戦艦武蔵ノート (岩波現代文庫)

著者 :
  • 岩波書店
4.21
  • (12)
  • (12)
  • (4)
  • (1)
  • (0)
本棚登録 : 117
感想 : 18
本ページはアフィリエイトプログラムによる収益を得ています
  • Amazon.co.jp ・本 (288ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784006021726

作品紹介・あらすじ

「嘘ついてやがら。」自分がみた、本当の戦争を伝えるためにこそ、「武蔵」を書くのだ-。厖大な物資と人命をかけて造られた史上最大の戦艦「武蔵」。その建造から沈没に至るまでを支えた人々の巨大なエネルギーとは、一体なんだったのか。作家を突き動かした『戦艦武蔵』執筆の経緯を綿密にたどる取材日記。

感想・レビュー・書評

並び替え
表示形式
表示件数
絞り込み
  • 会社の先輩から「イチオシ」で勧められた一冊。
    『戦艦武蔵』の前に、まずはこちらから読めとのこと。

    吉村昭の粘り強い取材記録である。
    「乗組員ではなかった自分に戦艦武蔵を描く資格はあるのか?」と
    自問自答を繰り返し、苦しみながらも、
    「戦争を経験した人間の本当の姿を描き出したい」
    という情熱に駆られ、歴史の記録を忠実に残そうとする
    ひたむきな姿勢に感動した。

    資金をやりくりして精力的に出張に出かけ、少しずつ手掛かりを集めて、
    多くの人に協力を仰ぎ、インタビューを行うことは、途方もない時間を要するもの。
    インタビューの発言や、文献の中には、嘘の情報もあるわけだから、
    出口の見えない、長いトンネルを手探りで歩き続けるようなものだ。
    当然、作品は出版されなければ収入に繋がらない。
    どれだけの情報を集めれば、作品に仕上げられるレベルになるのか、
    納得できるまで取材を続けることは、相当な精神力が求められるのだろう。

    吉村氏が取材旅行で利用した「交通手段」の描写は印象に残る。
    取材を始めた頃は、東京から長崎まで夜行(しかも座席)だった。
    まだ小説を書けるかどうか、分からない状態だったのだろう。
    ところが、取材の最後の方は、九州から東京まで飛行機である。
    太宰治賞を受賞したことによる経済的な余裕、『戦艦武蔵』を書ききる
    十分な情報を集めきった精神的余裕の表れだろうか。

    ただの取材記録だと思っていたが、まるで推理小説のように楽しむことができた。
    さて、これから本番の『戦艦武蔵』を読み始めよう。

  • この本は、吉村昭が「戦艦武蔵」を執筆する際にその建造に携わった人や乗組員、建造された造船所のあった長崎の市民などから聞き取り調査をした記録である。

    取材は昭和40年頃に行われた。終戦から20年という時期なので、現在とは違い戦争中既に大人でそれなりの年齢や地位に就いていた人がまだ健在だった。
    そのため、戦艦武蔵の建造や沈没時の様子はもちろんのこと、戦争中10代の少年だった作者自身の当時の記憶や戦争に対する思いが記されている。

    私は、戦艦武蔵の建造の過程や進水、沈没時の様子も然ることながら、戦争中における庶民の中に漂っていた空気や、戦中戦後の新聞やラジオ等の報道のギャップ、そしてなぜ戦争に突入したのか、なぜ敗色濃厚なのにすぐ終わらせなかったのか、などを作者自身が分析しているところが興味深かった。

  • 吉村昭の、史実への向き合い方、小説を書くことへの姿勢、人とのつながりに対する信念が、とてもよく分かる。戦艦武蔵を読み、次いでこの本を読んだのだが、そのあと武蔵を再読するのもいいかもしれない。
    でも、戦争に引っ張られるから怖い。
    すさまじいエネルギーが行間からこちらを覗き込んでいる。武蔵が沈んでもなお、それはじっとこちらを見ている。
    もう少し、戦争の視線から離れてみて、落ち着いたらまた読んでみた方がいいかもなぁ。

  • 2023年12月読了。

    8ページ
    ラディゲの「多くの若い少年達にとって、戦争が何であったかを思い出してみるがいい。それは、四年間の長い休暇だったのだ」引いて、「この表現に強い親近感をおぼえる」というこの感覚が戦果を生き延びた人から出てくる、それも戦争を否定的に捉えている人から出てくる、この辺りの感覚が実に難しい。

  • 4.19/107
    『なぜ,「武蔵」を書いたのか.作家を突き動かした『戦艦武蔵』執筆の経緯をたどる取材日記.(解説=最相葉月)

    「あいつら,ウソ言ってやがらぁ.」自分がみた,本当の戦争を伝えるために「武蔵」を書くのだ――.厖大な物資と人命をかけて造られた史上最大の戦艦「武蔵」.その建造から沈没に至るまでを支えた人々の巨大なエネルギーとは,なんだったのか.『戦艦武蔵』執筆の経緯を綿密にたどった取材日記.(解説=最相葉月)』
    (「岩波書店」サイトより)
    https://www.iwanami.co.jp/book/b256145.html


    『戦艦武蔵ノート』
    著者:吉村 昭
    出版社 ‏: ‎岩波書店
    文庫 ‏: ‎288ページ

  • 本当におもしろいなと思うのは、執筆当時のメインストリームの思想に対する懐疑が著作の動機となるところだ。吉村昭が少年期から青年期にかけて体感した時代の空気、誰も彼もが戦争に積極的に参加し、憲兵と同じくらい隣組が怖かった時代の空気。それらが戦後に「本心は戦争に反対だった」と否定されていることへの懐疑から始まることだ。その回答は戦艦武蔵の建造を通して徐々に見えてくる。人々が武蔵の建造と運用を通じて真剣に戦争に参加したこと、また没入したことを見据えることで、はじめて反戦を語ることができる。正直に戦前戦中の国民のエネルギーを描写するだけで、軍国主義者だの戦前回帰だのとレッテルが貼られかねない昭和40年代。戦争の悲惨さを真に伝えるために誠実に事実と向き合おうとした軌跡が、また吉村昭の記録文学たる所以が、戦艦武蔵ノートとしてまとめられている。

  • 名著「戦艦武蔵」執筆時の取材ノート。当時まだ無名だった著者の立ち位置や心境、また戦争と戦後への思いが綴られる。軍艦武蔵の輪郭が明らかになってゆく興味深い取材日記と合わせて、名作の裏側はこうなっていたのかと読み飽きなかった。造船という膨大な知識を要する分野に門外漢として立ち向かった姿勢は、大きな殻を破って新境地を開いた成功譚として結実し、それ自体が小説的な内容。出版後、著者が取材した関係者たちが20数年ぶりに一堂に集う場面は、小説の副産物としてはあまりに有意義な出会い(再会)で印象的だった。

  • 小説が出来ていくまで、小説家・吉村昭という人に迫れたような気がして、何だか幸せ!

  • [ 内容 ]
    「嘘ついてやがら。」
    自分がみた、本当の戦争を伝えるためにこそ、「武蔵」を書くのだ―。
    厖大な物資と人命をかけて造られた史上最大の戦艦「武蔵」。
    その建造から沈没に至るまでを支えた人々の巨大なエネルギーとは、一体なんだったのか。
    作家を突き動かした『戦艦武蔵』執筆の経緯を綿密にたどる取材日記。

    [ 目次 ]
    戦艦武蔵ノート
    城下町の夜
    下士官の手記
    消えた「武蔵」

    [ 問題提起 ]


    [ 結論 ]


    [ コメント ]


    [ 読了した日 ]

  • 「戦艦武蔵」執筆の取材ノート。小説の方と間違えて借りてしまったので、原作を未読だったりするが、十分面白かった。
    一本の小説を書くための勉強量と取材量に敬服。ルポルタージュは儲からないというけどホントそうだ。

全18件中 1 - 10件を表示

著者プロフィール

一九二七(昭和二)年、東京・日暮里生まれ。学習院大学中退。五八年、短篇集『青い骨』を自費出版。六六年、『星への旅』で太宰治賞を受賞、本格的な作家活動に入る。七三年『戦艦武蔵』『関東大震災』で菊池寛賞、七九年『ふぉん・しいほるとの娘』で吉川英治文学賞、八四年『破獄』で読売文学賞を受賞。二〇〇六(平成一八)年没。そのほかの作品に『高熱隧道』『桜田門外ノ変』『黒船』『私の文学漂流』などがある。

「2021年 『花火 吉村昭後期短篇集』 で使われていた紹介文から引用しています。」

吉村昭の作品

この本を読んでいる人は、こんな本も本棚に登録しています。

有効な左矢印 無効な左矢印
有効な右矢印 無効な右矢印
  • 話題の本に出会えて、蔵書管理を手軽にできる!ブクログのアプリ AppStoreからダウンロード GooglePlayで手に入れよう
ツイートする
×