加害者?とされた少年たちの親。そうだ、自分にもあった中学2年の時。そして少年の親の時。

    警察の聞き取りの間に挟まれる、過去の学校生活の描写。そして最後に明かされるその瞬間。・・なにげない言葉、行動がとりかえしのつかない結果になってしまう・・  なにか死んだ者、生き残った者、もちろん読者にもどよーんと苦い思いが残る。

    朝日新聞2011.5.7-2012.7.12連載

    2013.2.28第1刷(単行本) 図書館

    朝日新聞書評2013.3.3 評者逢坂剛
    https://book.asahi.com/article/11645332

  • 登場人物、各々の視点から事故?(と私は思ったのだけど)が浮き彫りにされて、その都度都度でいろんな想いになった。…それでもこの街で生きていかなければならないのかぁ。やっぱり奥田英朗さんはいいなぁ〜

  • 中学2年生は、精神的にも肉体的にも見た目にも大人として扱われることはないが、中学生活には慣れ、親に反抗したり、根拠のない自信を持ったりと、本人はすでに大人気分を持つことがある。受験勉強を意識するのも時期尚早なので、緊張感も責任感も薄い。そんな気分のまま大人になった人のことを「中二病」と呼ぶ。

    と、そんな言葉を思い出した。今では死語だろうけど。

    地方都市の小さな町の学校内で中学2年生の死体が発見される。自殺か、事故か、他殺か。被害者の体にはイジメを受けていた跡が残っていた。そして、被害者の同級生たちに容疑がかけられる。

    教師や親、刑事、新聞記者、検察官、弁護士など周囲の大人たちは意見を言い合いながら行動するが、中学生たちは彼らに振り回され、自ら発言することすらできない。そのため、本作品は回想シーンが、物言わぬ中学生を代弁する。そして、中学生たちは大人の知らない世界と友人とのつながりをとても大切にしていたことが明らかになる。

    事件を解決する特定の「探偵役」はいないが、しだいに事件の真相が明らかになっていく展開はスリリングで、これぞエンターテイメントミステリー。

    結局、小さな町を沈黙させた事件は解決するが、学校や住民たちにはずっと疑心暗鬼が消えないだろう。

  • 被害者は圧倒的に被害者で、加害者は絶対的に加害者だ。
    法的には何があってもそれは変わることはないだろう。
    けれど、表にあらわれたものがすべてではないとしたら・・・。

    いじめられていたと思われる一人の男子中学生が死亡した。
    事故とも、事件とも、どちらとも取れるような状況が推測された。
    目撃者はいない。
    どんなに偉そうなことを言ったとしても、中学生は中学生でしかない。
    大人ぶっても、経験も足りず、精神的な強さもない。
    周りに流されることだって、感情に押さえがきかないことだって、日常にはあふれている。
    当事者の親だったら腹が立つんだろうな・・・とか、歯がゆい思いをしているんだろうな・・・とか、事実はどうなんだと問い詰めたいんだろうな・・・とか、いろいろ考えてしまった。
    親に何もかも話す中学生なんているとしても絶滅危惧種と同じようにほんのわずかだろう。
    話せばラクになる。話してくれさえすれば助けてあげられる。
    それは親の、大人の考えだ。
    話したってどうにもならない、話したくても話せない事情だってある。
    子供には子供の考えがあるのだから。
    親たち、とくに母親の子供に対する感情の激しさには圧倒された。
    時間が過ぎ自分自身が大人になれば感謝することもあるかもしれない。
    でもリアルタイムで目の当たりにしたら、ただ単純にうざったいだけだろう。
    ひとりの中学生が墜落死した。
    被害者の親。加害者の親。教師。刑事。マスコミ。
    それぞれの大切なものを守るために彼らは行動する。
    その行動によってあらたに傷つく人間がいることを無視するように。
    ある意味完結しているようなラストでもあり、始まりのようなラストでもあると感じた。
    ひとりの中学生の転落死。
    映画化で話題になっている「ソロモンの偽証」ときっかけは同じであるけれど、まったく違う印象を残す物語だった。

  • 北関東のある町で、中学二年生の名倉祐一が転落死した。事故か、自殺か、それとも…? やがて祐一が同級生からいじめを受けていたことが明らかになり、家族、学校、警察を巻き込んださざ波が町を包む…。地方都市の精神風土に迫る衝撃の問題作。

  • 中学2年の男子生徒が学校内で転落死した。自殺か事故か事件か。検視をしたところ背中に多数の内出血があったことから事件性を疑い、捜査の結果4人の生徒が被疑者として浮上、うち2名は14歳だったため逮捕、あとの2名は13歳だったため補導というのが扱いに。警察としては殺人罪も視野に入れて取り調べを進めるが被疑者4名とも黙秘を続ける。全校生徒に対する事情聴取を警察がする一方、担当となった若手検察官は被疑者との信頼関係を築き新たな事実を掘り起こしていく。
    中学生という子どもでも大人でもない世代との向き合い方の難しさ、教師たちの生徒に対する姿勢、遺族の立場、被疑者たちの保護者のエゴなど、一つの事件を通して様々な側面を深掘りしている。

    最初はいじめによる未必の殺人を証明していくような話かと思っていたが、想定以上に深かった。
    読んでいる側は大人なので、真実を全て話せばいいのにと思うが、誰かをかばうとか自己保身が裏目に出るとか、大人でないからこその部分がある一方で子どもではないからこその部分がある中学生をうまく描いているがゆえに、事件は混迷を極めていくのが読み終わった後で理解できた。
    また、自分の子を守る信じるという被疑者の保護者たちも一見すると客観性の持てない親バカに見えるが、これがリアルなのだと思う。
    事件の決着は読者におまかせというのが唯一残念なところ。

  • お、面白かった…!
    って書くと語弊があるけど。面白おかしいの面白かったじゃなくて、夢中になって読まずにはいられなかったという意味で。びっくりするくらい面白かった!まいった!

    田舎の中学校で、生徒が死んだ。部室棟の屋根から落ちたと思われるそれは、果たして事件か事故か。死んだ生徒と関係が深かったと思われる生徒が話す内容は真実なのか。

    シチュエーションだけ見るとソロモンの偽証が一瞬頭を過ぎるけど、切り口が全然違う面白さ。思惑の矛先と、感情を寄せる先。ラストにどんでん返しがあるわけじゃない。順を追って真相に迫っていく。そこに意外性はないのにこの面白さ。

    伊良部先生しか読んでこなかったのがもどかしい~!他の著作も買います…。

  • 北関東のある県で中学2年の男子が部室屋上から転落死した。一緒にいた4人の同級生が関わったとして、傷害罪で逮捕、補導される。小さな町で誰もが真実を語らない。真相は?と言う話。最初は亡くなった子が可哀想に思えるが、様々な真実が浮かび上がる。中学生の心理を巧みに描いていて引き込まれた。人生で多分一番心と体が不安定な時期。自分たちもなにをどうすれば良いのかが分からない。苦しいのかどうかさえも。終わり方はすっきりしないのだけど、それがリアルさを増している。教師、親、検察、弁護士、それぞれのキャラの立場からの動きも良かった。

  • 中2男子生徒が、放課後の校内で遺体で発見される。

    人間、立場が変われば考え方も変わる。加えて、平常ではいられない部分も。

    という面で、被害者家族、被疑者家族、当事者生徒、教師、刑事、検事、マスコミその他モロモロの人々の書き分けが秀逸。

    とくに中学生たちの心理描写がすんばらしい。(元)中学生だった(はるか昔)身としても、全然違和感なし。
    大切にしなければならないものの優先順位が、独特の価値観でズレまくっているという。

    最後の方で、教師が元同級生と飲みながら打ち明けた話、なんだか的を得ているような気がする。

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著者プロフィール

おくだ・ひでお
1959年岐阜県生まれ。プランナー、コピーライターなどを経て1997年『ウランバーナの森』でデビュー。2002年『邪魔』で大藪春彦賞受賞。2004年『空中ブランコ』で直木賞、2007年『家日和』で柴田錬三郎賞、2009年『オリンピックの身代金』で吉川英治文学賞を受賞。著書に『最悪』、『イン・ザ・プール』、『マドンナ』、『ガール』、『サウスバウンド』、『無理』、『噂の女』、『我が家のヒミツ』、『ナオミとカナコ』、『向田理髪店』など。映像化作品も多数あり、コミカルな短篇から社会派長編までさまざまな作風で人気を博している。近著に『罪の轍』。

「2021年 『邪魔(下) 新装版』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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