ジョージ・オーウェル――「人間らしさ」への讃歌 (岩波新書 新赤版 1837)

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  • Amazon.co.jp ・本 (286ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784004318378

作品紹介・あらすじ

「反ソ・反共」作家のイメージから「監視社会化」に警鐘を鳴らした人物へと、時代とともに受容のされ方も変化してきたオーウェル。ポスト真実の時代に再評価が進む『一九八四年』などの代表作をはじめ、少年時代から晩年までの生涯と作品をたどり、その思想の根源をさぐる。危機の時代に、彼が信じ続けた希望とは何か。

感想・レビュー・書評

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  • ジョージ・オーウェルの生涯を追跡することで、その思想や行動を浮き彫りにした一冊。オーウェルを主題にした新書はこれが最初だろうか。『動物農場』、『1984年』、「像を撃つ」といった作品自体は知っていても、それ以上のことは知らなった者としては、とても有り難い。decency(人間らしさ)への信頼がオーウェル作品の明るさを支えている、ということが、全体として強調されている。

    細かい点だが、オーウェルの大衆文化への注目が、オーウェル紹介者でもある鶴見俊輔の仕事(『太夫歳歳伝』など)と共通するとの指摘は面白い。そういえば、鶴見が『戦時期日本の精神史』でリリアン・ヘルマンに拠りつつ強調したのも、decency(まともであること)の大切さであった。

  • ジョージ・オーウエルの「1984」を読み、「1984」を理解するためには、やはり彼の生涯を理解する必要があると思い、本著を手に取る。
    彼自身が支配する側と支配される側の両方に身を置き(意識的に)、また、ナチスドイツ、ソ連、詰まり、国家社会主義、共産主義が独裁管理国家となることを直に体験していたからこそ、「1984」は必然的に世に出ることになったのだろう。
    彼の深い洞察力が、物事の本質をつくことを可能とし、物事の本質とは、現在にも通じる普遍的なことなのである。
    だからこそ、今、「1984」を読むべきだと、改めて感じた。

    以下抜粋~
    ・「ナショナリズム覚書」で説明しているように、「パトリオティズム」が「特定の場所と特定の生活様式への献身」を意味する防御的な概念であるのに対して、「ナショナリズム」はつねに権力欲と結びついた攻撃的な概念としてとらえる。
    「愛国心は保守主義とは無関係で、むしろ保守主義とは反対のものである。なぜならそれは、つねに変化しながらも、なんとなくおなじものだと感じられている者への献身なのだから。それは過去と未来をつなぐ橋である。真の革命家が国際主義者であったためしはない」

    鶴見俊輔が解説するよう、「パトリオティズムとは時の政府に対する服従を意味するものではなく、日本語ではむしろ郷土愛という言葉の方が近い」
    「おさない時からおなじ土地に育ち、そこでおなじ言葉をつかって一緒にくらしてきたものの間にうまれる親しみが、人間の底の方から支えるという思想」にほかならないからだ。
    「特定の場所と特定の生活様式への献身」としての「パトリオティズム」を重視しているからこそ、オーウェルはイギリスの民衆文化に持続的な関心をもち、折にふれて論じたのだった。

    「ニュースピークの目的はひとえに思考の幅を狭めることであるのはわかるよね?最終的には思想犯罪を文字どおり不可能にしてしまう。それを表現する語がなくなるのだからね。必要な概念があればすべて一語だけで表現される。その単語の意味は厳格に定義され、それに附随したいろいろな意味はすべて消し去られ忘れられる。この言語が完全になったときこそ革命の完成だ」

  • オーウェルの人生史及び生み出してきた作品群に沿って、当時のオーウェル(エリック)や社会・政治の様子が解説されている。
    ビルマで帝国警察官の身分で働きつつも帝国主義に対して嫌気がさしたり、かと思えば英国人に対して敵意を剥き出しにする現地の僧侶に対して嫌悪感を抱いたりなど、一見整合性が取れていないように見えるけれど誰でも有しているような"矛盾"を受け止めているところに、オーウェルの誠実さ(この本で言われているところの「人間らしさ」)を感じる。
    他にも、上層中流階級へのある意味での居心地の悪さや、自らの作品への自己評価の低さなど、人生全体が微笑ましいほど人間らしく、個人的にはとても好感が持てた。
    オーウェルの作品は『1984年』しか読んだことがなかったが、他の作品も読んでみたい。

  • オーウェルのすばらしさは、自分のものの捉え方、考え方を出来合いの借り物ではなく、自分の経験と思考によって作り上げたことにあると思う。decencyは大事な言葉。座右の銘としたい。

  • 『カタロニア讃歌』『動物農場』『1984年』などで知られているジョージ・オーウェルの伝記。オーウェルは代表作である『1984年』を発表したすぐあとに46歳の若さで結核で亡くなったが、本書はその短い生涯を作品とともに辿っている。全体主義に抗し、ディストピア言語の危険性に警鐘を鳴らし、一貫して「人間らしさ(ディーセンシー)」を追究した作家オーウェルが今、世界的に注目されている理由は、著者の川端氏の「新型コロナ時代に、ジョージ・オーウェルが再び注目される理由—「ディストピア」の言語」(https://gendai.ismedia.jp/articles/-/72066)が参考になろう。

  • 「反ソ・反共」作家のイメージから「監視社会化」に警鐘を鳴らした人物へと、時代とともにその評価も変化してきたジョージ・オーウェル。ポスト真実の時代に再評価が進む彼の生涯と作品群をたどり、その思想の根源をさぐる。【「TRC MARC」の商品解説】

    関西外大図書館OPACのURLはこちら↓
    https://opac1.kansaigaidai.ac.jp/iwjs0015opc/BB40293012

  • オーウェルについてざっくり掴むために読んだ
    わかりやすかったが3週間もかかった
    面白いものではない

  • 監視・管理化社会に警鐘を鳴らしたオーウェルの生涯と作品群。現代にこそ意味がある。

  • 政治権力の腐敗と言語の不正な使用(論点回避、曖昧な表現、改竄、詭弁など)は強く結びついていることをオーウェルは指摘している。
    そのことは「動物農場」や「一九八四年」などの小説で鋭く考察・表現されており、70年以上前の作品にも関わらず、現在をアナロジカルに考察する示唆に富んでいると思う。
    「以前よりはまし」とか「科学的」とかいった言葉を見聞きすると、豚が農場の動物達を騙している場面を思い出して胡散臭く感じる。

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著者プロフィール

日本女子大学文学部教授。英文学専攻。明治大学大学院文学研究科博士後期課程退学。主な著書に『増補 オーウェルのマザー・グース――歌の力、語りの力』(岩波現代文庫、2021年)、『ジョージ・オーウェル――「人間らしさ」への讃歌』(岩波新書、2020年)、『葉蘭をめぐる冒険――イギリス文化・文学論』(みすず書房、2013年)、『ジョージ・ベストがいた――マンチェスター・ユナイテッドの伝説』(平凡社新書、2010年)、主な訳書に、オーウェル『動物農場――おとぎばなし』(岩波文庫、2009年)、『オーウェル評論集』(編、共訳、平凡社ライブラリー)などがある。

「2022年 『オーウェル『一九八四年』』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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