反転する福祉国家: オランダモデルの光と影 (岩波現代文庫 学術 398)
- 岩波書店 (2019年1月17日発売)
- Amazon.co.jp ・本 (304ページ)
- / ISBN・EAN: 9784006003982
作品紹介・あらすじ
オランダモデルと言われる雇用・福祉改革が進展し、「寛容」な国として知られてきたオランダ。しかし、そこでは移民・外国人の「排除」の動きも急速に進行した。この対極的に見える現実の背後にどのような論理が潜んでいるのか。ポピュリズムに揺れる激動の時代を読み解く。
感想・レビュー・書評
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帯に付された「ポピュリズム」の言葉は少々キャッチャーにすぎる。一方、特に結論部の第4章に収められた、リベラル国家の代表と目されたオランダが、新世紀を迎えたころから移民排斥をはじめ「右傾化した」と評された転向の解説は読むべき価値がある。
簡潔には
元来、オランダは大陸福祉国家ー>家族、組織を基盤とした社会を標ぼうし、その中で北海油田を財源としてコミュニティを通した国家からの手厚い補助を与えていた。
90年代の産業の高度化(製造業からサービス業へ)進展により、単純な労働力の輸入よりもコミュニティ内部におけるコミュニケーションを活用した経済成長力を重視し始めた。結果、女性や高齢者は労働市場で歓迎されたが、移民は排斥されるようになった。
また、同時期にこれ以上の過大な支出に耐えきれないほどの財政悪化が進行。ちょうどよいタイミングで、既存政党を批判することで、移民に非寛容な右翼改革派の新政党が勢力を伸ばした。
リベラル、リバタリアニズムからコミュニティへの転換論はマイケル・サンデル教授の議論を思い起こさせる。米国哲学の議論ではあるがもう一度著作を読んでみたい。
筆者も後書きに書いていることだが、ある国の政策が「寛容」「非寛容」、「ポピュリズム」「リベラル」と評されるときに、政策のほんの一面のみを捉えてレッテルを張っていないだろうか。
民主主義国家におけるの政策「セット」は、その国の国民自身が徐々に自分たちの文化や経済を念頭においた選好によって取得してきたものである。進化論の話ではないが、ある程度は必要とされて(最適ではないにしろ)適応されてきた選択だ。
そのため、ただ一つの政策のみを取り上げて「リベラルで好ましい(行き過ぎている)から取り入れる(取り入れない)べきだ」と議論をしたところで、それが他の国で想定したとおりには動くはずがないのである。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
【貸出状況・配架場所はこちらから確認できます】
https://lib-opac.bunri-u.ac.jp/opac/volume/719220 -
オランダは小国で政治的にも、経済的にも目が向かないことが多いが、戦後の政策方針を1つ1つみていくと非常に興味深い。
当初は大陸型として福祉政策を展開していたが、労働改革や人権重政策を経て、「寛容な国」へと変容を遂げる。しかしグローバル化、ダイバーシティ政策に反発する層も次第に増え、今や「寛容な国」としてのオランダは過去の姿へとなった。近年は移民政策への規制も厳しく、極右派の台頭も顕著になっている。 -
東2法経図・6F開架:B1/8-1/398/K