アメリカとは何か 自画像と世界観をめぐる相剋 (岩波新書 新赤版 1938)

著者 :
  • 岩波書店
3.77
  • (7)
  • (10)
  • (14)
  • (0)
  • (0)
本棚登録 : 171
感想 : 22
本ページはアフィリエイトプログラムによる収益を得ています
  • Amazon.co.jp ・本 (232ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784004319382

作品紹介・あらすじ

ポピュリズムやナショナリズムの台頭、社会的分断の深化、Qアノンはじめ陰謀論の隆盛、専制主義国家による挑戦などを前に、理念の共和国・米国のアイデンティティが揺らいでいる。今日の米国内の分断状況を観察し続けてきた著者が、その実態を精緻に腑分けし、米国の民主主義、そしてリベラル国際秩序の行方を展望する。

感想・レビュー・書評

並び替え
表示形式
表示件数
絞り込み
  • 今のアメリカを理解するための著者の見立てを提示するという新書。米国民全体を巻き込んだ政治的な党派対立による分断の深刻さが主要なテーマとなっている。210ページほどの新書。

    第4章までで米国の社会や政治、対外関係をマクロな視点と近年のミクロな動向の両面から捉え、これを踏まえて終章にあたる第5章で分断が深まる米国の今後を占う。現在のアメリカの動向の分析が目的だが、その背景を理解するためにアメリカの政治を中心とした基本的な歴史も紹介される。そこではヒエラルキーを重んじるピラミッド型社会の欧州とは異なる、市民主体の「自立・分散・協調」を重んじるネットワーク型の統治の画期性と、この思想についての米国の矜持が核心として重視される。

    アメリカの歴史のなかで取り上げられるもうひとつの重要なポイントが、政府のあり方をめぐる「保守」と「リベラル」への支持の変遷である。世界大恐慌から1970年代までは優勢だったリベラルだったが、レーガン大統領あたりから保守派優位へと傾き、両党派が激しく反目する現代につながる。そのなかでも著者はとくにトランプ元大統領の特殊性と影響力の大きさに着目し、本書中でもっとも言及される機会の多い人物かもしれない。

    本書でとりわけ印象づけられるのは、やはり「保守(共和党支持)」「リベラル(民主党支持)」間の分断の深刻さである。著者によれば現在のアメリカにおける二派の分断は生理的な嫌悪にまで及ぶ、過去にない深刻さであり、この対立の収束が可能であるかについては予断を許さないという。そして両党のなかでは、近年の変質がとくに激しいのは重要な政治家たちの離脱が目立つ共和党であるとされ、ここでもトランプ元大統領の影響の強さがうかがえる。最後は著者による、分断の行く末についての「楽観的シナリオと悲観的シナリオ」を提示して終わる。

    本書内でもっとも興味深く読んだ箇所は米国の政治と社会の歴史的背景とその先にある現状をマクロな視点から捉えた第1章で、アメリカの政治にまつわる基本情報がわかりやすい。ただ、本書全体を通して伝えられる情報には重複や類似が多く、そのため読み進めるにつれて似たような内容に出くわすケースが多くなり、次第に関心が薄れていったのが正直なところだった。俯瞰的な視点からの分析に対して、具体的な生きた情報が少なく思われたことも、メリハリに欠ける印象を与えられる一因だった。個人的には期待したよりも、文献やネット上から得られる一般的な情報に偏っていたのが残念だった。現地を訪れにくいコロナ禍の現状も影響しているのかもしれない。

  • トランプからバイデンにアメリカ大統領が変わっても、深い分断に苛まれ、遠心力が強まるアメリカの現状とその歴史的背景、今後の展望について解説。
    米国流の「保守」と「リベラル」の歴史的形成過程、近年台頭する従来型の「保守」・「リベラル」とは別物の「権威主義(米国第一主義)」・「社会民主主義」・「リバタリアニズム」という潮流などの解説がわかりやすく、分断を深める現在のアメリカを理解するに当たって頭が整理された。
    コロナ禍も契機に非科学的な陰謀論が米国を跋扈している現状も改めて認識し、頭が重くなるが、分断をこれ以上深めないためにも、本書で指摘されているように「陰謀論者の主張に同意する必要は全くないが、彼らが何故に過激な言説を信じるに至ったのか、理解しようとする姿勢は不可欠」だと考える。その上で、本書でも指摘されている「リベラル疲れ」というのは(リベラルな考え方にシンパシーを感じるとしても)考えなくてはならない課題の一つだと思われる。日本も他人事ではない。

  • 【請求記号:302 ワ】

  • 期待してた通りの本でした。こういうのが読みたかった。同じ岩波新書のアメリカの歴史も読んでいたので、よりわかりやすかった。この著者すごい。客観的にいろいろ扱ってる。私からみた客観なのだが。

  • また渡辺靖先生だ。米国という興味深い国について、最新の分析と評論を提起し、様々な課題に不安を覚えつつ、民主主義の理想を垣間見る事例で、未来への期待を感じさせる内容は、毎度のことながら敬服する。
    今回はコロナ禍で、氾濫する文字情報がいつになく沢山インプットされ、その一つ一つのドットを繋げて3次元のアメリカ社会を描こうという挑戦。決して掴むことのできないアメリカという偶像を、時代の流れとともに追いかける渡辺靖先生の著書を追いかけていくことで、自らのアメリカへの関心と理解を深め、公私共に関わり続けていきたい。

  • 「実際のところ、民主主義は最悪の政治形態と言うことが出来る。
    これまでに試みられてきた民主主義以外のあらゆる政治形態を除けば、だが。」
    とも言われたように、民主主義は微妙なバランスの上でポピュリズム化の危険性の上に成立していたのだろう。
    でもアメリカの民主主義もSNSの引き起こすポピュリズムにのまれようとしている。エコーチェンバー現象とフィルターバブル現象は、人間の根源的に持つ性質とSNSのというメディアの特性が生んだ必然ではないだろうか。
    この先アメリカは新時代の民主主義を生み出せるのか、それとも本当にポピュリズムよって滅びてゆくのか。

  •  リバタリアニズムも含めた米国社会・政治の分極化から、米国主導のリベラル国際秩序という理念の国内外での失速、世界認識も分裂し従来の超党派的外交エリートへの信頼は揺らぐ、など分断状況の各側面を見る。
     その中でも、中国問題は超党派の合意が可能な数少ない課題の一つ、と著者は述べる。また、共和党の「保守」が従来の保守から変容し、権威主義が保守を侵食しつつある、との指摘が印象的。

  • おすすめ資料 第533回 アメリカの描く自画像(2022.10.14)

    昨年の議会襲撃事件に象徴されるアメリカの社会的分断は、
    ますます深刻になっているようにみえます。

    近年のアメリカ政治の変化は、
    どのような状況で起こっているのでしょうか。

    基本的な構図を理解しておくことは、
    今秋の中間選挙に関する報道を理解するのにも役立つでしょう。


    【神戸市外国語大学 図書館蔵書検索システム(所蔵詳細)へ】
    https://library.kobe-cufs.ac.jp/opac/opac_link/bibid/BK00359379

    【神戸市外国語大学 図書館Twitterページへ】
    https://twitter.com/KCUFS_lib/status/1581876408447512577

  • アメリカン・デモクラシーの逆襲の続編である。それほど新しいことは記載されていないものの、最新のこととして参考になることもあるであろう。

全22件中 1 - 10件を表示

著者プロフィール

渡辺靖

慶應義塾大学SFC教授。1967年(昭和42年)、札幌市に生まれる。97年ハーバード大学大学院博士課程修了(Ph.D.)。オクスフォード大学シニア・アソシエート、ケンブリッジ大学フェローなどを経て、99年より慶應義塾大学SFC助教授、2005年より現職。専攻、アメリカ研究、文化政策論。2004年度日本学士院学術奨励賞受賞。著書に『アフター・アメリカ』(サントリー学芸賞・アメリカ学会清水博賞受賞)、『アメリカン・コミュニティ』『アメリカン・センター』『アメリカン・デモクラシーの逆説』『文化と外交』『アメリカのジレンマ』『沈まぬアメリカ』『〈文化〉を捉え直す』など。

「2020年 『白人ナショナリズム』 で使われていた紹介文から引用しています。」

渡辺靖の作品

  • 話題の本に出会えて、蔵書管理を手軽にできる!ブクログのアプリ AppStoreからダウンロード GooglePlayで手に入れよう
ツイートする
×