ロボット創造学入門 (岩波ジュニア新書 〈知の航海〉シリーズ)

著者 :
  • 岩波書店
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感想 : 10
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  • Amazon.co.jp ・本 (240ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784005006878

作品紹介・あらすじ

地雷探知除去ロボットをつくるとき、アフガニスタンの現場でつい地雷原に入りこんでしまった!そんな危険な体験をしながら、つくりあげた実用ロボットはどんなものになったか?さまざまな用途のヘビ型や四足歩行ロボットを開発してきた著者が、それぞれどのようにつくったかを解説し、ロボットの形や心の未来も語る。

感想・レビュー・書評

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  • 広瀬茂男(1947年~)氏は、横浜国大工学部卒、東工大大学院博士課程修了、東工大大学院助教授・教授等を経て、同大学院名誉教授。多くの独創的なロボットやロボット技術を開発している世界的権威で、ヘビ型ロボット、四足歩行ロボット、惑星探査ロボット、地雷探査ロボット、全方向移動ロボットなどで多くの業績がある。エンゲルバーガー賞受賞。紫綬褒章、瑞宝中綬章を受章。
    本書は2011年出版のジュニア向け新書だが(現在絶版)、成毛眞の『本棚にもルールがある』(2014年)の中で必読と書かれており、今般、新古書店で偶々見つけて入手した。
    目次は、1.地雷探知除去ロボットをつくろう、2.いろいろなロボットをつくる、3.創造的思考法、4.未来のロボットの形はどうなるか、5.未来のロボットの心はどうなるか、6.ロボット・クリエイターになるには、となっており、1章、2章では、地雷探知ロボット、ヘビ型ロボット、四足歩行ロボットについて、具体的な開発のプロセスが書かれている。また、3章では創造的な問題解決手法(①情報の収集、②目的と制約条件の明確化、③発散的思考による問題解決法の展開、④収束的思考による問題解決法の選択)、6章ではロボットの作り方(駆動機構系、センサー系、制御系、全体)という、主に、ロボット工学を志すジュニア向けに相応しい内容が含まれている。
    ただ、本書において一般の大人が読んで目から鱗が落ちるのは、4章と5章の「未来のロボットの形・心」のくだりであろう。
    未来のロボットの形については、我々は、SF映画などから、人間に近い形をしたもの(ヒューマノイド)を想像するし、研究者たちの多くも、ロボットはいずれ人間の形にするべきと考えているが、著者はそれを否定する。というのは、技術というものは、何かを模倣しようとして始まったとしても、その過程で、新しい技術や使える要素技術の制約などから、その目的とする機能を達成する最適な形態にその形を臨機応変に変えて進化するのが普通だからだという。そして、それを踏まえると、未来のロボットは、人間の行っていることを代替するヒューマノイドではなく、現在ある機械がその本来の機能を拡張するために、知能性や運動性を獲得してロボット的なもの(それが人間に近い形である可能性は限りなく低い)になっているのが自然であるという。著者が描く未来の姿は、子守役ヒューマノイド、野球やゴルフを教えるインストラクター・ヒューマノイド、案内嬢ヒューマノイド達が人間社会の中に割り込むものではなく、人間社会の中の子守役、インストラクター、案内嬢は引き続き人間が行い、ロボットは人間社会を支えるインフラや環境管理などの作業を黙々とこなすものなのである。
    また、未来のロボットの心については、有名な「アシモフのロボット3原則」に異論を唱える。というのは、同原則においては、ロボットにも生物的な生存欲があることを想定している(『2001年宇宙の旅』に出てくる人工知能HALのように)が、ロボットを知能化することと、ロボットが生物化する(=生存欲を持つ)ことは全く別のことであり、ロボットの存在のあり方が生物と同じになる必然性はないし、寧ろそうならないように注意して開発すべきであるという。つまり、生物型ロボットではなく、高度な知能性を持ちつつも、あくまで機械として働くロボットを指向するのである。
    私は、AIの問題を、現在人類が直面する大きな問題の一つとして捉えており(究極の懸念は、人類の知能を超えたAIが人類に敵対するリスクである)、本書もそれを意識して読んだが、(出版から僅か10年しか経っていない)現在のITテクノロジー・AIの進歩は、著者の唱える未来のロボットの形・心を、既に遥かに超えているように思える。
    この現状を著者ならどう考えるのか、改めて尋ねてみたい。
    (2022年11月了)

  • 新 書 IJS||548.3||Hir

  • 説明が「む?ちょっと高度なのでは?」と思うところがいくつかあるけれど、いろんなロボットの登場はそれだけで面白い。ミライのロボット事情についても、まあそうだろうな、とは思う(アシモフファンとしては、反論したくなる部分もいくつかあるけれど)。

    蛇足ながらちょこっと入っている行政批判も笑えるし、少々悲しくもなる。ああお役所。。。

  • 日本のロボット工学の第一人者がわかりやすくロボットについて語る一冊。
    ロボットの仕組みやら分類やらが延々続くのかと思ったら、その内容は広範に及びよい意味で期待を裏切られました。
    「能動内視鏡」なんてものも開発されていたりして驚きました。
    日曜日の午後にサラリと読了。
    付箋は12枚付きました。

  • 本書はこんな僕のような社会学よりの読み手からしてみても、ロボットそのものの駆動系や制御系なりの記述は、難しくて理解しがたいところが多いながらも新鮮ですし、やっぱりこれからの人工知能を考えた時の、倫理観を考えるというのも、人間そのものを振り返る意味でも面白かったです。10代だとか、若い人でね、これから工学系を中心にやっていきたいとする人は、本書は夢が広がる本の一つになるでしょう。原発事故が起こって、その廃炉への作業にはロボット技術の革新が必須だ、などとも言われています。注目分野ですし、伸びていってほしい分野です。

  • メモ:囚人のジレンマ、アクセルロッドの実験、TFT戦略、ESS、TFTT戦略、武士道、律儀さ・勇気・寛容性、ナッシュの均衡点、非近視眼的均衡点、利己的な遺伝子、生存執着型生物、無限回転運動、守破離、類比発想法。

  • 548.3 ヒ 登録番号8221

  • 技術的なところはかなりながし読みをしてしまった(特に蛇の滑走部分…)けれど、地雷除去の為のロボット、そしてそのあり方はなるほど、と感じた。それ故、地雷の除去より地雷の探知を。人間と人間のあいだにロボットは入り込まなくていい。お手伝いロボットよりも、子どもと親が一緒にいられる時間を作ってくれるロボットを。あくまで、私たちの生活がより楽しく、良い充実したものになるためのロボット開発を。それから3章の「創造的思考法」もとても良かった。脳の入っている身体のコンディションをまず整えることから。漠然とした憧れに対し優しくも具体的に背中を押してくれるような章なので、将来を考え始める中高生に是非読んでもらいたい。ロボットに関しては課題もあるが、明るい未来を期待しながら読み終わった。

  • 著者はヘビ型ロボット、蜘蛛型地震探査ロボットなど我が国のロボット開発の第一人者。しかし鉄腕アトムのような人型ロボットは愛玩用を除いて必要ないと言い切る。「ロボットは縁の下の力持ち的な単純業務を代行し、人が人でしかできない大切な仕事に専念する環境を作ることに貢献すべき」だと説く。私も今までアトムのイメージに引きずられていたが、なるほど納得!
    ところで後書きの中で「東北大震災でどうしてロボット大国日本のロボットが活躍しなかったのか?」について事情が暴露されている。
    そもそも日本の原発は絶対事故を起こさないという建前があったため国が全く本気でなかった。スリーマイル島事故の後、政府主導で一時盛り上がった開発もいつの間にか立ち消え。また次に99年東海原発事故の後、30億の補正予算で急遽6つのメーカーに開発を競わせたが、これも2年で立ち消え。せっかく開発したロボットも廃棄されるところ、著者がもったいないと駐車場に保管していたそうな....。「大災害を契機にこれからこそ本格的な開発を推進すべき。日本はそれが出来る力がある」との著者の力強い提言、全く共感。

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著者プロフィール

東京工業大学名誉教授、工学博士。1947年 東京都に生まれる。横浜国立大学工学部卒業、東京工業大学大学院理工学研究科博士課程修了。東京工業大学助手・助教授・教授などを歴任。主な著書に『ロボット工学(改訂版)』(裳華房)、『ロボット創造学入門』(岩波書店)、『生産機械工学』(工業調査会)などがある。

「1996年 『ロボット工学(改訂版)』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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