ハイパーハードボイルドグルメリポート

著者 :
  • 朝日新聞出版
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  • Amazon.co.jp ・本 (528ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784022516749

感想・レビュー・書評

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  • ごはんが無ければ人間は生きていけない。逆に言えば、生きるという営みの中には「ごはん」が必ず鎮座しているわけであり、その人が食べる食材や食べるための調理法は、その人の日々の生活を映し出す鏡とも言える。
    では、世界のヤバい場所で暮らしている人たちは、どんなヤバい飯を食っているのだろうか?

    そうしたコンセプトのもと製作されたテレビ番組、「ハイパーハードボイルドグルメリポート」を書籍化したのが本書。もともとはテレビ東京の深夜番組として映像化されていたが、書籍化にあたり番組では(尺的にも内容的にも)放送できなかった未公開エピソードを大幅加筆しており、番組を作成していた上出氏の心情や考えがありありと表現されたまさに「完全版」の一冊である。

    「ヤバさ」と一言で言っても、ベクトルはさまざまだ。食人者と言われている元少年兵が食べる廃墟飯、路上生活を重ねるドラッグ中毒の娼婦が食べる屋台飯、台湾マフィアたちの酒池肉林、カルト宗教の信者が作るベジタリアン料理、有害物質で汚染された豚を食べるスカベンジャーなど、極上から最底辺まで幅広く、「ヤバさ」の中でもこんなに格差があるのかと思い知らされる。清潔で安全な日本では考えられないような「食べられればいい飯」が出てきたと思ったら、逆にまともな料理なのに食べている人が全然マトモじゃなかったり、読んでいてワクワクするほどのバラエティーに富んでいた。

    本書を貫くコンセプトは、「人には人の正しさがある」だ。物乞いや強盗をして食事にありつく者もいれば、朝から晩まで低賃金の仕事をこなし、なけなしの銭で米を買う者もいる。
    「清貧に甘んずる」のを美徳とするのは満ち足りた人々だけだ。日々の食事に事欠く人々は倫理では測れない。人は食わなければ死ぬし、食うためなら何だってしてもいい。リベリアやケニアの貧困者たちを先進国の基準で捉え、彼らに道徳を説いてしまえば、彼らの背後に潜む悲惨さから眼を背けることになる。

    取材に応じてくれた人たちは、社会から切り離された存在である。内戦の影響で住む家を無くした元政府軍と元反乱軍、動物を殺すことへの罪悪感から植物と乳製品だけを食べる街、ゴミ山で生きるしかなく、鉛で汚染された食物を食べて身体を壊す子どもたち。彼らの食事を通じて描かれる世界のリアルとは、「ヤバい」と「普通」の間、そして「正義」と「悪」の間は切り分けられないほどぼやけているということだ。そして、食事の間だけは善悪を忘れられることができ、美味しい食事に舌鼓を打つのは誰もが同じということだ。食事は現代社会が抱える闇を浮きぼりにするが、同時に闇を忘れさせてくれる存在であるのかもしれない。

    本書は、私たちとはかけはなれた「ヤバい」状況のもとごはんを食べる人々のルポだが、不思議と食事の様子は想像ができるし、「食べてみたい」と思えるようなものも少なくない。過酷な環境で生きながらも、みな食べると言う行為を楽しみにしており、日々の生活と毎日の食事に真摯に向き合っている。世界のアングラな部分を見ながら食について再考できる一冊。ぜひ味わってみてほしい。

  • 『ヤバイ世界のヤバイ奴らは何を食っているんだ?」

    ディレクター一人でカメラを携え、危険な地域に、物怖じすることなく立ち入るー。
    彼が写すのは、食事をすることを通してみた、彼らの生活。
    それを映像化したのが、テレビ東京の「ハイパーハードボイルドグルメリポート」。
    そして今回書籍化したのがこちらの本であるが、
    番組で放送したのが、本で書かれた全ての千分の一、と冒頭で述べるほど、内容は濃い。

    リベリア、台湾、ロシア、ケニア…。4カ国の中での出来事が語られるこの物語は、今まで読んできた本の中でも、かなり真に迫った現実を、休む間もなく突きつけ続けてくる。

    読み終えて、最も衝撃だったのは、物語で最初に訪れたリベリアだった。
    著者が述べるところの「世界中の不幸の盛り合わせ」みたいな国であるリベリア。

    日本からの支援物資は転売され、それを買う村人。椅子を持ち歩くのは、置いておくと盗まれるから、という子供…。
    さらには、「エボラ出血熱」による惨たらしい死。
    こうして不幸渦巻く現実に、エボラでさえ、富裕国による陰謀説だと唱える人もいる。そうしなければ、受け入れられない、という。

    どうしても、比べて考えてしまう。
    誰かと比べて自分は幸せだとか、優位だとか劣っているだとか。
    しかしそんな薄っぺらなことを、この本が伝えたかったように思えない。
    いや、きっとこう感じて欲しい、というわけではなく、もちろん筆者が感じたことも綴ってはあるけれども、ただただ事実のみを描きだして、読んだときにどう感じるかを問いかけてくるような気がした。

    振り返る。
    私たちは食べる。どんなに贅沢な生活を送っている人も、明日生きられるかもわからない人も。ならば、食べることを通じてなら、あらゆる人の生き様を垣間見ることができるのではないか。その着眼点には、思わず脱帽。

    こんな短文でこの本のエッセンスは、まとまりきらない。でもこれだけは言える。
    心して読んでほしい。そして読書を通じて味わってほしい。そんな一冊。

  • うわ~!なに~もうこの本!
    衝撃的におもしろかった!!

    「ヤバイ国のヤバイ人たちは何を食べているのか?」
    テレビ東京のディレクター・上出遼平さんが
    ADもつけないで1人でカメラを持って取材するという番組のドキュメンタリーリポート

    紛争が続く西アフリカのリベリア共和国
    人を食べたことがあるという元少年兵を探して訪れ出会ったのは元放送局の廃墟に住む元国軍と反乱軍の兵士たちで…

    日本でも人気の旅行先「台湾」
    人骨で鍛錬する刀職人
    そして台湾の黒社会を仕切るドンの食事とは?

    ロシアの洞窟の家に住む夫婦
    そしてカルト宗教と噂されるヴィッサリオン教の小さな村の人々の食事とは?

    アフリカ東部のケニア共和国
    ゴミ山に暮らすスカベンジャーたちの生活とその食事とは?

    1つの国の取材記を読むごとに胸がざわざわする
    ある時は、戦争とは何なのか?を思い
    ある時は、貧困について考え
    ある時は、生きることを哲学的に考え
    その答えは永久に出ないだろうと思ったり…

    「その人の価値感や正しいと思うことを他人が批判したり判断することはできない」と語るカルト村の人
    幸せかと聞かれた時に「あなたに会えたから幸せだよ」と言うスカベンジャー生活の少年
    「正しさが正義ではなく移ろいゆくことこそが真理」
    自分の命を守るために自分の親に銃を向けた少年兵
    みんな私たちと同じ人間
    生きるという意味では同じでも
    その人の人生と人生の哲学はみな違って深い

    上出さんはこう書いている
    カメラを通してその人の人生を覗き見ている…と

    取材は暴力である
    カメラは銃でありペンはナイフである
    幼稚に振り回せば簡単に人を傷つける

    取材活動がどれだけ社会正義に即していようとも
    それが誰かの人生をねじ曲げるのであれば
    それは暴力だと思っている
    その正しさは取材活動の免罪符になるけれども
    暴力であることから逃してはくれない。

    おそらくマスコミの仕事をする人の多くは
    この言葉のリアルな現場を体験して一度は葛藤していると思う。
    そこを忘れるか大切にするかでそのディレクターの作るVTRは訴えてくるものが違う

    上出さんのこの番組は見ていなかったのだけど
    心の底から「見たみたい!」と思った。

  • 先日レビューに書いた『岡崎に捧ぐ』の山本さほさんがオススメをしていて、つい最近、一話を見たところだった。

    この本では、その一話で取り上げられていたリベリアの元少年兵飯と台湾のマフィア飯の他に、私自身は未視聴の、ロシアのカルト飯とケニアのスカベンジャー飯が登場する。

    あくまで目的はヤバい人を取り上げたグルメリポートで、逆に言うとヤバすぎて、むしろこのグルメ部分で結構ホッとするというか、「命の音」に例えているように、人間が生きている感があって、いい。

    この番組を企画した筆者は、とても、頭がいい人だと思う。

    「夏虫疑氷」のような、あまり一般的に使われないような言葉や慣用句が割と出て来るし、危険な物質や病気のことも、調べたこともあるのだろうけど、よく知っているなぁと感心する。
    何より、正しさとは何なのかとか、カメラを回して生活を撮る者の信条とか、この人自身が持っている中心軸と、その揺れが、好きだなと思う。

    ロシアのカルト飯のくだりでも、自分たちで成り立っている幸せな世界と、その外側にある不幸な世界の対比は、きっとそういう視点がなければ描けない。
    そこに、視点が物語になる怖さがあった。

    でも、周りからカルト呼ばわりされている宗教の〝本当のところ〟を探りながら、けれど〝本当に〟そこで幸せを感じている人たちもいて、かえって面白いと感じた。
    物語は、撮る側だけにあるのではないのだ。

    これを読んだ時、この人ならガチガチに社会問題へ焦点を当てて、厳かな賞を取ったっておかしくないだろうなと思った。(単純に、それでは視聴率が稼げない、ということなのかもしれないが)

    こんな所までテレビは足を踏み入れてこない、といった書かれ方をされていた部分があって、まさに「ハードボイルド」な「グルメリポート」なのだが、ひと一人を等身大を描いていって、同じ釜の飯を食べて笑っていることが、とんでもなく、すごい瞬間だなと思う。

    この本では番組には組み込まれなかったシーンだけでなく、筆者という「語り手」が存在することが大きい。
    きっと違う味わい方が出来るので、テレビ見てからの、本の流れをぜひオススメしたい(笑)

  • 旅行記好きノンフィクション好きにはたまらない本。
    元々、どんな本でも、舞台となっている場所を検索して地図を見ながら読む派なので
    この本は、ずっと脱線しっぱなしながら読みました
    絶対に行くことはないだろう世界の危険地帯の日常のご飯。
    興味ないわけない。
    衝撃と感動。
    ケニアの話は特に辛かった。
    日本にいると想像もつかないような生活をしている人が世の中にはたくさんいる。
    私たちのような生活をしている人の方が少数なのかもしれない。
    簡単に世界を旅する事ができない環境にあっても、こういう本を読んで世界の事をもっとたくさん知れるということは本当にありがたい。

  • 最初は表現過多で冗長に思えてしまうが、上出さんの言葉なのだろうなと思えてくると自然に入る。
    今の自分と本の中の人との差はなんなのだろうかという比較と、相対性とは完成ない美味そうさの絶対性を見ることにより普遍的なものが見えてくる。
    絶対と相対に気づけそうになる興味深さを感じた。

    • タコスさん
      lalabellaさん、はじめまして。

      絶対と相対を両方見るという表現はしっくりきていいなぁと思いました。

      そして改めて「治安や経済等の...
      lalabellaさん、はじめまして。

      絶対と相対を両方見るという表現はしっくりきていいなぁと思いました。

      そして改めて「治安や経済等の視点と食すという絶対的な文化の両方が上出さんの体験で書かれてるのが本書の魅力だなぁ」と違う解釈ができて楽しかったです!
      2022/08/27
  • テレ東の人気番組を書籍化した作品、著者はテレビ東京ディレクターの上出遼平さん。「世界のヤバい地域に足を踏み入れ×ヤバい奴らの食事を頂く」 というヤバいの掛け算的内容。「リベリアの人食い少年兵の廃墟飯」「台湾マフィアの贅沢中華」「ロシアのシベリアン・イエスのカルト飯」「ケニアのゴミ山スカベンジャー飯」とタイトルだけで読みたくなる。リベリア・ケニアなどは、建前のない国なので本能丸出しの人間ばかりで取材も命懸け、だからこそ読む価値があるし、読んだ後は人生観変わるくらいに面白かった。

  • リベリア 人食い少年兵の廃墟飯
    台マフィアの贅沢中華
    ロシア シベリアンイエスのカルト飯
    ケニア ゴミ山スカベンジャー飯

    最近、ディストピア小説について考える機会があったのだけど、この本に書かれているのはそこらのディストピア小説よりよっぽど、地獄に近いことだった。実際に生きる人たちがいるところを地獄呼ばわりするのはひどいのかもしれないけど、一歩踏み出せば足の形にウジムシが潰れて死ぬような環境で生きることの、どこが地獄じゃないっていうのか。

    食うこと、すなわち生きること。
    本をめくってすぐの袖に書かれている言葉が、本を読み終えた後ではずっしりと重たい。

    番組でみた時よりも、上出さんの内面がよく見えておもしろかった。映像とはまた違う、旅を見せてもらった。

  • 生きているとお腹が減る。
    何を食べているのかなっていうところに焦点を当てた本。
    世界は広い。そして食べ物は様々。
    いただきますとごちそうさまが言えるうちはまだ幸せだと気付かせてくれます

  • 世界のヤバいところに行ってヤバい奴らが食べる飯を撮る、というテーマの番組を元に出版された本ですが、これがなかなか凄まじい。
    世界の貧しい子供たちに〜なんて、綺麗事を言っているよくありがちな番組や本とは一線を画します。
    全て実体験だからこそ伝わってくる鬼気迫る迫力があります。これは長く残したい、残って欲しい1冊です。

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