枕草子のたくらみ 「春はあけぼの」に秘められた思い (朝日選書)

著者 :
  • 朝日新聞出版
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  • / ISBN・EAN: 9784022630575

作品紹介・あらすじ

【文学/日本文学評論随筆その他】藤原道長が恐れ、紫式部を苛立たせた書。それが随筆の傑作「枕草子」だ。権勢を極めてなお道長はなぜこの書を潰さなかったのか。冒頭「春はあけぼの」に秘められた清少納言の思いとは? あらゆる謎を解き明かす、全く新しい「枕草子」論。

感想・レビュー・書評

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  • 定子の明るく知的な性格、一条天皇の内気で学問好きな性格。そして二人が育んだ愛と一条天皇の定子への一途さ。また定子の兄、伊周たちと過ごした賑やかな日々。そんな光溢れる日常が音をたてて崩れ去り、あとに残るのは悲しみと孤独。
    定子と一条天皇の悲恋を山本淳子さんの『源氏物語の時代』を読んで知ったとき、もう悲しくて泣いて泣いて大変でした……

    定子と一条天皇との幸福な時間はあまりにも短いものでした。一条天皇の定子への一途な愛は生涯変わることはなかったのですが、皮肉なことに一条天皇が定子を求めれば求めるほど、定子に対する風当たりは強さを増すばかりです。その辺りは『源氏物語の時代』を読んだことで更に理解できました。

    『枕草子』は、定子のために作る。
    この決意は決して清少納言のなかで揺らぐことがありませんでした。
    『枕草子』のなかでは、定子と一条天皇はいつまでも仲睦まじく寄り添い、伊周や女房たちと笑いあい、雅な時間が流れています。
    そのためには、清少納言自身も道化師の役割を厭わず果たします。

    全ては定子のため。そして定子を愛した一条天皇のために。
    辛い境遇の定子が楽しむように。そして定子の死を受けてからは、彼女がどれほど素晴らしい皇后であったのかを伝えるために。悲劇の皇后から理想の皇后へと、定子に対する記憶を塗り替える。定子は、いつも雅びを忘れず幸福に笑っていたと。
    その目的は定子の鎮魂であると山本さんは書かれています。
    それがたとえ虚偽の姿だったとしても、皆が幸せな定子を忘れぬように、清少納言は『枕草子』をしたためたのですね。それこそが清少納言のたくらみであるのならば、私は進んでそのたくらみに嵌まろうと思いました。

    『枕草子』を、紫式部は「ぞっとするようなひどい折りにも『ああ』と感動し『素敵』とときめく事を見逃さない。そのうち自ずと現実からかけ離れてしまい、結局はありえない空事になってしまう。その空事を言い切った人の成れの果ては、どうして良いものであろうか」と批評しました。
    紫式部にとっては、そんな虚偽の私記など認められないものだったのでしょう。

    ふと私は、紫式部はもどかしかったのかなとも思えました。偽りは偽りでしかない。いつか綻びが生じる。清少納言ほどの者であれば、そんなこと分かるでしょう……みたいな感じです。
    もしかしたら、事実をそのまま素直に記せば、定子が亡くなってから悲劇の皇后として皆に罪悪感や同情を与えられたのではないか……とか(また私の妄想が暴走してます、すみません)

    けれど、清少納言は辛く悲しい現実を語ろうとせず、幸せに笑う定子の姿を世の中に残しました。そしてそのことが彼女を恋しく思う人々にだけでなく、定子に苦悩を与えた人々に、よりいっそうの悲しみ、後悔や懺悔、恐怖など心のうちにあるものを浮かび上がらせることになったようです。
    なんとなく北風と太陽のお話を思い出しました。

    『枕草子』は定子のために。
    この一途な清少納言の思いが、今も私に何かを投げかけてくれます。

    定子のことばかり書いてしまいましたが、清少納言と彼女を取り巻く男たちとのやり取りの話はとても面白かったです。

    • 地球っこさん
      しずくさん、こんにちは。
      それは本当ですか?!
      あぁぁ〰️観たかったです(ToT)

      山本淳子さん、わたしの中で今一番講演会とかでお...
      しずくさん、こんにちは。
      それは本当ですか?!
      あぁぁ〰️観たかったです(ToT)

      山本淳子さん、わたしの中で今一番講演会とかでお話を聴いてみたい方なのですよ☆
      2020/02/23
    • mofuさん
      地球っこさん、こんにちは。
      地球っこさんに紹介していただいた山本淳子さんのこの作品を読み終えました。(紹介された作品が貸し出し中だったので先...
      地球っこさん、こんにちは。
      地球っこさんに紹介していただいた山本淳子さんのこの作品を読み終えました。(紹介された作品が貸し出し中だったので先にこれを借りました)
      定子を見つめる清少納言、素敵でした〜(#^^#)
      おすすめ作品も読んでみたいと思います。
      おすすめいただいて、ありがとうございました(*^^*)
      2021/01/16
    • 地球っこさん
      mofuさん、こんばんは。

      わぁ、こちらを読まれたのですね。
      山本淳子先生の本はとても読みやすくて、どの本も眠たくならずに読み終える...
      mofuさん、こんばんは。

      わぁ、こちらを読まれたのですね。
      山本淳子先生の本はとても読みやすくて、どの本も眠たくならずに読み終えることができました 笑

      この本で清少納言のこと、「枕草子」への見方が、ただ古典の教科書に載ってたものから、もっと人間味溢れる身近なものへと変わりました。

      ぜひよかったら「源氏物語……」のほうもどうぞ(*^^*)
      わたしはそちらの方から入ったので、衝撃が大きかったのかもしれません(゜∇^d)!!
      ありがとうございました♪
      2021/01/16
  • 「源氏物語」で有名な著者が「枕草子」を?しかも「たくらみ」とは何だろう?
    と、興味津々で読んでみたが予想以上の読み応えで、読後しばらく茫然とした。
    山本さんはなんて素敵なお仕事をしてくれたのだろう。
    時系列に従って懇切丁寧に読み解く仕業は、まるで平安京の内裏に身を置いたかのような陶酔感をひきおこす。
    これを読まなければ、枕草子の真の魅力に気づきもしなかった。
    もっとも、しばしば涙ともに読み進めたのだけれど。

    「たくらみ」と言うと何やら怪しげな響きだが、それは「いとめでたき」皇后定子とその華やかな文化を後世に伝えようとした工夫のこと。
    何故そのような工夫が必要だったかというのを、実に解りやすく解説してくれる。
    定子の肉親や男たちによる権力抗争の中で、24歳と言う若さで亡くなった定子。
    しかし清少納言はそんな不穏なことは書かず、定子崩御への言及さえしない。
    それは、死後までも定子を貶めようとする権力者から、定子を守るすべであったと言う。
    また、後宮を離れてからの「つれづれなる(この言葉の意味も初めて知ることになった)日々」を送る定子を、慰め励ます意味もあった。
    こんなこともありましたね、あの時は面白かったですね、と語り掛けているのだ。
    それがどれほど悲運にみまわれた定子を励ましたかは想像に難くない。

    枕草子というと、美しく聡明な皇后と機知にとんだ女房のやり取りと思われがちだがそれも事実とは反する。
    あくまでも皇后が与え、清少納言がそれに応えるという形の中で生まれたものなのだ。
    数々の機知の場面も定子あってのものと、感謝と鎮魂の思いが枕草子の主眼であり、だからこそ後世まで残される必要があったと著者は述べる。
    「をかし」が生まれるその瞬間に、まるで立ち会ったかのような臨場感にしばしば包まれるのは、キーポイントとなる章段(現代語訳付き)の引用の巧みさと著者の愛情深い解説によるところが大きい。

    定子を愛した一条天皇と皇后定子の喜びと悲しみ、一心に見つめる清少納言の健気さ。
    筆をとりながら、どれほどの涙が流されたことだろう。
    枕草子どころか、私は著者のたくらみにも陶然としてくる。山本さんには心から感謝を。
    古典がお好きな方には特に、あまりそうでない方にもおすすめ。

    巻末に「内裏・後宮」の見取り図と主要人物の関係系図、年表付き。
    読後それを見ながら再度楽しめる。

    • vilureefさん
      さっそく図書館に予約を入れました。
      枕草子、一度じっくり向き合いたいなぁとおもいつつ、早四半世紀(笑)
      人生の機微も多少は分かってきたこ...
      さっそく図書館に予約を入れました。
      枕草子、一度じっくり向き合いたいなぁとおもいつつ、早四半世紀(笑)
      人生の機微も多少は分かってきたこの歳になってからでも遅くないかな・・・。

      枕草子の中では山吹の花びらのエピソードが好きで、読むと胸がいっぱいになったこと覚えています。
      この本読んだら、また胸がいっぱいになっちゃうかしら?
      いい本紹介してくれてありがとうございます。
      楽しみです♪
      2017/09/26
  • みなさんのレビューで気になった本。小説以外の本はあまり読まないのだが、興味深い内容で楽しめた。

    『枕草子』というと『春はあけぼの』など、幾つかの文章を遠い昔に授業で覚えただけの薄っぺらい知識しかない。イメージで気位の高い知識人のおばさま女房が宮中での日々を綴ったエッセイと思っていたが、この本を読んで変わった。

    また作者・清少納言が仕えた中宮・定子についても後に入内する藤原道長の娘・彰子のライバルくらいの、これまた薄っぺらいイメージしかなかったのだが、この本を読むと何と波乱と悲劇の人生だったのかと驚く。

    一条天皇に最初に嫁いだ后で父親は当時の権力者。帝との仲も睦まじく人生の絶頂期。しかし父親の急死により事態は一変。権力者は道長に取って代わり、后という立場は一気に揺らぐ。そこから更なる悲劇と変わらぬ帝の寵愛とに揺れ動く。
    ざっくり書いただけでも映画やドラマになりそうなくらい波乱万丈だが、その定子に仕えた清少納言の立場もまた波乱続きだ。一時は出仕出来ないほど追い詰められ、その後も定子の境遇がどんどん侘しく辛いものになっていくのを目の当たりにするのだ。

    『枕草子』は定子が辛い状況に陥った正にその頃に書かれ始め、定子亡き後も書かれ続けた。では『枕草子』は何のために書かれたのか。
    『枕草子』では定子の辛い状況や道長への恨み言は殆ど書かれない。日々の徒然を面白おかしく、楽しいこと美しい瞬間、雅なエピソードで彩っている。『枕草子』の中での定子は嫁いだばかりの頃のように誰に憚ることなく帝と仲睦まじく過ごし、清少納言ら女房たちには優しくも時に知己や機転を鍛えさせてくれるよき主人であり、貴人と思えぬ積極性と茶目っ気を見せてくれる個性的で魅力的な女性だ。

    紫式部の「絵空事ばっかり書いてるんじゃないわよ」という批判は当たっていたのだ。そこには切ないほど必死で健気な清少納言の思いがあった。
    作者さんの解説を読むと、挿入される『枕草子』の数々の文章に清少納言の定子愛を感じる。それぞれのエピソードに清少納言の「こんな楽しいこと、面白いこと、幸せなことがありましたね」という定子への呼び掛けすら聞こえてきそうだ。
    定子を楽しませるためなら清少納言は進んで道化の役もやるし恥ずかしいエピソードも披露する。定子の前では気位の高いオバサンではない。

    こんな魅力的な定子という女性を描いた『枕草子』は、何故時の権力者・藤原道長に握りつぶされなかったのか。
    その第二の問は言われるまで気付かなかった。まあ定子の境遇と『枕草子』が書かれた理由を知らなかったからなのだが。
    だが言われてみれば確かにそうだ。長い歴史の中で、常に文書は後の権力者の都合に合わせて作られ、都合の悪いものは改竄され潰される。そこにも第一の問同様、清少納言の巧妙な「絵空事」戦術があった。

    とは言え、娘の小馬命婦をちゃっかり彰子に仕えさせている辺り、親としての心情は別なのだなと思ったりする。
    道長の世は当面続きそうだから彰子に仕えていれば娘は食いっぱぐれはなさそうだし、上手く行けば良い男を掴まえられるかも知れないし。なんて考えていそう。

    凋落後は道長派からの露骨な嫌がらせを受け続け、周囲からも距離を置かれ不遇なままだった定子が、崩御後は手のひら返しで気の毒がられたり恐怖の対象になったりというのは、現代でも通じるところがあって興味深い。
    そこにはこの時代ならではの、祟りや怨霊が本気で信じられていたという背景があったのかなと考えられる。だからこそ『枕草子』も守られたのではないかとも思う。
    道長も晩年は多くの怨霊に悩まされていたと聞く。まぁ彼の場合、定子に限らず色んな恨み買っていそうだし。

    これまた始めて知ったが『源氏物語』の桐壺の更衣は定子の境遇にそっくりとのこと。
    紫式部が仕える彰子のライバル、定子をモデルにしたとしたならそこにはどんな思いがあったのだろう。立場を越えて、定子の境遇は紫式部の創作意欲を刺激するものだったのか。

    それにしても作家さんは清少納言と定子が好きなのだな、と全編通じて感じた。まあどうしても悲劇的な方に肩入れしたくなるのは解る。

  • 表題がなんとも魅惑に満ちている。
    かの清少納言が随筆『枕草子』に託した”たくらみ”とは?
    冒頭「春は、あけぼの」に込められた秘かな想いとは?

    今まで他の物語を読んで何となく知っていた中宮・定子の波乱万丈な人生。
    山本淳子さんの指導により深く掘り下げてみると、定子の毅然とした美しさや聡明さ、それを見守る清少納言の知性に惚れ惚れする。
    誰もが羨む恵まれた血筋に生まれながら必ずしも順風満帆とは行かず、暗闇をさ迷うような人生を歩んだ定子。
    そんな定子の気持ちを誰よりも察し、定子の苦悩が少しでも和らぐように、定子の魂を鎮め浄化させようと、清少納言はただ黙々と『枕草子』を書き綴る。
    人生とは時に切なく時に儚く、けれどそれら全てはこんなにも光り輝き美しい。

    清少納言好きはもちろん、平安時代好きにはたまらない一冊。
    とても贅沢で有意義な時間を過ごせた。

    何かと比較される清少納言と紫式部。
    2人が孫の代まで因縁があったとは驚いた。
    この2人って何かと比較されるけれど、時代的に見ても出逢ったことはないはず。
    なのに何故こんなにも比較されるのか。清少納言の後に後宮入りした紫式部にとって、目の上のたんこぶ的存在の清少納言のことは忌々しくどんなにか嫌であっただろう。
    それが孫の代まで縁があるとは、あの世の2人もびっくりしたことだろう。

    千年の後の世でも受け入れられ、幅広い世代に読み続けられている『枕草子』。
    定子が後宮で創り上げた文化は時代を超えて今もなお生き続ける。
    『枕草子』に託した清少納言の”たくらみ”は大成功と言えよう。
    悲しい時こそ笑いを。
    くじけそうな時にこそ雅びを。
    「あはれ」を「をかし」に変える清少納言の姿勢を見習いたい。

    最後になりましたが、この著者を紹介して下さった地球っこさんに感謝します(*^^*)

    • 地球っこさん
      mofuさん、こちらでもこんばんは♪

      とても素敵なレビューに、読んだときの感動が蘇えってきました。

      定子は清少納言や一条天皇に本...
      mofuさん、こちらでもこんばんは♪

      とても素敵なレビューに、読んだときの感動が蘇えってきました。

      定子は清少納言や一条天皇に本当に愛されていたのですね。
      定子が亡くなっても、彼女を忘れられなかった一条天皇。
      その一方、一条の傍らで何も言わずに見守る彰子のことを考えると、涙が出そうになります。
      紫式部はちょっとばかり苦手なんですけど、彰子は大好きです。(あんまり本とは関係ないですね 笑)




      2021/01/16
    • mofuさん
      地球っこさん、こんばんは。

      山本淳子さんを教えて下さって、本当にありがとうございました(^^)
      一条天皇の愛に感動しました。
      あの当時、し...
      地球っこさん、こんばんは。

      山本淳子さんを教えて下さって、本当にありがとうございました(^^)
      一条天皇の愛に感動しました。
      あの当時、しかもあのお立場で…定子様に対する想いは真っ直ぐで本物なんだと思い知りました。
      ほんと素敵(#^^#)

      私も紫式部のことは、実はちょっと苦手です(^.^;『源氏物語』は好きなんですけどね。
      他の山本淳子さんの作品も読んでみます。
      コメントをありがとうございました(*^^*)
      2021/01/16
  • なんと、面白いことか。
    本書が扱うのは古典の名作『枕草子』。学校の授業で、文法に悪戦苦闘しながら、つまみ食いのようにして読まされた『枕草子』。おそらく、全文を古文で読み通した人はそうはいないだろう。

    かくいう私も、田辺聖子さんの現代訳『むかし・あけぼの』(名作です!)を読んだ程度。『枕草子』は、どこか、軽いエッセイのようなものと捉えていた。だが、それは確かに一面だが、それだけではない。『枕草子』には清少納言のたくらみ、想いが込められていたことを本書は指摘する。

    その手がかりは、歴史的事実と『枕草子』の記載の乖離から浮き上がる。著者の山本さんは、それを清少納言の事実誤認とは考えない。清少納言が意図的に改竄したと考える。では、何故、彼女はそのように記したのか。哀しくも「あはれ」なたくらみが明らかとなる。

    しかし、清少納言のたくらみは成功したと言えるのではないだろうか。なんと1000年以上経った今に至るまで、聡明な中宮定子を中心としたそのサロンは、明るく、闊達なイメージで受け入れられているのだから。 

  • とてもおもしろかった。

    定子のために書かれ、死後も書き続けられた作品、と頭ではわかっていても、心理的にわかっていなかったなぁと。

    定子や一条天皇の心情がていねいに描写され、ともにぐっとくるものがある。

    「枕草子」の内容だけでなく、時代背景も深めていくことで、当時の出来事や人物が、ぐっと身近に感じられる。

    貴族女性は奥に隠れるもの、という時代に、オープンで、明るくて、機知にとんだ定子サロンの小気味よさ。
    彼女たちを取り巻く環境が過酷であったとわかっているからこそ、きらめきだけを集めた「枕草子」の彼女たちは、すがすがしかった。

    大内裏図、後宮図、寝殿造図に、詳細な主要人物関係図。
    原文に必ずつく現代語訳。

    母体がジュニア向けの紹介記事だったこともあってか、あまり知識のない人にもわかりやすい。

  • 皇后定子が失意と悲嘆のうちに亡くなった時、まだ24歳。一条天皇は21歳だった。
    悲運を描かず、もっとも華やいだ日々を書きつづり、后が存命の折りにはその悲しみを和らげ、没後には魂を鎮めたという背景を丁寧に教えてくれる本だった。
    読み終えて、枕草子を読むと泣けてきた。

  • 日は入日 入り果てぬる山の端に 光 なほとまりて 赤う見ゆるに 淡黄ばみたる雲の たなびきわたりたる いとあはれなり

    枕草子の後半に書き連ねてある「日、月、星、雲」の段。上の部分はその中の「日」の段にあたる。
    初段の「春はあけぼの」にも通じるお題ありきの構成をとる。自然への洞察力に長け軽妙で小気味いい清少納言らしい文章だ。
    もちろんこれだけを読んでも十分に枕草子の世界を堪能できる。
    ただ、この背景にあるものを知ったらどうだろう。また一段と作品世界が広がることは間違いない。

    この本によると、おそらく「春はあけぼの」は定子の生前に書かれたもの。そして上に上げた段は定子の没後に書かれたものとある。
    平安という雅の中にありながらも、時代の波に翻弄された悲劇の中宮、定子。
    そんな彼女の心を慰めるため、そして彼女の魂を鎮めるために書かれたのがほかでもない枕草子だったのである。

    いったんこの作品がある種の挽歌だったと知ると、枕草子における清少納言のきらびやかな貴族社会への執着に合点が行った。
    もともと山吹の花のくだりが好きで、ここを読むと定子の清少納言への愛情の深さに胸がいっぱいになってしまうのだが、この本を読んだ今はどのくだりを呼んでも清少納言の定子への思いがひしひしと伝わってきて切ない。

    高校の授業で出会った枕草子。
    知っているようで全然知らなかったその世界。
    一筋縄じゃいかない。
    だからこそ面白い。
    平安の時代に思いを馳せながら、読み耽るのもいとあわれなり(笑)

    尊敬するブク友さんから紹介された素敵な本です。
    読んでよかった。
    ありがとう~♪
    久々のレビューでした!

    • nejidonさん
      vilureefさん、こんにちは(^^♪
      この本、お読みいただけたのですね。
      vilureefさんらしい、素敵な感性のレビューで何度も読...
      vilureefさん、こんにちは(^^♪
      この本、お読みいただけたのですね。
      vilureefさんらしい、素敵な感性のレビューで何度も読んでしまいました。
      でもでも、ラストの4行は赤面ですわよ。もううっすら涙まで出ます。
      でも読んでくださったのが本当に嬉しい!

      ところで、九月猫さんの「月の満ち欠け」のレビューにコメントされてて、
      おふたりのやり取りでなんだかとても心和みました。
      ブク友さんたちのコメントを読んで喜んでるって、ちょっぴり可笑しいですよね。
      でもそんな楽しみ方も確かにあるのですよ。
      2017/10/18
    • vilureefさん
      nejidonさん、こんにちは♪

      nejidonさんにそんな風におっしゃっていただけるなんて恐れ多いですー(^^ゞ
      緊張しちゃいます...
      nejidonさん、こんにちは♪

      nejidonさんにそんな風におっしゃっていただけるなんて恐れ多いですー(^^ゞ
      緊張しちゃいますよ。

      枕草子をもう一度学び直す良い機会になりました。清少納言の感性って、今に通じるところがたくさんあってホント、名作だなって改めて。
      nejidonさんのおかげですよ~♪

      九月猫さんも久々にお見かけして嬉しかったです。
      お仲間さん達がいるから楽しいんですよ、ここって(*^_^*)
      オフ会したい気分です(笑)
      2017/10/18
  • 美しく聡明、そして気高い定子は清少納言の憧れの人であり、畏敬の人だったのでしょう。でも、運命は定子に過酷な流転の時を与えます。清少納言は知的で雅な宮廷生活とその女主人定子を描くことで、定子の尊厳を守り、果ては、鎮魂歌としたのでしょう。「枕草子」が随筆などではなく、非常に知的に編集されたフィクションであることがわかります。

  • すっごく面白かった…!
    枕草子が成立した平安時代の社会背景に目配せしつつ、枕草子を紐解く構成。文学作品としての『枕草子』がより社会性と、定子・清少納言を取り巻く人物たちの物語性を持って立体的に立ち上がってくる、そんな理解を促す一冊。

    何に心が動いたか、枚挙に暇がない。
    1. 枕草子に登場する主要人物の機知に富んだやり取りにワクワクして楽しかったし、
    2. 定子と一条天皇の悲恋は涙なしには読めず、
    3. 政治を取り巻く人間模様も興味深かった。
    4. また、貴族というと、豊かで雅な生活を送る、自分とはあまり共通点がない人々だろうという予想を裏切って、実は「知的労働をするホワイトカラー」だったとも読め、キャリアウーマンとしての清少納言にむしろ親近感を覚えた(逆に言うと今まで清少納言の一人間としての人生に想いを馳せる機会がなかった…)

    今同時に読んでいる『源氏物語』の中のエピソードを彷彿とさせる歴史的事実も多くあり、『源氏物語』のインスピレーションの源泉にも触れられたのでは、とより胸に迫ってくるものがあった。

    本書を読み始めた当初、親戚同士の藤原伊周と道長がいがみ合うのが悲しくて悲しくて、夢にまで見てしまった。「スポーツマンシップに則って、競走によって公正に後継者を決めよう」と言って、狩衣・指貫姿の伊周と道長がスポーツカーに乗ってレースする夢…(カオス笑)
    読み進めるにつれて、「藤原一族による権力独占」であるが故に骨肉の争いが公然と行われていたということを理解した。現代は職業選択の自由があることで親戚同士で競争関係に陥るリスクが低減されているのであれば幸福なことなのかも。
    いずれにしても栄華から没落に転じるスピード感の速さ(無常)と激しい競争社会には目を見張るものがあり、そんな社会背景から生まれる人間ドラマは密度が濃くて読み応えがあった。
    その中で明るく、温かく、知的に、したたかに生き延びた『枕草子』が愛おしく感じられて、もう感動的。

    • 地球っこさん
      shokojalanさん、こんにちは。

      山本淳子さんの本は読みやすいですよね。
      わたしは大ファンです。

      shokojalanさんの夢、悲...
      shokojalanさん、こんにちは。

      山本淳子さんの本は読みやすいですよね。
      わたしは大ファンです。

      shokojalanさんの夢、悲しいから見られたのに、なんか面白いです 笑

      わたしは一条天皇と定子、そして彰子、3人の想いを勝手に想像しては涙々でした。
      道長も伊周も憎めない魅力があって、大好きなんです。

      shokojalanさんのレビューで、またこの時代のものを読みたくなってきました。

      同じ山本淳子さんの「源氏物語の時代─一条天皇と后たちのものがたり」朝日選書もオススメです。
      わたしは選書なのに、感動する小説を読んだかのように最後号泣しました。

      もしご興味があれば。
      すでに読まれておられたらすみません。

      これからもレビュー楽しみにしてます。
      2021/10/03
    • shokojalanさん
      地球っこさん、コメントありがとうございます。
      しばらく前から積読してあって、記憶が定かではないのですが、確か地球っこさんのレビューを拝見して...
      地球っこさん、コメントありがとうございます。
      しばらく前から積読してあって、記憶が定かではないのですが、確か地球っこさんのレビューを拝見して読みたいなと思ったような記憶があります。いつも素敵なレビューと本の紹介ありがとうございます。

      夢は、悲しすぎて「こうだったらいいのに」という希望が投影された結果、コミカルで前向きなタッチの夢を見てしまいました 笑

      「源氏物語の時代」もぜひ近々読んでみます!平安時代の魅力に本書で気づけたので、徐々に広げていきたいです。
      2021/10/03
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著者プロフィール

山本淳子
<プロフィール>
京都先端科学大学教授。京都大学文学部卒業。高等学校教諭等を経て、1999年、京都大学大学院人間・環境学研究科博士課程修了。京都学園大学助教授等を経て、現職。『源氏物語の時代』(朝日選書、2007)でサントリー学芸賞を受賞する。他の著書に『枕草子のたくらみ』(朝日選書、2017)など。

「2022年 『古典モノ語り』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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