マーティン・ルーサー・キング――非暴力の闘士 (岩波新書)

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  • Amazon.co.jp ・本 (240ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784004317111

感想・レビュー・書評

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  • キング牧師の伝記は既に読んだことがある程度の知識量で読むのが望ましいと思う。少なくとも、モンゴメリ・バスボイコットとかワシントン大行進とかは、本文でももちろん説明されているが予備知識があった方がスムーズだろう。(一般的な伝記から読む場合は岩波ジュニア新書へGO!)
    この本は副題にあるとおり、非暴力の闘士としてのキング牧師に特に焦点を当てており、冒頭は、銃で武装した護衛に守られ自らも銃で護身することに疑問を感じていないキング牧師のエピソードから始まる。既に平和的な運動を指導している立場でありながらそれだけ緊迫した情勢だったということではあるが、平和ボケした日本で生まれ育った我が身にはなかなかショッキングな前振りである。
    体裁は伝記であるので、基本的には生い立ちから凶弾に倒れるまでを時系列で追っていく構成ではあるが、そこからはみ出る解説がこの本のキモである。例えば、「牧師」であることが公民権運動へとつながるにあたり重要になる黒人教会の成り立ちや説教の伝統(コール&レスポンス)、当時の黒人聖職者の立場などの解説を読むと、なんとなくボヤーっとしていたことがクリアに説明されていて非常にスッキリする。そして特に重要なのが「非暴力」に関する説明である。
    非暴力運動に参加する民衆は「戦術」としてのみ非暴力を受け入れるのでもよいが、その指導者は非暴力を「生き方」としなければならない、というのである。この非暴力のメカニズムをキング牧師は理解し受け入れてまさにガンジーと同じく「非暴力を生きる」指導者となり、この後しばらく目覚ましい効果を上げる。そのピークがワシントン大行進とノーベル平和賞であろう。
    しかし、博士号を持つインテリであり公民権運動の指導者として頭角を表しつつあったキング牧師ですら理解していなかったことからも分かるように、非暴力という装置はその看板ほど容易なものではなくきちんと学ぶ必要があり、特に指導者レベルでは自らを犠牲にする覚悟まで試される厳しいものである。折しもアメリカにおけるベトナム戦争(=最大の暴力行為)のインパクトが増す中、彼を理解し、彼の運動に共感する人が減るのは必然だったのかもしれない。それでも彼は最後まで休むことなく走り続け、模索し続け、求められれば与え続けた。まさに不屈の闘士であるが、その原動力は神に評価されたいという強い信仰心だったのであろう。
    世界に暴力が渦巻く現代を生きていると、自分たちを守るために何ができるのかと考えると無力感に陥ることもしばしばである。核の傘に入る?防衛費を増額する?それで本当に安全が買えるのであろうか。非暴力運動の利点は屈強な男性でなくとも誰でも参加できるというところである。自らが暴力を振るうのには向いていないと認識している人は、非暴力について知ることから始めるのもよいのではないだろうか。
    本書は巻末に「読書案内」を備えており、普通の参考図書の列挙にとどまらず、ネットや映画も含めたリファレンスを豊富に知ることができる点も行き届いている。

  • 南部黒人の迫害、バスボイコット、公民権運動、ワシントンD.C.でのl have a dream 演説と、ぼんやりとしかイメージ出来なかったキング牧師を生い立ちからその理想、運動の姿勢まで分かりやすく提示してくれています。また、その後のキングにもスポットをあててくれており、日本人として理解が出来ていなかった1950年代から1960年代のアメリカ

  • 2018年にでたキングのコンパクトな評伝。最近の研究なども踏まえたものになっており、偉人伝的なものではなくて、一人の人間として、現実のなかにおいて悩み、そして成長していく姿を描いている。

    キングは、学生時代から、非暴力について学んでいて、初期のモントゴメリーのバス・ボイコット運動の演説でも、すでに非暴力の考えは示されているわけだが、この本によると、当時のキングの非暴力の理解はそこまで深くはなかったという。

    「非暴力」を理解する、説くだけでなく、そのものを生きるという挑戦。これをキングはさまざまな痛みや苦しみのなかで実践していくことになる。

    それは、ワシントンの行進やノーベル平和賞受賞でおわる物語ではなく、その後、アメリカのさまざまな状況のなかで、ほんとにたくさんの苦難、行き詰まりに直面する。

    そうしたなかで、非暴力の運動をたんに理念的なものとして扱うのではなく、その具体的な運動論というか、戦術論、政治的な交渉などなども描いてあって、リアリティが高い。

    こうした困難さは、キングの問題意識がいわゆる公民権運動のなかにおさまらず、ベトナム戦争反対などの平和活動、そして経済的な公平性を求めるものであったことも関連する。

    もしかすると、運動のフォーカスを引き続き、公民権においていれば、さらに多くの成果をだすことができたのかもしれない。

    だが、それはキングの良心がゆるさない。

    つまり、法律的な公正性にとどまらず、より実質的な公正性を求めていたのだ。(法的な公正性を超えるとアメリカでは自由主義との関係で分断を生み出す論点となる)

    この本で提示された視点をもって、もう一度、キング自身の言葉を学んでみたい。


  • “I have a dream. “ というフレーズはよくしられる。しかしそのスピーチにいたる彼の活動を具体的に知る、知りたいと思う日本人はどれほどいるか。

    彼は対白人、の立場のBlackではない。


    わたしたちは、公民権運動の象徴としてだけでなく、民主主義社会における弱者、貧困者の救済のためにも活動していた人物像を知るべきだと思った。その人物像を知ると、決して、1960年代のアメリカでこそ活躍した思想家なのではなく、現時代にもある問題に取り組んでいた活動家だとわかる。

  •  アメリカ黒人解放運動の伝説的指導者マーティン・ルーサー・キングの評伝。一般に公民権運動のカリスマ、あるいはガンディー由来の非暴力思想の伝道者・実践者として語られがちだが、本書では晩年に尽力した反戦平和運動や反貧困運動への取り組みにも紙幅を割き、今日のアメリカ社会で流布する毒抜きされた「公式的な」キング牧師像の克服を図っている。キングが実践した非暴力直接行動をラディカルで攻撃的な政治活動と位置づけ、一般に対立的に捉えられがちな「ブラック・パワー」(マルコムXらの分離主義、暴力主義)との連続面を認めている点が目新しい。単なる顕彰ではなく、アメリカ黒人差別の歴史や差別を再生産させる社会構造が理解できる叙述になっている。社会運動・政治運動の方法論を鍛える素材としても有効である。

  • 戦略的に考えてたんだなぁと思った
    非暴力なら腕力いらないので大衆が動員できるし、相手が暴力ふるってきたら相手側に悪印象を植え付けることができる。
    第三者の目というのを意識している。
    しかし相手もバカではないから失敗を学習して対応を変えてくる。
    この攻防は見ていて面白い。
    最終的には諸悪の根源である経済的不平等の解消を目指したというのは知らなかった。
    中核的な役割を担い、華々しい実績をあげており、暗殺まで時間がかかったのはむしろ意外に思えるほど。
    そのうち殺されると思ってたらしいが、よくそんな心境で活動できたなと思う。
    信仰は強い。

  • 《人類が兄弟姉妹として共に生き、互いの人格を尊重できる社会の創造》を究極的目標として生涯を送ったキング牧師

    その生い立ちから非暴力思想の確立、バスボイコット運動からワシントン行進を経てメンフィスで暗殺されるまでを、アメリカ社会の特質や政治的背景をからめながら解説する

    アメリカにおけるキングの“公的歴史”から抜け落ちている1965年以降の活動──ベトナム反戦により連邦政府を敵にまわしたこと、「仕事と年間所得保障」による貧困根絶に命をかけて闘ったことなど──に光をあて、後半生を忘れてはならないと説く

    1968年4月4日の暗殺から50年の節目の年に、あらためて“キング”を学びなおすために

  • 人びとを非暴力による社会変革へと導いたキング牧師。栄光の前半生だけでなく、貧困のないアメリカを夢見た彼の後半生に焦点をあて、武器をとらずに闘い抜いた、苛烈な生涯をえがく。読書案内も収録。【「TRC MARC」の商品解説】

    関西外大図書館OPACのURLはこちら↓
    https://opac1.kansaigaidai.ac.jp/iwjs0015opc/BB40255206

  • キング牧師についてはI have a dream演説と黒人の権利を追求した偉人だという認識はあったが、詳しくは知らなかった。

    南部アメリカにおいて、白人による圧力が強まるなかで、キングは非暴力の貫徹の必要性を説いた。彼いわく、黒人の非暴力と白人の暴力を対比させ、メディアを介して全米にその様子を広めることで、連邦政府が対応せざるを得ない状況をつくるべきだった。

    人種的分離主義者マルコムXの台頭やブラックパワー運動の隆盛といった壁にぶち当たりながらも、キングは真の争点を露わにさせる手段としての非暴力を主張し続けた。

    後年のキングは人種という枠に囚われず、貧困という重大な課題に向き合っていた。ベトナム戦争へ本格的な介入をしていた連邦政府に対して、キングは極めて批判的であった。

    アメリカではキングは偉大な人だったという共通理解が存在しているが、それはもっぱら前半生の非暴力の堅持の姿勢、I have a dream演説といった功績に依拠している。しかし、学者の多くは貧困の改善に尽力した後半生にも着目すべきだと唱える。

    実際、これまでの評者のなかのキング像も共通理解型だった。キングの生涯を学ぶことで、現代のアメリカが抱える人種問題や貧困問題の背景を理解できるようになるだろう。

  • SDGs|目標16 平和と公正をすべての人に|

    【貸出状況・配架場所はこちらから確認できます】
    https://lib-opac.bunri-u.ac.jp/opac/volume/706089

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