ラディカル・オーラル・ヒストリー――オーストラリア先住民アボリジニの歴史実践 (岩波現代文庫)

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  • Amazon.co.jp ・本 (432ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784006003807

感想・レビュー・書評

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  • 学問そのものや、グリンジのアボリジニに対する保苅氏の真摯さが滲み出るような、素晴らしい研究だと思います。先行研究やフィールドから本気で学び、本気で対話を試み、本気で書いた... 熱く野心的な青年が紡ぎ出した言葉たちに、心を打たれっぱなしでした。

    歴史学者である保苅氏は、歴史を、記録やインタビューの調査を通してではなく、参与観察でがっつりアボリジニの世界に浸って、自分も「歴史する(doing history)」中で彼らの歴史経験を丁寧に記述・分析します。
    この試みの何が「ラディカル」なのか? そもそも歴史とは何で、歴史家とは誰なのか? 彼は、歴史とは本来、歴史学者だけでなく、人間誰しもが日々メンテナンスするものだと主張します。本来は「インフォーマント」として扱われるアボリジニを一人の「歴史家」としてみなした時、彼らは日々どんな歴史のメンテナンスをしているのか? そして、「人だけでない、大地やモノ、場所がエージェントとして歴史を語ってくる」といったアボリジニの歴史経験を、歴史学はいかに「排除」することなく、「ギャップ越しのコミュニケーション」の可能性を模索することができるのか? こうした歴史学への根源的な問いかけを、第1章ではユーモアたっぷりの優しい口調で、しかし鋭く展開しています。

    本書は、研究者として歩もうとしている私に、小さな灯火をくれました。彼の議論からはもちろん、彼の研究者・フィールドワーカーとしての心意気からも、とても大きなものを学んだ気がします。私の人生を変える一冊になりそうです。

  • この本はすごい。

    徹底的に「歴史とは何か」を自分の頭で考え抜いている。

    ポストモダンで「真実は複数」と言われるけど、それを「頭」ではなく「心」で引き受けようとしている。

    「尊重」の裏にある、隠された権力に敏感にならなければならないことを教えてくれる。

    すごい本だ。早逝されたのが悔やまれる。

  • インタビューされる側を尊重する作者の姿勢が印象的。インタビュー調査ってする側とされる側の権力関係がつくられがちだけど、学術的な都合から調査を進めるのではなく、インタビューされる側の声に全神経を傾ける。実証主義を重視し、研究者が歴史を作る構造が維持されつつあるが、スピリチュアルな、研究者が知らなかった歴史の多元性も大事にしようという考えには感銘を受けた。私もいずれ大学院進学を目指しているのでとても勉強になった

  • 第一章「ケネディ大統領はアボリジニに…」のみ読了。/今、この時代に要請されている歴史学は、本当に裁判に役立つような歴史学だけなんだろうか(p.27)/だからといって、過去におこったできごとが、好き勝手に捏造されているわけじゃない。グリンジの人々は、過去のできごとや経験を現在に語りなおし、再現しなおし、それを倫理的、政治的、霊的、思想的にさまざまな分析をくわえ、歴史から何を学び、何かを伝えようとしている、という意味で歴史家なんです。(p.27)/僕は、ジミーじいさんをはじめとするグリンジの歴史化たちの歴史分析を、どうしたらリアルに引き受けることができるのかについて、さまざまな検討をしたい(p.41)

  • とても刺激を受けた。ポストモダンとも歴史修正主義とも違う歴史への誠実な接近がそこにある。

  • 徹底的にオーストラリアのグリンジというコミュニティの個別文脈性にこだわり、普遍性と実証主義を学問的良心とする歴史学との間に対話の空間(著者の言葉で言えば、協奏の可能性)を生みだそうとした労作。多様な歴史経験に真摯に向き合うことの重要性が一貫して主張されている。筆者がもし存命だったら、次作は(著者が批判の目を向ける)メインストリームの歴史学の手法に則って、どこまで本作の問いが深められるかを追求して欲しかったと思わせる。筆者が理想とする歴史教育のあり方——客観的な〈史実〉と主観的な〈経験〉のバランスの取り方——について、一緒に議論してみたかった。
    人類学の側からはグリンジの社会の描出が粗いことや、ジミーおじさんの意見の代表性(ジミーおじさん以外の人々の声があまり聞かれない、女性が登場しない等)に関する批判が出てくるかもしれない。それは個別学問のディシプリンに(忠実に)従うならば、おそらくそうなのだろう。そうした批判に著者なら、こう答えたかもしれない。「確かにそうかもしれませんが、それは私が提示している問いの本質性を揺らがせるものではありません」と。残された時間と体力との格闘の中で、歴史学における個別と普遍の間(境界)を必死にこじ開けようと奮闘する筆者の姿には、大いに励まされるものがあった。著者の残した問いは大きいが、「難しい問いですよね」と言って巧妙に“排除”するような人間にだけはなりたくないものである。本書を等身大で受け止める度量が私たちに問われている。

  • 刺激的な本だった。博士論文をもとにした本で、博論の書評とか「幻のブック・ラウンチ」とか色々載っているが、博論の中身は二章分くらい。単行本は2004年だが、後続の研究状況はどうなのだろう。

  • 東2法経図・6F開架 B1/8-1/380/K

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著者プロフィール

保苅実(ほかり・みのる) 1971年、新潟市に生まれる。1996年、一橋大学大学院経済学研究科・経済学修士取得。1996年より、ニューサウスウェールズ大学在籍。歴史学Ph.D専攻。1999年よりオーストラリア国立大学に在籍、2001年にオーストラリア国立大学歴史学博士号取得。1999年から2003年まで、オーストラリア国立大学太平洋・アジア研究所(人類学科、歴史学科)、人文学研究所に客員研究員として、2002年からは日本学術振興会特別研究員として慶應義塾大学に所属。
2003年7月、フィールドワークに向かう途中にて発病(悪性リンパ腫)。2004年5月、豪・メルボルンにて永眠。同年7月、オーストラリア国立大学にて豪州の先住民族研究者対象の保苅実記念奨学金が設立された。著書に、『ラディカル・オーラル・ヒストリー オーストラリア先住民アボリジニの歴史実践』(お茶の水書房、2004年、岩波現代文庫、2018年)、『GURINDJI JOURNEY』(University of New South Wales Press、2011)がある。

「2024年 『BEFORE・ラディカル・オーラル・ヒストリー 保苅実著作集BOOK2 アンチ・マイノリティ・ヒストリー』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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