- Amazon.co.jp ・本 (304ページ)
- / ISBN・EAN: 9784006022587
作品紹介・あらすじ
やあ。よかったら、ここにおいでよ。気に入ったら、ここが君の席だよ-『君たちはどう生きるか』の主人公にちなんで「コペル」と呼ばれる十四歳の僕。ある朝、染織家の叔父ノボちゃんがやって来て、学校に行くのをやめた親友ユージンに会いに行くことに…。そこから始まる、かけがえのない一日の物語。
感想・レビュー・書評
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吉野源三郎著『君たちはどう生きるか』と同じく主人公の名前はコペル、14歳。
『君たちは‥‥』では、叔父さんに導いてもらっていた感があるが、こちらの作品は少年少女たちが、周りの大人たちの影響を受けながらではあるが、自らの力で前へ進もうとしている印象を受けた。
集団の中でどう生きるべきなのか。痛い思いをしながら模索する少年少女たち。
「なんで自分を当然のようにあの勇気のある人たちのあとを辿る一人だと思えていたのか。あの人たちの勇気は実際その場に立ったものしか分からない類のものだったんだ」
涙が止まらない少年に
「泣いたら、だめだ。考え続けられなくなるから」
と少女は言う。
「傷ついていないふりをしているのはかっこいいことでも強いことでもないよ。あんたが踏んでんのは私の足で、痛いんだ、早く外してくれ、って言わなきゃ」
自分は小心者で裏切り者のどうしようもない人間だと気付くコペル。そんな自分自身を受け入れる。そして、これが“謙虚“ってことなんじゃないか?と推測するようになる。
集団の圧力に負けることもある。それが許せなくて一人を選ぶこともある。だけどやっぱり人間には“群れ“が必要なんだ、と思えたコペル。
いやー、素晴らしかった。大満足の一冊です。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
「君たちはどう生きるか」のオマージュ。
題名を見てピンと来て、この作者なら、と手に取った作品。
作者が違うので内容も違うが、
子供をだます大人、同調圧力、魂を殺すこと 等々
いろいろ考えさせられる。
その一方で
暖かな人の群れ、豊かな自然
も全編通して流れていて読後感は心地いい。 -
色々な問題を散りばめた話だった。
物語というよりは現状起こっている問題、起こりうる問題を箇条書きにして問いかけられているような感覚になった。
特に多数に流されてしまう可能性に気付いた、この話だと主人公のコペルの気持ちが刺さった。周りが正しくないものを正しいと言った時、自分はちゃんと拒否できるだろうか。
また戦争の話についても考え直したいと思った。最近丁度戦争の話に興味を持っており、戦争がテーマの作品や新書を読んだが自分の中でエンタメ化していることに気がついた。これは当事者でないからこそ楽しんでいられるのであって、実際に戦時中の世の中になったら自分はどう動くだろう。当時の人の気持ちや世の中の流れを知った上で、戦争について理解を深めていけたらと思う。 -
『君たちはどう生きるか』と同様、とても教訓と示唆に富んだ作品でした。
こんなとき何を考え、何のために、どう行動すべきか。主人公の「コペル」とその友人たちの、本意気で純粋な懊悩と思索を通して、普遍的に選ぶべき道筋に光を当ててくれる作品です。
雑音があまりに多いこの世界で、本当は立ち止まるべきなのに、多くの人がそのままにして通り過ぎてきたいろいろなことに、きちんと向き合えるその強さは、本作のコペル君と原作のコペル君とに共通するもので、梨木さんが今のこういう時代に『君たちはどう生きるか』のオマージュ作品をしたためたことと、同作が戦時中に出版されたということとの間には、偶然以外のものがきっとあるように思います。
あえて難点をつけるとすれば、さすがに中学2年生でここまでの知識に裏打ちされた哲学的思考ができるのは、いささか現実感に乏しいとは感じました。ですが大事なことはそこではなく、他者のために「考える」力が、個人にも社会のためにも重要だというところだと思うので、作品の構造的には必要なものかもしれません。 -
たくさんの問題定義が詰め込まれた1冊
戦争問題、環境問題、AVやレイプの問題、集団圧力の問題、教育の問題…
頭の中でたくさん「考える」けど、
それでも比較的集団に馴染めてしまうコペル君
私は普段あまり考えながら生きている人間ではないけどそれとなく集団生活に馴染めてしまうので、コペル君を尊敬したり共感したり。
でもやっぱり考えるべきで考えることをやめてはいけないということを教えてくれた一冊。
考えようと思っていても無視してしまったり、気付いているのに無視してしまったり
それは戦争や環境の大きなお話に限らず身近なところにも。
私が気づいていないだけで、私はたくさんのことを無視してると思う。
それに気づくためにも考え続けなければならないんですね。 -
梨木香歩は、先日『ピスタチオ』を読み終えた所。
和と洋が、良い意味で対比的に描かれていて、これまでの作者の視点が上手く現れている。
主人公コペル君が、不登校児ユージンや、かつて自分を救い、救うことでコペル君の自尊心をちょっぴり傷付けたショーコと織り成す物語。
ユージンが何故、学校に行かなくなったのか。
ユージンの敷地に何故、インジャ(隠者)が住み着くようになったのか。
ユージンの祖母や、コペル君の母は何を思い、子どもたちに伝えてきたのか。
様々なテーマが明らかにされるのだけれど、どこからも目を逸らせなくて、苦しくて、泣きたくなる。
けれど、そこでの「泣いたら、だめだ。考え続けられなくなるから。」が本当に胸に響いた。
その後、オーストラリアのブッシュマンの話が入ったことで、ユージンは遠い遠い場所から檻の鍵を貰ったのではないだろうか。
この辺りの流れは、全てがきちんと収まっていくので非常に面白い。
「僕」は、「僕たち」でいることを望んだ。
それは考え続け、伝え続けることを選んだことでもある。
理不尽な群れの流れの中で、自分を見失わないこと。
情報を選ばされるのではなく、情報を選ぶこと。
生きることの在り方が、ほんの少し形を帯びたように思う。すごいな。 -
我が子が高学年〜中学生くらいになったら読んでみてほしい。
梨木香歩さんは他作でも例のAV監督への注意喚起されていて、西の魔女〜などから惹きつけられてきた作風との差異を感じて最近あまり読まなくなっていたけれど(やっぱりこのあたり、生々しさを感じて星をマイナスした(但し私はその危険な本も読んでいない,巧妙な罠らしいので子供にも読ませたくない)
今作では他にも色々問題提起されていて、腑に落ちるものがありました。
インジャの身に起きたこと、ユージンのコッコちゃんの末路、他者を「実験」すること、誰かが都合よく捻じ曲げた「普通」、集団の圧力に流されてしまうこと
「国」が巧妙にコントロールしてきた時にちゃんと自分で考えて拒否できるのか…
気づかなかった、のではなく、自己防衛のために自分の意識すら誤魔化してしまう狡賢さ。
色々 気づいたり 考えるきっかけにしてほしいと感じました。 -
やあ。よかったら、ここにおいでよ。
気に入ったら、ここが君の席だよ――
人は群れでしか生きられない。
だからゆるくつながることで居心地のいい関係が出来たら最高だと思う。
「大多数の正義」・「魂の殺人」そして、戦争の事とかとても深い話。
自然を守ろうとする人々のことや
染料にするイタドリ・ヨモギを取ったり、
スベリヒユを炒めて食べたりと
なかなか興味深いシーンがたくさん出てきた。