タイガー理髪店心中

著者 :
  • 朝日新聞出版
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本棚登録 : 145
感想 : 20
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  • Amazon.co.jp ・本 (216ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784022516619

感想・レビュー・書評

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  • 老い…時間の流れからは誰も逃げられない。
    静かに流れていく時間のなかで確実に変化していくものもある。忘れていく記憶、逆に呼び戻される記憶、思い出したくないこと。

    派手な話ではないものの、心にチクチク刺さる内容だった。
    見てはいけないものを見てしまったという、後悔の気持ちすら残る。
    あとからじわりと思い出すような、印象深い1冊。

  • ねぇ、これがデビュー作なんてうそでしょ!??

    鳥肌がすごいよ…
    できれば少しくらい酔ってから読んだほうがいいのかもしれない。

    全体的に薄く漂うユーモアすら背筋を凍らせる。
    悲しい過去を背負った老いた主人公たちの小さな狂気が、こう、ゆっくりゆっくり迫ってくるような。

    個人的には残暑の行方のほうが好きですが、表題作もめちゃくちゃすごいです。(語彙力

    この先この方がどんな作品を生み出すのかとてもとても楽しみです。

  • 同級生へのいじめの一環で、自分が深く掘った穴に、我が子が落ちて死ぬ。因果なことだなぁ。一見穏やかな老夫婦の辛い過去や、老老介護の場面で生じる互いへの殺意が描かれていた。

  • 第4回 林芙美子文学賞受賞作「タイガー理髪店心中」に「残暑のゆくえ」を加えた2篇収録。

    表題作はのどかな田舎町で暮らす、どこにでもいそうな老夫婦の話。

    亡き父が残してくれた理髪店「タイガー」83歳の寅雄だが、未だ現役で店主として店を続け、妻の寧子と共に一見平和な暮らしを送る。

    平々凡々な日常生活を送る中、少しづつ壊れて行く妻、それをどこか俯瞰的に見つめる夫、文中からは未必の殺意が感じられ静かな恐怖を感じる。

    「残暑のゆくえ」は食堂を営む日出代とその夫の過去の秘密が、ほの暗さを纏いながら徐々に明かされ陰鬱な読後感。

  • 奇妙な読後感が残る中編が2つ.村田寅雄がやっているタイガー理髪店を寧子がサポートしている.数少ない登場人物は、友人の長谷川伸也、結衣子など.特に大きな事件もなく、のんびりした空気が流れる物語.何とも落ち着く.後半は、日の出食堂を切りまわす日出代と須賀夫の物語.満州からの引揚者の日出代の思い出がいろいろことに展開していく.両編ともなにげない植物、フジウツギ、ヒイラギ、サルスベリなどが話の中で重要な位置を占めているのが面白かった.

  • 寅雄さんのことが好きになれなかった。小説だから、必ずしも登場人物に感情移入できなくてもよいのだと思うし、悪人が主人公の話もあるけど、寅雄さんはけっこうなくずなのに、なんとなくいい人ふうに描かれている感じがして、それが嫌だった。自分に甘いというか、都合よく考えすぎている人の、嫌な感じを意図して書いているならうまい。意図してるのかな…。特にサムイチさんのエピソードが、寅雄に都合が良すぎる解釈で頭を抱えた。許しにきたってなんでそんな話になるのか理解できなかった。
    タイトルはすごく素敵。タイガー理髪店心中って一度聞いたら忘れない。

  • 短編2作品とも老人から語られる物語。

    ●タイガー理髪店心中
    できることなら向かい合いたくない、事勿れで過ぎれば、主人公の誰にも明かせない過去と今の胸の内は物語にはならないのだけれど
    長年連れ添い、一緒に苦しんでこようと、波風たてないように繕って過ごす時間は、必ずしも愛情だけを育むものではないとぐずぐずと考えてしまう作品。
    狂気や気味の悪さの表現が天下一品。


    ●残暑のゆくえ
    70代の女性が幼少期の1年ほど、母と過ごした日ばかりにとらわれていることが気になるが、読むうちに納得がいき、寄り添って抱きしめたいような気持ちになった。

    戦争、特に満州から帰ってきた方達の物語で苦しく想像するに耐え難い内容も、主人公が「泣いたことがない」と言うとおり明るくユーモアで日常を生きているために読み進められるのだけど、何も語らない人の強さが切なかった。

    物語だけれど、世界で戦争が起こっている状況でご縁のあったこの作品は考えさせられるし、
    生き残っても時間は止まり、殺されていることを忘れてはいけない。

  • 表題になっているタイガー理髪店がよかった。

    たまたま、いっとき縁のあった人の実家の床屋がちょうど同じロケーションで。
    西側に国道、すぐ前には住民の使う細い生活道路。
    道の端っこの土部分になんとか工面して植物を植え育てる。まさにその通りで、あの家のことかと思った。
    この時代背景で虎雄だったら、きっちりした七三分けよりクラシカルバックの方が、しっくりくると思う。
    勝手にクラシカルバックにされたら、困るだろうけど。

    あの夫婦同様の道を、私の知る夫婦もたどるのかも…となんとも言えない気持ちになった。
    本の内容より、床屋用語や店内に馴染みがあるので、そこばかり注視していた…

    なんとも悲しくて切ない気持ちになる話でした。

  • 妻が認知症になっていくのを見ている夫の頭の中。外面と実際に思っていることが違っているのがリアル。せっかくよい嫁だと思っていてもわざと難しい顔をするところなど父にもあてはまるか。一瞬殺意を抱いてしまうところは私にも思い当たる。そしてボケた妻の本音が出てくるところがこわい。題名に心中が入っているのは言わずもがなの感じもするが、作者の意図が知りたい。
    「残暑のゆくえ」は平凡な暮らしの中で小さな幸せを紡いでいる主人公とその夫の過去がだんだんにわかってくる。のんきに暮らしている私からすれば凄惨な過去だ。95歳の父がエリート軍人教育を受けたあげくに戦地に赴く前に敗戦したので、こういう過去を知る人ももうあまり存命ではないか。とはいえいまも戦争が日常の国もあるし、世界的にきな臭くなってくるし、人間はなかなかこういう記憶を忘れることはできない。

  • 2篇の短編だが、二組の老夫婦を描いた幻想と現実
    の境を見事に表現した文章に、ゾクゾクさせられた。
    ホラーでは無いが、老夫婦の老いて行く現実世界
    と重苦しい過去との邂逅。
    老いて行く日々は目の前の事は忘れて行くが
    過去の記憶は逆に鮮明になって行くのかも知れない。

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