統合失調症 (岩波新書) (岩波新書 新赤版 1801)

著者 :
  • 岩波書店
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  • Amazon.co.jp ・本 (200ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784004318019

作品紹介・あらすじ

幻覚や妄想が生じるが,病識の欠如のため本人はそれを認めない.青年期から成人期前期に生じ100人に1人近くが患うこの病気は社会生活への影響が生涯にわたるのにあまり知られていない.経験ある精神科医が症状,経過,他の精神科の病気との違い,リスク因子,治療,歴史と社会制度などをわかりやすく解説する.

感想・レビュー・書評

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  • 統合失調症に対しての一般の人向けへの啓蒙すべき本。
    自分は日々病棟で関わりを持っているが、新たに見落としている部分はないか、考え方はあっているか、再確認のために読み直しました。
    他の身体化と比較して精神疾患がわかりにくいことや過去に偏見や差別から向けられてた歴史もあり、今でもなお差別、偏見はあります。
    個人的には疾患もそうですが、日本看護協会があるにもかかわらず、一方で精神科看護師には別枠で日本精神科看護協会というものがあり、身内にも偏見や差別はあるものです。
    ここまでは個人的感想ですが、この本の中で強調されていた「普通の病気」という概念大切にしたいですね。決して珍しい病気でもなく、社会が引き起こしたものでなく、脳の器質異常なわけであるから、脳科学の進歩とともにこの病気の実態を明らかにして欲しいと思います。
    文章は平易で医療職でなくても読めると思います。

  • 図書館で手にとり、読んですぐ購入を決めた。

    統合失調症を何も知らない人向けに書いている。

    著者いわく、統合失調症は普通の病気。確率的に誰にでも起こりうるという意味で普通の慢性疾患という捉え方だ。

    異常セイリエンス仮説やいくつかの統計調査など、新たに知ることも多かった。

    統合失調症患者は思った通り社会的弱者で、平均すると寿命が20%くらい短いという。自分がどうにもならないと考えて、体のメンテナンスをしなくなり、結果早く亡くなることが多いという。

    慢性期の治療について、研究が進んでいないことも気になった。長期的には減薬すべきだが、いつどのくらいといった一貫したものはない。このあたりがよく研究されていないことも、患者が希望を持てない理由だろうか。

    内容と関係ないが、前書きとあとがきを読んでこれは買わなきゃいかんと思った。記述内容のレベルが自分とあっていて、かつ、ニーズにあっていると直観的にわかったからだ。やはり一度さらっと読んでみないといけない。

    統合失調症は一生モノという人がいるけど、決してそうではないと思う。精神疾患全般に言えることだが、低く設定したリカバリー基準をひとつずつ超えることは可能で、それは評価されるべきだと思う。

    どうやったら、統合失調症の患者は希望が持てるだろうか。ひとつは良いロールモデルを見ることだろう。リカバリーを果たした人の情報は少ないが、今後徐々に増えていくと思う。もうひとつは、ハードルを下げたうえで、それを達成することだろう。最後に、リカバリーとは何かの議論が必要だ。そもそもリカバリーが可能であるとの立場で、何を達成したらリカバリーか明確にしていく作業である。

    リカバリーの議論の有用性は、まずリカバリー可能であるという前提に立てることだ。渦中の患者にはリカバリー可能かどうかすらわからない。しかし、リカバリーを語ることは夢を現実として捉えることにつながっていく。だから、リカバリーの議論は大いにおこなっていただきたい。

    減薬に関しても記載があるのが興味深い。曰く、急性期から2年くらいで減薬を始めるべき、と。漫然とした投与が普通になってしまっている現状への不満もあるのだろう。

  • 統合失調症について正しい知識を得ることを目的とした本。
    ロマンや凶暴性などは無く、一般的な病気であり、偏見を捨てることが大事であると分かった。

  • 若くして京大教授になられた著者はバランス感覚の優れた人で、しかも精神医学の医学として、科学として押さえるべきところは押さえる姿勢には常々好感を持っている。本書は一般向きの本であるが、専門官が読むと、一般の人に出来るだけ誤解を内容に説明するには、このように説明すればという発見があるし、一般の人にも読みやすいのではないだろうか。メンタルヘルスではなぜか最も多い疾患でありながら一般書がないなかで、一般への啓もうとしても良書と感じた。

  • 医療に関わらない人にも平易な表現で説明しており、家族にすすめたいと思いました。

  • 836

    村井 俊哉(むらい としや、1966年 - )
    日本の精神医学者。京都大学医学部教授。大阪府生まれ。1991年京都大学医学部卒、98年同大学院医学研究科修了、「局在脳損傷にともなう重複記憶錯誤について」で医学博士。マックスプランク認知神経科学研究所、2001年京都大学医学部附属病院助手、2002年京都大学医学研究科精神医学教室講師、05年助教授、07年准教授、09年教授。


    これはかなり良い本だった。統合失調症って鬱とか双極性障害よりどういうものかイメージしづらかったけどこれ読んでイメージしやすくなった。客観的で分かりやすく書かれてる。



    なお、妄想には、自分は高貴な家系の子孫であるといった血統妄想や、自分は画期的な発明をしたといった誇大妄想がみられることもあります。第3章で述べる「経過」との関係でいうと、急性期には、注察妄想、関係妄想、被害妄想などが中心で、急性期を過ぎた慢性期でも妄想が続く場合には、その内容が被害妄想の ままだったり誇大妄想に移行したり、個人によって様々です。

    A子さんの場合、「振り返ると、去年の12月ごろから、クラス の同級生の話し声が自分のことを言っているのではないかとなんとなく気になりだした」と話していました。こうしたことは、 多くの人が時に感じることがあることで(少なくとも私自身は、 うした経験をしたことがあります)、このようなことがあったというだけで統合失調症と診断することはありません。A子さんの 両親は、この時点ではA子さんの異変には気づきませんでした。 この時点で、受診される方もおられますが、後から振り返ってみてそうだったかなと気づかれることの多い、そういう状態です。

    しかし、その同じ理由によって実践上頻繁に問題となるのは、 詐病とは逆の場合です。それは、統合失調症を持つ患者さんが、 自分の症状を隠す場合です。第2章で述べたように、統合失調症 の代表的症状である幻覚や妄想には、自分自身でそれが幻覚や妄 想であるとは気づかないという、他の病気の症状では見られることが少ない独特の特徴があります。そのために、実際には「自分の悪口を言う声が一日中聴こえている」ということがあっても、 0患者さんが、医師の前ではそれを口に出さない、ということがあるのです。自分では病気ではないと思っていることがらを病気で あると決めつけられて、薬を飲むことを促され、さらには入院を勧められるのは、とても不愉快なことですから。

    それに対して、たとえば統合失調症のリスク因子としての都市居住については、統合失調症の素因を持った人が都市部に移り住 む傾向があるのか、都市部に住むことによって統合失調症になりやすくなるのか、という因果関係の方向についても確実なところはわかっていません。つまり、統合失調症の環境因としてわかっているもののうち、われわれの行動を変える程度のものはただの一つもないということです。

    この本では、統合失調症という病気が「普通の病気」であるということを一貫して 強調してきました。特に、慢性の疾患という意味で、気管支喘息や糖尿病のイメージ で説明を行ってきました。それはそうなのですが、その一方で、統合失調症には、 の医学疾患とは異なる特徴もあります。統合失調症の全体像をとらえるには、無理やりに「普通の病気」に落としこむだけでなく、そうした面も知っておくことは必要で しょう。統合失調症の特徴の一つ日が「病識の欠如」です。

    高血圧の定義は難しくないのに、どうして妄想の定義は難しいのでしょうか。これ は、症状の性質の違いによるのです。血圧の場合は、物理的な計測が可能です。とこ ろが、妄想の場合は、本人の頭の中の考えを聞きとった言葉から探ったものを妄想と いう抽象概念としてひとくくりにして定義しているのです。抽象概念というのは、 般論として、正確な定義が難しいのです。例えば、「自由」とは何ですか、と言われ て、それを厳密に定義せよと言われても難しいのです。「愛」って何ですかと訳かれ ても難しいですよね。それと同じように、妄想というのも一つの抽象概念なので、だ いたいこのあたりのことかなとは言えるけれども、厳密にどこからどこまでが妄想 で、どこからどこまでが妄想ではないということを定義するのは原理的に困難なので す

    この本を書き始めるに際して、一番難しかったのは、読者層としてどういう人を想定するかでした。新書としての出版なので、専門家向けではなく一般読者向けということはもちろん意識しました。しかし、そうは言っても、一般読者の統合失調症についての知識も、様々です。統合失調症についてこれまで考えてきたこともなかった学生が、たとえばインド哲学や流体力学を純粋な好奇心で学び始めるのと同様に、この病気について知りたいということもあるでしょう。一方で、ご自身やご家族がこの病気を持っていて、専門書ではわかりづらい知識をわかりやすく身に着けたいということもあるでしょう。また、統合失調症は、青年期に生じる病気ですから、子育て中の父親、母親の方が、どういう子育てがこの病気の予防によいのか、という関心を持つかもしれません。青年期で引きこもりのお子さんを持つ親御さんは、さらに差し迫った関心からこの本を手に取るかもしれません。精神科医や公認心理師などの対人援助職を目指す方が、専門書の前に手始めに手に取るということもあるでしょう。それだけではありません。統合失調症という病気は、芸術や文化に関心のある人たちからも注日されてきた病気ですので、読者の一部はそういう人たちかもしれません。あるい は、精神科医以外の医療者で、この病気について触りの部分だけでも知っておきたい という方もいるかもしれません。また、この病気は、人権との関係で問題とされてき た病気です。患者の人権擁護、偏見克服などの観点から、この病気について高い関心 を持っている人もいるかもしれません。その中には、現状の医療制度や社会制度、あ るいは精神科医という存在自体に問題点を感じている人もいるでしょう。最後に、こ の病気は、今日大幅な進歩を遂げている脳科学にとって、最後に残された課題の一つ とみなされています。そのため、脳科学に関心のある人がこの本を手に取るかもしれ ません。

  • 統合失調症に対してのイメージが変わった。
    中途半端な知識でイメージを勝手に作り上げないようにまずは知りたい。

  • 情緒を排して「病気」を俯瞰できる。

  • 統合失調症を偏見を抜いたフラットな視点でデータを基に優しく教えてくれる本。
    著者は統合失調症は風邪やうつ病と同じく、突然に人がかかる病気と大差ないものだと主張する。
    身近に統合失調症者のいる人はぜひ。

  • 薬物療法や精神療法の知識を深める

    幻覚や妄想の恐怖 他者に理解されない孤独感「傾聴」が最も大切なことであると再認識した

    スティグマの問題についても考えさせれた

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著者プロフィール

村井俊哉(むらい・としや)
1966年大阪府生まれ。京都大学大学院医学研究科修了。医学博士。専門は臨床精神医学一般、行動神経学、高次脳機能障害の臨床。マックスプランク認知神経科学研究所、京都大学医学部附属病院助手などを経て、現在、京都大学大学院医学研究科教授。著書に『人の気持ちがわかる脳』(ちくま新書)、『精神医学の概念デバイス』(創元社)、『統合失調症』(岩波新書)など多数がある。

「2021年 『はじめての精神医学』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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