定義集

著者 :
  • 朝日新聞出版
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本棚登録 : 119
感想 : 11
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  • Amazon.co.jp ・本 (304ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784022508102

作品紹介・あらすじ

敬愛する言葉を書き写し、読み直し、自前の定義をする。源氏物語、ドストエフスキー、魯迅、レヴィ=ストロース、井上ひさし、人生のさまざまな場面で出会った忘れがたい言葉をもういちど読み直す。ノーベル賞作家の評論的エッセイの到達点。

感想・レビュー・書評

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  • いつもは文庫になるのを待つのだけれど、帯に「源氏物語、ドストエフスキー、魯迅、レヴィ=ストロース、井上ひさし、人生のさまざまな場面で出会った忘れがたい言葉をもういちど読み直す」とあって、何となく読みたくなり衝動買い。

    大江さんの朝日新聞の2006年から2012年に渡る連載をまとめたもの。2008年ぐらいまでは朝日新聞読んでいたので、何となく読んだやつもあるかな?というのも手に取る動機になった。

    これまで大江さんのものは、読めてるのか読めてないのかわからず読んできたが、少しずつ自分の中で消化できてきたこともあるようだ。大江さんという人は「読んで書く」人というイメージがこれまでもどこかであったのだけど、自分の中のそのイメージがかすかにではあるが、今回塗り替えられた気がする。上手く言えるかわからないが、なにか書いて残しておこうと思う。

    大江さんは近年の自身の作品のことを「レイト・ワーク」(晩年の仕事)と呼んでいることは既知だったが、この「仕事」という言葉が、読んでいて自分の中で腑に落ちる感じがあった。ここでの「仕事」という言葉には、「誰かがやらねばならないこと」という使命感と、(文学という領域に)欠けているところを補う、もしくは新たに足す、というような響きが感じられる。そういう感覚を持ってまさに「仕事」をされてきたのだ、というような感慨が『定義集』を読んでいて得られた。

    「文学という領域」に何かを加えようとするのであれば、その「領域」が何を示すのかを自分なりに定義することが必要だろう。それでなくては、自分がどこに立っているのかわからない。何を為そうとしているのかもわからない。文学というのがどこからどのへんまでを指すのかを示すために、多くの質の高い「読み」をも行ってきたのだろう、と考えるとやはり大江さんというのは真摯な人だと改めて思った。

    実際、これを読む前から大江さんの本の読み方に憧れていたことはあった。「一定の周期である作家を研究書なども含め集中的に読む」というようなご自身に課された読み方と自分の読み方を比べて、「自分は全然だなあ」と思うこともしばしばだった。今も憧れつづけているという感じだろうか。

    そして、もう一つの感想。大江さんは読んでこられた本を足がかりに自身を鍛えてこられた、という気がする。これは大江さんにオリジナリティがない、とか言っているつもりはなく、ある本に対する深い読みが自身の知恵とか感覚を育てる、ということがあるのかもしれない、ということを身に沁みて感じたのだ。私自身は快楽的な読書ももちろん好きだけど、修業のような読書もどこかで好きで、それをすることでもっと何か深いものを得られるかもしれない、というかすかな期待を頼りにして読書を続けているようなところもある。だから、偉大な本読みである大江さんのような方の本に対する語りは、どこかで陶酔してしまうのだ。

    大江さんが文学に何をプラスしてくれたのかということを考えながら、次の読書をしたい。

  • 沖縄へのこだわりが印象に残る。
    あとは、若い小説家へのアドバイス。

  • 大江健三郎の文章が苦手だ。
    と言っていた高校の現代国語の先生の言葉が頭の中に残っていて、僕もそうかもしれない、と思った。
    もっとシンプルに、モノを言う物書きが嫌いなだけかもしれないが。

  •  大江健三郎の本はかなりゆっくりと読みます。言葉の使い方、言い回しが独特なので、さらっと読もうとしてもできないからです。
    そのためもあり、しばらく手が伸びませんでしたが、本書は新聞連載のコラム集なので分量が短く、一日の仕事が終わって寝る前に一篇を読むのを日課のように、なんとか読み終えました。

     6年程の連載分なので、家族との暮らしのこと、訴えられた裁判のこと、亡くなった友人のこと、若い人たちへの希望、日本の右傾化への嘆き、反原発、震災のことなどコラムのテーマは様々ですが、独特のユーモアと倫理観が全編に溢れています。

     さて、読み終えたので、これから二周目に入ります(^^)

  • 大江健三郎の定義集を読了。これから小説家を目指す人へのアドバイスやご自身の交友や読書についての徒然なるコラム集であるが、圧倒的に反原発の内容が多い。若い頃と違って余裕と覚悟が感じられる。

  • 熱で寝込んでいたあいだの読書。もとは、朝日新聞に月一回の連載(2006年4月~2012年3月)で書かれたものに加筆して本になっているという。

    おそらくは、最初の文章が書かれ、それが新聞に載るまでに少しのタイムラグがあるのだろうし、このたび本になったところで残念なことにそれぞれの文章の初出掲載の日付がはっきりと示されていないこともあり、読んでいて、これは、いつ頃の何の話をしてるんやろうなーとわからんところが、けっこうあった(巻頭の一文には「今年」のうしろにカッコで2006年と書いてあるけれど、以後はそういった注がない)。

    もちろん、そんな日付がなくても読める文章もあるのだが、「九月に」とか「年頭」とか「三月初め」などの書き出しには、(いつ?)と思いながら、文中にそれが分かる何かはないかとやや注意深く読んだりもした。

    大江健三郎は、『沖縄ノート』の記述に関して2005年に名誉毀損訴訟を起こされ、版元の岩波書店とともに被告となった。この本には、その裁判にかかわることも、何度か書かれている。

    新聞連載時のタイトルも「定義集」だったらしく、定義ということについても、何度か書かれている。自分にとって、この言葉はどういう意味か?と、ときに気になって辞書にもあたり、自分の日頃の言葉づかいで、それはどう使っているかと考える大江。

    巻末の文章は「自力で定義することを企てる」。その中にこうある。
    ▼定義について。私は若い頃の小説に、障害を持ちながら成長してゆく長男のために、世界のありとあらゆるものを定義してやる、と「夢のまた夢」を書いています。それは果たせなかったけれど、いまでも何かにつけて、かれが理解し、かつ笑ってくれそうな物ごとの定義をいろいろ考えている自分に気がつきます。(pp.298-299)

    大江は、自分の大切な言葉として、敬愛する人の言葉、読んだ言葉、本の言葉などを書きつけ、心にとどめる習慣があるという。それもあって、この本にはさまざまな人の言葉や小説の言葉が引かれている。

    カラマーゾフの《しっかり憶えていましょう!》というアリョーシャの演説が引かれているところでは、その子ども時代の思い出の大切さを語った内容に、宮本常一が教員時代に子どもたちに語ったという言葉を思い出した。

    あれは、だったかと、本棚から出してみる。
    ▼「小さいときに美しい思い出をたくさんつくっておくことだ。それが生きる力になる。学校を出てどこかへ勤めるようになると、もうこんなに歩いたりあそんだりできなくなる。いそがしく働いて一いき入れるとき、ふっと、青い空や夕日のあたった山が心にうかんでくると、それが元気を出させるもとになる」(、pp.75-76)

    もと広島原爆病院長、重藤文夫さんに大江が連続インタビューしてつくったという本『対話・原爆後の人間』を読んでみたいと思った。

    父と同年うまれのこの人の言動を、私はやはり父と同世代の人の一つの例としても読んでいるなと思った。もちろん「同世代」と簡単にくくれないこともたくさんあるけれど、いくつの時にあの事件に遭遇しているのだ、というようなことは、それぞれの生き方のどこかにつながっているような気もするのだ。

    (10/4了)

  • 朝日新聞に連載していたコラム集。

    大江氏の真摯な生き方に、尊敬を抱いています。
    私などが何を書けるのか…。

  • 朝日新聞に連載されたエッセイの単行本化らしい。
    正直、わかるとこもあれば、わからないとこもあり・・・
    ちゃんと読める人になりたいとも思いつつ、なんか頑固な人だなとも感じた。

  • 何をどう読み、どう学んでいくのか大江健三郎さんの姿勢、方法から見習いたい。一つ一つの言葉の「定義」を吟味し、思考の領域を広げ、深めていきたいと思う。

    本書は朝日新聞の連載記事を書籍化したもの。

    特に興味深かった内容は(1)読むこと(2)書くこと(3)震災後の日本 について。
    本質的で切実なメッセージが、深い自己省察が感じられる穏やかな文体で述べられている。

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著者プロフィール

大江健三郎(おおえけんざぶろう)
1935年1月、愛媛県喜多郡内子町(旧大瀬村)に生まれる。東京大学フランス文学科在学中の1957年に「奇妙な仕事」で東大五月祭賞を受賞する。さらに在学中の58年、当時最年少の23歳で「飼育」にて芥川賞、64年『個人的な体験』で新潮文学賞、67年『万延元年のフットボール』で谷崎賞、73年『洪水はわが魂におよび』で野間文芸賞、83年『「雨の木」(レイン・ツリー)を聴く女たち』で読売文学賞、『新しい人よ眼ざめよ』で大佛賞、84年「河馬に噛まれる」で川端賞、90年『人生の親戚』で伊藤整文学賞をそれぞれ受賞。94年には、「詩的な力によって想像的な世界を創りだした。そこでは人生と神話が渾然一体となり、現代の人間の窮状を描いて読者の心をかき乱すような情景が形作られている」という理由でノーベル文学賞を受賞した。

「2019年 『大江健三郎全小説 第13巻』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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