ベトナム戦記 [新装版] (朝日文庫)

著者 :
  • 朝日新聞出版
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感想 : 12
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  • Amazon.co.jp ・本 (336ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784022620569

作品紹介・あらすじ

見た、聞いた、考えた戦火の国で。この記録は現代につながっている。ベトナム戦争とは何なのか。最前線がどこにもない、いや、全土が最前線と化している。そんな戦場をカメラマン秋元と取材した100日間の記録(1964~65)。生と死、日常と非日常が入り交じる混沌を描く濃密な言葉。時を超えて読み継がれる傑作ルポルタージュ。《解説・日野啓三》新装版では、取材に同行した秋元啓一による未公開写真を多数収録(カラー含む)。フォト・ドキュメンタリーとしても色褪せない不朽の1冊!--------------------------------------------------------------------最前線はどこですかと聞いて、そのたびにたしなめられた。最前線がどこにもない、いや、全土が最前線だというのがこの国の戦争の特長である。ベン・キャットも最前線ならサイゴンのマジェスティック・ホテルだって最前線である。いつフッとばされるかわからないのである。 (本文より)--------------------------------------------------------------------

感想・レビュー・書評

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  • コロナ禍明け数年振りの海外ベトナム旅行に合わせて。
    ルポルタージュの金字塔。
    前半は叙情的なサイゴン・農村の描写、そこから公開処刑・前線での戦闘を経て一気に緊迫していく。
    小説家でもある報道者・開高の全性能が呼び出された文章は、半世紀を経ても一切色褪せない!

  • こちらを読んだ後、マジェスティックホテル にどうしても行ってみたくなりホーチミンに行った。ホテルのロビーの窓は赤、白、水色、黄色、緑を使ったステンドグラスがはめ込まれていて、そこから光が入って美しかった。目の前のサイゴン川には蓮の花が流れこの景色を開高さんも見ただろうかと、思いを馳せた。

  • 60年代末の文章表現は、今ほどの社会的規制を受けていない表現の自由に嫌悪感も感じるが、戦争の嫌悪感なのか渾然一体となって区別できない感じが、芸術性を感じる。

  • 不朽の一冊だろうと思う。今、読んで良かった。

  • ベトナム戦争の従軍記的なルポを読みたかったらp177かp199からで十分。

  • 前の文庫には写真がなかったが、表紙に謳っているからには写真入りらしい。

  •  本当に久しぶりに、開高健の文章を読んだ。
     年譜を振り返ると、平成元年に亡くなっているから、もう33年も経つのだ。
     僕は開高健のエッセイが好きで、若い頃よく読んだ。 
     圧倒的な語彙とユーモア。そして、簡潔な表現。
     釣り、食、読書など、森羅万象に通じているのではないかと思うほどだったが、その彼が、「戦争」をルポしたらどうなるのか。
     目の前で少年兵の処刑(銃殺)を目撃した部分が、一番印象的で、処刑のあとすぐにその場が掃除され、あっという間に何事も無かったかのように、日常を取り戻す。
     しかし、目撃者の開高健は気分が悪くなってしまう。
     後に出てくるいつ撃墜されるか不安に駆られながらヘリに乗るところや、ベトコンに襲撃され命からがら逃走する場面より、処刑の場面が一番印象に残った。
     
     光文社文庫で開高健のエッセイの多くが、復刊されている。
     中でも「白いページ」は再読したい本である。
     岩波文庫、岩波現代文庫でも小説が読めたと思う。
     また、開高健を時々、読みたいと思う。

  • 後半、風雲急を告げ、凄まじい事実の力。戦争はいつでも理不尽に始まり、終わりが見えない。

  • 開高健(1930~89年)氏は、大阪市生まれ、大阪市立大卒の小説家、ノンフィクション作家。『裸の王様』で芥川賞、『玉、砕ける』で川端康成賞、一連のルポルタージュ文学により菊池寛賞を受賞。
    本書は、ベトナム戦争初期の1964年末~65年初に100日間、臨時特派員としてサイゴン(現ホーチミン)に赴いた開高が、「週刊朝日」に毎週送稿したルポを、帰国後本人がまとめ、1965年3月に出版したもの。1990年に文庫化、2021年に(一緒に赴任したカメラマン秋元啓一氏の写真を新たに加えて)新装版として再刊された。
    私はノンフィクション物を好んで読み、ベトナム戦争については、「安全への逃避」でピュリツァ―賞を受賞したカメラマン沢田教一を描いた青木冨貴子の『ライカでグッドバイ』、陥落前後のサイゴンを記録した近藤紘一の『サイゴンのいちばん長い日』なども読んでいるが、本書については、開高のノンフィクションの中でも代表作であると同時に、様々な論議を呼んだ作品であることから気になっており、今般新装版が出たので手に取ってみた。
    議論を呼んだのは、例えば以下のような点である。
    ◆ノンフィクション作家の沢木耕太郎は、角幡雄介の『旅人の表現術』に収められた角幡との対談(初出は雑誌「考える人」2012年秋号)の中で、次のように述べている。「基本的にジャーナリストというのは、現場の人々や自然にとって闖入者です。その闖入者が、平和な日本では見られないものを見て動揺したり、おののいたり、人生観が変わるようなことはありうるでしょうけど、ベトナムという現場にとって、あるいはベトナム人にとってそれはどう映るんだろう、という気がするんです。・・・自ら望んでそこに赴いた闖入者でも、苛烈な体験をして動揺したり沈思したりすることに対するもうひとつの目を持ったうえで書かれていれば、いいと思う。僕は、『ベトナム戦記』のときの開高さんはこの時、すごく無防備に書いていると思う。自分をもうひとつの目でしっかり見て描いていないという気がする。・・・あの襲撃されて命からがら逃げるというシーンには、「ああ、これでレポートを書き終えることができる」と思った感が、濃厚にある。・・・ベトナム人にとってその態度はどうなんだろうと思うんです。」 私もこの指摘については似た感覚を持っており、現地から毎週送稿されたレポートが、その都度週刊誌に掲載されている段階ではともかく、ひとつの“ノンフィクション作品”となった場合、開高のスタンスに対しての違和感は拭えない。尤も、本作品が書かれた1965年当時から50年が経ち、ノンフィクションというジャンルがそれだけ変化・進歩したと捉えることもできるかもしれないが。。。
    ◆武田徹『現代日本を読む~ノンフィクションの名作・問題作』の中で、思想家・吉本隆明が次のように書いている(初出は雑誌「展望」1965年10月号)ことが紹介されている。(政府軍の兵士にベトコンの少年兵が銃殺されるのを見て、開高が吐き気をもよおす部分について)「この作家が、二十年にわたる<平和>な戦後の有難い<民主主義>とやらの現実のなかで、政治的なまた大衆的な国家権力とのたたかいのなかで敗れ、思想的に死んでいったひとびとや、<平穏>な日常生活のなかで、子を生み、育て、一言の思想的な音もあげずに死んでゆくひとびとを、<銃殺>された死者として<見る>ことができず、わざわざベトナム戦の現地へ出かけて、ベトコン少年の銃殺死を見物しなければ、人間の死や平和と戦争の同在性の意味を確認できなかったとき、幻想を透視する作家ではなくただ眼の前でみえるものしかみえない記者の眼しかもたない第三者にほかならないのだ。」 また、三島由紀夫も同様の批判をしている。そして、そうした批判に応えるために開高が書いたと思われる、ベトナム戦争を題材とした小説『輝ける闇』も、賛否を呼ぶ作品となっている。
    ◆また、本作品のハイライトのひとつである、政府軍とアメリカ軍と共に最前線に行き、ベトコンに襲われて、開高自身も撃たれそうになって逃げ惑う部分について、そのノンフィクション性へ疑問(要するに、ここの記述に創作が含まれているのではないかという疑問)を呈する向きがある。

    読み終えてみると、ベトナム戦争の一面(少なくとも、戦争初期の段階で、政府軍のベトナム人兵や僧侶、アメリカ兵らがどのようなことを考えていたのか)が見えてくるのも事実であり、更に、上記のようなノンフィクション作品とはどうあるべきか、また、作家とはどうあるべきか、などを考えてみる上でも、一読の意味はある作品と思われる。
    (2022年2月了)

  • 真実の在処を-仮に真実があるのならば-探して
    何が起こっているのか、起こっていることの本質は何なのか
    見えない何かを描写しようと開高健はもがく
    そのもがきが滲み出る本著はわかりやすいルポタージュの類では全くない
    かといって、難解さのために難解さを重ねたような本でもない
    この難解さこそが真実なのである
    これこそ作家の仕事だと痛み入った

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著者プロフィール

開高 健(かいこう・たけし):1930年大阪に生まれる。大阪市立大を卒業後、洋酒会社宣伝部で時代の動向を的確にとらえた数々のコピーをつくる。かたわら創作を始め、「パニック」で注目を浴び、「裸の王様」で芥川賞受賞。ほかに「日本三文オペラ」「ロビンソンの末裔」など。ベトナムの戦場や、中国、東欧を精力的にルポ、行動する作家として知られた。1989年逝去。

「2024年 『新しい天体』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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