北朝鮮へのエクソダス―「帰国事業」の影をたどる

  • 朝日新聞社
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  • Amazon.co.jp ・本 (373ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784022502551

作品紹介・あらすじ

日本、北朝鮮、韓国、米国、ソ連、中国、そして赤十字-。冷戦下、それぞれの思惑が絡みあい、「帰国事業」は始まり、歴史は隠蔽された。東京、ジュネーブ、平壌、済州島、大村、新潟…と世界を旅しながら、息をのむ展開で、帰国の「物語」を読み解いていく。日本と北朝鮮の関係に今も影を落とし続ける歴史の真相が明らかになる。

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  • 「地上の楽園」に帰還するはずだった在日コリアンが、損害賠償を求めている。戦時に日本に渡った朝鮮人は、平和条約発効時に日本国籍を失った。太平洋戦争終結時に日本にいた2百万人は、意思に反して徴用された労働者は小さな割合を占めるに過ぎず、そのほとんどが終戦時に帰国したと日本政府は主張。他方、朝鮮側は自国に国民を戻したがり、韓国の李承晩政権は、在日朝鮮人の北朝鮮への大量帰国に断固反対の立場。惑わされたのは当事者たち。辿り着いてすぐ、泥水で裸になって身体を洗う女性を見て、判断の過ちに気づいたと本著にも当事者の弁が載せられる。

    韓国人、中国の朝鮮族、在日朝鮮人と時に交流するが、彼らは一様に逞しい。私の狭い身の回りで判断するのは間違いだが、それでも皆が優しく、熱く、パワフルだ。義理人情に厚く、強い負けず嫌いだけが生き残る選択圧があったのではと感じるほど、その逆、まるで同調圧力に逆らうものが滅びるような選択圧の日本と、民族性が異なる。

    時代の流れの中で、何が正しく、誰がどのような理由で被害者なのかを判断する難しさを感じる。しかし、国が無くなる事が悲劇でない筈はない。渡航を自らの意思で選択したとしても、その点は明確だ。また、選択肢が無かったという事もあるのだろう。選択肢がないから、選択圧が起こる。アシュケナージ系ユダヤ人の知能や、アフリカ系アメリカ人の肉体のように。特徴ある民族性は、特異な環境を経たものである事を証左として、バランス良い歴史認識を持ちたいと感じた。

  • 北東アジアの国際政治に現在進行している危機の中に今もこだましている。
    北への帰国者の大半が実は北でなく最南端、済州島の出身者だった。韓国に言わせれば、自分たちこそ半島における唯一の合法政府である朝鮮人はすべて自国公民であり、自国の中の一時的に敵の領土下にある地域に自国公民を帰国させることなど問題外としかいいようがない。
    総連が帰国についての噂話をあれほど急速にそして効果的に広めることになったのが民族学校のネットワークである。帰国準備のためにあちこちで朝鮮語の学習が始まった。

  • 帰国事情がそれまで建前としては「日本人」として単純労働力として利用していた韓国・朝鮮人を政府の負担を減らすため日本から追い出すための政治家発・官僚立案による陰謀であることはあまり驚かないが、それに「人道的」な理由づけをするために赤十字が関わっていたというのはかなり衝撃的。

  • 1960年代に活発化した、日本から北朝鮮への「帰国事業」をたどる本。在日朝鮮人を「危険因子」と見なして「厄介払い」したい日本の保守派、「帰国」を「支援」することで自分自身の中に「人道主義」を見出して安心したい日本の革新派、そして朝鮮総連に日本赤十字社などなどの各者の利害がある程度一致してしまったために、「帰国事業」はあんなにも「盛り上がり」を見せてしまった、ということでしょうか。「日本のサヨクは『帰国事業』を煽っていたくせに、その過去に頬被りをしている」といった批判がある種の人々から時々聞かれますが、そうやって「サヨク」だけに罪を押し付けようとすることがいかに不当であるか、ということが本書を通してわかります。(たとえもっと洗練された言い方であったとしても)「社会の邪魔者を〈ソト〉に排除する」という点で、右も左も含む多くの日本人たちが協力して、「帰国事業」をプッシュしていた、ということではないでしょうか。精神的に苦境に立たされている外国人力士に向かって「国に帰りたいのならば、力士をやめて勝手にさっさと帰ればよい」などという発言が簡単に出て来てしまうのですから、この点に関わるこの国の人々の感覚は、いまでも当時とほとんど変わっていないように思えます。そう思うと、いろいろと気が暗くなるような本ではあります。いや、それはすなわち「よい本」だ、ということなのですけどね。(20070814)

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