ディス・イズ・ザ・デイ

著者 :
  • 朝日新聞出版
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  • Amazon.co.jp ・本 (368ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784022515483

作品紹介・あらすじ

【文学/日本文学小説】サッカー22チームの22人のファンたちは、それぞれの思いを抱いて2部リーグ最終試合の「その日」に向かう。職場の人間関係に悩む会社員、別々のチームを応援することになった家族、十数年ぶりに再会した祖母と孫など普通の人々のかけがえのない喜びを、サッカーを通して鮮やかに描き出す連作短編集。

感想・レビュー・書評

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  • 津村記久子さんの新刊ならば中身を見ずに買うので、これもサッカーのJリーグサポーターの人たちを描いた短編集ってことも知らずに買って、わたしはサッカーのことはほぼまったく知らないんだけど、それでもすごくおもしろかったし、すごくよかった。最初、出てくるチームが架空のものってことすらわからなくて、(これだけ本物っぽく何十も架空のチーム考えるだけでも大変じゃない??津村さんのJリーグ愛?)、マスコットの着ぐるみ「つつちゃん」が見たくて思わずスマホでグーグル検索して、出てこないから、あ、架空ぅ?!って思った。。。
    どの登場人物もみんな(Jリーグサポーターの人たちって老若男女いろいろな人たちがいるんだなということもこの本で知った)ごくごく普通の人たちで、とくに大きな事件とかできごとがあるわけでもなく、ちょっとしたうまくいかないことや悩みは雑多にあって、ごくごく普通の平凡な、言っちゃえばおもしろくもないような毎日を送っていて、それがふとしたことからJリーグ(それも、華やかな一部リーグとかじゃなくて二部とか三部で、わたしは、そういえばそういうリーグもあった、そういうリーグの試合とかサポーターってこんな感じなのか~、っていうのもこの本で知った)の試合を見にいったりするようになって、ほんの少しずつ、なにかが変わっていくっていう。この、「ほんの少し」って感じがとてもよくて。現実も、こんなふうに変わっていけたらいいなと願ってしまう。
    嫌な人がひとりも出てこなくて、嫌な場面もなくて、ただ漠然と生きていてもいいこともあるかも、と思えてくる。大げさだけど、こういう本が「救い」になることもあるんじゃないかと。

    そしていつも書くけれど、わたしは津村さんの文章が本当に好き。なにかちょっとした言いまわしというか書き方が、すごくチャーミング。だから、着ぐるみの「つつちゃん」とか思わず見たくなってしまう。あと、全国のJリーグのサポーターの話だから各地の方言もでてきてそれもチャーミングだった。各地の風景の描写も素敵で、どこも行ってみたくなる。

    • たまもひさん
      これ、新聞連載を楽しみに読んでました。単行本も買うつもり。いいですよねえ。
      私が津村記久子さんを読むようになったのは、niwatokoさん...
      これ、新聞連載を楽しみに読んでました。単行本も買うつもり。いいですよねえ。
      私が津村記久子さんを読むようになったのは、niwatokoさんの感想のおかげです。どれを読んでも何と言うかホッとする感じ。決して甘いわけではなくて。そういう小説ってなかなかないと思うのです。
      2018/06/14
    • niwatokoさん
      そうか、新聞連載だったんですねー。長い。相当、取材とかされて各地にも行ってらしたみたいですね。
      そうなんですよね、おとぎ話的な甘さはなくて...
      そうか、新聞連載だったんですねー。長い。相当、取材とかされて各地にも行ってらしたみたいですね。
      そうなんですよね、おとぎ話的な甘さはなくて。だからこそ、頑張るぞ!とかではなくて、ほんとに「ホッとする」感じになるんですよね。ちょっと自分の現実にも希望がもてるような。読んでいるあいだけっこう笑えて楽しい気持ちになるところも大好きです。 
      2018/06/14
  • おもしろくないわけがない。架空のリーグとはいえ限りなくJ2であろうリーグの22チームを応援する人たちそれぞれの物語。おもしろくないわけがないのだ。

    観戦のきっかけも必ずどこかに共感できるポイントがある。この物語の素晴らしいところは、必ず自分の体験を思い出し、その淡い感覚とスタジアムの雰囲気を思い出させるところにあると思う。

    さらには、偶然にもこの架空のリーグには、出生地の浜松(エンブレムの浜名湖の鳥居が最高。まさにあの鳥居のある町生まれ。)、母の実家がある鯖江(このメガネのエンブレムもたまらない)、出身大学のある三鷹、結婚後に住んだ松戸にチームがあり、自分に縁があるようでなんだか嬉しくなってしまった。表紙をめくったら飛び込んで来る、どこか楽しげですらある各チームのエンブレムが散りばめられた日本地図をみた瞬間からこの本を心から楽しめるのが決まったような感覚だった。

    試合前数時間からスタジアムで過ごすあの時間。試合終了後、様々な感情で帰路につくサポーターたち。明確には言えないけど、またスタジアムで試合を観たいと思ってしまうあの不思議な感覚がどの物語でも蘇ってくる。各章終わる直前の数行でこの感覚が襲ってくるから不思議だ。

    スタジアムのある町の高校に通っている当時はさほど興味がなかったのに、大学進学で東京に出て、就職も東京に決まった前後から、地元の象徴なのか、単に黄金期で強かったからなのか、急に地元のチームが愛おしい存在になっていった。可能な限りスタジアムに行くようになった。初観戦は確か2000年の国立競技場。ホーム初観戦は2001年FC東京戦。この時は母親と観に行って「東京の応援がすごかった」という感想の母親に何だよ、と思った事を思い出す。試合も前半のPKを守り切っての勝利というやや渋い展開だったせいもあるだろうけど。母親は昨年亡くなってしまい、この本を読んでいたら必然的にホーム初観戦のこの試合を思い出して少し切なくなった。ただ、この本を読まなければあの試合の事も思い出すことはそうそうなかっただろうし、この作品に少し感謝したい気持ちになった。

    他にもたくさん試合を観に行き、一喜一憂してきた。家族ができてなかなかスタジアムに行けなくてもテレビ観戦でドキドキしている。作中でプレーオフにキーパーにヘディングを決められて昇格を逃したチームがあるが、まあ今となっては磐田サポーターにとっても苦笑いしながらいじられるポイントだ。

    スタジアムにいる人間にみな大なり小なりのドラマがあるのはとても素敵なこと。たかがサッカーチームを応援する事で、サッカーチームを応援しない人生ではなかなか味わえない感情を多く体験してきたと改めて思った。

    次の試合が、また楽しみだ。

  • サッカー2部リーグの色んなチームを応援する人たちを描いた連作短編集。私はスポーツ観戦全般にあまり興味のないタイプなので、サッカーについては中高生の頃はまっていたキャプテン翼でルールは覚えた程度(いや、サッカー部の彼氏がいたこともあった・笑)ながら、とくにリーグ戦についてやルールなどを知らなくても、予想以上に楽しく読めました。

    楽しめた理由のひとつとして、本作はたまたまサッカーチームを応援するひとたちにスポットがあてられていますが、対象はサッカーチームでなくても、それがバンドやアイドルに置き換えてもわかる気持ちがたくさんあったこと。それが他のスポーツでも他の何かでもいいのだけど、とにかく何かの団体を夢中になって応援したことがあれば、本作の登場人物たちが何を嘆き何に喜んでいるのか、きっと共感できるはず。

    今風にわかりやすくいえば「推し」「推し活」ということになるのだろうけど、先方にそんなつもりがなくても、ファンは彼らの動向に一喜一憂し、彼らを見るために頑張って働き、見知らぬ人ともそれきっかけで交流したり、見知らぬ土地まで出向いたり、そして絶望のどん底に突き落とされることもあれば、ふとしたことで背中を押され、人生の岐路を乗り越えることができたりもする。不幸な境遇や、辛い仕事も我慢できたり、引きこもりや不登校から脱出できたりもする。

    随所で笑ったり、涙ぐんだりしながら読みました。全部好きだったけど、両親を亡くした兄弟がある選手にいつも救われる「篠村兄弟の恩寵」がとくに好きでした。


    ※収録
    三鷹を取り戻す/若松家ダービー/えりちゃんの復活/眼鏡の町の漂着/篠村兄弟の恩寵/龍宮の友達/権現様の弟、旅に出る/また夜が明けるまで/おばあちゃんの好きな選手/唱和する芝生/海が輝いている/エピローグ-昇格プレーオフ

  • 舞台は、架空のサッカー二部リーグ、22チーム。それぞれのチームを応援するファン達の、それぞれの想い。
    あまりサッカーに詳しくないもので、どんなもんか…と思いながら読み始めたが、やっぱり津村作品好きだわ~!と今回も十分に思えた。親子、兄弟、祖母と孫、職場の同僚etc…様々な関係性の登場人物たちの悲喜こもごもが、サッカーを通じてユーモラスに語られる。ぎこちなかったり、接点がなかったりといった関係性が、試合を観戦することで少しずつ変わっていく。その日偶然知り合ったばかりの他人同士でも、思いがけず距離を縮めていく過程がまたよくって、こういう関係性を書かせたら津村さんの右に出る人はいないんじゃないかと思うほどにツボだ。津村さんの、人への寄り添い方が、私は心から好きなんだと思う。
    登場人物たちは、勿論コアなサッカーファンも多いけど、大して興味のないのに試合に足を運んでみたらハマり始めたというライトなファンも登場するので、むしろそんなファンがじわじわと夢中になっていくのを読むのが楽しい。とにかく情報量が多いので、何度も見返しのエンブレム一覧を見ながらゆっくり読んでいった。試合の描写もまたリアルなので、「架空のチームって設定だったはずだけど…もしかして実在するんだっけ!?」と錯覚してしまった。それほどまでに緻密な設定。相当綿密に全国各地を取材したんだなということが窺えるのだ。各地の方言、地域の特産を生かしたスタグルやキャラクターなど、ディテールの細かさもまた魅力。
    サッカーに興味がなくても面白く読めるけど、サッカーの知識が豊富ならもっと楽しめるのかなと思う。津村作品は読んだことのないサッカーファンに、是非とも読んで頂きたいな。

  • サッカー二部リーグの最終節に右往左往する各チームのサポータたちの姿をほほえましく楽しく描いた連作短編集だ。

    かつて応援して一度は離れた地元チームを「勝っているときだけ試合を見に行くようなやつ」と思われたらどうしようというどうでもいい自意識を発動させる男や、チームのマスコットキャラクターに惚れ込んで試合よりもマスコットに会いに行く女、選手を心の支えとしてきた兄弟、サッカーにまったく興味がなかったのに、神楽繋がりの応援に駆り出されたり憧れの先輩の影を追いかけていつのまにやらサポーターになってしまう者、などなど、なんともいえない「ふつうの人々」が、決して有名ではない、強くもない二部リーグのサッカーチームの勝敗に一喜一憂する様はなんともいえず読んでいて楽しい。

    津村さんらしいというか、熱血応援、というのではなく、どこか一歩引いて応援している自分を観察しているような距離感の登場人物が多く、好きなのに傾注しすぎない、その温度感が心地よい。

    自分の生き死ににも損得にも関係ないチームをただ応援する、そういう行為は確かに傍から見ると不思議で、でも各々に意味があるんだろうなぁと読んでいて思った。

  • 知らなかった国内サッカー2部リーグの世界。
    作者の他の作品同様、描かれるたくさんの様々な人間関係。スタジアムに行きたくなる。
    サッカーに興味はなくても、とっかかりはなんでもいい。
    この本がきっかけだっていいじゃないか。
    私はご当地フードが一番気になった。すごく美味しそうに書かれている。
    あと、装画が素敵。エンブレムやマスコットキャラクターなどのイメージが膨らむ。可愛い。
    読んでいるとよくわからなくなってくる、各チームの順位もまとめられているので助かる。

  • J2がモデルと思われる架空のサッカー二部チームを応援する人々による短編群像劇。
    日本各地でサッカーの応援に行く人々の普通の生活(悲喜こもごもの)と試合との関わりがとてもいい。それぞれのサッカーへの思い入れは温度差というかきっかけ含めて差があるのだけれど、普段の生活に影響を与えていく。
    中年なのでド派手に始まったJリーグを知っていてあんなにド派手なのに理念や目標が地域とスポーツの密接化(→ここ曖昧ですが)を謳っていてホンマか〜?とも思っていたのだけど流行りというものが過ぎて四半世紀たった今、その地域に深く結びついた最初の目標に近い姿になっているのではないかなんてこの本の描写だけで思ってしまった。取材もたくさんされたようで各スタジアムの様子も目に見えるようで、特に呉は行ってみたいなと感じた。
    最初に出てきた引きこもりの女子大生、同じ選手を応援してきた兄弟、孫と同じ名前と生年の選手が好きなおばあちゃん、その後が気になる人々も多いけど、それぞれがまたサッカーを応援しながら人生を引き続き送るんだろう。
    サッカー好きなら元ネタを思い出したりして2倍楽しめそうな本だった。

  • サッカー2部リーグのサポーター達の群像劇。

    流石です、津村記久子!
    それぞれにそれぞれの暮らしがあり、そこに小さなドラマがある。
    22チームを全て網羅し、最後にしっかり回収する。
    なんとも楽しい読書タイムでした。

    架空のチームの架空のエンブレムのくだらなさ(笑)
    アドミラル呉のエンブレムがかっこいいかな。

    息子の成長する背中を見送る親の『若松家ダービー』
    選手に孫をダブらせて応援していた『おばあちゃんの好きな選手』が良かった。

  • ロシアワールドカップが目前となり、監督交代や最終的に選ばれるメンバーが誰になるのかなど世の中の盛り上がりを感じるこの時期に出会った本。
    息子がサッカーをしており、昇降格があるリーグ戦の難しさやドキドキ感をなんとなく理解しているが、Jリーグとなるとあまり詳しくない。2部以下のリーグだとゲームがつまらないという勝手な印象のみでの判断かも。
    息子の高校サッカーも残り2年弱。終わった後は応援に行く事もなくなるので、どうしようと思い悩む今日この頃。
    そんな中、サッカーを楽しむ事はまだまだできるんだよなぁと思わせてくれる作品でした。
    選手、サポーター、それを取り巻く人それぞれの人の想いがあり、地元だから、出身地だから、転勤で訪れた街だから、理由はなんであれ、応援したい気持ちになり、チームを応援することだけじゃなく、同じ想いを持つ仲間との時間に価値を見出したり。
    こうあるべきという答えは自分の中にあるんだ。いや、自分の中にしかないんだろう。

  • 今までで一番好きな短編集かも。

    私自身、Jリーグのとあるチームのとてもライトなサポなので、サッカー観戦での機微がほんの少しわかり、ふんふんと読んだり。
    涙が溢れる話やしみじみしたり…でもほんわかで良い本でした。ってことではなくて、もっとなんか本を読むって幸せだなって感じた一冊でした。

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著者プロフィール

1978年大阪市生まれ。2005年「マンイーター」(のちに『君は永遠にそいつらより若い』に改題)で第21回太宰治賞。2009年「ポトスライムの舟」で第140回芥川賞、2016年『この世にたやすい仕事はない』で芸術選奨新人賞、2019年『ディス・イズ・ザ・デイ』でサッカー本大賞など。他著作に『ミュージック・ブレス・ユー!!』『ワーカーズ・ダイジェスト』『サキの忘れ物』『つまらない住宅地のすべての家』『現代生活独習ノート』『やりなおし世界文学』『水車小屋のネネ』などがある。

「2023年 『うどん陣営の受難』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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