裁判の非情と人情 (岩波新書)

著者 :
  • 岩波書店
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本棚登録 : 320
感想 : 39
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  • Amazon.co.jp ・本 (208ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784004316466

作品紹介・あらすじ

裁かれるのも「人」なら、裁くのも「人」のはず。しかし、私たちにとって裁判と裁判官は、いまだ遠い存在だ。有罪率99%といわれる日本の刑事裁判で、二〇件以上の無罪判決を言い渡した元東京高裁判事が、思わず笑いを誘う法廷での一コマから、裁判員制度、冤罪、死刑にいたるまで、その知られざる仕事と胸のうちを綴る。

感想・レビュー・書評

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  • 法律を扱う仕事をしているのに、法律や裁判にどこか苦手意識を抱いている。
    試しに「裁判」の2文字を頭に浮かべると、イメージとして広がるのは、冷たいコンクリート色したグレーの世界。
    もちろん、公平さを期するために感情を排した慎重なシステムであるべきなのはその通りだし、よくわかるのだけど。
    でも、私が好きなのは、例えば新聞だったら家庭面に「ひととき」などの名前がつけられ掲載されている、誰かが綴った生活の小さなひとコマや喜怒哀楽の話なのだ。

    本書は、長年の間、刑事事件の裁判官を務めていた著者による、裁判や裁判所、裁判官の仕事についてのエッセイ集。
    エッセイといったって、そこは裁判官。
    難しい、厳しいお話が多いのかな? と覚悟しつつページをめくると、予想はくつがえされる。
    なんせ、本書の中の本人の言葉を借りれば、著者は「いらいらするほど、緩いキャラ」。
    裁判官が自分のことを「緩いキャラ」ってふつう言わないでしょ! と突っ込みたくなるが、他にも随所に答えのない悩みに右往左往したり、ユーモラスな仕掛けをしてことの成り行きを見守る著者がいて、とにかく全体的にとても人間くさいのである。

    例えば「裁判の記録」という言葉の意味をインターネットでひくと、「民事訴訟法上、一定の訴訟事件に関する一切の書類を綴り込んだ帳簿」などと表示される。
    これだけだと、正直なんのこっちゃ、である。
    でも、本書の中に登場するのは、持ち帰った記録を無くさないように寝るときは枕元に風呂敷に包んで置いておいたり、列車の網棚に置いていたものを間違って持ち去られそうになりハラハラしたりする著書の姿である。
    このくだりを読んで以来、「記録」という言葉は、私の中でコンクリート色ではなくなった。
    苦手なのではなく、ただ単に、知らないことに気が重くなっていただけだったのである。

    裁判官も、被告人も、私と同じ困ったり怒ったり喜んだりする人間である。
    裁判という、非情な世界を舞台にしているからこそ、そのことが際立つ1冊である。

  • テレビや新聞のニュースでしか知り得ない事件の
    裁判をする人たちのことは、そうなのかと知らないことばかり
    未知の世界と言っていいのか
    ちょっとドラマで見た感じともリンクしているのか
    とにかく、興味深く、驚いたり安心したり
    読んで楽しかった?というか良かったなと思った

  • どうせ裁かれるなら、こういう裁判官に裁かれたい。そんな気持ちにさせてくれるエッセイです。
    裁判官は世間知らずというけれど、逆に人間味があり過ぎるような気もします。裁判官の懊悩も垣間見れて、裁判官の魅力が分かる一冊です。

    #読書 #読書記録 #読書倶楽部
    #裁判の非情と人情
    #原田國男
    #2017年28冊目
    #裁判官 #弁護士

  • 広報誌「図書」に約3年間連載されていたエッセイをまとめたもの。有罪率99%と言われる刑事裁判で20件以上の無罪判決を言い渡した元東京高裁判事の、一般には知られていない裁判官の仕事、生活、信条を述べる。

    久しぶりに「参考になった」線をたくさん引いた。裁判官が関わらない人生の三大運動は、労働運動と学生運動と選挙運動らしい(私は全て関わった)。その他、裁判官の不足している部分を、原田氏は非情に鋭く意識している。それは、短期間だけど米国留学、新聞記者研修、弁護士経験などを経験し、きちんと自分の血と肉として咀嚼している著者だから出来る事なのだろう。だから、法ではなく人情を重視する藤沢周平や鬼平などを愛読書であると公言し、重要判決の前日には藤沢周平を再読すると、告白したり出来るのである。

    エッセイということもあって、裁判制度の批判はかなり緩やかになっている。多くは(悪い部分はあってもそうではないことを)「信じたい」という風に結ばれている。法律家だから、そういう表現になるのだ。正面から批判しようとすれば、延々と長い「論文」にならざるを得ない、と自らを律しているからだろう。だからこそ、ソフトな言い方で述べられている裁判制度の負の部分は説得力があると、私は思う。

    曰く、
    「刑事裁判官は、微妙であると何かと悩んで検察寄りの判断にコミットする傾向がある」(48p)
    「裁判官に合理的疑いを超えるとの心証を得させなければ、検察官は立証を尽くしたとは言えないから、無罪にすればよいのである。最近、原子力発電所の運転差止めの仮処分をめぐって、裁判官は原子力のことはわからないのだから、専門家の意見に従うべきだという論調もみられるが、前記の観点からすれば、この見解には疑問がある」(60p)
    「勇気がいるというのは、無罪判決を続出すると、出世に影響して、場合によれば、転勤させられたり、刑事事件から外されたりするのではないかということであろう。これも、残念ながら事実である」(82p)
    「刑事裁判における上記の不正議(冤罪事件のこと)について、法務検察と裁判所において、再発防止策を具体的に検討したふしはない。それどころか、そのような検討すら、司法権の独立に反するといわんばかりである。しかし、司法権の独立は、当然ながら、自浄作用を前提とする。司法権の内部で、自らの判断で問題点を解決するから、他の二権(国会、内閣)による介入を拒否することができるのである。それをしないでおいて、裁判干渉のみを批判する資格はないように思われる」(95p)
    「(2016年刑事訴訟法改正は)可視化をある程度認める代わりに、捜査権の強化を図ることが真の狙いであったのだろう。どだい、冤罪防止という観点は最初からなかったとすらいえる」(168p)

    まだだくさんの論点を示していたが、長くなるのでここまでとする。

    2017年5月19日読了

  • 著者は元裁判官。裁判官の多くは清廉潔白であり、冤罪を防ぐため、また、正しい判断をするために、日々膨大な資料を読み込み、事件と向き合っているという。雑誌の連載を元にした書籍のためか、全体的にさらりとした印象。未知の世界に触れた楽しさはあるが、よりリアルな実情にも興味がわいた。支部でのエピソードはとてもほほえましかった。

  • 軽めのコラム集。逆転無罪判決を多く出した裁判官だそうで、判例読みたくなる。

  • 岩波とはいえ語り口も内容もエッセイと言えるもので、さらさらと読める。○○さんはすごい人である、いろいろ教わった大先輩である、などと特定の個人をほめるのが頻繁に出てくるのがちょっと引っかかるが、まぁ、エッセイならやむなしという感じ。
    著者は「裁判官は世間に誤解されている」と思っているようだけど、今のところ縁のない私からすればほぼ何のイメージも持っていないので誤解のしようもない。そういう点では、(当然だけど)裁判官にもいろんな人がいるんだなと分かったし、書類読みなどものすごく地味で単調な作業の上に裁判は成り立っているんだなと分かって興味深かった。
    無罪判決や死刑に対する思いを述べたところはいろいろ考えさせられる。事実を本当に知っているのは被告人だけなのに、それを裁く第三者が存在することの重さというか意味というか・・・正解はないけれど考え抜くことで「一種の謙虚さが生まれる」というのは肝に銘じておきたい。

  • 普段関わることのない裁判所の中で起こることを知ることができ、有益だった。有罪か無罪かというラインは白か黒かの判断は、「白か黒かの判断ではなく、黒と断定できるかどうかの判断である」と述べられており、この判断基準は私たち一般人には浸透していない部分だと感じた。
    現在は裁判員制度があるので、いつ裁判に関わることになるか分からない。そういう意味でも読んでおいてよかったと感じた。

  • トイレ本
    かなり柔らかい文体のおっさんのエッセイ

  • 裁判官にも義理人情と情けがある。

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