奴隷船の世界史 (岩波新書 新赤版 1789)

著者 :
  • 岩波書店
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  • Amazon.co.jp ・本 (240ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784004317890

作品紹介・あらすじ

その犠牲者は、1000万人――400年にわたり大西洋上で繰り広げられた奴隷貿易の全貌が、歴史家たちの国境を越えた協力によって明らかになってきた。この「移動する監獄」で、奴隷はいかなる境遇に置かれたのか。奴隷貿易と奴隷制に立ちむかったのはどんな人たちか。闇に閉ざされた船底から、近代をとらえなおす。

感想・レビュー・書評

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  • 高校の世界史の教科書で奴隷が船底っぱいに横たわった状態で運搬される絵を見て衝撃を受けた。
    それがどこに所蔵されていた絵かは覚えていないが、本書第2章の扉絵でロンドンの国立海洋博物館所蔵の「奴隷船ブルックス号の構造図」がそれに近いのだろうと思っている。
    本書では歴史家たちの協力によって新しい資料や、散逸していた資料がまとめられたことによって、より詳細な奴隷貿易についてがわかる。
    驚いたのは、奴隷貿易の拠点港上位2位までがブラジルで、リヴァプールが第3位であることだ。
    これまで大英帝国が最多の奴隷船貿易を行ったと考えられていたが、実はポルトガル船、ブラジル船が最も多いのだそうだ。(35~36頁)
    また、南アメリカの各文明を滅ぼしたのはコンキスタドーレス、スペイン人という知識があるせいか、スペイン人も多く奴隷貿易に関わっていたのだろうと思っていた。
    しかし、実は16~18世紀にかけては直接関わることは多くなかったようだ。(40~41頁)
    奴隷船の積荷は奴隷そのものであるが、それと同時に船員、その中でも下位の船員である、水夫について触れられているのも興味深い。
    船長にとっては水夫も同様に邪魔なもので、用が済めば鞭打ちや食事を抜いたりして逃亡するように仕向けたり、打ち捨てられたり、過酷な扱いを受けていたという事実は衝撃的だ。(81~96頁)
    奴隷制廃止となってからも、実は現代も奴隷売買は続いている。
    奴隷売買というと歴史の話、現代とは関係ないと思いがちだが、実はユニセフによると西アフリカでは子供が一人15ドル程度で購入され、ココアやコーヒー農場で働かせられたり、女子は性奴隷となっているという。(228頁)
    私だって安くて良いものがあれば買いたい。
    ココアやコーヒーといったプランテーション作物は好んで消費する。
    しかしそれが誰かの犠牲のもとで安くて美味しいのならば、それは道義的に正しいことではないだろう。
    企業の責任が問われる時代になってきた。
    私が飲み、食べ、着るものがどうやって作られているのか、そこを企業は明らかにした上で、適切な値段での取引を是とする社会が求められる。
    そして私たちもそれを良しとできる意識の転換、選択が求められている。

  • 大型機械のない時代、奴隷は「ヒト」ではなく、「モノ」であった。大量の商品を生産するために必要なのは、土地や工場、原材料、そして奴隷だ。奴隷は主にアフリカで調達され、大農場や工場に輸送され、消費される。

    そんな奴隷貿易を担ったのが大量の奴隷を運搬することに特化した奴隷船。奴隷たちは鎖で繋がれ、立つことのできない高さの天井とまともな通気ができない船底に毎日16時間寝かされる。与えられるのは1日2回の食事と体操の時間だけ。

    奴隷の死亡率や奴隷以上に過酷な扱いをされた水夫、船を乗っ取った奴隷たちなど、本書は奴隷船をめぐる数々のエピソードを紹介し、さらに奴隷制度の発達と奴隷解放の歴史を説く。

    奴隷解放といえば、リンカーン大統領が頭に浮かぶ。が、彼が登場する前にヨーロッパですでに奴隷制度に反対する運動が起こっていたようだ。人間は同じ人間を虐げることを嫌悪する。人類にとって、奴隷船とは思い出したくない存在かもしれない。

  • 少し前にロビンソン・クルーソーが話題になっていて、関連本を探していてこの本に出合いました。
    20年近く前だと思うけど、映画「アミスタット」を観て衝撃を受けた記憶がある。
    あの映画も、奴隷船の真実を突き詰めたものだった。
    本書では、400年にもわたる奴隷貿易の実態を明かし、だれが利益をあげていたのか、どんな人たちが奴隷船を動かしていたのか、多角的に考察している。
    砂糖やコーヒーが、奴隷の労働力によって生産されてきた事実。
    日本では、「奴隷」と言えば、中学校の社会科でアメリカ合衆国の南北戦争のことやリンカーンの演説を学習する際に奴隷貿易に触れるが、実際はアメリカ合衆国だけでなく南北アメリカ大陸の広い範囲に奴隷は送り込まれている。キューバなどでの奴隷の叛乱や自由を獲得するまでの歴史、奴隷貿易の禁止や奴隷制度そのものを禁止することを目指して活動した人々のこと…。非常に興味深く勉強になる内容でした。

    アメージンググレースを作詞したのは、奴隷貿易船の船長だった人(ジョン・ニュートン)だそうです。船を降りて、牧師になってから作った歌なのだとか。

    最後に、奴隷は現代にも存在するのだという章があり、私たちの日々の便利な生活の陰に、犠牲になっている子供や、弱い立場の人たちがいるのだという現実に、目をつむってはいけないと思った。

  • 奴隷「船」じゃなく奴隷「貿易」の歴史でした。知りたかった内容とはズレていたのが残念です。奴隷貿易の歴史としては良かったと思いますが、ただただ数字の羅列が多く、それが当時としてはどのくらい多いのかどのくらいの意味を持つのかが明確でない部分もちょいちょいあって、数字は多いけど結局よくわからなかったです。「へ〜おもしろい!」という感覚になれぬまま終わってしまいました…

  • ふむ

  • 著者は、大西洋奴隷貿易史、近代奴隷制史を専攻する大学教授。

    本書のそでには、「その犠牲者は1千万人、400年にわたり大西洋上で繰り広げられた奴隷貿易の全貌が歴史家たちの国境を超えた協力により明らかになってきた」、また奴隷船は「移動する監獄」と書かれている。奴隷貿易の開始から始まり、奴隷制廃止、奴隷から近代の移民へ流れと、本書で取り上げている範囲は広い。

    大西洋の黒人奴隷貿易の中心はイギリスというイメージを持って昨年リバプールの国際奴隷制博物館を訪問した(会報104号海外博物館訪問レポートご参照)。この訪問で知ったことは、奴隷貿易に関するデータベースが蓄積され、16世紀から19世紀に大西洋を渡った黒人の歴史は単純ではないということだった。本書によると同期間大西洋を渡った黒人は12.5百万人、これに興味を持ち、別の本(*)に掲載されている統計では、輸送した奴隷を船籍別に見ると、イギリスは全体の1/4に過ぎずポルトガルとスペインで全体と半分以上を占めている。これにオランダ、アメリカ、フランス、デンマークが加わる。

    本書のハイライトを筆者なりに取り上げると、第二章「奴隷船を動かした者たち」で、奴隷船の構造と実態。取り上げている船は奴隷搭載図で有名なブルックス号(British Slave Ship Brookes),319トンから始まり(船体内分ご参照)、船体構造では平均的な170トンクラスの奴隷船の内部を解説している。奴隷船の特徴としてバリケードがあることは本書で初めて知った。主甲板の後方に設置された高さ3メートルの仕切り板で男性奴隷と女性奴隷を隔て、奴隷の反乱時には船員が女性奴隷側に避難した。船体内の生活ぶりや死亡率を減らすための工夫も悲惨だが興味深い。船内の過酷な状況は、スティーブン・スピルバーグ監督の映画「アミスタッド」(アメリカ、ドリームワークス1997年公開)で映像化されている。

  • 【貸出状況・配架場所はこちらから確認できます】
    https://lib-opac.bunri-u.ac.jp/opac/volume/729447

  • 半分は奴隷解放運動とその後

  • やっと読んだ。えらい。

  • 「この時期」とはジャマイカにおける奴隷叛乱が起こった時期を指す。Wikipediaには「バプテスト戦争」との表記あり。サム・シャープ(ジャマイカ国家的英雄サム・シャープ | African Symbol Jamaica アフリカンシンボルのジャマイカブログ)は平和的なストライキを行うつもりであったが、一部の奴隷が暴れ始めて遂には大暴動へと発展した。
    https://sessendo.blogspot.com/2020/12/blog-post_17.html

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著者プロフィール

同志社大学教授

「2020年 『イギリスにおける奴隷貿易と奴隷制の廃止  同志社大学経済学研究叢書9』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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