- Amazon.co.jp ・本 (380ページ)
- / ISBN・EAN: 9784006020378
感想・レビュー・書評
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読んだのは単行本。角背の箱入りという、昔はよくある体裁だが今ではたいへん贅沢なつくり。
それはさておき。
映画、邦画が好きなら一度は読んでおかんといかんと思っていた本書、ちょっと期待外れ。
というのは、私は黒澤監督の子供時代などどうでもよく、彼の映画論やエピソードを期待していたのであって、たしかにそれらにも触れられているが、それも『羅生門』まで。
それ以降の『生きる』『七人の侍』『蜘蛛巣城』『隠し砦の三悪人』『天国と地獄』etc.etcに関する話が読みたかったのである。
本書は黒澤監督の生の声が聴けるという利点はあるが、黒澤映画についてなら佐藤忠男氏の『黒澤明解題』のほうが充実して面白かった。
そちらを読み直そう……。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
黒澤明監督が67歳くらいの時に「週刊読売」に連載していたものに、加筆・修正したもの。監督が産まれてから『羅生門』で受賞するまでについて書かれている。
幼少期の家族との関わりや学校での事なので、興味深いエピソードが満載。ひ弱で苛められていたのが、剣道やって強くなるところなど黒澤映画と同じように爽快だった。
兄妹の多くが端役に亡くなられていたり、お兄さんからの影響が強かったりと、ルーツ的な部分にも触れられています。
助監督時代や監督になってから撮影した作品についての話も、作品を観てるとさらに楽しめると思います。
一時期はプレミアが付いていたようですが、再発されたからか今は普通の価格で販売されています。
黒澤ファン、映画ファンには是非読んで頂きたい本です。 -
生い立ちから「羅生門」までの黒澤明の自伝。執筆当時すでに世界的巨匠だったが、大成後の回想はほぼ無く、そのバックボーンがメインとなっている。幼少の頃の牧歌的な大正期、映画界に身を投じた頃の暗く狂信的な戦中期の体験からは、対照的な世相が伝わってきて、時代の証言のよう。戦前の田舎や下町などには、江戸時代の有様が遺っており、殊に長屋に住む人達の江戸っ子風の快活さと陰惨極まる行為の人間の業の対極は忘れ難い。著者自身、元士族の家で軍人を父に持つ身分を享受する一方、非合法活動に参加し低劣な生活環境に身を置くなど、様々"役柄"を変えて世間に接しており、その後作品に投影される世界観は、複眼的な目を養った青年期あってこそと思わされる。戦後仕事が軌道に乗った頃の筆致には、仕事が楽しくて仕方ない様が表れ、それが名作を生む活力となり、同時に、戦中の制限や異常な検閲官と対峙し苦しんだ経験からの解放も、バネの如く原動力となった事が窺えた。黒澤明の成功は、戦後日本の成功と被る要素があるのかもしれない。
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「兄」の傑物ぶりが強烈。被災地巡りの件は自分が連れ回されているような気分になり、その日はもうページを繰る気にはなれなくなってしまった。
「今の音はデジタルだらけ、昔は生の音で溢れていた」という言葉を全肯定は出来ないけれども、我々平成育ちは彼ら大正育ちの半分くらいしかものごとを経験しないまま成人を迎えているのではないか。あの時代を生きた人々の自伝は、どれを読んでも身につまされる。 -
昔は全力でいろんなこと楽しんでた。
今は全力でつまらない振りをしてる。 -
日本映画界の巨星の自伝のようなもの。
『羅生門』辺りで終わらずにもう少し語って欲しかったと思うのは欲張りか。
どの時代・世界でも小人が虚勢を張りたがる様は滑稽だが、そう見えるのは第三者ないしは時間が経過した後振り返る当事者のみ。真っ只中の当事者にとっては、腸煮えて仕方ないんでしょう。
また良き師匠・友・家族等、巨人の巨人たる所以は、周りに恵まれるというか、周りを吸い寄せるところでしょうな。この人もご多分に漏れず。
しかし『用心棒』の衝撃的オープニングなどは偉大なる師の山さんの影響あってのことかな?人間にとっての縁とは何かを考えさせてくれる味わい深い本でもあります。 -
良くできる兄の自死。才能豊かな三船敏郎。子細で印象的な過去描写が多出。記憶力のよさなのか、演出なのか。黒沢自身は、高エネルギーで基本的に陽性で運に恵まれた人物のようだ。
当時、映画という新メディアが、金の匂いをかぎつけた人物や芸術至上主義の利己的人間が大勢流れ込んできた混沌、狂乱な世界だったことがうかがわれる。
畢竟、表現とはそれまでの積み重ね、素養の発露であり、どのような過去も無駄にならないと感じさせられた。 -
世界のクロサワさんの自伝。明治から昭和の「激動の時代」をがむしゃらに生きてきたおじいちゃんが、表現豊かにその半生を綴っている本。
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黒澤明監督に関する書籍では必ず参考文献とされる自伝だが、長く増刷されなかったせいかなかなか読む機会がなかった。幼年期から綴られた本著は、著者が遺してくれた数多の名作を抜きにしても興味深く、その流麗な文章と豊かな記憶力、そして観察力の鋭さに圧倒される。もちろん後半生の40年分には触れずに筆を置いてしまったのは悔やまれるが、映画監督はその作品で語るべきだという著者の意見はもっともであり、妥協を許せなかった潔さでもある。
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(欲しい!)/文庫