世界の産声に耳を澄ます

著者 :
  • 朝日新聞出版
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  • Amazon.co.jp ・本 (304ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784022514660

作品紹介・あらすじ

【文学/日本文学評論随筆その他】先住民族、代理母出産、HIV感染者、アルビノ、内戦地……過酷な環境の中でも、日々、生まれる新たな生命を見つめるルポルタージュ。『物乞う仏陀』でデビューして以来、ノンフィクション作家として第一線で活躍する著者の7年ぶりの本格海外ルポ。

感想・レビュー・書評

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  • 「人が生きる」とはどういうことだろう
    石井光太さんのルポルタージュを読むたびに考えさられる

    世界中の貧困、最底辺国の最底辺に暮らす人々に寄り添って綴られたルポルタージュを読むたびに考えさせられる

    ー私は「途上国の笑顔」という言葉があまり好きではない
    とおっしゃる
    ー劣悪な環境の中で、蟻地獄のような生活に突き落とされた彼らが見せる底なしの笑顔の源泉が気になっていた
    と続けておっしゃる

    今回のテーマは「出産」
    それはそれは信じがたい世界の劣悪、悲惨な場所(スラム、売春宿、戦場、難民キャンプ…)での「産声」が今回の取材のキーワードである
    いつものように想像を絶する劣悪な環境のルポルタージュの数々

    この同じ地球の中で、
    この同じ太陽と同じ月、同じ空の下で
    「今」この時間に、「今」を生きている彼らは
    どうしているのだろう
    と 考えざるをえない

    最後に綴られた
    スリランカでレイプのために望まぬ子どもを産んだ若き母が、これでもかという蟻地獄のような環境から抜け出して、再婚し、出産し、我が子のみならず、近所の子どもたちにもふるまう家庭料理の鍋から立ち上る湯気と香りの描写にぐっときてしまった。

  • ふむ

  • 東2法経図・6F開架:385.2A/I75s//K

  • 命の重さは国によって違う。悲しいけれど、それが現実。私はそれを、どう受け止め、生きるか。

  • 首長族と呼ばれる民族の出産、臓器売買、ストリートチルドレンのこと、スラムでの子育て、代理母のこと、内戦地域での親子、アルビノ、HIV孤児のこと、読んでみたら、お産を切り口にした、私たちが抱える闇の部分を綴った話だった。
    同じ生命なのに、生まれ落ちた時から、なぜこんなに意味が、重みが違うのだろう?
    生命の尊さとか母の強さよりも、その冷徹な事実に衝撃を受けた。

  • 石井さんのルポは好き。

    今回は世界中のお産について。
    貧しい国での出産は読んでいても痛々しかった。

    そんな中での日本の御曹司の代理母事件。
    あほらしい、というか、同じ日本人として恥ずかしい、というか、、。
    男性って、子孫を残したい本能があるんだわね。それにしても、、。

    以前、東南アジアでの子ども売買(臓器売買含む)の話を読んだことがあるけど、これも現実的な話なのだな。

    そして、子どもの未来はどこでもいつでも未来永劫である。

  •  日本では少子高齢化が著しいものの、世界に目を移してみると、1日に産まれる子供の数はおよそ3.8万人にも及ぶ。この記事を読んでいるまさにこの瞬間にも、地球上のどこかで新しい生命が産声をあげているのだ。しかし、日本のように衛生的な環境で産まれる赤ん坊はごくわずか。世界中の母親たちは、過酷な環境で子どもを産み育てているのだ。
     そんな、世界の出産に迫ったのが、ルポライターの石井光太。『飢餓浄土』(河出書房新社)、『遺体-震災、津波の果てに』(新潮社)などで知られる彼は、2013年から3年間にわたって9カ国を歴訪し、『世界の産声に耳を澄ます』(朝日新聞出版)を上梓した。いったい、石井が見たのはどのような現実だったのだろうか? 

     中米のグアテマラ共和国は第二次大戦後、36年間に渡って内戦が繰り広げられ、国土は徹底的に荒廃。とくに、先住民の多くが虐殺され、20万人以上の人々が死亡したといわれている。和平合意から20年以上を経ても、いまだこの国の政治・経済は停滞したままだ。石井は、この国でかつて行われてきた人身売買の実態に迫る。
    「昔は外国人がやってきて、子どもを買っていったの。貧しい家に5人も6人も子どもがいると育てられないでしょ。だから、親も赤ちゃんを売っちゃう」
     農家の女性がこう証言するように、年間4,000人あまりの子どもたちが養子としてアメリカに送られるグアテマラは、中国に次いで第二位の養子提供国。養子提供はひとつの「ビジネス」となっていた。そんな国で、子どもをアメリカ人に「売った」男性は、石井の取材に対してこのように答えている。
    「裕福なアメリカ人の里親に預けられるなら、グアテマラよりずっといい生活ができる。どうせここに至って、コヨーテ(不法越境を助ける仲介業者)に大金を払ってアメリカに行くことになるんだ」
     貧しい家に生まれた子どもは、病気になったり、ストリートチルドレンになる可能性が高い。また、成長しても、ろくな仕事のないグアテマラではなく、不法移民としてアメリカに生きる道を見出す人は少なくない。グアテマラの過酷な現実が、親に人身売買という道を選ばせるのだ。
     08年から、グアテマラ政府では国外へ養子に出すことを制限し、養子ビジネスに対する規制に乗り出した。しかし、その結果生まれたのが、代理母出産という新たな搾取の方法だ。先進国の不妊症カップルや同性愛カップルが、グアテマラ人女性の子宮を借りて子どもを産ませる。そんなビジネスが、いま、特に貧しい先住民の間で広まっている。美人で有名なツツヒル族は人気で、アメリカ人好みの目鼻立ちのくっきりとした子どもが生まれると言われる。「これでは、ペットショップで高値で売れる犬をつくるために種を混ぜるブリーダーと同じ発想ではないか」と、石井は憤りながらも、ストリートチルドレンが行き交うエクアドルの現実を見れば、単にそれを否定をすることもできない。代理母となった女性には、多額の金が支払われるのだ。

     エクアドルと同じ中米のホンジュラスでは、ストリートチルドレンたちが、売春やレイプによって子どもを産む。まともな教育も得られず、母親としての知識もない彼女らは、子どもたちを病院に連れて行くこともなく劣悪な環境で育て、そのほとんどが、1〜2歳になるまでに死んでしまう。また、国民の3人に1人がHIVに感染するスワジランド王国では、親をHIVで亡くした孤児が親戚の家をたらい回しにされたり、ストリートチルドレンと化し犯罪に手を染める。日本では気づかないが、親の愛情を一身に受けて育つというだけでも、とても恵まれていることなのだ。

     しかし、そんな状況を目の当たりにしながらも、本書のあとがきで、石井は「ひとつひとつの命が持つ可能性は、すべて等しく無限だ」という希望を記している。どうして、そんなあけすけな希望を語ることができるのか? それは、石井が見た光景が、決して絶望だけではなかったからだ。

     内戦が続いたスリランカで出会った女性は、兵士にレイプされて妊娠した。
     堕胎をするには経済的にも、時間的にも余裕がなかった。彼女は、子どもを産み施設に預けることにした。しかし、首がすわるまで3ヶ月間生まれた男児を抱き続け、母乳を与えていた彼女は、子どもを手放さずに、自分の手で子どもを育てることを決意する。両親には猛反対され、出生の秘密を知る村人は彼女を嘲り、彼女の周囲にはいつも非難の目が向けられていた。しかし、彼女はわが子のために涙を流さず、同じ村に住む人々に対しては気丈に振る舞い、息子の前では明るい笑顔を見せた。成長した息子は「なんでお父さんがいないの?」と友達から聞かれると、必ずこう答える。「ママはなんでもできるすごい人なんだ。お父さんなんていらないほど、すごいんだぞ!」
     レイプの末、望まない妊娠によって生まれた子どもに対して葛藤はないのか? そんな石井の抱いた当然の疑問に対して、彼女ははっきりとこう答えた。「うちの子ってすごくかわいいの。誰が父親なんて関係ない。私の息子だから」

     世界中の過酷な現実を見続けてきたルポライターは、「子どもの持つ無限の力は、現実の不条理を打ち破ることができる可能性を秘めている」と書く。本書には、戦争の続くシリアを逃れた難民たちが、キャンプにおいて多くの新たな生命を育んでいる様子も描かれている。子どもの持つ「可能性」が、現実を変える日が一刻も早く訪れることを願ってやまない。

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著者プロフィール

1977(昭和52)年、東京生れ。国内外の文化、歴史、医療などをテーマに取材、執筆活動を行っている。ノンフィクション作品に『物乞う仏陀』『神の棄てた裸体』『絶対貧困』『遺体』『浮浪児1945-』『「鬼畜」の家』『43回の殺意』『本当の貧困の話をしよう』『こどもホスピスの奇跡』など多数。また、小説や児童書も手掛けている。

「2022年 『ルポ 自助2020-』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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