作家的覚書 (岩波新書)

著者 :
  • 岩波書店
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感想 : 11
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  • Amazon.co.jp ・本 (224ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784004316565

感想・レビュー・書評

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  •  本書が出版されたのが2014年ころのようですから、今(2022年)からは、ほぼ10年前の時評集でした。古い時評や、書評というのは、思い出たどりの読書になりがちですが、さすが高村薫というべきでしょうね、今現在の世界の現象とリアルにリンクしている記述があふれていて、世間に対して横着を決め込んで、知らんぷりをしたがっている生活を、まあ、叱れている気分で読み通しました。
     当たり前のことですが、あらゆる事象には始まりがあるわけで、2022年現在、目の前で起こっているなにがなんだかよくわからない出来事の始まり、例えば元首相の銃撃の、因果の「因」、ウクライナ侵攻の「因」、それぞれが浮かび上がってくる「時評」を、10年前に書いている高村薫の世界に対する視点の鋭さに「感心しきり!」の読書でした。
     ブログにもあれこれ、まあ、似たようなことを書いています。よろしければ覗いてみてください。
      https://plaza.rakuten.co.jp/simakumakun/diary/202209300000/

  • 高村薫さんといえば、私の中では「マークスの山」の著者。
    読んだのは20年以上前ですが、重厚な警察小説で、すっかり夢中になった記憶があります。
    後年、社会時評の分野でも活躍するとは思いませんでした。
    本作は、高村さんが主に「図書」誌上に書いた時評をまとめた時評集。
    2014年~2016年の日本で起きた出来事を、それこそ作家的な鋭い視点と洞察力で読み解いています。
    消費税率の8%への引き上げについて、「同じ国の国民でありながら、八%の消費税など痛くも痒くもない富裕層と、スーパーの片隅で見切り品やタイムサービス品をあさるほかない低所得層では、住んでいる世界がどれほど違うことか」と問題提起した上で、こう指摘します。
    「住む世界があまりに離れすぎると、互いに相手の世界が視界に届かなくなる」
    いつの時代もそうかもしれませんが、富裕層にとって貧困が不可視のものとなっています。
    「見えない」は、つまり、「ない」と同義です。
    著者は、東日本大震災から3年の節目に被災地を訪ねます。
    福島では、放射能汚染のため被災者たちが仮設住宅や他県へ移り住んでいます。
    つまり、散り散りになったということです。
    「ある時代の土地に起きた未曾有の出来事は、まず個人の身体体験になり、それが集まって共同体の体験になり、さらにその二つが共振し合うことで記憶は深く根を下ろしてゆく」
    福島にとって、震災の記憶は、果たして深く根を下ろすのでしょうか。
    返す返すも罪深いことです。
    他にも気になった時評はかなりありますが、時間がないのでまたね。

  • 至極、真っ当ななご意見の本。社会のこと、経済のこと、政治のこと、作者の守備範囲は広い。しかしながら主な掲載先である岩波、図書の中の高村氏の立ち位置が決められているような気もする。やっぱり小説の方がおもしろい。

  •  第2次大戦後の世界は、唯一「人道」を共通の旗印として、かろうじて結束してきた感がある。独裁国家にとって、「人道」は死語になったのか。この地球上に独裁国家がいくつか存在することは、民主国家にとって大きな脅威。高村薫「作家的覚書」、2017.4発行。2014~2016年、新聞や雑誌のコラムに執筆された世評。人が欲望を抑えることをしなくなった現代社会は、人が上手に歳を取るのが難しい社会と仰ってますが、この二つの関連が私には分かりにくかったです。

  • 2014年から2016年までのコラムと講演が2つからなる。この作家の作品では重厚な深い読みを期待するけれども、このコラムではあくまで市民の目線が貫かれており、2014年は10年にも満たない直近のように思えるが、そんなこともあったかなあと遥か前のことのように感じられる。ようは、自分もただ流されて生きてきたということなのか。今年(2021年)も衆議院選挙があるわけだが、さしあたっての争点もなくおそらくは最低の投票率を更新するだろう。

  • 「結局、経済成長の終わった先進国に暮らす私たちは、増税を受容して何とか暮らしていくしかないのだが、需要と黙認は違う」

    作家の高村薫さんの「作家的覚書」の中に、2014年4月に、消費税が8%に上がった時に書かれた文章(読売新聞2014年4月22日、寸草便り掲載、八%がもたらす歪み)がありました。

    高村さんは、増税について「受容と黙認は違う」と強調された後、以下のように続けています。

    「たとえば税金の使い道は適性だろうか。今回の消費増税は、そもそも社会保障費の増大に対応しながら財政再建を進めるために行われたはずだ。ところが、国家予算は相変わらず膨張し続けているし、医療制度の見直しもほとんど進まず、逆に復興特別法人税の前倒し廃止が決まったり、法人税減税が俎上にのぼったりする始末ではないか」

    「いったい何のための消費増税だったのか。8%のうわついた騒ぎに躍っただけで政治のルーズさに怒ることもしなかった私たちは、まだどこかで根拠のない甘い夢を見ているにちがいない」

    私は、2014年に書かれた高村さんの文書を読んで、あれ?あれ?と思いました。
    2019年10月1日、消費税は8%から10%に上がりました。やれ、ドラッグストアやスーパーで9月30日に駆け込みのお買いものがあったとか、8%のものと、10%のものがあって分かりにくいとか、キャッシュレスがお得だとか、それって、やっぱり「うわついた騒ぎ」よね。

    今回の増税も、社会保障費の増大に対応して財政再建することが目的だと、聞いたような…。

    私は、結局、黙認してしまっているのかもしれません。

    この増税分、本当に、目的を果たすために使われるのかしら?そこのところ、どうしたら、確認できるだろう。

    発行されたのは少し前ですが、今、読んでも知的な刺激が得られる一冊だと思います。

  • 雑誌「図書」での連載を中心とした高村の時評集。大震災、原発、安保、集団的自衛権などなど。

  • 憲法の周辺が騒がしい今でこそ。

  • 厳しい文章を書く人

  • 自分が愚民であることを思い知らされる一冊。
    高村先生は、ごくまっとうなことしか言っていない。論理に分かりづらいところがあるわけでなく、特別な情報を振りかざしているわけでもない。でも、とっても頷いてしまうし、説得力がある。目の前の事象を冷静に見つめ、客観的に判断すると、ここで書かれていることになる。これが知性というものか。社会と時代を喝破するとはこういうことなんだ。

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著者プロフィール

●高村薫……1953年、大阪に生まれ。国際基督教大学を卒業。商社勤務をへて、1990年『黄金を抱いて翔べ』で第3回日本推理サスペンス大賞を受賞。93年『リヴィエラを撃て』(新潮文庫)で日本推理作家協会賞、『マークスの山』(講談社文庫)で直木賞を受賞。著書に『レディ・ジョーカー』『神の火』『照柿』(以上、新潮文庫)などがある。

「2014年 『日本人の度量 3・11で「生まれ直す」ための覚悟』 で使われていた紹介文から引用しています。」

高村薫の作品

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