20世紀アメリカの夢: 世紀転換期から1970年代 (岩波新書 新赤版 1772 シリーズアメリカ合衆国史 3)

著者 :
  • 岩波書店
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  • Amazon.co.jp ・本 (282ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784004317722

作品紹介・あらすじ

工業化と大衆社会化を迎えるなかで,格差や貧困といった新しい問題に直面した20世紀のアメリカは,ニューディールに象徴される社会的な福祉国家と変貌していく.しかしそれは同時に,二つの世界大戦を経て帝国化していく道でもあった.そしてベトナム戦争とニクソンショックにより冷戦が変化を迎える70年代までを描く.

感想・レビュー・書評

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  •  アメリカ合衆国通史シリーズの第3巻。対象時期は1901年から1973年まで。2度の世界大戦を経て「西半球の帝国」から「世界の超大国」へと急転回する期間であり、現在の一般的通念としての「アメリカ」像が形成された歴史的にも重要な時期である。問題意識は明確で、自由放任による貧困・差別を是正するための社会統合・国家統合の強化(「革新主義」「ニューディール」)がいかに展開・浸透し、どのような矛盾を抱えて挫折・分解したのか、今日の新自由主義を生み出す前提条件を明らかにしようとしている。ニューディールが内包する人種隔離主義、社会政策の「実験場」としての植民地の機能と本国への「逆輸入」といった視点は目新しい。マイノリティの権利・尊厳の擁護・拡張運動が孕む「反福祉国家」指向や、「マジョリティ内の弱者」の疎外意識と保守的心性の結合といった、(米国に限らず)現在の「リベラル」が対応と克服に失敗し続けている問題を歴史的に検討する上で参考になる。

  • アメリカの歴史は人種問題の歴史だ。

  • 時代が現代に近づくにつれて、問題が複雑になって理解が及ばなくなってきた。今も貧困、差別、男女平等、国防、などなど様々な問題を抱えているが、それらの問題をどういう経緯で取り組んできたかを知ることができた。名前を知っている大統領が出てくるけども、どういう人かを知らずにいたので、それも知ることができて良かった。
    理想はそれぞれの立場で違う。
    どれが本当の理想か。そんなものは無いのか。
    凄く考えさせられる。
    自由と理想を求めてできた国であるけども
    結局力を使ったことが、理想から遠ざかって
    困難なことになっているのではと感じた。
    核にしても日本に投下して正当化していることが
    核を持つことでしか平和を維持できない事態に
    なったような気がする。
    まずアメリカは核を使ったことを誤ることが
    できたならば、世界が変わるキッカケになりは
    しないだろうか?

  • 歴史の中には今よりもはるかに多くの差別が埋まっていて、それらはいずれも既得権益を守ろうとする勢力の反発が根っこに潜んでいる。構造的なパワーバランスの偏りはあらゆる場面で生じうるが、そうした偏りの是正が求められたとて、たまたま強い側にいる面々が協力するはずがない。むしろ偏りの維持のために全力を尽くす。

    奴隷を使って農園を営んでいる白人男性。奴隷がいなくなると経営が成り立たない。膨大な既得権益を手にしている。たしかに奴隷は可哀想だが、自分は奴隷じゃない。奴隷を手放す理由となり得るのは、唯一道徳だけ。しかしそんなものはいくらでも捻じ曲げることができる、黒人は劣っている等々。

    マクロに歴史として見ると、南北戦争が勃発し、廃止に向けて歩み始めた訳だけど、ミクロに一農園の奴隷の視点から見た時の絶望感が半端じゃない。領主への暴力ただ一つを残してあらゆる道が断たれている。

    この例を抽象化して転がして見ると、色々と当てはまるものが出てくる。一番恐ろしい地獄になり得るのが家庭環境。農園の例で言う暴力も圧倒的な体格差・経済力差で数年間は行使できない。

    弱きが虐げられるは自然の摂理でもある。
    全てを尊重し合って生きるなんてことが、ほんとうにできるのだろうか。
    人間は、生き物は、どこに向かえばいいんだろうか。

  • 【貸出状況・配架場所はこちらから確認できます】
    https://lib-opac.bunri-u.ac.jp/opac/volume/729438

  • 1901年から1973年までのアメリカの内情を描いた本だが、人種差別 特に黒人の問題がアメリカ社会を大きく左右していたことが分かる.「おわりに」のp237-238に的確なまとめがあるが、この差別問題は未だスッキリとなっていない.このような形で歴史をまとめてもらえると、自分の興味ある部分を絞って俯瞰できるので助かる.

  • 反りが合わなくて少々読みづらかった。社会運動とかが得意分野の先生とお見受けしたが、当方の興味関心が必ずしもそこではないためだろう。限られた紙幅でどこにフォーカスするかに、私の希望とギャップがある。ソーシャル・セツルメントがどうのこうのとか随所に出てくるのだが、聞いたことがないので大事なことだったらもう少し説明してほしい、そこまで大事でないなら省いてほしいって感じ。しかし黒人がいつも後回しにされてきたこと、権利獲得の道のりが平坦でなかったことは容易に理解できた。一方、ニューディールでの財政派と計画派の対立などよく知らなかったのだが、両派の違いが飲み込めるところまでの説明がなくてチトもどかしい。

    文句から入ってしまったが、少し引いて眺めると、アメリカが革新と保守の間を振り子のように振れる図式が見えてくる。「アメリカの反知性主義」を読む前にこちらとかを読んでおいたほうが良かったのかも。

    ニクソンが「最後のリベラル大統領」っていうのは面白いね。誰が言っているのか調べたらチョムスキーなんかも言っている。そのうちオバマが最後のコンサバ大統領だったなんて言われそうだけれど。

  •  本巻では、20世紀初頭から第一次世界大戦、ニューディール期から第二次世界大戦を経て、冷戦下アメリカが西側世界唯一の超大国となった時期を扱う。

     20世紀への転換期から第一次大戦に至る時期は、「革新主義の時代」と呼ばれ、急速な工業化がもたらした、資本の集中や都市環境の悪化、移民の流入、貧富の格差といった新たな問題に対し、社会改良を目指した時代だったが、一方で対外的には、米西戦争勝利後、帝国化が進むこととなった。
     そしてこれは、カリブ海、パナマ運河、ハワイを結ぶ防衛ライン内の帝国主義と、その外部に広がる世界とアメリカとの関係を規定する普遍主義の二重性という、矛盾の拡大を招くこととなった。

     大恐慌を受けてのニューディール時代。1936年のローズベルト二期目の大統領選挙は地滑り的勝利となったが、それを支えた多様な政治勢力、①民主党・都市政治マシーン、②労働組合、③中西部・南部農民、④都市部の左派知識人、⑤北部黒人労働者、⑥南部民主党(人種隔離主義者)、これらがニューディール連合を構成する。特に最も硬く提携したのは、南部民主党勢力であった。南部では、連邦議員はほぼ民主党員で占められるが、その当選回数は多くなり、南部民主党が委員会の議長職を占有することとなった。それで、重要な法案を通すときには、その協力を得なければならなかったからである。

     第二次大戦後の政治は、冷戦下、黒人による市民権運動の発展、ベトナム戦争の泥沼化などによって、68年選挙では、民主党は共和党ニクソンに敗れるが、これはニューディール連合の矛盾が臨界点に達して、多数派形成の能力を失ってしまったことを意味していた。

     ほぼ現代史とも言える70年のアメリカの歴史を記述してきた本書は、「おわりに」として、この70年の動きから見えてきたものをコンパクトにまとめてくれており、自分なりに考える上で参考になると思う。この時代に問題とされてきたことが、正に現代に通じていることを改めて認識できた。


     
     

  • 信州大学の所蔵はこちらです☆
    https://www-lib.shinshu-u.ac.jp/opc/recordID/catalog.bib/BB29031867

  • 1901年から1973年までのアメリカを概括する。時系列の記述のおかげで分かりやすい。アメリカ社会から貧困と不平等を失くし、世界にも自由と豊かさを分け与えようとするのがアメリカの行動規範だったわけだけど、やはり難しい。現在の世界をみると理想とは相当に異なる様相になっているよね。何より自由と平等をうたいながら、人種問題をどうしても克服できない。差別と区別は対峙する人間の立場によって違ってきてしまう。これはアメリカのというより人間が持つ根源的な課題なんだろう。

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著者プロフィール

【訳者】中野 耕太郎(なかの・こうたろう)
東京大学総合文化研究科教授。博士(文学)京都大学。 著書に、『戦争のるつぼ――第一次世界大戦とアメリカニズム』(人文書院、2013 年)、『20 世紀アメリカ国民秩序の形成』(名古屋大学出版会、2015 年)、『20 世紀アメリカの夢――世紀転換期から1970 年代』(岩波新書、2019 年)などがある。

「2023年 『ポスト・ファシズムの日本』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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