聞き書 緒方貞子回顧録 (岩波現代文庫 社会 319)

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  • Amazon.co.jp ・本 (372ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784006033194

作品紹介・あらすじ

「人の命を助けること」、これに尽きます――。日本外交史研究者として出発しながら、国連にかかわる仕事を続け、民族紛争が激化した冷戦後には国連難民高等弁務官をつとめた日本を代表する国際派知識人、緒方貞子(一九二七―二〇一九)。自らの人生とともに、日本を、そして世界を語りつくした回顧録の決定版。(解説=中満泉)

感想・レビュー・書評

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  • 3月に参加した国際女性デー読書会で、伝記を読んでいる方がおられ、女性の伝記読むのいいなと、学生時代憧れていた緒方貞子さんの本を手に取った。

    読み始めてすぐ、お家柄も時代背景も功績も何もかも違いすぎてあまり参考にならないことに気づき、「生き方の参考にするために女性の伝記を読む」から「世界の歴史を学ぶ」という姿勢に切り替えました。終始圧倒される凄さでした。

    「世界の歴史を学ぶ」ことのできる範囲は、満州事変から、1990年代~2000年代の冷戦終結後の世界情勢について、後半は主に難民まわりの勉強になります。

    加えて、緒方さんのリーダーシップも勉強になるし(全然日和見主義でなくて、決断力と行動力がある)、最後の日本社会への期待(もっと多様性に富んだ社会になってほしい)にも背中を押してもらいました。

  • 緒方貞子氏が示した「これからの日本」への期待: J-CAST トレンド【全文表示】
    https://www.j-cast.com/trend/2020/09/03393468.html?p=all

    聞き書 緒方貞子回顧録 - 岩波書店
    https://www.iwanami.co.jp/book/b498671.html

  • 国連難民高等弁務官に64~73歳で勤められ功績多数。政治を研究し、国連に関わる仕事もされ、様々な積み重ねの果てに推薦される。
    人の命を守ることを目的に、組織の枠や慣例に捕らわれず何がベストか考え、実行され続けた方。
    これは◯◯の仕事、とか考えてしまいがちであるが、やった方が良いことは、ルールを変えて実行する。国連ルールを疑えるほど、一本通った筋の源泉を自分の中に持つにはどうすれば。。議論して多様な意見を取り入れることか。
    リアリスト。時間と成果を考えた時に、ルール化ではなく明文化しゆっくりコンセンサスを得ることがベストになり得る、特に国際社会では、という事例を初めて知った。
    人間の人権保障。時には、これまでタブー視される軍事介入も利用するとこも判断する力。使える物は何でも使う、の素晴らしい実例。
    ギャップ問題。恐怖からの自由と欠乏からの自由をシームレスに。現場で実感する課題か。現場のUNHCR, 開発のJICA どちらも変革してきた。現場第一主義と研究所の開設、両方実行のバランス感がすごい。。

    何かをやらないと、世界に出ないと、と、とても焦りを覚える。

  • UNHCRの話は全体的に歴史の話のようで頭に入らず。世界史を勉強しないとな、と思った。JICAの組織改革の話が個人的には1番面白かった。

  • UNHCRにいた時やそれ以降のことはNHKのドラマなどで知っていたけれど、国際基督教大学で非常勤の講師をしたときに学園紛争で大学がロックアウトされ、自宅でゼミをしたという話に緒方さんの熱意を感じたし、当時の学生さんの学習意欲にも並々ならぬものを感じた。そしてその緒方さんの行為に感激した学生たちが大学の事務に掛け合って緒方さんに正規の給料を出すように掛け合ったという事実にも感動。

  • 国連難民高等弁務官として数々の功績を残してこられた緒方貞子さんの回顧録。その揺るぎない決断力と実行力にただただ舌を巻く。問題の真の所在を見極め、その解決のために既存のルールやしがらみにとらわれず、行動を起こしやり遂げる。どうしてここまで出来るのだろうか凡人の自分には考えが及ばない。出来ることならご存命のうちに講演など直接声を聞いてみたかったが、叶わぬ願いとなってしまったのでもっと書物で学びたい。

    以下、備忘しておきたい言葉。
    ・人の生命を守ることが一番大事なことで、そのことに従来の仕組みやルールがそぐわないならルールや仕組みを変えればよい。それが私の発想でした。
    ・見てしまったからには、何かをしないとならないでしょう?したくなるでしょう?理屈ではないのです。自分に何ができるのか。できることに限りはあるけれど、できることから始めよう。そう思ってずっと対応を試みてきました。

  • 1927年生まれの緒方貞子、彼女が若い頃の話はだいたい勉強の話で、そこは自分も生まれてなかったしへーえという感じ。その後、国連での仕事を始めてからの話は、自分が小学校高学年くらいで、新聞のタイトルを読み始めて以降に、項目だけ知っていたことについての話だったので、特に近年の、ボスニアヘルツェゴヴィナ、ルワンダなど、リアルタイムで起きたことも概要が知れて興味深かった。自衛隊の派遣の話とか、どういう意味があるのか、はっきりした立場から見ることができてよかった。
    あと、テニスが好きで、現地からジュネーヴに帰ってすぐテニスしたり、眠れないということがない、寝るまえにジントニックを飲んでいつも、ぐっすり寝る、というのが凄いと思った。
    現地に行く時も、スカートにローヒールの靴、それに防弾チョッキ、という出立ち。それについて質問してほしかった。
    学究時代の話では、時々、こどもがまだ小さいからとか小さいので、な言葉が挟まれ、給料より子どもをみてくれる人に払うお金の方が多かった、とも。夫は仕事に理解もあり余裕もあったわけだがそれでも、やっぱりね。なにかひとつ、子供が小さいからとオファーを断ってた。しばらく年月がすぎて国連の仕事の話を受けたときも、子育ても介護もひと段落したから、と言っていた。

  • 「聞き書」で「回顧録」ということに対する違和感は的確な予想だった。
    回顧録だから自身が言い残したいことをまとめているのは普通のことで、緒方は自身が関わった仕事について記録を残すことは歴史的使命であるというのだから、成人してからはひたすら仕事のことを回顧しているのは当然のことなのだろう。
    聞き手であり編者である国際政治学者2人(緒方の教え子)は、緒方が関わった仕事について把握したうえで、問いかけている。この問いかけが適切なのであろう、読みやすく情報が整理されている印象だ。

    だけど物足りない。
    わざわざ「聞き書」と明記していながら、聞き手の主体性が感じられない。緒方の意向に添って上手に話を聞き出しているのは確かで、それはそれで貴重な貢献ではあるが、それは名前を出さないインタビュアー(ライター)の仕事だと感じる。
    なんというか、引き出した内容が「公式見解的にあちこちで話してきた内容の繰り返し」に見えるのが物足りない。
    インタビュアーが投げかけた問いによって、今まで語ったことのない事柄を引き出した印象がない。現場でさまざまな当事者に具体的にどのような働きかけをしたのか、組織の士気を高めるためにどんな働きかけをしたのか、あのリーダーシップはどのように身についたのか、ライブ感のある証言はほとんどない。公式見解だらけという印象。

    まあ、本人がそれを語りたいと思っていない(語ることに優先度を感じていない)のであれば仕方ないので、ないものねだりであることは自覚している。
    中満泉さんによる解説が、ちょっと補完しているので「まいっか」という気分にはなっている。

  • 緒方貞子氏へのロングインタビューをもとに取りまとめられた回顧録。子供時代の話から、インタビューが行われた2013年の前年まで勤めていたJICA時代の話まで、幅広く取り上げられている。

    曽祖父が犬養毅元首相であるだけでなく、祖父も父も(のちに結婚される夫も)外交官ということで、幼少期からアメリカ・中国で過ごしたり、1950年代にアメリカ留学をしたりと、国際関係や政治の現場を身近に感じて育った方だということが、よく分かった。

    また、外交の世界には必須な事であるが、原理原則論も理解しながら、リアリストとして冷静に他国や自国の政治的状況を見極めるという視点も、このような環境で育ったことによって、若い頃から身に付いたのだと思う。

    キャリアの最初は、国際政治を研究する政治史の研究者としてスタートされており、特に政策形成過程の研究をされていたということは、それほど詳しくは知らなかった。

    政策形成に関わるそれぞれのアクターがどのような政治的、組織的、心理的属性を持っており、どのような制約条件の下で行動しているのかを背景として、制作が形作られるプロセスを分析するという研究方法であり、実際の政治の現場に近い手法であると感じた。

    緒方氏自身も、後の国際連合での実務においても役に立つ思考的枠組みであったと述べられている。

    政策は理論や制度だけから作り出されるものではなく、関係する当事者の間のすり合わせで形成されていくものであると思う。緒方氏はそのプロセスを研究してきたからこそ、その上でこのような政治力学のフィールドの中でリーダーシップを発揮するためにはどうすればよいかという視点で考えることができるようになったのではないか。

    研究者としての緒方氏の経歴を丁寧に掘り下げている点は、本書の貴重なところであると思う。

    ただ、やはり本書の中でも最も印象に残るのは、国連難民高等弁務官(UNHCR)での仕事を語った部分であろう。

    まず現場を確認し、必要な措置が何なのかをスピーディーに把握すること。限られたリソースや活動環境の中で、難民となっている人々の命の保護を最優先にして、具体的な措置をとること。そのためには、これまで人道支援機関があまり関係性を持ってこなかった軍や政府の力も、必要に応じて使っていくこと。安全の確保が達成された後、帰還や地域社会との共生ができる社会環境の構築に向けた橋渡しをできる限り行うこと。

    これらが、緒方氏が難民支援の分野において成し遂げた大きな転換であると感じた。

    いずれも一筋縄ではいかないことではあるが、「これは必要な事か?」ということを軸に事実に即して考えることで、結論が導かれてくるのだということも強く感じた。

    一方で、外交における交渉や各国国内政治、紛争当事者間の対立などは、到底簡単に解決できる問題ではなく、難民保護の現場における切迫感やニーズとのギャップは、大変大きかったのではないかと感じる。

    緒方氏が現場を見てその状況を知っているからこそ、動かない政治や、対立による状況の悪化は、大変大きなストレスであったのではないかと思う。

    淡々とした語り口でお話をされているように見えるが、その背景においては非常に強い憤りや無念の思いもあったのではないかと感じさせる内容だった。

    数多くの現場に即応的に対応する一方で、緒方氏は難民支援のあり方を組織的にも制度的にもより機能するものへと変えていくという長期的な課題にも取り組まれた。

    国際法上は難民の定義に該当しない国内避難民に対する対応を法的、制度的にどのように位置づけるかという課題について検討を行ったり、人道支援機関と開発援助機関の間のギャップによって難民支援が途切れることがないよう、UNHCRの組織体制を拡充するといった取り組みが印象に残った。

    また、難民の命の安全を守るための軍や警察組織との連携のあり方も、様々な状況での支援活動での経験、実績を踏まえて、各国政府や国連に対して認識を深める取り組みを行っている。

    「人の命を守るのがいちばん大事なことで、そのことに従来の仕組みやルールがそぐわないのならルールや仕組みを変えればよい。」と語っている緒方氏が、実際に目の前の問題に対処するだけでなく、それを踏まえてルールや仕組みをよりよいものにしていこうとしてきたことがよく分かった。

    緒方氏がUNHCRを務めた10年間の間に、難民支援のあり方やUNHCRの組織自体も大きく変化したのではないかと感じた。

    本書の最後では、「人間の安全保障」という新しい考え方の発展のための取り組みと、JICA理事長としての仕事が取り上げられている。

    人間の安全保障の発展に向けた活動は、難民支援の現場での経験を踏まえて、平和の構築や人の命を守るために国際社会が持つべき新たな視点を打ち立てていく取組みであると感じた。

    「安全保障」というと国家の存立を守るための取り組みであるが、人においてはそれは生命の危機から守られているということである。そして、そのために必要な条件とそれを守るために国際社会は何をしなければならないのかということを検討する委員会が国連に設立された。緒方氏は、経済学者のアマルティア・セン氏と共同議長の形でこの委員会をリードした。

    厚生経済学の分野でノーベル賞を受賞し、福祉や政策の理論面で大きな功績を上げているセン氏と、実務の世界で現場の課題に数多く向き合ってきた緒方氏という組み合わせで議論が行われたことで、概念の面から実施に向けた面まで、幅広い議論が行われたようである。

    また、JICAでの仕事は、UNHCRとは異なり開発援助機関の長としての仕事である。人道支援機関と開発援助機関は、仕事の性質が大きく異なるということを、この本を読んで初めて知った。

    即応性が求められ、命を守るための活動を行う人道支援機関と、長期的な社会、経済の再生を目指す開発援助機関では、まず活動の基になる時間軸が全く異なる。さらに、活動する環境における安全確保に対する考え方の違いや、医療分野と土木分野など求められる専門性も違う。

    そういった中で、この両者の間のギャップを埋め、それぞれの特性を生かしながらも国際社会の様々な課題に切れ目がなく対応できる組織にしていこうということが、緒方氏の取り組みの主眼だったのではないかと思う。

    日本において、このような異なる領域をつなぐ活動ができる人がいたということは、貴重な資産であったのだろうと感じた。

    リアリズムに立脚しながら力強いリーダーシップで多くの難民の命を救う活動をしてこられた緒方氏の仕事のスケールの大きさを感じられる本だった。

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著者プロフィール

国際協力機構(JICA)特別顧問

「2013年 『共に生きるということ』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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