- Amazon.co.jp ・本 (416ページ)
- / ISBN・EAN: 9784006023522
作品紹介・あらすじ
小説家・マッツ夢井のもとに届いた一通の手紙。それは「文化文芸倫理向上委員会」と名乗る政府組織からの召喚状だった。出頭先に向かった彼女は、断崖に建つ海辺の療養所へと収容される。「社会に適応した小説」を書けと命ずる所長。終わりの見えない軟禁の悪夢。「更生」との孤独な闘いの行く末は――。足下に拡がるディストピアを描き日本を震撼させた衝撃作、待望の文庫化!
感想・レビュー・書評
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桐野夏生『日没』岩波現代文庫。
生き難い世の中になったものだ。モラルとインモラルのバランスが完全に崩れてしまったようだ。ちょっとした性的言動や冗談すらもセクハラやLGBTQだとか騒がれ、その反動なのか、かつてに比べてより卑劣な性犯罪が増えているように思う。反面、SNSでは匿名を良いことに言いたい放題という矛盾が起きている。
そんな生き難い世の中の恐怖を一層デフォルメして描いているのが本作である。これからの日本を予言するかのような恐怖小説。それが本作である。
ある日、小説家のマッツ夢井(本名・松重カンナ)の元に『総務省文化局・文化文芸倫理向上委員会』という政府組織から召喚状が届く。召喚状には、マッツの描く性描写のある小説に対して読者からの提訴があり、数日間の宿泊を伴う召喚になるとの旨と、待ち合わせ場所に千葉県のとある駅が指定されていた。
指定された駅に到着したマッツは車に乗せられ、断崖絶壁の海辺に建つ七福神浜療養所に収容される。
社会に適応した小説を書くことを命ずる療養所の所長とそれを頑なに拒否し、減点を与えられるマッツ。刑務所よりも酷い環境の療養所での終わりなき軟禁生活はさらに過酷になり、やがて終わりの時を迎える。
本体価格900円
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良い小説の定義とは何なのか、社会に適した作品を描くのが、作家の使命のなのか。
過激な表現と断定され、謎の組織「文化文芸倫理向上委員会」に、召喚を要請された、小説家のマッツ夢井は、断崖に建つ海辺の療養所に収容された。
そこで、「社会に適した小説」を書くことを命じられる。そこで、自問自答する、作家の使命とは、
表現の自由とは、自分にとって良い小説とは、劣悪な環境で、圧力に抗う夢井の、地獄の日々を描く。
衝撃的な作品でした。現代のディストピア小説の中では、一番の問題作だと勝手に感じています。
拷問の場面は、読んでて何度も目を背けたくなりました。 -
ディストピアの世界を描いたフィクション。でも読んでいるうちに現在の政治や社会は似たような反社会的な物事を進めているような不安があるように感じてしまう。
また、「砂の女」安部公房や「1984」ジョージオーウェルの類の小説が好きなので、この「日没」も読みながら身震いするようだった。
さすが岩波書店から出版するくらいの作品である。 -
読むと気分が落ち込みそうで、避けていた小説。読むべき本なので、思い切って読む。
桐野夏生さんなので、エンタメとしても読めるが、それにしても現代と地続きなディストピアであるため、気が滅入る。
ロシアや中国はまさしくこの状態であるし、日本だって扉一枚隔てているだけ。その扉もいつ開くかわからない。
今、街の空き店舗が次々に筋トレのためのトレーニング室になっている。まさに日本は筋トレブーム。
西森や東森の筋肉自慢が小説に描かれるたびに、現代日本のこの筋トレブームが不気味な予兆のように思い起こされた。
いや、身体も大事なんですけどね…。
脳よりも筋肉っていう今の状況、どうなんでしょうか。
病院で家族の付き添いをしている時に読んだので、病院の無機質で使い勝手の悪い部屋で工夫していることや、コンビニの弁当をさもしく選んでいる自分が、主人公と重なってしまい、弁当がちっともおいしく食べられなくなるというオマケ付きでした。
でも、それでも読む価値のある小説です。
桐野夏生さん、流石です。 -
「作家矯正療養所」という施設で主人公が地獄を味わう設定。施設の目的は、国家権力による言論統制であり、世間一般(いわゆる大多数の普通の人)に不都合な作品を書く作家を抹殺すること。希望(夜明け)が全く見えない状態、作家にとっての日没である。
主人公によると「良い小説とは、自分に正直な小説」とのこと。不特定多数の読み手全員から共感を得られるとは限らない。そんなことは当然分かっているが、今はネット上で簡単に批判したり、偽の情報を拡散できる。政権に批判的な有識者が、学術会議メンバーから外される時代である。自由にモノを書きたくても書けないという、作家さん達の苦しみが伝わってくる。自由に執筆が出来ないディストピアが、既に始まっているのだ。
自粛モード、相手への想いやり、空気を読むこと、絆、忖度といった言葉に現せられるように、この数年間で日本社会が、単一的な思考しか受け入れない方向へ向かっている気がする。常識があり、対人関係に優れ、他人と異なる言動をしないことが、平穏無事に人生を送るためには必要なのだろうか?
最近、職場の忘年会の案内が来た。コロナ前のスタイルに戻り、4年ぶりに大会場を貸し切って行うという。参加への強い圧力を感じた。正直、私は乗り気ではない。思い切って行かないという選択肢もアリかも知れない。その時間とお金で、桐野さんの本を何冊かジックリ読もうかなぁ。 -
ディストピア小説といえばジョージ・オーウェルの1984年・・・
言ってはいけない言葉
使ってはいけない表現
ヘイトスピーチと一括りにされる言葉の暴力
自由は一定程度制限されるべきではあるが、その制限は皆んなで仲良く決められるものではない。
小さな悪を封じ込める為に社会に大きな制限を課してしまいつつある世界に少しだけ辟易とします。
本作のような社会が到来しない事、到来していない事を祈ります。
小説家のマッツ夢井のもとに謎の組織【文化文芸倫理向上委員会】から召喚状が届く!?
出頭先は断崖絶壁の診療所!?
マッツ夢井は診療所で療養を受けることになるのだが・・・
登場人物の誰をも信じられない物語!?
マッツ夢井の運命は? -
桐野夏生ワールド初体験。
なんだか後味の悪いやり切れなさが残る。
自由を奪われひたすらに蝕まれて行く精神。
読みながら病んで行くようで。
表現の自由を奪われると言うのは表現者にとっては拘束衣を着せられる様なものなのだろう、と。 -
文化文芸倫理向上委員会
???
知らないうちに 誘導される。隣が空っぽになっても何にも思わない。周りから言われることに唯々諾々と従うのみ。
そんな風に生きていくのは いやだーーっと 思う。
ほんとに?上手く真綿にくるまれて「はい」って言うんじゃない? ふ ふ ふ フ ㇷ -
桐生さんの本とても怖いね。まるで、ホラーの指定席の最前列に座る感がある。
幽霊より、人のこころの闇に肌がゾワゾワする。
私達の全ては100%の善人ではない。どう、手綱を引くかだ。引き方を間違えると普通の人が闇に落ちる。
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おそるべき問題作。あまりの恐ろしさ(ホラー的なではない)に、読むのがつらく、ちょっと読むとすぐに巻を置いてしまう。しかし、読むのをやめられずにまた頁を開いてしまう。の繰り返しで読了。まぎれもなく作家の想像力が生み出した物語なのだが、この恐怖は想像力に産物でありがながも、現実と地続きのもの。どうか、こんな世界にならないでほしい。しかし、桐野夏生、初期の女性主人公ハードボイルドしか読んでいただけだったが、凄い作家だ。他の問題作も読まねばならないのではないか。怖いけど。